第103回日本選手権最終日は6月30日、福岡・博多の森陸上競技場において行われました。12時15分から競技開始となったこの日は、実施されたトラック7種目、フィールド5種目すべてが決勝のみという日程。九州地方に梅雨前線が停滞しているために、この日も、雲が低く垂れ込め、時折強く降る悪条件下での競技となりましたが、各種目で熱戦が繰り広げられました。
日本新記録、さらには日本人初の19秒台突入の期待もあった男子200mは、大会最終種目として行われました。雨のなか、1.3mもの向かい風が吹く悪条件となったこともあり、残念ながら新記録のアナウンスはなりませんでしたが、男子100mを制したサニブラウン・アブデルハキーム選手(フロリダ大学)が圧巻の強さを披露。20秒35でフィニッシュして、2017年に続きショートスプリント2冠を達成し、前回のロンドン世界選手権に続いて、100m・200mの2種目で世界選手権への出場を確定させました。2位で続いたのは、100mで3位だった小池祐貴選手(住友電工・大阪)。ドーハ世界選手権参加標準記録(20秒40)の突破が見える位置でのフィニッシュでしたが、記録は20秒48で残念ながらわずかに届かず。3位には、100m2位で、すでにこの種目でも世界選手権参加標準記録を突破している桐生祥秀選手(住友生命・東京)が20秒54でフィニッシュしました。
ハイレベルかつ熾烈な激戦が展開されたのは、男子110mH。雨脚が強まり、0.6mの向かい風となる悪条件下となったにもかかわらず、前日の予選・準決勝で飛び抜けたパフォーマンスを見せていた泉谷駿介選手(順天堂大・神奈川)と高山峻野選手(ゼンリン・東京)が歴史的な名勝負を繰り広げました。
レースは、前半から飛び出して高いスピードを維持したまま逃げきる展開を持ち味とする泉谷駿介選手(順天堂大・神奈川)が、1台目からリードを奪う得意のスタートを見せましたが、後半の猛追が強みの高山峻野選手(ゼンリン・東京)が3台目あたりで早くも泉谷選手に並びかけ、その後は激しく競り合いながらハードルを越えていく展開に。中盤で泉谷選手がやや前に出たかと思われましたが、第9・第10ハードルはわずかに高山選手がリード。両者は最後の14.02mを激しく競り合いながらフィニッシュラインに飛び込みました。発表された記録は、ともに日本タイ記録となる13秒36でしたが、高山選手が13秒354、泉谷選手は13秒356で、0.002秒の着差あり。高山選手が3回目の優勝を果たすとともに、世界選手権の代表に内定しました。
この結果、男子110mHの日本記録は、金井大旺選手(ミズノ・福井)、高山選手、そして泉谷選手の3人が13秒36で並ぶことに。6月上旬の布勢スプリントで、すでにこの記録を出している高山選手にとっては、2回目の日本タイ記録となります。
また、惜しくもタイトルは逃しましたが、泉谷選手にとっては、予選でマークした13秒53を大きく更新する自己新記録。日本記録保持者に名を連ねるとともに、2001年に樹立された13秒50(内藤真人)の学生記録、自身の持つU20日本最高記録も大幅に更新。金井選手、高山選手に続く3人目の世界選手権参加標準記録突破者となりました。ちなみに、この記録は、U20における今季世界最高記録。U20世界歴代では4位に位置する好記録です。
男子走幅跳は、4月のアジア選手権において、日本記録に3cmと迫る8m22をマークしてドーハ世界選手権参加標準記録(8m17)を上回り、優勝を果たしたことで、世界選手権代表の座に“ダブルリーチ”がかかった状態となっていた橋岡優輝選手(日本大・東京)が出場しました。1回目から向かい風1.1mのなか7m98の跳躍を見せる滑り出しを見せた橋岡選手は、この段階でトップに立ちましたが、断続的に雨が降り続き、風も追ったり向かったりと回る非常に難しいコンディションに苦しむ形となりました。残念ながら、さらに記録を伸ばしていくことはかないませんでしたが、3連覇を達成するとともに、世界選手権初出場を確定させました。
悪天候となったなか、最終日には、複数の種目で福岡大学、九州共立大学の学生選手が優勝。地元福岡で躍動したことが目を引きました。まず、女子砲丸投では、郡菜々佳選手(九州共立大・大阪)が2回目に16m06をマークして3連覇を達成。この種目では、最終投てきで、チームメイトの髙橋由華選手(九州共立大・新潟)が15m47の自己新記録をプットして2位に浮上し、九州共立大勢による「ワン・ツー」を達成しています。
