陸上の大会はたくさんの「縁の下の力持ち」によって支えられています。今回は「JUMP FESTIVAL」を運営している衛藤昂さん、中野瞳さんにお話を聞きました。普段、試合が行われる陸上競技場ではなく、街中で走高跳の大会を実施。ジャンプの魅力を伝える活動を続けています。
■Jump Festival 設立!
2016年リオ五輪、21年東京五輪の走高跳日本代表でもある衛藤昂さんは、東京五輪が終わった直後の8月、一般社団法人Jump Festivalを設立しました。「その年の5月にはその構想を考えていました。海外遠征に派遣していただいた時に、街中での跳躍競技会に参加したことがきっかけです。お客さんがすぐ近くですごく盛り上がっていましたし、こんな走高跳もあるんだなと驚きました。そして、日本でも実現できないかと思いました」。海外で見た景色を日本でも実現したいという思いが、設立のきっかけだったそうです。それでも、「最初はわからないことだらけでした」と衛藤さんは振り返ります。立ち上げ一発目のイベントは10月に大阪・ヤンマースタジアム長居で開催した公認競技会。走高跳、走幅跳、三段跳の跳躍3種目を実施しました。
Jump Festival設立メンバーの中野瞳さんは、次のように開催の経緯を説明してくれました。「(初回のイベントは)コロナ禍で競技会が中止になったり、試合がなくなった選手の力になれればという思いで開催しました。最初は街中で開催と思っていましたが、大学生の引退試合が中止になったり、全日本マスターズ選手権が中止になったりしたので、街中でのエキシビジョンをやるよりもまず困っている選手が出場できる試合を、と思って大阪陸協さんに相談したのです。そうしたら『ぜひ、やろう』ということで、実現しました」
女子走幅跳で6m44のU20日本記録・高校記録を持ち、2019年アジア選手権代表の実績もある中野さん。跳躍仲間たちからもさまざまな形でサポートを受け、大会は大勢の選手が参加、無事に終了しました。
■選手や観客の反応
念願の街中での開催はその1ヵ月後、神戸市長田区の鉄人広場で開催しました。種目は走高跳です。街中で実施するには走高跳が一番ハードルが低いのだそうです。走幅跳、三段跳、棒高跳は砂場の設置や安全管理など、クリアするのが難しい課題がいくつもあるのだとか。兵庫・長田高出身の中野さんにとっては、通い慣れた思い出の地。第1回は「神戸市の高校生を応援したい」という思いから、その年の神戸市のランキング上位選手が出場しました。
「その年も無観客試合が続いていました。保護者の方も自分のこどもたちの跳躍を見れない状況でしたので、保護者の方にも見てもらいたいという思いがありました。
鉄人広場は、駅前から続く商店街の一角にあるので、何も知らずに通る方が多いです。どなたでも自由に観覧していただけます。出場している高校生にとっても(多くの観客からの声援は)自信になる良い機会だと思います」(中野さん)。昨年も、11月に第2回大会を実施。すると反響が広がり、「神戸市だけでなく、兵庫県内の違う地域の選手からも出たいという声が上がってきました」と中野さんが言えば、「初回のイベントが話題になって選手から直接SNSにダイレクトメッセージが届いたりもしたんですよ。ありがたいですね!非公認ですが、自己ベストを跳んだ選手もいます」と衛藤さんも話します。
「昨年参加してくれた女子選手が新聞の取材で『自分の好きなことを見てもらえる機会でうれしかったです』とコメントしてくれていたのには、自分もすごくうれしかったですね。人ってこんなに高く跳べるんだという声も聞こえますし、走高跳の跳躍前にする手拍子の認知度が高いんだなぁ、と発見がありましたね」そういった人たちの思いを形にするべく、今年11月に実施した第3回大会では「神戸市以外の人たちも出場できるようにしました」と中野さん。
高校男子の部(兵庫県内+神戸市枠)、高校女子の部(兵庫県内+神戸市枠)、男子トップジャンパーの部(全国)の3部構成で実施しました。「高齢者の方も多く観戦してくださって、『次は来月?』って言われました。演歌のイベントをやった時以来の賑わいだったそうです(笑)」と中野さんも笑顔で振り返ります。
■当日に向けての準備
JUMP FESTIVAL開催に向けて、どのように準備が進められていくのかを聞きました。「半年前から動き出しますが、本格的に動くのは開催3ヵ月前くらいです。集中して準備をします。それぞれ、本業の仕事がある中でやっている活動ですので、朝、夕方などに打ち合わせをしています。最初、メンバーで構想を練ってコンセプトを決めて、だいたいの内容を固めていきます。そうすると、そこに必要なお金が見えてくるので、スポンサーさんを募ったり、助成金を集めたりしています。特にスポンサーさんの支えは、イベントを継続できる大きな原動力です。日程、場所の確認、他の試合やイベントとかぶっていないか、高校の顧問の先生方に予定を聞いていく作業もありますね」(中野さん)
大枠や日程が固まってくると、より具体的な準備が進んでいきます。また、「KOBE鉄人PROJECT」との共催イベントになるため、その打ち合わせも入るそうです。「会場にいろいろな企業さんがブースを出店してくださるので、その打ち合わせがあります。また、助走路のオールウェザーの手配をしたり、競技に必要な物品をそろえたりもします。飲食ブースも出すので保健所への申請も必要ですし、スタッフの募集もします。Jump Festivalのメンバーは5名ですが、当日のスタッフとしては30人前後集まってくれます」(中野さん)
