2019.06.18(火)大会

【第103回日本選手権】展望:男子跳躍


◎男子走高跳

跳躍種目も見どころ満載だ。まずはなんといっても男子走高跳。2月に室内で2m35の日本記録を樹立し、日本人で初めてIAAF世界インドアツアーのシリーズチャンピオンに輝いた戸邉直人(当時、つくばツインピークス、現JAL)が、屋外でも前日本記録(2m33)を超える高さを狙う。この2m33は、日本選手権の大会記録(2006年)でもあり、東京五輪標準記録でもある。

戸邉は、屋内シーズン後、2m40台の跳躍への対応を目指して、踏み切り位置を遠くする改良に取り組んできた。しかし、屋外初戦の4月のアジア選手権は2m26までは有利に進めながらも、勝負どころとなった2m29をクリアすることができず3位。国内初戦となったGGPは、風の回る難しいコンディションのなか2m27で優勝を果たしたが、競技後は「今の技術をさらに修正していく」と、記録には満足していなかった。6月に入ってからは、ローマ大会(6日)、ラバト大会(16日)とダイヤモンドリーグを2連戦。ローマDLは2m19を跳ぶことができず2m15で11位にとどまる結果となったが、ラバトDLでは今季屋外ベストとなる2m28をクリアして、DLにおける日本人過去最高順位となる2位で競技を終了した。

まだピタリとはまった状況には至っていないようだが、「あと少し」というところまで仕上げてきている。身体の調子自体は、良い状態を維持できているというだけに、ドーハ世界選手権を見据えるだけでなく、7月以降も続いていくDLでの上位争いに加わるためにも、日本選手権までに完成させて、記録の水準を室内シーズンで見せたレベルに引き上げておきたい。意外にも戸邉の日本選手権優勝回数は少なく、2011年、2015年の2回のみ。どちらも五輪前年だ。2020年東京五輪前年となる今回は、「単なる優勝」では満足できないことだろう。





そんな戸邉の独走(独跳というべきか?)を許すまいと立ちはだかるのが衛藤昂(味の素AGF)だ。前回大会では戸邉を押さえて3年連続4回目の優勝を達成。今年も4月のアジア選手権では、2m23と2m26をともに3回目に跳ぶ粘りで上位戦線に残ると、戸邉がクリアできなかった2m29も3回目に成功させて戸邉を制し、2位の成績を収めている。国内2戦目となった5月3日の静岡国際では、3度目の自己タイとなる2m30をクリアし、世界選手権標準記録を突破。成功はならなかったが2m33にも挑戦している。

6月入ってからは、戸邉同様にローマDLへ出場し、2m19で9位と戸邉よりは上位に来たものの、助走路の硬さに対応できず結果自体は今ひとつ。約1週間のスパンで臨んだスロバキアの大会も2m15(8位)と、うまく調子を合わせることができずに終わっている。この種目における日本選手権の最高連勝数は4回で、木村一夫(第13~16回大会)、鈴木義博(第23~26回大会)、阪本孝男(第56~59回大会)の3選手がこれを達成している。悪条件下や勝負所での一発を決めることができるタイプだけに、衛藤がそこに仲間入りするためには、まずは、この2週間で、どこまで最高のピーキングができるかが課題となりそうだ。

男子走高跳の今季世界1位は、6月16日時点で2m31とやや低く、同記録で5選手が並んでいる状態である。博多の森では「今季世界最高を塗り替えての優勝争い」を見ることができるかもしれない。




◎男子棒高跳

男子棒高跳は、すでに1月の室内競技会で世界選手権標準記録(5m71)をクリアしている山本聖途(トヨタ自動車)が、3年連続5回目の優勝に挑む。海外の室内大会を2戦して屋外シーズンに臨んでいる今季は、例年以上にアグレッシブに海外転戦で勝負に挑んでいることが目を引く。屋外初戦となった4月21日のアジア選手権(ドーハ、5m51、7位)以降、4月29日の織田記念(5m61、優勝)、5月3日のドーハDL(5m61、3位)と3連戦したのちに、5月19日のGGP(大阪、5m51、3位)を経て、ストックホルムDL(5月30日、5m48、3位)、FBKゲームズ(オランダ、IAAFワールドチャレンジ第4戦、5m51、3位)、オスロDL(6月13日、5m61、6位)に出場。これらの結果により、屋外のシーズンベスト5m61自体は今季世界35位ながら、IAAFワールドランキングは8位(6月11日時点)、そしてDLの年間種目別優勝争いでは3位につけている。飛び抜けた記録こそ出ていないものの、低温や強風、降雨などの悪条件下でも安定した結果を残せている点に、これまで以上の成長と充実ぶりがうかがえる。日本選手権では、5m80の五輪標準記録はもちろん、澤野大地(富士通)が2005年にマークした5m83の日本記録更新も見据え、万全の状態で臨んでくることだろう。





その山本を脅かすとしたら、DA修了生の江島雅紀(日本大)か。高校時代から年代別の記録を塗り替え続け、2017年には5m65のU20日本記録(日本歴代6位)を樹立している期待のホープ。昨年は、U20世界選手権で銅メダルも獲得したが、その一方で突っ込み動作の局面に課題を残し、記録的に突き抜けきれず苦しむ1年を過ごした。今年は、アジア選手権(6位)、織田記念(2位)でともに5m51をクリア。GGPは5m31(5位)にとどまったが、翌週の関東インカレでセカンドベストに並ぶ5m61をクリアして優勝。世界選手権標準突破を目指して挑んだ5m71でも惜しい跳躍を見せている。

