2019.05.24(金)大会

【セイコーGGPレポート】日本男子4×100mRは今季世界最高の38秒00で優勝!/男子110mHは泉谷が追い風参考ながら13秒26で制す



「セイコーゴールデングランプリ陸上2019大阪」が、国際陸上競技連盟(IAAF)の主催するワールドチャレンジ第3戦として、5月19日、大阪市のヤンマースタジアム長居において開催されました。

晴れ間が広がった当日は、気温25~26℃、湿度40%前後と比較的快適ではあったものの、気圧配置の影響で、風の向きや強さの安定しない、競技者にとっては難しいコンディション下となりました。そんななかでも素晴らしいパフォーマンスが飛び出したのは、ワールドチャレンジ種目として行われた男子200m。向かい風0.4mの条件下にもかかわらず、マイケル・ノーマン選手(アメリカ)が、昨年出した自己記録に並び、今季世界3位となる19秒84の好記録で快勝しました。また、女子200mではイベト・ラロワ コリオ選手(ブルガリア)が22秒55(+0.5)の大会新記録で優勝。昨年の世界リスト上位者が顔を揃えたハンマースロー・チャレンジの女子ハンマー投では、アジア記録保持者(77m68)の王崢選手(中国)が75m27の大会新記録を投げて制し、2017年世界選手権銀メダリストの貫禄を示しました。

日本勢は、ワールドチャレンジ種目のうち、男子110mH、男子400mH、男子走高跳、男子走幅跳の4種目で優勝しました。また、記録・勝負ともに注目が集まった男子100mでは、日本記録保持者の桐生祥秀選手(日本生命)が中盤までリードを奪うレースを展開し、終盤でジャスティン・ガトリン選手(アメリカ)にかわされ優勝は逃したものの100分の1秒差の10秒01でフィニッシュして、3回目となるドーハ世界選手権参加標準記録(10秒10)突破を果たすとともに、東京オリンピック参加標準記録(10秒05)も突破。この種目では4位でフィニッシュした小池祐貴選手(住友電工)も日本歴代7位の10秒04をマークし、ドーハ世界選手権、東京オリンピックの参加標準記録突破者となっています。

オープン種目では、パラリンピック種目の男女混合4×100mユニバーサルリレーで日本A(澤田優蘭・井谷俊介・高松佑圭・生馬知季)が48秒14の日本新記録を樹立しました。また、大会最終種目として行われた男子4×100mRには、1週間前の世界リレーで失格を喫した日本チームが出場。再び多田修平選手(住友電工)、山縣亮太選手(セイコー)、小池祐貴選手(住友電工)、桐生選手の走順でレースに臨み、今季世界最高記録となる38秒00の好記録で圧勝して、来場した観客を大いに沸かせました。

ここでは、日本選手の活躍を中心に、大会の模様をレポートします。

 

 

◎男子100m 桐生、0.01秒差で“金星”逃すも、10秒01をマーク。小池も10秒04の好記録

男子100mでは、4月のアジア選手権を制するなど今季好調な滑り出しを見せていた日本記録保持者の桐生祥秀選手(日本生命)が、オリンピック(2004年)・世界選手権(2005年、2017年)金メダリストのジャスティン・ガトリン選手(アメリカ)を相手に、大接戦を展開しました。レースは、追い風1.7mと絶好の条件に恵まれたなかでスタート。序盤はガトリン選手が先行しましたが、中盤を過ぎたあたりで桐生選手がガトリン選手に並ぶと、わずかにリードを奪います。そのまま逃げきって、“金星なるか”とも思われましたが、残り数歩のところでガトリン選手が差し返して10秒00で先着。桐生選手は0.01秒差、10秒01・2位でのフィニッシュとなりました。

桐生選手がこのタイムをマークするのは、洛南高3年時の2013年、東洋大3年時の2016年に続く3回目で、2017年に樹立した日本記録9秒98に続く“セカンドベストタイ記録”。今季は3月の初戦で10秒08をマークして、すでにドーハ世界選手権の参加標準記録(10秒10)を突破していましたが、このレースで、5月に9秒99をマークしたサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(フロリダ大)に続き、東京オリンピック参加標準記録(10秒05)も突破することとなりました。

