▶「女子リレー新プロジェクト説明会 その3」から
【アジア選手権および世界リレーの選考方針について】
太田涼(コーディネーター兼4×100mR強化スタッフ/強化委員会女子リレーコーディネーター)
◎アジア選手権選考方針
1)個人種目については、選考基準に従って選考する
→選考基準は、12月17日に開催される理事会で決定するので、のちに公表されたものを確認してほしい。
2)リレーを考慮し、個人種目は1人1種目とする
→アジア選手権の4×100mR、4×400mR、そして、その後にある世界リレーへのコンディション調整も考慮し、個人種目は1人1種目とする方針でいる。
3)4×100mRは、3月22日に、競技会形式で、メンバー選考のトライアルを実施する
4)リレーメンバーは、選考トライアルの結果や合宿の状況も踏まえて、総合的に判断して選出する
◎世界リレーの選考方針
1)代表候補者の中から、選考基準に従って選考する
→選考基準は、12月17日に開催される理事会で決定するので、のちに公表されたものを確認してほしい。
2)アジア選手権の結果や、国内選考競技会(織田記念陸上、出雲陸上)の結果、およびワイルドカードによって選出された競技者の中から、ベストメンバーでチームを編成する
→チームジャパンの総力を結集し、ベストメンバーで世界リレーには臨む方針でいる。
◎世界リレー代表選考までの過程について
現在から世界リレー代表選考までの過程は、下の概要図に示した通りとなる。
・1月13日もしくは26日のセレクションにおいて、まず公募型の代表候補競技者が決まる。その後、合宿を経て、アジア選手権の代表が決まっていく。
・なお、アジア選手権については、エントリー期日の関係があるため、3月22日までに記録を出していれば、ワイルドカードによって代表候補競技者の中に入り、選考対象とすることができる。しかし、それ以降になった場合はエントリーに間に合わないため、ワイルドカードによる選出のターゲットは世界リレーとなる。
・リレー代表候補競技者となったが、アジア選手権代表から漏れてしまったという状況となった場合は、国内の選考競技会(織田記念、出雲陸上)があるため、そこで結果を出して世界リレー代表入りを目指すというルートもあることを示しておきたい。
◎2020年東京オリンピックリレー出場権獲得ルートおよび数値目標
最後に、2020年東京オリンピックにおけるリレー出場権を獲得するために、具体的にどうすればよいのかを説明させていただく。
東京オリンピック出場権獲得に向けたルートは、次の図に示した通りとなる。
<東京オリンピック出場権獲得の最短ルート>
・東京オリンピックの出場権獲得の最短ルートは、2019年ドーハ世界選手権決勝に進出して上位8チームに入ることである。そのターゲット記録は、前回の世界選手権の決勝ラインが4×100mRは42秒91、4×400mRは3分27秒59なので、日本記録よりもさらに上が求められる状況にある。
・ドーハ世界選手権出場権獲得の最短ルートは、先ほどから説明している通り、世界リレーで上位10チームに入ることとなる。そのための記録の目安は、2018年度の世界リスト10位は、4×100mRは43秒01、4×400mRは3分27秒69となっている。このあたりの記録をターゲットとしてチームの強化を進めていかないと、最短ルートでの出場権獲得は実現できないということになる。
<最短ルートを逃した場合の出場権獲得方法>
・もし、世界リレーで上位10チーム入りを逃した場合:世界リレーで上位10チームが決まってしまうので、ドーハ世界選手権に出場するための残りの枠は6チームとなる。記録の対象となる条件というのがあり、2カ国以上が出場しているレースがその条件。それを満たしているかも踏まえて、出場を計画したのが先ほど信岡、吉田両コーチが示した競技会である。ドーハ世界選手権出場枠を獲得できる残り上位6位チームに入っていくための最低ラインとして、2018年度の世界リスト16位の記録を見ると、4×100mRが43秒63、4×400mRは3分30秒57である。しかし、2018年度の記録はすでに対象としてランキングに入っているので、2019年になるとこの水準はさらに上がっていくことになる。このため、この記録では届かなくなる可能性が高い。
・もし、ドーハ世界選手権で上位8チーム入りを逃した場合:世界選手権で上位8チームが決まるため、残りの枠は8チームとなる。オリンピック出場枠ための記録については、世界選手権に出場するのとではルールが違っている。1つは、世界選手権出場の場合と同じで2カ国以上が出場しているレースであることだが、オリンピックの場合は、これに加えて、もう1つは「各国記録上位2本の合計タイムによる順位」によって決まることになっている。このため、アベレージを上げていくためには、ある程度のレース数が必要となってくる。前回のリオオリンピックにおける記録での8番目の出場ラインは、4×100mRが43秒18、4×400mRは3分29秒20だった。実は、女子の4×400mRは、2015年世界選手権で3分28秒91の日本記録を出したことで、ぎりぎりまで16位を争う位置にいたのだが、最終的に2本目の記録が足りずに最終的に18番目となり出場権を獲得することができなかった。こういう例もあるので、オリンピック出場権を獲得するためには、記録のアベレージを上げていくということが必要となってくる。
