▲写真
米プロチーム・Nike Bowerman TCのコーチ・Jシューマッカー氏と(写真提供/ (株)インプレスランニング)
陸上の大会はたくさんの「縁の下の力持ち」によって支えられています。今回は世界陸連公認代理人(AR)として選手の海外レース出場や遠征などを支える柳原元さんに話を聞きました。選手のみなさんが海外のレースに出場したり、合宿をしたりするのになるべくストレスを減らし、安全・安心で挑戦できることの裏側に迫りました。
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〜 AR(公認代理人)について〜
試験は原則2年に1回開催される(不規則の場合もあり)。11 月1日時点で世界陸連公認代理人の資格を持つ日本人は7名。
<AR 一覧はこちら>
https://www.worldathletics.org/athletes/athlete-representatives/directory
代理人になったきっかけ
元々はHonda陸上部のマネージャー(10年間)をされていた柳原さん。その後は社業に専念。そして、一念発起して代理人の世界に飛び込みました。「(陸上関係者の中には)『世界を目指す』と言っているけど、実際は海外のことをあまり知らなかったり、その経験値もあまりなかったりと、困っている選手・コーチ・チームを幾度となく見てきたので、こういう人たちの役に立てる仕事をしたいと思っていました。また、当時なんとなく日々の仕事、生活にマンネリ感を感じていたので、新しい何かに挑戦することによりそれを〝現状打破(笑)〟したいという想いは強かったです」
最初はマネージャー時代の人脈を駆使していろいろな人に連絡を取り、時には直接会いに行ったほか、ブログを書き始めて情報や想いを発信し続けていました。「そのうち、ブログを見た人から連絡があったり、やがて仕事につながったりすることもありました」と柳原さんは当時を振り返ります。代理人を始めて、今年で12年目になるそうです。
代理人のお仕事内容
そんな柳原さんのお仕事は、本当に多岐に渡ります。「一言で言うと、日本人陸上選手の海外関連業務全般。具体的には試合、合宿の企画・運営・サポートなどですね。試合といっても単発のものもあれば、転戦するものもあります。合宿も短期から長期まで、選手1名の遠征から大人数までさまざまなので」
試合に出場する場合でも主に、「選手やチームからこの時期に、こんな試合がないかというリクエストがある場合」「選手やチームからこの大会に出たいとのリクエストの場合」「こちらがプランを作って提案する場合」の主に3つのケースがあり、ニーズに合わせて試合の情報を収集していきます。「なんという大会で、いつ・どこで開催されのるか、種目・レベルはどうか、過去に日本人が出ているか、主催者とやりとりするにはどうしたらいいのかなどをチェックしていきます。でも、誰が担当者なのかなかなかわからない場合もありますし、きちんとした要項がない場合も多々あります。メールを送っても返信が来ないこともざら。きちんとした大会要項もなく申し込み開始時期や締め切りも定まっていないことだってあります」
さまざまなハードルを乗り越えていきます。日本の大会が、いかにきっちりと整理されているかがうかがえます。
主催担当者と連絡が取れてから選手の出場条件などの交渉に入ります。
「参加可否の確認から、招待なのか、招待料や経費補助はどのくらいなのかという条件を交渉していきます。交渉はしますが、ケンカをして相手にいやがられると次回以降の交渉に影響が出かねないので、将来も見据えた駆け引きをやっています」
選手もレース中に駆け引きをしていますが、選手が出場するために柳原さんのような代理人と主催者の駆け引きがスタート前に行われているんですね!