レース後、「(スタートのところで)リアクションというかバンと出るタイミングが少し遅れてしまったが、そこから焦らず、中盤から後半にかけては自分の思ったような走りができた」と振り返った桐生選手は、初戦から競り合って勝つレースを重ねることができている今季の状態を振り返りつつ、「今回は勝てなかったけれど、自分の走りができたことはタイム以上に価値があると思う」と、より大きな自信をつかんだ様子。その一方で、ディフェンディングチャンピオンとして、すでにドーハ世界選手権出場が決まっているガトリン選手を破れなかったことについては、「ここで勝ったら、“ガトリンに勝った選手”といえたので悔しい」とコメント。「そこの場面の0.01(秒)が、世界で死闘してきた選手(ガトリン)と、まだ決勝に立っていない選手(自分)との差」と述べ、「次のレースで、こういうことがないように、中盤、後半を伸ばしていきたい」と力強く言いきりました。 

桐生選手に続いて日本人2番手となったのは小池祐貴選手(住友電工)。今季は、初戦の競技会(アメリカ)で追い風参考ながら10秒0台を2回マークして、力がついたところを見せていましたが、今回のレースでは終盤で目を見張る追い込みを披露し、昨年出した公認の自己記録(10秒17)を一気に0.13秒上回る10秒04をマークして4位でフィニッシュ。自身が“本種目”と位置づける200mより先に、ドーハ世界選手権、東京オリンピックの参加標準記録をクリアしました。

レース後、感想を求められた小池選手は、「自己ベストが出たのは嬉しかったが、1~3位以内に入れなかったのが悔しいなという気持ちが先行した」とコメント。日本歴代7位の10秒04という好記録が出せたことについては、「冬期練習をしっかり積んで、身体が一段階強くなっている。エンジンが大きくなったので、余計な力を使わずに走れば、自己ベストは間違いないと思っていたので、そこまで大きな驚きはない」と自信を持って臨んでいた様子をうかがわせました。

今回の結果は、「純粋にトップスピードが上がっていることがわかったのと、特に後半の部分で自分の強みが出せていたので、それは200mにも通じるのではないかと思う」とメインと据える200mに向けても好感触だった様子。今季は目標として、「200mでファイナル進出が目標。世界陸上の準決勝で一番いい走りをして決勝に残りたい」ということを最大の目標に掲げていますが、日本選手権には昨年同様に100m・200mの2種目への出場を予定しています。「100mでもしっかり自己ベストを目指したい。1つ前のレースよりいいレースをするということを続けて、成長していきたい」と、頼もしい言葉を聞かせてくれました。 

昨シーズンから日本選手には連勝していた山縣亮太選手(セイコー)は10秒11で日本勢3番手となる5位。久しぶりに日本選手の背中を見てフィニッシュする形となりました。「今回、また、走りのイメージを変えた」と振り返った山縣選手は、「それができた部分とできなかった部分があったのかなと思う」と自身の走りを分析。中盤からはイメージしている身体の使い方ができたと評価しながらも、スタートのところで思うように鋭く出られなかった点を課題として挙げました。「今回のレース内容からすれば、タイムはまあまあではないかとは思うが、周りのレベルが高いので、このままでは代表に入るのも簡単ではない。しっかり状態を上げていかなければ…。常に課題意識を持って、自分の走りを良くしていく。別に、今までも怠っていたわけではないが、背水の陣というか、そういう気持ちでやっていきたい」と強い決意を見せていました。 

「タイムよりも勝負にこだわっていたので、嬉しいという気持ちは一切ない」とコメントしたのは多田修平選手(住友電工)。2017年の9月にマークした10秒07以降、最もよい記録となる10秒12のシーズンベストでフィニッシュして、着実に復調している様子をうかがわせましたが、日本人4番手の6位という結果は、悔しさのほうが大きかったようです。走り自体については、木南記念に続いて、今回もスタート直後でつまずきがあったと振り返り、「そのために前傾から早く(状態が起き)上がってしまった。それが加速できなかった原因」と分析、さらに「後半で一気に抜かれてしまったので、そこは修正する必要がある」と課題を挙げました。激戦必至となる日本選手権に向けては、「まずは勝たないと。優勝したら、このレベルなので、自然に9秒台もついてくる。まずは優勝を目指して世界選手権の切符を取っていけるように頑張りたい」と話していました。 

