日本陸連(JAAF)では、日本スポーツ協会(JSPO)が実施する「JSPO公認スポーツ指導者システム制度」と連携して、公認指導者の養成と資格の認定を行っています。こうした指導者資格制度は、以前から実施されていましたが、日本陸連としての姿勢や方向性が、2017年度以降、「JAAF VISION 2017」( https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/jaaf-vision-2017.pdf )や「競技者育成指針」( https://www.jaaf.or.jp/development/model/ )という形で明文化されていったなかで、その実現の中核になってくる「指導者の養成」についても改めて議論や検討が進み、2020年度に「指導者養成指針」( https://www.jaaf.or.jp/development/model-coach/ )を発表。「すべての指導者がコーチ資格を取得する」「資格取得後もコーチが学び続けていける環境をつくる」ことを目指し、コーチ養成システムの再構築が行われてきました。現在のコーチ資格は、「JAAF公認コーチ」「JAAF公認ジュニアコーチ」「JAAF公認スタートコーチ」の3種類に設定。カリキュラムについても、コーチに求められる素養や基礎的な知識を学ぶだけに留まらず、受講者間でのコミュニケーションが増大するグループワーク方式を導入するなど、より広い気づきや学びが得られるような内容へと、大きく変貌しています。
「実際に、どんな講習が行われているの?」と思う方も多いはず。そんな疑問にお応えすべく、昨年12月に行われた「2023年度JAAF公認コーチ集合講習」に密着。2日間にわたって行われた講習の模様をご紹介しましょう。
今回は第2日目をお届けします。(第1日目はこちら、研修参加者のコメントはこちら)
文・写真:児玉育美(日本陸連メディアチーム)
【2023年度JAAF公認コーチ集合講習:第2日/2023年12月17日】
グループワーク:指導案のブラッシュアップと演習の準備
集合講習2日目となる12月17日は、午前8時30分からスタートしました。開始にあたって、指導者養成委員会の桜井智野風副委員長が挨拶。「私たち講師も、何十年前から何年までまでこの講習を受けていた人間。一緒に皆さんとスキルを上げていきたいと思っている。何か意見があれば、ぜひ出してほしい」と述べたうえで、「長い1日になると思うが、よろしくお願いします」と呼びかけました。最初に行われた講義は、グループワーク中心の内容で、1日目の最後に行われた「指導演習と成長計画」の続きといえるもの。引き続き、森ディレクターが講師を務めて行われました。受講者はこの日、指導演習でチームを組むことになるグループ1からグループ6に分かれて、一つのテーブルを囲む形で着席。まず、最初に、このあと行ってしていく指導演習について、グループ分けや進行スケジュール等に変更がないこと、設定された条件等の再確認を行ったあと、自身のウォーミングアップはすませておくことや、どうしても説明が長くなりがちなので、選手役の5~6名ができるだけ身体を動かしていけるように工夫して進めてほしいといった助言がなされました。
続いて行われたのは、実施する指導案の確認です。まず、同じグループのコーチ役と選手役を務めていくことになるメンバー間で、それぞれが書いた指導案を確認。指導上の留意点や安全上の注意が十分であるかを全員で共有し、補足したり修正したりする点をアドバイスし合う時間が持たれました。そして、その次には、同じ時間帯にコーチ役を務める者同士で打合せを行い、それぞれがどういう内容を予定しているかを事前に摺り合わせることで、会場となる陸上トレーニング場の6箇所に分かれて同じ時間帯で行う演習において、使う予定の用具をうまく配分できるか、利用するスペースが安全であるかどうか、動線が重なる恐れがないかなどを確認しました。
指導演習
こうした丁寧な準備や確認作業を経て、受講者たちは自身の作成した指導案をさらにブラッシュアップさせて、この2日間の講習で、最も高い緊張感をもって取り組むことになる指導演習へと臨みました。指導演習は、陸上トレーニング場を6つのエリアに分けて、6つのグループが同時進行でセッションを進めていく形で行われます。1セッションの所要時間は全20分。指導種目は、自身の専門外の種目がランダムに割り当てられています。1人あたりの演習時間は10分で、受講者は、事前に用意したステップ1からステップ2、ステップ3へと進んでいく90分の指導案に沿って、まずはステップ1から指導をスタートさせます。コーチングの視点でチェックを行う講師2名の判断により、内容をショートカットする指示が出ると、指導は次のステップへ。こうして終了設定時間まで指導を続けていくという方法です。