選手の海外遠征には、柳原さんが帯同する時もあれば、そうでない時もあるそうです。
「帯同前提で依頼される場合と、そうでない場合があります。ただ、帯同しないからといって、試合申込完了後あとは知りませんとはいかないので、可能な範囲で日本から状況確認はしています」
▲昨年のウィーン・マラソン記者会見にて日本人選手の紹介 (写真提供/ (株)インプレスランニング)
世界陸連公認代理人を取得するまで
こういった活動をするためには、世界陸連公認代理人資格を取得しなければなりません。柳原さんが受験をした時がちょうど第1回目でした。「(当時)国際陸連の英文ルールブックを読んで勉強しましたね。第1回だったので過去の問題例もなく、アドバイスをくれる人もいませんでした。合格したあと、しばらくして感じたのは、資格を取ったことでまだ実績がない時から仕事が来ていたので、資格の力は大きいと感じました。ただ一方で、資格の名に恥じない仕事をしないといけないとも思っていました」
資格取得後も講習会が4年に1度あり、活動実態の確認などが行われるそうです。
1日のスケジュールは「海外とのやりとりがあるので、時差の関係で仕事が朝4時になることもあれば、深夜になることもある。フリーランスだからこそできる部分はあります」とフレキシブルに対応しているそうです。「仕事を通じて感じるやりがいは、自分の好きな陸上を通じて、世界中のコーチ、代理人、選手、大会主催者らと友人や仕事仲間になれたりすること。同時に世界に挑戦する日本の選手や指導者との輪が広がっていくことを日々実感できる点ですかね。お金では買えない世界ですね。まあ外国人は仕事スタイル、文化・慣習の違いからうまくいかなかったり、時にはイライラ、ヒヤヒヤしたりすることもありますが……(笑)」
コロナ禍前は年間約180日海外に滞在。これまで約25 ヵ国を飛び回るなど多忙な日々を送られています。
日本からプロ選手を
今後は、「本当のプロの選手をサポートしたいと思っています。現在仕事の多くは実業団関係のものですが、海外のプロチームで正メンバーとして活躍するような日本人選手をサポートしたいですね。日本にはプロチームがないので、そういうものを作りたいという思いもあります。もちろん、実業団のチームの良いところもありますが、一方で、世界のトップを目指すのであればこそ、世界トップの考え方や手法を取り入れた選手やチームのサポートをこの代理人の仕事を通じて実現していきたいです」日本から世界に挑む選手たちをサポートする柳原さん。選手が思いっきり羽ばたけるよう、〝現状打破〟し続けています。
>>インタビューVol.12(PDF版)はこちら
■柳原元さん
株式会社インプレスランニング代表取締役。京都産業大時代から各所で陸上部マネージャーを経験。2010年に14年間勤務した本田技研工業を退職。翌11年5月「陸上を通して感動を与えながら走り続ける」という思いを込めて命名したインプレスランニング社を設立。同年世界陸連(当時・国際陸連)公認代理人の資格取得。
〇Blog
https://blog.goo.ne.jp/gyanagihara
〇インスタグラム
https://www.instagram.com/genyanagihara/
〇インプレスランニング HP
https://www.impressrunning.com/
■M高史(えむたかし)さん
1984年生まれ。中学、高校と陸上部で長距離。駒澤大学では1年の冬にマネージャーに転向し、3、4年次は主務を務める。
大学卒業後、福祉のお仕事(知的障がい者施設の生活支援員)を経て、2011年12月より「ものまねアスリート芸人」に転身。
川内優輝選手のモノマネで話題となり、マラソン大会のゲストランナーやMC、部活訪問など全国各地で現状打破している。
海外メディア出演、メディア競技会の実況、執筆活動、ラジオ配信、講演など、活動は多岐にわたる。
~月刊陸上競技12月号(11月14日発売)掲載~
「陸ジョブナビ」アーカイブ(2022年1月号~11月号)
Vol.1 「陸上って楽しい! おもしろい!」と思ってもらえるような競技会に!~競技場アナウンサー編~Vol.2 トラック競技の着順判定や正式タイムの計測を行う~写真判定編~
Vol.3 ランナーの一番近くで安全・安心なマラソン大会を実現!~大会運営編~
Vol.4 競歩の歩形をジャッジする!~競歩審判員(JRWJ)編~
Vol.5 カッコイイ陸上競技に!競技会を魅せる!~イベントプレゼンテーション編~
Vol.6 選手が出場して良かったと思える大会に!報道メディアの方々をサポート~報道編~
Vol.7 選手の声を商品に生かす!選手のパフォーマンスを支える制作の裏側をご紹介!~ウエア制作編~
Vol.8 選手の晴れ舞台を盛り上げる!~表彰編~
Vol.9 トレーナー~選手のパフォーマンス発揮を支える!~トレーナー編~
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