また、このレースには、メダルを獲得しているリオデジャネイロオリンピックとロンドン世界選手権で、ともにアンカーを務めているケンブリッジ飛鳥選手(NIKE)も出場。ケンブリッジ選手は、出雲陸上の予選後に左大腿部の張りを訴えて以来のレースで、その状況が注目されましたが、10秒30で9位にとどまりました。「前半しっかりついていって、後半どういう走りができるのかを確認したかったが、それ以前の走りになってしまった」とレースを振り返ったケンブリッジ選手は、「不安がなかったといえば嘘になるが、自分のなかでやれることはやってきたなかでのレースだったので、もう少ししっかり走れてもよかったんじゃないかというのが正直な感想」と、結果には満足できていない様子。日本選手権に向けて「あまり時間がない。しっかり反省して、次のレースに生かしたい」と前を向いていました。 

なお、この男子100mでは、インドネシアのラル・ムハマンド・ゾーリ選手が10秒03のインドネシア新記録で、3位に食い込む健闘を見せました。ゾーリ選手は、2000年7月生まれの18歳。昨年、岐阜で開催されたアジアジュニア選手権男子100mに優勝すると、フィンランドで開催されたU20世界選手権では10秒18のナショナルレコードをマークして金メダリストに。母国インドネシアで開催されたジャカルタ・アジア大会にも出場し、10秒20で7位に食い込むと、4×100mRでインドネシアの銀メダル獲得にも貢献しています。さらに、今年4月のアジア選手権では、準決勝で10秒15、決勝で10秒13と連続で自己記録を更新して桐生選手に続き2位に食い込む躍進を見せていました。9レーンに入った今回のレースでは、中盤から3~4番手を争う位置でレースを進め、自己記録を一気に0.1秒更新。このタイムにより、ドーハ世界選手権、東京オリンピックの参加標準記録を突破しました。伸びやかなバネのある走りが魅力の選手。今後、日本選手の強力なライバルとなってくる可能性もありそうです。


 

 

◎日本、男子4×100mRを今季世界最高の38秒00で優勝

オープン種目として実施された男子4×100mRは、今年も最終種目に据えられるタイムテーブル。日本のほか、アメリカオールスターズ、チャイニーズタイペイ、オーストラリア、インドネシア、ルーマニア、日本U20、そして昨年の日本選手権リレーを制した大東文化大の8チームが出場しました。

1週前に行われた世界リレー決勝で、3走・小池選手からアンカー・桐生選手のバトンパスでミスが起きて失格となり、上位10チーム以内に与えられる世界選手権出場権獲得を逃していた日本チームにとっては、記録による出場権(IAAFランキング上位6カ国)獲得を目指してのレースです。オーダーは、世界リレー同様に多田選手、山縣選手、小池選手、桐生選手の順。1つ内側にアメリカオースルターズが入り、外側がオーストラリアとインドネシアとなる7レーンからのスタートとなりましたが、1走の多田選手から明らかにリードを奪った日本は、そこから他チームを全く寄せつけない走りを展開していきます。2走の山縣選手、3走の小池選手でさらに差を広げると、アンカーの桐生選手は独走でホームストレートを駆け抜け、38秒00でフィニッシュ。世界リレー決勝を制した際にブラジルがマークしていた38秒05を上回る今季世界最高記録での勝利となりました。 

桐生選手10秒01、小池選手10秒04、山縣選手10秒11、多田選手10秒12と、それぞれに高いレベルの記録をマークした男子100mから男子4×100mRまでにはタイムテーブル上では1時間30分の間隔がありましたが、レース後の対応や移動、そして招集に向かう時間等を考慮すると実質は1時間を切るインターバルとなります。さらに風向が定まらないコンディションは、+1.7mという絶好の条件となった男子100mとは逆の状態になっていた様子。バックストレートを走った山縣選手とホームストレートを走った桐生選手がどちらも向かい風を感じていた振り返った状況で、決して良いとはいえない条件下でのレースでした。 

