1月13日、女子リレー新プロジェクトのセレクションが、東京・北区の味の素ナショナルトレーニングセンター陸上トレーニング場において行われました。
このプロジェクトは、2020年東京オリンピック出場権獲得を最大目標として、女子リレー(4×100mR、4×400mR)の特別強化を行うべく、日本陸連強化委員会が昨年11月末に新たに立ち上げたものです。11月29日に記者発表(詳細はこちら https://www.jaaf.or.jp/news/article/12268/ )を行い、翌30日から募集を開始。12月15日には競技者、専任コーチ、関係者に向けて説明会(詳細はこちら http://www.jaaf.or.jp/news/article/12300/ ) を開き、最終的に計48名(延べ53名/4×100mR:32名、4×400mR:21名)から申し込みを受けての実施となりました。
13日は、朝から快晴となり、気温は9℃台ながら、この時期にしては風も弱く、暖かな日差しに恵まれる1日となりました。セレクション実施においては、この日をメインと設定していたため、応募した全競技者のうち42名(延べ44名/4×100mR:26名、4×400m:18名)が参加。集合後、トライアルの手順や留意点、結果発表等についての説明がなされたあと、13時25分から各自でウォーミングアップを開始。4×100mRのための測定として14時30分からトライアルA、15時からトライアルBが、4×400mRのための測定として15時45分からトライアルCが、それぞれ行われました。
各トライアルの実施方法は、以下の通りです。
<4×100mR>
・トライアルA:テイクオーバーゾーン入口から出口までの30m走
→ゾーン入口からスタンディングスタートで30mを走る。
・トライアルB:申請した得意区間(第1走~第4走)を想定した120m走
→エントリーの段階で得意区間を申請。第1走を申請した者はスターティングブロックを使用してクラウチングスタートによる曲走路を主とする120mを、第3[児玉4] 走を申請した者はスタンディングスタートから曲走路を主とする120mを、第2走・第4走を申請した者は、バックストレートのゾーン入り口からの直走路を主とする120mをスタンディングスタートで走る。いずれもピストルの号砲を合図としてスタートする。
<4×400mR>
・トライアルC:350m走
→いくつかの組に分かれて、800mのスタート地点から、スターティングブロックを使用してスタートし、100m地点でレーンをオープンにして、350m地点でフィニッシュする。
トライアルAとBは、疾走順に沿って1分単位でスタート時刻が設定され、参加者は、その時刻に1人で4レーンを走る形で行われました。また、参加者を4組に振り分けて行われたトライアルCも、各組のスタート時刻があらかじめ告げられており、参加者は、当日、抽選によって決まったレーンに入って競う形に。参加者たちは、決められたスタート時間に合わせて、各自でウォーミングアップを実施し、トライアルに臨んでいきました。
なお、すべてのトライアルは、日本陸連科学委員会のスタッフが映像を撮影して測定を担当しました。科学委員会は、終了後、すぐにプロジェクトスタッフから要望された項目の分析に入り、そのデータが、代表候補の選出資料として活用されます。
プロジェクトスタッフは、トライアルにおいて得たこれらのデータ、2018年度の記録および競技実績、そしてセレクション実施状況のスクリーニングをもとに協議を行い、応募者の「リレーの競技力」についてのポテンシャルを総合的に判断し、代表候補を選出します。その結果は、1月16日に、各応募者へ通知するとともに、日本陸連のホームページにおいて発表されることになっています。また、公的な理由等により13日に参加できなかった応募者には、予備日として設定した1月26日に、同様のトライアルが実施されます。セレクションによる代表候補は、その結果をもってすべて出揃うこととなります。
【参加者&プロジェクトリーダーコメント(要旨)】
このトライアルは、メディアにも公開されたなかで実施され、終了後には、4×100mRのセレクションに参加した市川華菜選手(ミズノ)と、プロジェクトのチームリーダーを務める山崎一彦強化委員会T&Fディレクターが、囲み取材に応じました。両氏のコメントは、以下の通りです。
◎市川華菜(ミズノ) ※トライアルA・B(4×100mR)に参加
(女子短距離に対する危機感は)私自身も強く感じていた。こういうセレクションを行うことによって、リレーへの(強い)気持ちを持っている者が参加するのは、いいきっかけになるのではないか。ただし、リレーで(世界で)戦うためには、まずは、それぞれが個人種目で出られるくらいにタイムを上げていくことが必要。私自身も、世界大会にはまだ個人で出場したことがないので、個人種目で出場できるようなタイムを目指すことを一番に考えている。(昨シーズン中に苦しんだ)ケガを完治できたので、冬期練習は去年の10月下旬から始めて、例年よりも2週、3週早める形で進めてきた。リレーのセレクションがあることは11月終わりに聞いたが、その段階では基礎練習を積んでいて、スピード練習はあまり行っていなかったこともあり、へんに変えてしまうと崩れてしまうと思ったので、現状のなかで、できる限りのスピードを上げられるように少し移行するという形で、あまり極端に変えることはせずに準備してきた。練習はきちんと積んできているので、今日は、現状通りの出来かなと思っている。
今後、代表入りした場合、合宿や海外遠征にも行くことになる。当初の計画を変更しなければならない面も出てくるとは思う。しかし、海外の試合にリレーで出場させてもらえて、加えて個人の種目に出る機会もあるのではないかととらえ、それらをうまく活用することが大事だと考えている。来季は、個人種目で200mでの世界選手権出場を狙っている。23秒を切って、22秒台で走りたい。
◎山崎一彦(プロジェクトリーダー/強化委員会T&Fディレクター)
今回のセレクションでは、普段の競技会で得られる記録や成績以外の「見えないところを見たい」という側面と、現段階のトレーニング状況等を把握することを目的としている。また、非常に厳しい状況にある女子短距離において、各競技者自身が「代表になりたいんだ」という強い気概を持って、私たちとともにオリンピックを目指していこうとする状態をつくっていきたいという思いがあった。(実施したトライアルについては)通常の競技会では記録とフォームしか見えないが、今日は、変則的な設定(競技種目にはない距離、1人で走るなど)で走ってもらった。リレーへの適性を見ていくうえで、そのあたりもタイムにも出てくると思う。代表候補選手は、そのタイムと、我々の目から、選考委員のみんなで決めていきたい。
これで第1回のセレクションを終えたわけだが、シーズンオフのこの時期、絶対的な記録を狙うことが難しいなか、各参加者がそれぞれに準備をして臨んでくれていて、どの選手からも、これまでになかった意志や意欲、緊張感というものが強く伝わってきた。オリンピックを目指していくうえでは、さらにもっと強いプレッシャーがかかっていくわけで、そのプレッシャーに負けないことが必要。今回のセレクションで、その準備が一つできたのかなと感じている。
そして、オフシーズンのこの時期に、全国から多くの参加者が集まったことを本当に嬉しく思った。たくさんの選手に、厳しい状況でもオリンピックに向けて戦っていこうという意思があると確認できたことは、一番の明るい希望といえる。また、今回は、高校生もたくさん来てくれたが、こうした若い年代の競技者が「チャンスがあるなら世界を目指す」という気持ちを出す機会というのは、なかなか今まではなかったのではないかと思う。そういう面を確認できたことも、大きな収穫の1つだった。
文:児玉育美/JAAFメディアチーム
写真:フォート・キシモト