混戦となった女子走高跳では、1m76が自己記録だった神田菜摘選手(福岡大・広島)が1m65、1m70、1m74をすべて1回でクリアして優勢で勝負を展開すると、8人が挑戦した1m77の自己新記録も1回で成功。続く1m80は越えることができませんでしたが、試技内容の差で初の日本一に輝きました。また、女子200mでも、兒玉芽生選手(福岡大・大分)が向かい風0.4mのなか23秒80の自己新記録で初優勝を飾っています。
自己新記録をマークして優勝を果たした選手は、ほかにもいます。女子800mでは、1500mを制した卜部蘭選手(NTTC)が2016年に出した自己記録を一気に2秒12更新する2分02秒74でフィニッシュして2冠を達成。男子1500mは、残り800mで前に出た戸田雅稀選手(サンベルクス・東京)が3分39秒44で、3年ぶり2回目の選手権獲得者となりました。女子400mHを制したのは、3週間前に行われた日本選手権七種競技で3位に入っている伊藤明子選手(筑波大・東京)。予選でマークした自己記録57秒37をさらに大きく塗り替える57秒09で、日本選手権初優勝を果たしています。
このほか、雨でサークルが滑る難しいコンディションとなった男子砲丸投は、18m85の日本記録を持つ中村太地選手(ミズノ・東京)をはじめとする18mプッターの記録が伸び悩むなか、3回目に17m58をマークした武田歴次選手(日大桜門陸友会)が初優勝。女子三段跳では、前回5cm差に泣いた森本麻里子選手(内田建設AC・東京)が13m10(+0.6)で待望のタイトルを獲得しました。女子5000mは、今季好調の木村友香選手(資生堂・東京)が15分22秒53でフィニッシュ。5月に開催された10000m優勝者で、この種目2連覇中だった鍋島莉奈選手(JP日本郵政G・東京)を抑えて初の日本選手権者になるとともに、世界選手権代表に内定しました。
大会終了後には、男女最優秀選手が発表。男子は、100mを10秒02(大会新記録)、200mは20m秒35で制して2冠を達成したサニブラウン・アブデルハキーム選手が、女子は63m68の大会新記録でやり投を制した北口榛花選手(日本大・北海道)がそれぞれ受賞しました。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
日本新記録、さらには日本人初の19秒台突入の期待もあった男子200mは、大会最終種目として行われました。雨のなか、1.3mもの向かい風が吹く悪条件となったこともあり、残念ながら新記録のアナウンスはなりませんでしたが、男子100mを制したサニブラウン・アブデルハキーム選手(フロリダ大学)が圧巻の強さを披露。20秒35でフィニッシュして、2017年に続きショートスプリント2冠を達成し、前回のロンドン世界選手権に続いて、100m・200mの2種目で世界選手権への出場を確定させました。2位で続いたのは、100mで3位だった小池祐貴選手(住友電工・大阪)。ドーハ世界選手権参加標準記録(20秒40)の突破が見える位置でのフィニッシュでしたが、記録は20秒48で残念ながらわずかに届かず。3位には、100m2位で、すでにこの種目でも世界選手権参加標準記録を突破している桐生祥秀選手(住友生命・東京)が20秒54でフィニッシュしました。
ハイレベルかつ熾烈な激戦が展開されたのは、男子110mH。雨脚が強まり、0.6mの向かい風となる悪条件下となったにもかかわらず、前日の予選・準決勝で飛び抜けたパフォーマンスを見せていた泉谷駿介選手(順天堂大・神奈川)と高山峻野選手(ゼンリン・東京)が歴史的な名勝負を繰り広げました。
レースは、前半から飛び出して高いスピードを維持したまま逃げきる展開を持ち味とする泉谷駿介選手(順天堂大・神奈川)が、1台目からリードを奪う得意のスタートを見せましたが、後半の猛追が強みの高山峻野選手(ゼンリン・東京)が3台目あたりで早くも泉谷選手に並びかけ、その後は激しく競り合いながらハードルを越えていく展開に。中盤で泉谷選手がやや前に出たかと思われましたが、第9・第10ハードルはわずかに高山選手がリード。両者は最後の14.02mを激しく競り合いながらフィニッシュラインに飛び込みました。発表された記録は、ともに日本タイ記録となる13秒36でしたが、高山選手が13秒354、泉谷選手は13秒356で、0.002秒の着差あり。高山選手が3回目の優勝を果たすとともに、世界選手権の代表に内定しました。