アンカーを務めた桐生選手は、レース後、「どうせなら37秒台を出したかったというのはあるが」と言いつつも、「とりあえず(1周)回ってバトンを落とさなかったので、自分としてはホッとしている」とまずは安堵の表情。走る直前に向かい風の強さを懸念し、3走の小池選手と話し合って、走り出しのマーク位置を決める距離を、世界リレーのときよりも0.5足長(約14~15cm)詰めたと言います。「そういう話ができていたので、向かい風であっても落ち着いてバトンパスができた」と振り返りました。 

バトンを渡した直後に、突風の向かい風を感じて、「“うわー、桐生、きつそうだな”と思いながら見ていた」と振り返った小池選手は、「1時間ほど前に全員が100mを思いきり走ったあとで、風や気温的にあんまりよくないコンディションのなかでのこのタイム。みんなの意識も、このレースを通じて“もっと行けるんじゃないか”という気持ちが高まったと思う」と評価するとともに、自身の走りについて「コーナーワークの部分でもうちょっと行けるんじゃないかと思っている。3走に関してもうちょっと集中した練習をして、自分の区間でもっと貢献したい」と今後を見据えていました。 

多田選手は、「山縣さんに(バトンを)渡すところで1回手首をつかませてしまった。そこがなければ37秒台出ていたと思うので、ちょっと悔やまれるところではある」と振り返りつつも、「38秒台には終わったが、けっこういいタイムで走れたで満足はしている」と述べ、自身の走りについては、「だいぶリラックスはできていたが、スタートがちょっと遅かった感じがあったので、修正していきたい」を次への課題を挙げました。 

2~3走のバトンパスで、「小池くんが走れているということと、バックストレートが向かっているなというのを考慮して」、世界リレーのときよりも走り出しの位置をかなり詰める調整を行ったと話したのは山縣選手。一度手首を握る状態になっていた多田選手とのバトンパスについては、「感覚には余裕があったし、手をつかんでしまったときにどうするかという話し合いもしていたので。それが1つ形になってくれたと思う」と話し、大会2日前にミーティングを行い、レース時に起こり得るミスや、それを避ける方法、起きた場合の対処方法などについて、全員で話し合った成果があったことを明かしました。

また、「個人(種目の100m)が終わったあとに、“みんな走れている”という感じがあったので、そこでの微調整など、そういうところも臨機応変にできた」ことは、チームにとって、新たな収穫となった様子。「もともと非常にポテンシャルのあるチームだと自分たちも思っていたし、37秒台を目指したところはあったが、僕と多田くんのところも、小池くんのところも、(バトンパスには)余裕があったので、そういうところを磨いていけば、もっともっとタイムを狙える」と自信を見せていました。

 

 

◎男子110mHで、U20の泉谷が追い風参考ながら13秒26で制す

スタートをやり直した後の出発となった男子110mHは、第1ハードルまでのアプローチを得意とする日本記録保持者(13秒36)の金井大旺選手(ミズノ)とほぼ同時の入りを見せた泉谷駿介選手(順天堂大)が、3台目あたりで明らかにリードを奪うと、金井選手、そして、その後、上がってきた2015年ユニバーシアード覇者のグレッグマー・スイフト選手(バルバドス)、終盤の追い込みが持ち味の高山峻野選手(ゼンリン)らを寄せつけず、そのままフィニッシュラインを駆け抜けました。そして、そのフィニッシュタイマーが止まった瞬間に、長居スタジアムは大きなどよめきが起こりました。表示されたのは、日本記録はもちろんのこと、東京オリンピック参加標準記録である13秒32を大きく上回る「13.27」という記録だったからです。

その後、大型ビジョンに掲示された記録は、0.01秒上向きに修正されて13秒26となったものの、同時に示された風は「+2.9」で、残念ながら追い風参考記録。フィニッシュタイマーを見て、満面の笑顔を見せて右手でガッツポーズをつくっていた泉谷選手も、この掲示が出た瞬間に、残念そうな表情を浮かべました。 