こうしたことを踏まえると、チームで力を結集して、チャンスがある試合でどんどん記録を出していかなければならないことを理解していただけると思う。しかし、我々としては、世界リレーが横浜で開催されるという「地の利」を生かしながら、あくまでも最短ルートでの出場権獲得を目指して、強化を進めていきたいと考えている。
【質疑応答】
Q:このプロジェクトの実施を聞いて、まず、現場で感じたのは「冬期のトレーニングが変わる」ということであった。また、これまでの合宿や選考についての反省点を、今後、どのように生かしていこうとしているのか。今回の趣旨に関して、今後、どういう気持ちで構築していこうとしているのかを伺いたい。
瀧谷:今までは、女子短距離という形で強化をしてきた。今回は、プロジェクトとして、リレーに特化しての強化となる。そのなかで、これまでの反省を生かしながら、山崎ディレクターが述べた「再構築」を進めていく。具体的な内容は山崎ディレクターが述べた通りである。
麻場:いろいろな反省を踏まえたうえで、そして、今後の展望を持ったうえでの「再構築」というふうに理解していただきたい。具体的なプロセスについては、信岡コーチ、吉田コーチ、太田コーディネーターから説明させていただいた通りである。それが、今までの反省をもとにした、これからの展望とご理解願いたい。皆さんのお力を借りながら、みんなで協力して、東京オリンピックに向かいたいと思っている。ぜひ、よろしくお願いしたい。
Q:合宿のコンセプトや今後のスケジュールについては理解することができた。加えて、代表候補として選んでいただいたあとは、現場で選手とコミュニケーションをとっている我々専任コーチにも、合宿でやろうとしていることや練習メニュー等を事前に共有してほしい。また、選出されたあとの通知が遅れたりするケースがある。具体的なタイムラインを明確にしてほしい。
太田:1つめの専任コーチと強化スタッフのコミュニケーションについては、説明不足な点があったが、専任コーチの方にも合宿には来ていただくことを準備している。実際に合宿の現場に、専任コーチの方にも来ていただき、強化スタッフと連携を密に取りながら、チームジャパンとして力を結集して、このプロジェクトを進めていきたい。また、セレクションの結果については、応募要項の8項目に、「選考結果の通知」として、1回目(1月13日実施)については、1月16日に、応募の際に登録したメールアドレスに返信する。また、2回目のセレクション予備日(1月26日実施)の結果は、1月30日に発表する。これらは日本陸連のホームページにも掲載することにしている。その後の、合宿等々の派遣文書についても、早めに対応していくべく準備を進めていく。
Q:約16名のメンバー選出ということだったが、これは4×100mRで8名、4×400mRで8名ということなのか、それともすべてをひっくるめての16名なのか。あるいは多少の増減があるのかどうか。これは、ボーダー上にいる競技者からすると非常に気になるところかと思う。
瀧谷:基本的には、4×100mRで2チーム、4×400mRで2チームが組めることを基本に考えて選出したいと考えている。初戦の海外遠征もA・B2チームを出場させる想定でいる。ただし、100mも、200mも、400mも走れるマルチな選手がいる。そうした魅力ある選手との絡みもあるので、例えば16名を選出するに、4×100mR、4×400mRで各8名と分けるわけにはいかないかもしれない。そこは流動的に考えたい。
Q:ワイルドカードの種目について、100mHだけを外しているが、ここは入れなくていいのか。該当する競技者もいると思うので、何かしらの理由があるのなら説明いただきたい。また、ほとんどの種目が入っているので、格段の理由がないのであれば、入っていないのは異質に感じる。チームジャパンで一緒に、というのであれば、加えたほうが望ましいのではないか。
山崎:意図的に外したわけではない。なので、入れたほうがよいという意見であれば、きちんと入れたいと思う。過去にも100mHの選手は、4×100mRにも起用されているので設定するようにする。ワイルドカード選抜までにはまだ時間があるので、セレクションのときまでに提示したい。
【終了後のメディア取材コメント】
この説明会は、メディア公開のもとで実施され、会場には、26名の報道関係者が、その模様を取材しました。
終了後には、山崎ディレクターと、説明会に出席していた元100mH世界選手権代表(2009年ベルリン大会)で、陸上競技への現役復帰を表明したばかりの寺田明日香選手(100mH13秒05=U20日本記録保持者)が囲み取材に応じ、次のようにコメントしました。
◎山崎一彦ディレクターコメント
少し強攻な面もあるが、失敗を恐れても何も始まらないし、時間も本当にない状態。それを踏まえて、選手たちもそうだが、我々もその準備を急ピッチで進めている。まずは、シーズンが始まる直前の3月末のトライアルあたりでいい結果が出るように進めていきたい。