演習後は5分間のフィードバックタイムが設けられ、コーチ役を務めた受講者に、チェックを行った講師陣から、良かった点や評価できる点が示されるほか、「ここは、どういう意図で行ったのか」という質疑応答や、「こうすればもっと良くなる」といった提案が受講者に伝えられます。こうしてコーチ役を終えた受講生は、準備時間を含めた5分の休憩を挟んで、選手役を務めることになる次のセッションへ。また、選手役を務めた受講生は、演習が終わってからの10分間で、休憩をとるとともに、次に始まるセッションの準備。それぞれが置かれた立場に応じて、協力しあって演習のサイクルを回していきました。
指導演習の評価者は、公認コーチ有資格者とJSPOコーチデベロッパーにより構成されています。今回の演習では、桜井副委員長や、ここまでの講義や実技講習で講師を務めた委員のほか、原悦子、ハニカット陽子、田代章、堀籠佳宏の各委員、および田中悠士郎JSPOコーチデベロッパー(日本陸連強化部指導者養成課長)が加わり、1つのグループを2名で担当。演習におけるチェック事項である「コーチとしての心構え」「環境や安全の確認・指導」「時間・空間や選手の管理」「目的や対象に応じた指導」「基本的な5スキルの流れ」の5つについて、両者が連携しながら評価にあたりました。終了後、特に安全面について課題が残った受講者が、再度、演習による安全面の確認を実施。すべての指導演習を終えました。
講義:指導演習と成長計画(振り返り)
長かった2日間の集合講習も、いよいよ最後の講義となりました。再び講義会場へ戻った受講者たちが取り組んだのは、指導演習の振り返りです。演習において全体の統轄を務めた秋元恵美シニアコーティネーターが講師を務めて進行していきました。この講義では、指導演習でチームとなった各グループで、演習における内省や、良かったことを共有するディスカッションを15分間で行い、代表者1名がその内容をまとめて2分間で発表していくことが行われました。それぞれのグループで集約された意見が発表されたあとに、秋元シニアコーティネーターがコーチに必要な視点や留意点として、
・コーチは、ついつい余分にしゃべりたがりがち。話す内容を絞ることを心掛けるとよい、
・指導に際しては、「アスリートセンタード(※)」が前提。常に選手に問いかけていくことが大事、
・安心安全な指導の大切さ。取り組んできた種目を改めて勉強したり、日常で慣れてしまっている事柄を見直したりすることは、コーチとして非常に大切、
・自身の専門外の種目を知ると、コーチングにおける自分をイメージし、想像できるようになる、
・指導は「より具体的に」行うことが大切。各種目の(テクニカルモデルとなる)ポイントを理解していると、それが可能となる、
・対象に応じて指導内容を変えられるかは、そのコーチが持つ引きだし次第。知っていることを増やしたり深めたりすることが、コーチとしての幅を広げていくことになる、
といった内容を再確認しました。
最後には、受講者たちに、この集合研修を踏まえて、自身の指導現場で学習内容を再度、照らし合わせる事後課題が提示(800字以上1200字以内でまとめる課題2つ)。執筆の体裁や提出期限等の確認を行われたところで、2日間の日程がすべて終了しました。
※アスリートセンタード
主役(中心)であるアスリートのために、指導者・家族・ドクター等の支える側(アントラージュ)が連携して、アスリートの気づきや成長を導き成長を導くコーチングの考え方。
<<資格制度・講習会開催要項>>
〇資格制度概要
https://www.jaaf.or.jp/development/coachlicense/
〇公認スタートコーチ養成講習会
https://www.jaaf.or.jp/development/coachlicense/startcoach.html
〇公認ジュニアコーチ
https://www.jaaf.or.jp/development/coachlicense/juniorcoach.html
〇公認コーチ
https://www.jaaf.or.jp/development/coachlicense/coach.html
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