「13秒4くらいの記録かなと思っていたのが、ゴールしたら13秒2と出ていたので、すごいびっくりした」とレースを振り返った泉谷選手。レース中は、「(ハードリング時に)空中でタメをつくって、中間(インターバル)を刻むことを意識して走った」と振り返りました。前レースの木南記念では、「浮いてしまった」と反省しきりだった泉谷選手ですが、この意識によって木南記念での「浮いてしまうのを修正しようと、突っ込んで(ハードルをとぼうとして)しまい、それでハードルをぶつけて、中間(インターバル)も刻めなくなっていた」という悪循環を修正。また、関東インカレを直前に控える日程ということもあり、この大会に向けての調整は特別行わず、「通過点という気持ちで臨んでいた」ことも幸いしました。優勝を狙って硬さがあったという織田記念や木南記念に比べると、「今回は、ちょっとリラックスして、勝つことを狙わずに自分のペースで走ることを意識した」と、硬くなる要因を遠ざけた状態でレースに臨むことができていたようです。 

本大会の展望でもご紹介の通り( https://www.jaaf.or.jp/news/article/12706/ )、泉谷選手は、昨年のU20世界選手権男子110mH(U20規格で実施)銅メダリスト。10月U20日本選手権ではこの規格の110mHで、13秒19(-0.9)のU20日本記録をマークしています。2000年1月生まれのため、今年もU20の有資格者で、今季は一般規格の110mHでもU20日本最高記録を2度更新し、U20では今季世界最高となる13秒55まで塗り替えていました。

追い風参考記録を含めた一般規格の110mHにおけるU20世界歴代記録を見てみると、1位は13秒12(+1.6、2002年)の劉翔選手(中国)、2位はチャド・ザロー選手(アメリカ)の13秒19(+3.8、2015年)、3位はレナルド・ニアマイア選手(アメリカ)の13秒23(±0、1978年)で、泉谷選手の13秒26はこれに続く歴代4位となります。13秒3を切っている選手はこの4選手のみで、劉選手、ニアマイア選手は、その後、世界記録保持者になることを考えると、泉谷選手のパフォーマンスがいかにレベルの高い記録であったかわかります。 

追い風参考記録となったことを「悔しい」と言いつつも、しかし、何よりも実際に13秒2台という記録をマークできたことは、「大きな自信になった」と泉谷選手。織田記念や木南記念では、今季の目標として、世界選手権の参加標準記録突破を掲げていましたが、このレースを終えて、「今度は公認で13秒2を出したい。日本選手権で、まずは世界選手権の標準を切り、世界選手権の決勝で戦える選手になりたい」と、目標を上方修正していました。

 

 

◎男子走高跳、男子400mH、男子走幅跳で日本勢がV

男子110mHのほかに、ワールドチャレンジ種目で日本勢が優勝を果たしたのは、男子走高跳、男子400mH、男子走幅跳の3種目。どの種目も、向かったり追ったり回ったり突風が吹いたり、という“気まぐれな風”に苦しめられる結果となりました。 

男子走高跳は、予想されていた通り、2月に日本記録保持者(2m35)になったばかりの戸邉直人選手(JAL)と、アジア選手権(2m29)でその戸邉選手を勝利して銀メダルを獲得し、静岡国際ではドーハ世界選手権参加標準記録で自己タイ記録でもある2m30をクリアしている衛藤昂選手(味の素AGF)との戦いとなりました。2人はともに2m15から試技を始めると、この高さと続く2m20を1回でクリアしましたが、2m24は、風の影響もあってどちらも3回目にクリア。ここで2人に絞られ、2m27に挑みましたが、戸邉選手は2回目に成功したものの、衛藤選手はクリアならずで、ここで勝負が決することとなりました。戸邉選手は、続いて臨んだ2m30を成功させることができず、戸邉選手の優勝記録は2m27、2位の衛藤選手は2m24と平凡な記録に終わりました。

日本記録樹立後、さらなる高さに挑んでいくために、踏み切り位置を遠くすることに取り組んでいる最中である戸邉選手は、踏み切り位置が遠いために「余計にその風の影響を受けやすい状況だった」と明かしましたが、それでも「2m30は跳んでおきたかった」と結果に不満が残った様子。このあと、ダイヤモンドリーグのローマ大会(6月6日)とラバト大会(6月16日)への出場が決まっており、いよいよ屋外でも世界の第一線での戦いがスタートします。「6月は3連戦となるので、日本選手権は、その集大成という形でまとめたい」と楽しみなコメントを寄せてくれました。

