陸上の大会はたくさんの「縁の下の力持ち」によって支えられています。今回は、今や陸上界・夏の風物詩ともいえる「ホクレン・ディスタンスチャレンジ」のお話です。今年も7月1日から15日まで、5会場(士別、深川、網走、北見、千歳)で開催されます。「PB祭り」と話題になるほど自己記録を出す選手が続出し、選手のみなさんにとっても、ファンのみなさんにとっても楽しみな大会ですよね!そんなホクレン・ディスタンスチャレンジに創設当初から関わるレースマネージャーの木路修平さんに聞きました。
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>>ホクレンディスタンスチャレンジ
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■選手に笑顔で帰ってもらうために
ホクレン・ディスタンスチャレンジ(ホクレンDC)が始まったきっかけは、アメリカやカナダなどで行われていた中距離サーキットです。これらを参考に、国内でも同じような中距離サーキットを始めようと、2002年から「ミドルディスタンスチャレンジ」としてスタート。当初は関東や関西などで実施されていましたが、北海道で合宿する長距離チームが多いこともあり、その後、舞台を北海道に移して現在の形となりました。「当時、ヨーロッパで記録を出したい日本人が多すぎて、エントリーからはじかれることがありました。それならヨーロッパへ行く段階の前に日本で、ヨーロッパに気候が似ている北海道で開催しよう、と。北海道は多くのチームが合宿でお世話になっていますし、うまくお返しができればいいなという思いもあって、提案したのです。そうしたら、次の年から準備が始まっていました」参考にした欧米各国のサーキットについて、木路さん「いい意味でテキトーでしたよ」と笑って言います。「雷雨が来るから、スタートを2時間遅らせたり、3日後のレースは風が吹く予報だから場所を変えたり。それも、120㎞先の指定された会場へ自力で行けというんです。そこで交渉して、バスを出してもらったこともあります。そんな中でも、800mでは1分45秒が出たり、500mでは3分30秒台が出たりするのです。レースって、そんな簡単にできるんだねと思いました(笑)」ホクレンDCが始まった当初は、札幌円山、士別、深川、網走、釧路で行われていました。最初の5年ほどはエントリー締め切りがレース3日前までだったため、「3日前からスタートリストを出すまでは、作業に忙殺されました」と苦笑いの木路さん。その後、最大6会場まで増えたこともありましたが、現在は士別、深川、網走、北見、千歳の5会場で開催されています。「『選手の出したい記録を出せるように』というのがこの大会の根本です。記録を出しにきてくれた選手に、記録を出して笑顔で帰ってもらうということが揺るぎないテーマですね」。今までの自分に勝つ場所を提供するのが、レースマネージャーの木路さんの大きな柱となっています。
■ホクレンDC開催までの流れ
ホクレンDCは毎年、どのような流れで進んでいくのでしょうか。「各会場でのレースが終わったら他のスタッフの方と同じ流れで移動、食事、宿泊することになるので、その都度、大会をより良くするための意見が出てきます。自分自身で気がついたことも含めて、それらをどう生かして次年度の大会を改良していくか、その年の大会期間中から原案を作る作業をしていますね」。木路さんをはじめ、関係者のみなさんはいつでも現在進行形で、次回大会に向けてアップデートされています。そのベースを受けて、例年3月に詳細の打ち合わせを行い、日程が決定。種目の配置をします。参加標準記録、ターゲットナンバーを決めて、エントリーのルール確認。4月に大会要項ができ、日本選手権が終わって6月にエントリーがスタートします。その間、開催地の自治体との打ち合わせが入ってくるそうです。■「する」「見る」「支える」の視点
ホクレンDCを3つの観点で見てみると、まずは「する」の視点について、木路さんは「スポーツツーリズムにどうつなげていくか、自治体にどう還元していくかということも考えています」と話します。合宿に来てくれるチームが増えることも、開催地への恩返しにつながると感じているそうです。また、「子どもたちに早いうちにトップ選手の走りを見せてあげたいですし、トップ選手の走り見て、あこがれて陸上を始める人が増えたらいいですね」とも。生で走りを見た選手たちが、そのすぐ後に五輪や世界選手権に挑んでいるわけですから、大きな刺激になることでしょう。北海道陸協推薦で出場した高校生が、インターハイで入賞することもあるそうです。「見る」の視点で言うと、動画でのライブ配信も年々話題になっています。「最初は、スマートフォンで撮影しただけの、風景を流しているような簡単な配信でした。事前告知もせずフワッと始めていたのですが、コロナ禍によって地域や子供たちに生で見せられないぶん、どうにかしてレースを見てもらえないかという思いもあって、配信のレベルをなんとか上げようとしていきました」。現在のライブ配信は、開始当初からは比べものにならないほどの盛り上がりを見せています。昨年はホクレンDCディレクターの河野匡さんと私、M高史が実況席から選手のみなさんの走りっぷりをお伝えさせていただきました。「動画配信で応援するだけでなく、がんばった選手たちへ投げ銭をしたり、MCに対して投げ銭をしたり、霧が出て見にくいからなんとかしてくださいと投げ銭をするなどなど(笑)。きっと、視聴してくださるみなさんも、この大会の運営に少し関わっていると思ってくださっているのかなと思います。」自己記録を更新した選手が続き、ライブ配信のチャット欄で盛り上がった際に、「PB祭り」という言葉が生まれました。木路さんは「よくあんな言葉が作られましたね。投稿者の方はすごいなと思いました」と振り返っていました。