この結果、男子110mHの日本記録は、金井大旺選手(ミズノ・福井)、高山選手、そして泉谷選手の3人が13秒36で並ぶことに。6月上旬の布勢スプリントで、すでにこの記録を出している高山選手にとっては、2回目の日本タイ記録となります。
また、惜しくもタイトルは逃しましたが、泉谷選手にとっては、予選でマークした13秒53を大きく更新する自己新記録。日本記録保持者に名を連ねるとともに、2001年に樹立された13秒50(内藤真人)の学生記録、自身の持つU20日本最高記録も大幅に更新。金井選手、高山選手に続く3人目の世界選手権参加標準記録突破者となりました。ちなみに、この記録は、U20における今季世界最高記録。U20世界歴代では4位に位置する好記録です。
男子走幅跳は、4月のアジア選手権において、日本記録に3cmと迫る8m22をマークしてドーハ世界選手権参加標準記録(8m17)を上回り、優勝を果たしたことで、世界選手権代表の座に“ダブルリーチ”がかかった状態となっていた橋岡優輝選手(日本大・東京)が出場しました。1回目から向かい風1.1mのなか7m98の跳躍を見せる滑り出しを見せた橋岡選手は、この段階でトップに立ちましたが、断続的に雨が降り続き、風も追ったり向かったりと回る非常に難しいコンディションに苦しむ形となりました。残念ながら、さらに記録を伸ばしていくことはかないませんでしたが、3連覇を達成するとともに、世界選手権初出場を確定させました。
悪天候となったなか、最終日には、複数の種目で福岡大学、九州共立大学の学生選手が優勝。地元福岡で躍動したことが目を引きました。まず、女子砲丸投では、郡菜々佳選手(九州共立大・大阪)が2回目に16m06をマークして3連覇を達成。この種目では、最終投てきで、チームメイトの髙橋由華選手(九州共立大・新潟)が15m47の自己新記録をプットして2位に浮上し、九州共立大勢による「ワン・ツー」を達成しています。
混戦となった女子走高跳では、1m76が自己記録だった神田菜摘選手(福岡大・広島)が1m65、1m70、1m74をすべて1回でクリアして優勢で勝負を展開すると、8人が挑戦した1m77の自己新記録も1回で成功。続く1m80は越えることができませんでしたが、試技内容の差で初の日本一に輝きました。また、女子200mでも、兒玉芽生選手(福岡大・大分)が向かい風0.4mのなか23秒80の自己新記録で初優勝を飾っています。
自己新記録をマークして優勝を果たした選手は、ほかにもいます。女子800mでは、1500mを制した卜部蘭選手(NTTC)が2016年に出した自己記録を一気に2秒12更新する2分02秒74でフィニッシュして2冠を達成。男子1500mは、残り800mで前に出た戸田雅稀選手(サンベルクス・東京)が3分39秒44で、3年ぶり2回目の選手権獲得者となりました。女子400mHを制したのは、3週間前に行われた日本選手権七種競技で3位に入っている伊藤明子選手(筑波大・東京)。予選でマークした自己記録57秒37をさらに大きく塗り替える57秒09で、日本選手権初優勝を果たしています。
このほか、雨でサークルが滑る難しいコンディションとなった男子砲丸投は、18m85の日本記録を持つ中村太地選手(ミズノ・東京)をはじめとする18mプッターの記録が伸び悩むなか、3回目に17m58をマークした武田歴次選手(日大桜門陸友会)が初優勝。女子三段跳では、前回5cm差に泣いた森本麻里子選手(内田建設AC・東京)が13m10(+0.6)で待望のタイトルを獲得しました。女子5000mは、今季好調の木村友香選手(資生堂・東京)が15分22秒53でフィニッシュ。5月に開催された10000m優勝者で、この種目2連覇中だった鍋島莉奈選手(JP日本郵政G・東京)を抑えて初の日本選手権者になるとともに、世界選手権代表に内定しました。
大会終了後には、男女最優秀選手が発表。男子は、100mを10秒02(大会新記録)、200mは20m秒35で制して2冠を達成したサニブラウン・アブデルハキーム選手が、女子は63m68の大会新記録でやり投を制した北口榛花選手(日本大・北海道)がそれぞれ受賞しました。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)