新たに、強化スタッフとして信岡コーチと吉田コーチに入っていただいた。今日、2人の説明を聞いて、入っていただいて本当によかったと思った。2人ともリレーやオリンピック等で活躍した選手で、現在、停滞している女子のリレーに対する思いは、人一倍強く持っているはず。また、単に思いだけでなく、具体的にこうしようということをたくさん持っていて、本当に力強いパートナーができたなと思うし、先輩アスリートとして、若い選手たちにたくさんのメッセージが送れるのではないかと思う。少ない時間で、どれだけそれを発信していけるかが大事になってくると思うので、そこに期待したい。
(4×100mRについては、かなり厳しいという声もあるが)昨年の選手たちのアベレージを見ると、前にオリンピックに出たときと、そんなに大きく変わらない。ただ、みんなの目的や目標がばらばらになっていたことが、うまく行っていなかった一番の理由だと考えている。目標が明確になって、みんなが1つになれば、日本記録更新も目標の達成も、可能だと思っている。
(検証なくして前進はないといった声も出たが)そこで検証した結果が、今回の公募や体制の見直し。そのうえで、検証したことをまずゼロにして、新しく始めていくことが一番の近道と考え、リセットして進めようとしている。手荒ではあるかもしれないが、この形でやるのが最善だと考えている。
公募という形を初めて採用したわけだが、これまでに代表になったことのない人たちも含めて、多くの人たちが「自分も代表になるんだ」という気持ちで、ここに来てくれた。そのこと自体に、すでに公募の意味があったと思っている。競技復帰者も含めてベテランから若い人たちまで、さまざまな人たちが説明会に来てくれたのは、本当に意味のあること。今後に期待しつつ、見守っていきたい。
◎寺田明日香選手コメント
2013年6月、23歳のときに陸上競技から引退し、そのあと結婚・出産。現在、4歳になる娘がいる。また、出産後に早稲田大学へ入り、学生をしながら、子育てをしつつ、マネジメント会社で仕事をさせていただいたりした。その後、2016年の夏から、女子7人制ラグビーを始めて、その年の12月に日本代表のトライアウトを受けて合格し、2017年1月から女子7人制ラグビー日本代表候補生として日本代表に帯同してきて、4月に公式戦デビューを果たした。途中ケガなどもあったが、以来、約2年間、7人制ラグビー選手として活動してきた。
今年、10月の試合を最後に7人制ラグビーからいったん退き、また陸上に戻ってきた。ラグビーをしながらトラックでも練習を始めていて、10月後半からは陸上競技に完全移行した。芝から(全天候型の)トラックに戻ってきたので、その感触の違いに、身体を慣らしている状態である。
陸上を引退して、いろいろな経験をしてきたが、ラグビーに取り組むなかで、1回目の陸上競技選手時代にやらなかったトレーニングや動きなどをいろいろとやったことで、足が速くなって、走りが研ぎ澄まされている感覚が高まってきた。私は身体が細くて、ラグビー選手として身体を大きくすることが難しく、また、早い段階で3週間の入院を伴うケガをしたために、日本代表として大きな試合に出ることができなかった。ラグビーでいただいたものを陸上競技で生かしていきたいという思いと、何よりも、娘にオリンピックで活躍する姿を見せたいという気持ちから、陸上競技に復帰することを決めた。
私は、もともと100mHの選手だったが、高校1年生くらいから女子短距離の強化にも入れていただいて、4×100mRも経験している。(コーチとなった)信岡さんや、(以前、代表コーチを務めていた)石田智子さんがいたときから4×100mRに携わってきているだけに、今日の説明会で、4×100mRがクローズアップされ、陸連として強化の対象にしていただけたことを、すごく嬉しく思った。1人でも多くの選手をオリンピックの舞台で走らせたいと思っていただけるのはとてもありがたいことだし、いろいろな選手にチャンスが与えられることでもあるので、どんどんチャレンジする選手が現れたらいいなと思う。
陸上で復帰するにあたっては、100mHで早い段階で日本記録(13秒00)を更新して、東京オリンピックに出場することを目指している。そのためには、100mも速くなることが必要。私の100mの公認記録は、高校3年生のときに出した11秒71で止まっているので、そこをどれだけ超えていくかが大切。なので、11秒75(という公募の設定記録のクリア)に対しては、自信を持っている。1月13日のセレクションへの参加についても、前向きに取り組んでいきたい。
(文・構成、写真:児玉育美/JAAFメディアチーム)
※本文中の内容は、12月15日に競技者、専任コーチ、関係者に向けて実施した説明会における口頭発表、および質疑応答をまとめたものです。より正確に伝わることを目的として、内容の要約、口語表現の削除等を含めた編集を加えてあります。説明会で配布された資料については、http://www.jaaf.or.jp/news/article/12285/ にてダウンロードのうえ、ご覧ください。
▼女子リレー新プロジェクト概要・資料はこちら
ニュース:【女子リレー】新プロジェクト記者発表概要
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