「支える」の視点では、例えば地元の高校生が補助員として大会を支えています。「やらされている感ではなく、うれしそうにやってくれるんですよね。出場する経験だけでなく、違う形で関わっていくおもしろさを感じてもらいたいです。例えば、表彰の時のインタビューであったり、花束を渡したりするのもいいきっかけになります。今後は英語が得意な人、音楽編集が得意でDJが好きな人など、大々的に募集をかけていってもおもしろいかもしれないですね。いろんな関わりができていければと思いますし、地元の人たちにこの大会を活用していただきたいです。文字通りチャレンジなので!」
ホクレンDCができた当初、選手として出場していた人が、今ではスタッフ、監督、コーチになっています。「ホクレンDCへの思い入れを持ったまま、選手を連れてきてくれています。自分たちが結果を出してきた大会だから大事にしようという雰囲気があります」と、木路さんはうれしそうに話していました。
▼コロナ禍を乗り越え、熱い思いでホクレンDCを運営するスタッフたち
■ホクレンDCのこれから
木路さんに、ホクレンDCの今後について聞きました。「価値観が同じ人たちの集まりで、選手のためにやっていくこの仕事はおもしろいです。今後の課題としては、次の人たちを育ててどうやって引き継いでいくか。ここ5年、10年、事務局の人たちが積極的に関わってくれるようになりました」特に、人のエネルギーが集約されたのが2020年だそうです。新型コロナウイルス感染症拡大により、春の大会がすべて中止となりました。それでも、「あのとき、誰もが7月のホクレンDC開催をやめようと言わなかったんですよ。どうしたら開催できるのか、感染症対策でいろいろ苦労しましたが、第5戦の千歳大会は有観客で開催できました。開場する前、人が並んでいるのを見に行った時には感動しましたね。これだけ待ってくれていた、やってよかったなと。それが、今もエネルギーとなっています」。コロナ禍を乗り越えて、選手とともにさらに現状打破を続けるホクレンDC。今年も応援よろしくお願いします!
>>インタビューVol.19(PDF版)はこちら
■木路修平さん
1967年生まれ、京都府出身。京都・洛南高で中長距離に取り組み、筑波大では箱根駅伝にも出場。大学卒業後は大塚製薬で競技を続け、引退後はコーチを務める。2010年に筑波大大学院に進んだのち、日本薬科大コーチを経て、現在は筑波大体育スポーツ局勤務。同大男子駅伝コーチを担う。ホクレン・ディスタンスチャレンジには草創期から関わり、レースマネージャーとして大会全体のエントリー業務を担当している。
■M高史(えむたかし)さん
1984年生まれ。中学、高校と陸上部で長距離。駒澤大学では1年の冬にマネージャーに転向し、3、4年次は主務を務める。
大学卒業後、福祉のお仕事(知的障がい者施設の生活支援員)を経て、2011年12月より「ものまねアスリート芸人」に転身。
川内優輝選手のモノマネで話題となり、マラソン大会のゲストランナーやMC、部活訪問など全国各地で現状打破している。
海外メディア出演、メディア競技会の実況、執筆活動、ラジオ配信、講演など、活動は多岐にわたる。
~月刊陸上競技7月号(6月14日発売)掲載~
【ホクレン・ディスタンスチャレンジ】
>>https://www.jaaf.or.jp/distance/
「日本の陸上を一歩前へ。目標記録達成のために電子ペーサーの導入を!」長年にわたり多くの地元の方々に支えられ、多くのファンに愛され、昨年20周年を迎えたホクレンDC。それぞれの夢と希望と声援が共鳴し、未来へと続くストーリーが、今年も北海道の夏を彩ります。現在、ホクレンDCでのたくさんの好記録を後押しするために、クラウドファンディングを実施中!たくさんのご応募をお待ちしております!
■クラウドファンディング
https://readyfor.jp/projects/distance2023
■ホクレンファミリー
https://www.jaaf.or.jp/distance/2023/sponsors/
「陸ジョブナビ」アーカイブ
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【Vol.13 タイム計測編】徹底した準備でランナーの努力を刻む【Vol.14 通訳編】来日した外国人選手をサポート
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【Vol.16 競技場検定員編】安心・安全、正確な競技会を目指して
【Vol.17 スポーツカメラマン編】感動の瞬間を世界に届ける
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