現役選手、引退した元選手、ファン、神戸で開催するのに鹿児島や千葉など全国からボランティアが集まってくれるそうです。「当日は始まってしまうと一瞬ですね(笑)」と中野さん。毎年、解説は衛藤さんが担当。実況のラジオ関西のパーソナリティーと掛け合いをしながら会場を盛り上げます。さらに、衛藤さんは高校生男子の部で一緒に跳躍もされたそうです。「今年は全体を見られて、フリーで動ける立場にと考えています」と衛藤さん。さらに、今後へのビジョンを明かしてくれました。「まずは兵庫県、神戸に根差した団体、イベントにしていきたいです。自分たちがまずは継続できるようにできる範囲で、経験を積んでいきたいですね。そうやって力がつけば、他の場所でも開催していきたいですし、いずれは街中で公認競技会を開催することも考えています。街中でも地面が水平、まっすぐなところであれば可能ですし、商業施設の中などはやりやすいかもしれません。オールウェザーの基準や検定が通れば可能です。公認の良さ、エキシビションの良さ、どちらも生かせるものを作っていきたいですね」
■「ジャンプでみんなにワクワクを」
将来的な目標、さらには若い世代のみなさんに向けてのメッセージもいただきました。「社会のために何かスポーツを通して貢献できたらいいなと思います。最初は社会のためにと思ったのが、イベントをすることで自分たちが逆にパワーをもらうことに気がつきました。今まで関わる人は陸上競技場の中が多かったですが、人脈が広がり、いろいろな価値観の人と出会えました。大変なことはあってもやりがいがあり、今後も継続していきたいです。記録に伸び悩んでいたりすると、どうしても視野が狭くなりやすいですし、一人で抱え込みがちになります。ジャンプフェスティバルのスタッフはみんなジャンプ好き!そういった人に相談ができたり、悩みを打ち明ける〝駆け込み寺〟みたいになれたらと思っています。学生さんも社会人と話す機会になるので、気軽に来てもらえたらなと思います」(中野さん)
「団体のビジョンとして『ジャンプでみんなにワクワクを』をテーマでやっています。跳んでいる高校生が楽しそうにして、観客の方も我を忘れて拍手してくれて、小さい子供たちが『わー!すごい!』と声をあげる。ジャンプを通じてワクワクしてる人が増えているのを見るとすごくうれしいですし、モチベーションになります。競技をやっていると、どれだけ高く跳んだ、どれだけ遠くに跳んだということだけが物差しになりますが、跳んでいること自体がすごいことです。印象に残る選手って、実は一番跳んだ選手じゃないこともあります。笑顔が素敵だったり、ギリギリ3回目で跳んだり。違った物差しってあるんだなということを、中高生のみなさんに伝えられたらいいなと思いますね」(衛藤さん)
2022年2月に結婚した2人の、跳躍競技への熱い思いが伝わってくる「JUMP FESTIVAL」。これからのイベントや活動にも注目です!
>>インタビューVol.24(PDF版)はこちら
■一般社団法人 Jump Festival
「ジャンプで社会にワクワクを」をビジョンに、社会や跳躍競技の「あったらいいな」をみんなで実現することを目指し、2021年8月に設立。衛藤さんと中野さんが代表理事を務める。
■衛藤昂(えとう たかし)さん
1991年生まれ、株式会社神戸デジタル・ラボ所属。三重・白子中→鈴鹿高専→筑波大院→味の素AGF。男子走高跳でリオ、東京と2大会連続五輪代表。世界選手権は15年北京、17年ロンドン、19年ドーハと3大会連続で出場した。日本選手権は4度優勝。自己ベストは2m30(日本歴代6位タイ)
■中野瞳(なかの ひとみ)さん
1990年生まれ、株式会社籠谷所属。兵庫・飛松中→長田高→筑波大→筑波大院。女子走幅跳で高校2年時にU20日本記録・高校記録の6m44をマーク。インターハイ、日本インカレ、全日本実業団対抗選手権のタイトルを手にした。19年ドーハアジア選手権代表。自己ベストは走幅跳6m44、三段跳13m00
■M高史(えむたかし)さん
1984年生まれ。中学、高校と陸上部で長距離。駒澤大学では1年の冬にマネージャーに転向し、3、4年次は主務を務める。
大学卒業後、福祉のお仕事(知的障がい者施設の生活支援員)を経て、2011年12月より「ものまねアスリート芸人」に転身。
川内優輝選手のモノマネで話題となり、マラソン大会のゲストランナーやMC、部活訪問など全国各地で現状打破している。
海外メディア出演、メディア競技会の実況、執筆活動、ラジオ配信、講演など、活動は多岐にわたる。
~月刊陸上競技12月号(11月14日発売)掲載~
「陸ジョブナビ」アーカイブ
Vol.13~(2023年1月~)
【Vol.13 タイム計測編】徹底した準備でランナーの努力を刻む【Vol.14 通訳編】来日した外国人選手をサポート
【Vol.15 高校生審判編】大会運営を支える高校生たち
【Vol.16 競技場検定員編】安心・安全、正確な競技会を目指して
【Vol.17 スポーツカメラマン編】感動の瞬間を世界に届ける
【Vol.18 セイコーGGP・日本選手権直前スペシャル】大会担当のお仕事を紹介
【Vol.19 レースマネージャー】ホクレン・ディスタンスチャレンジを盛り上げる
【Vol.20 国際大会渉外担当】世界で活躍する日本代表選手を支える
【Vol.21 マーシャル】選手も観客も安心・安全に競技に集中してもらうために
【Vol.22 リレフェス担当編】みんなが"笑顔"になれるイベントを目指して!
【Vol.23 マラソン大会ボランティア編】マラソン大会を支える!
Vol.1~Vol.12(2022年1月~12月)
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