男子400mHは、4月のアジア選手権で48秒92をマークして2位となっている陳傑選手(チャイニーズタイペイ)がリードを奪うレースとなりましたが、野澤啓佑選手(ミズノ)が8台目で追いつくと、9台目までに逆転しました。しかし、その9台目付近から前に出てきたのが3レーンに入っていた豊田将樹選手(法政大)。最終ハードルをほぼ同時にクリアした野澤選手を突き放し、50秒38で優勝。野澤選手は50秒65で2位、3位には杉町マハウ選手(ブラジル)が50秒87でフィニッシュしました。

優勝した豊田選手は、法政大の4年生。今季は静岡国際で、洛南高(京都)3年の2015年にマークしていた50秒16を4年ぶりに更新し、自身初の49秒台となる49秒94の自己新記録を出したばかり。高校3年の全国高校選抜(300mH)、国体(400mH)を制して以来のタイトル獲得となりました。

レース後、感想を求められると、「僕は守るものがないので攻めていくだけ。あまり緊張することなく、楽しいレース、わくわくするようなレースができたと思う」と笑顔。今回は「本当は49秒中盤くらいを狙っていた」そうですが、「風がめちゃくちゃ吹いていて、走っているときもいろいろなところから吹いてくるような感じだった。想定した歩数とはちょっと違ったが、うまく対応できたかなと思う」と充実感を漂わせました。7月にはナポリで開催されるユニバーシアードに日本代表として出場することが決まっているだけに、「このメンバーのなかで勝ちきれたことは自信になった」と大きな収穫を得た様子でした。 

バックストレート側のスタンド正面で行われた男子走幅跳も、風が強く向かったり追ったり、助走のスタート地点と踏み切り地点で向きが違ったりする最悪の条件下での競技となりました。このため、踏み切りをうまく合わせることができず、全体的に赤旗(ファウル)の上がる頻度の高い試技内容に。前日の記者会見で、8m25の日本記録更新を狙うと話していた橋岡優輝選手(日本大、ダイヤモンドアスリート修了生)も、これに苦しむ形となってしまいました。

1回目の試技をファウルでスタートさせた橋岡選手は、2回目に7m73(+0.8)をマークしますが、3回目も再びファウルして、5位で前半を折り返しました。4回目は3cmほど踏み越してのファウル。5回目は、ぴったりの踏み切りかと思われましたが、ここでも赤旗が上がってしまいました。向かい風0.4mのなかでの跳躍となった6回目で7m80へと記録を伸ばしましたが、1回目に7m81をマークしていた津波響樹選手(東洋大)に次いで3位に浮上するのが精一杯という結果に終わりました。

「4回目と5回目のどちらかは8mを超えていて、もう1本も7m90も行っていたので、(合わせきれなかった)自分の力不足を感じた。(助走の)出だしと踏み切り前のところで風が違ったりと条件が難しく、助走が乱れてしまった」と悔しさをにじませた橋岡選手は、8m22で優勝したアジア選手権でも感じていたという「(助走の)出だしのところでいつも意識している“地面の奥のほうを捉えるポイント”がずれている」点も課題として挙げ、「今後、どう修正するかを森長(正樹)先生とも相談しながら取り組みたい」と、「日本記録を超えて3連覇」を目指す日本選手権での巻き返しと誓いました。 

その男子走幅跳を制したのが、橋岡選手と同じ森長正樹コーチから指導を受ける山川夏輝選手(東武トップツアーズ)。日本大の出身で、橋岡選手の3学年上の先輩に当たります。山川選手は最初の2回をファウルしましたが、あとがない状態で臨んだ3回目で7m82(+0.2)とマークしてトップに立つと、優勝が決まった最終跳躍で7m87(-0.2)に記録を伸ばしての勝利となりました。しかし、「8m25の日本記録を狙っていた。調子自体はすごくよかったので、この風でも跳びたかったのだが…」と、やはり結果には不満が残った様子。水戸招待でセカンドベストの8m04(+0.8)をマークしていますが、実はこの跳躍は踏切板に乗らずにマークした記録だったため、「“あとプラス20~30cm”と考えて、この試合に挑んでいた」からです。山川選手の自己記録は大学4年時の2017年日本インカレでマークした8m06ですが、これを更新できる状態は整っているとのこと。「勝ったほうが日本で一番になれる。日本選手権ではしっかりと橋岡と勝負したい」と、強い意欲を見せていました。 

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト

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