優勝争いが5m70前後になるようだと、日本記録保持者の澤野にも勝機が出てくる。今年の9月で39歳となる澤野は、現在、日本大のコーチとして江島をはじめ若手ジャンパーの育成にも取り組んでいる。初戦の織田記念は苦手とする寒さの影響で5m31にとどまったが、GGPでは最初の高さとして臨んだ5m41を一発でクリアすると、5m51をパスして、昨年のシーズンベスト(5m60)を上回る5m61の跳躍に挑む試技を見せた。競技後には5m41の跳躍に大きな手応えを感じたことを明かし、「この跳躍が出れば5m71は行ける」という確信をつかんでいる。長年の経験によって培った平常心と抜群の調整力とで、若手を翻弄するだろう。澤野の優勝が実現すれば、第100回大会以来12回目。1999年の初優勝から20年目の快挙となる。




◎男子走幅跳、男子三段跳

男子走幅跳も、1992年以来となる日本記録の更新が、それも複数選手によって達成される可能性がある。

フルスロットル状態で今季に突入したのは、現在2連覇中の橋岡優輝(日本大、DA修了生)。アメリカで迎えた初戦で追い風参考ながら日本記録に並ぶ8m25(+4.2)の大跳躍でシーズンインを果たすと、4月のアジア選手権では日本記録に3cmに迫る8m22(+0.5)をマーク。海外での日本人最高記録で日本歴代2位に浮上するとともに、世界選手権標準記録(8m17)を突破して金メダルを獲得。世界選手権に向けた日本選手権時の内定条件(①標準記録を突破して優勝、②アジア選手権優勝者の優勝)に、いわば“ダブルリーチ”をかけた形となっている。

帰国後、疲労が出て体調を崩した影響もあり、国内初戦となったGGP(7m80、3位)、関東インカレ(8m04、3位)は、記録・勝負とも今ひとつ精彩を欠く結果に終わっているが、冬期トレーニングによる大幅な底上げができているので不安はない。アジア選手権の競技後、「自信にはなったが、納得できる跳躍ではない」として挙げた助走局面の課題をきっちり修正して、福岡での決戦に臨む。目指すは、記録自体はアジア選手権でマークしたものの有効期限前ということで突破の対象外となった東京五輪標準記録(8m22)、そして師である森長正樹コーチの持つ日本記録8m25を突破しての3連覇達成だ。

日本記録更新の可能性があるのは橋岡だけでない。GGP、関東インカレと2戦続けて橋岡に勝っている津波響樹(東洋大)がその一番手。なかでも優勝を果たした関東インカレは、すべて追い風参考記録となってしまったものの、優勝記録の8m26(+2.6)をはじめとして、6本中5本を8m台で揃えた。2017年の日本インカレを制した際にマークした自己記録8m09は、条件さえ整えば確実に超えてくるだろう。





GGPでこの津波を押さえて優勝しているのが橋岡と同じ“森長門下生”の山川夏輝(東武トップツアーズ)だ。自己記録は8m06。津波と同じく2017年の日本インカレでマークしている。社会人2年目となった今季は、5月の水戸招待を、踏切板を乗らない位置で踏み切って8m04(+0.8)で制しており、初のタイトル獲得を日本新記録で達成することを目指している。高い水準で迫力のあるシーソーゲームが大いに期待できそうだ。

このほかで、要チェックなのが泉谷駿介(順天堂大)の存在。すでにハードルの項目でご紹介の通り、110mHで優勝候補の一角に上がっている選手である。ベスト記録は3月にマークした7m82(+1.1)ながら、関東インカレでは、110mHの準決勝・決勝と同時進行する状況下で走幅跳にも臨み、追い風参考ながら8m09(+3.8、2回目)、8m08(+5.1、6回目)と、2回の8mオーバーを果たし、優勝した津波、3位の橋岡の間に収まっているのだ。技術的には全く未完成の状態だが、ハードルと同様に、走り(助走)のスピードを殺すことなく踏み切れる能力の高さと、それを可能にする抜群の身体能力が強みといえる。

現段階では両種目に出場する意向だが、今回は110mHの優勝を最大の目標に掲げていること、また、110mHと走幅跳決勝の日程が重複することから、走幅跳への出場が可能かどうかは微妙な状況。しかし、ピットに立つことができれば、“台風の目”になるかもしれない。





活況にある男子跳躍のなかで、今年はやや勢いに欠ける印象が否めないのが男子三段跳だ。エース格で、本来なら16m95の世界選手権標準記録どころか、五輪標準記録の17m14に挑んでほしい山本凌雅(JAL、自己記録16m87、2017年)、山下航平(ANA、自己記録16m85、2016年)のツートップの調子が全く上がってきていないことが懸念材料となっている。この2人がどこまで立て直してくるかによって、戦況は大きく変わってくることになりそうだ。

今季日本リスト1位を占めているのは山下祐樹(茨城陸協)。国士舘大4年時の2017年に初の16m台となる16m19をマークして関東インカレで2位、同年の日本学生個人選手権では3位の成績を残している選手だが、大きなタイトルを獲得した経験はまだ持っていない。今季は、織田記念を15m78(+1.3)で優勝すると、GGPで自己記録を大きく更新する16m43(+0.7)の今季日本最高をマークし、日本人トップの4位に食い込む健闘を見せている。過去2回の日本選手権ではベスト8進出ならずに終わっているだけに、この大会での快進撃に期待したい。



※記録、競技会の結果は、6月16日時点の情報で構成。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォートキシモト

■第103回日本陸上競技選手権大会

2019年6月27日(木)~30日(日)福岡市博多の森陸上競技場
チケット絶賛発売中!
https://www.jaaf.or.jp/jch/103/


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