11月29日、日本陸連強化委員会は、東京・北区の味の素ナショナルトレーニングセンターにおいて記者会見を行い、女子リレー種目の2020年東京オリンピック出場権獲得を最大目標とする特別強化プロジェクトを立ち上げたことを発表しました。
これは、近年、社会全体や国際オリンピック委員会の理念が女子競技者の活躍を切望する傾向にあるなか、陸上競技における女子の日本選手の活躍が非常に難しい状態が続いている現状を、女子リレーを特別強化することによって突破口を開こうとするものです。
記者発表には、麻場一徳強化委員長、山崎一彦トラック&フィールドディレクター、瀧谷賢司女子リレー担当オリンピック強化コーチが出席。プロジェクト立ち上げの趣旨、目標、メンバー、今後の進め方等を説明しました。
以下、その会見の概要をご報告します。
【女子リレー新プロジェクト立ち上げに当たって】
麻場一徳(強化委員長)
東京オリンピックまで2年を切った。私たち強化委員会は、目標として、メダルや入賞の数を1つでも多く獲得することとともに、1人でも多くの競技者をオリンピックの舞台に立たせることを掲げている。後者の目標を達成するためには、オリンピックで5種目((男子4×100mR、男子4×400mR、女子4×100mR、女子4×400mR、男女混合4×400mR)が実施され、日本陸上界にとっては非常に大きな位置づけにあるリレーにおいて、その5種目すべてでトラックに立ち、国民の皆さんに見ていただくことが大切だと考えている。
男子の充実ぶりについてはご存じの通りだが、女子のリレーに関しては、4×100mRは2012年にロンドンオリンピックに出場、4×400mRは2015年に北京世界選手権に出場して日本記録(3分28秒91)をマークしたが、その後、世界大会には出ていない。また、今年のアジア大会は両リレーともにメダルを逃しており、ここ2~3年はと特に低迷が続いている状況にある。前述の目標を達成するためには、そうした状況を打破していかなければならない。
そんななか、結果がオリンピック出場につながっていくIAAF世界リレー選手権(以下、世界リレー)が来年5月に日本(横浜市)で開催されることが決まった。このチャンスをしっかりとものにして、来年の世界リレー、世界選手権、そして2020年東京オリンピックを確実に歩んでいくことを目指すべく、今回、新たなプロジェクトを立ち上げた。詳細については、プロジェクトリーダーを務める山崎一彦トラック&フィールドディレクターから説明させていただく。ぜひ、応援をお願いしたい。
【女子リレー新プロジェクトの概要説明】
山崎一彦(プロジェクトリーダー/強化委員会トラック&フィールドディレクター)
このたび女子リレーを特別強化する新たなプロジェクトを始動することとなった。
強化委員会の至上命題は、まず、2020年東京オリンピックにおけるメダル獲得と入賞となる。そのなかで戦力分析をしたところ、女子の戦力は、オリンピックの出場というところにもまだまだ満たない状態にあるといえる。2020年東京大会では、前回の1964年東京大会のときのような、「開催国枠」というものはない。そのため、私たちは、出場権を自分たちの手で、実力で取らなければならない。
そうした状況のなかで、「とにかく女子が出場していけるようにする。そして、その出場は、東京オリンピック後にもつながっていくことになるはず」という観点から立ち上げたのが、今回の新プロジェクトである。
◎プロジェクト実施の背景・理由
2020年東京オリンピックに向けては、女子選手の参加と活躍が、大会に対して活力を与えるものと期待されている。男子ですでに注目を浴びたり、皆さんの期待を一身に背負ったりしていることでもわかるように、リレーは、象徴的・魅力的な種目であり、達成したときのインパクトやその後の効力も非常に大きい。また、目標到達の可能性は十分にある。これらの点から判断し、女子リレーの特別強化を進め、オリンピック出場の実現を目指すこととした。
これまで、日本の女子リレーは、高い競技力を持つ選手がベテランとなって長く活躍する一方で、それ以外の選手は毎年メンバーが入れ替わっている状態が続いてきた。このため、長期的な視点でリレーとして強化していくことができていないという問題があった。今回、このプロジェクトを始動させることで、従来の形から仕組みを再構築し、もっと連続的に、継続的に、女子競技者の強化育成を図れるようにしていきたい。ここがまず一番のポイント。これによって男子のように「リレーといえば、◎◎選手」といわれるような選手を増やし、さらに各選手が国際的な視野を有した競技者に育っていけるよう貢献することが強化の理念である。
◎プロジェクトメンバー
プロジェクトメンバーとして、私・山崎がリーダーを命じられた。そして、アドバイザーとして、成果を出した男子リレーのノウハウを熟知している苅部俊二さん(強化・情報戦略部リレー戦略担当)に加わっていただいた。
コーチングスタッフには、両リレーを統括するヘッドコーチを、女子リレーオリンピック強化コーチの瀧谷賢司さんが務める。そして、各種目の強化コーチには、新たなメンバーとして、信岡沙希重さん(強化育成部委員)と吉田真希子さん(強化育成部委員)をお迎えした。信岡さんは、自身もナショナルメンバーとして活躍し、近年では指導者として活躍し、今年は日本インカレ100m、日本選手権4×100mRでそれぞれ優勝者を出している。また、400mH、4×400mRの元日本記録保持者でもある吉田さんは世界選手権等の代表経験も豊富。この2人が持つノウハウを投入していきたい。また、長年、リレー種目のコーディネートやコーチとして活躍してこられた太田涼さん(女子リレー強化スタッフ)と、現在、女子ハードルオリンピック強化コーチを務めている前村公彦さんにも参加いただき、4×100mRは信岡さんと太田さんが、4×400mRを吉田さんと前村さんが、それぞれタッグを組む形で進めることとした。
コーディネーターは、太田さんと遠藤俊典さんの2人に務めていただく。遠藤さんは、強化委員会のトラック&フィールドコーディネーター。コーチと兼任する太田さんと遠藤さんの間で内部の連携を図り、遠藤さんが本プロジェクトと強化委員会全体との調整を行っていくことになる。
◎プロジェクトの目標
このプロジェクトの目標は、次の3つ。
1)女子4×100mRおよび4×400mRの2020年東京オリンピック出場権獲得
2)2019年世界リレーおける、2019年ドーハ世界選手権出場兼獲得および両種目での日本記録更新
3)リレー強化と個人強化の相互補完的関係を駆使した女子競技者の強化育成プログラムの構築。
一番の目標は、2020年に開催される東京オリンピックの出場権を獲得すること。そして、この出場権獲得につながっていく各大会で求められる結果を出していくことが達成への道筋となっていく。すなわち、2019年5月に横浜で開催されることが決まった世界リレーへの出場権をまず獲得すること。そして、世界リレーで8位以内に入賞し、2019年9月にドーハで開催される世界選手権の代表権を得ることである。ドーハ世界選手権で8位入賞を果たすと東京オリンピックの出場権を獲得できるが、その実現のためには、まずは両種目の日本記録(4×100mR:43秒39、4×400mR:3分28秒91)を更新することも必須となってくる。
そして、もう1つの目標は、上記の過程を踏むことで、リレーとして強化を進めていくなかで個人の強化もできていくような形の女子競技者の強化育成プログラムを構築するということ。このプロジェクトでは、まずは個人というよりも、日本代表チームとしてリレーで日本記録をつくるところに、焦点を置きたいと思っている。リレーの場合、個々の持ち記録がそれなりにあったとしても、その力がうまく合わさらないと結果にはつながってこない。5月の世界リレーまでの期間は短いが、まずは力を結集して、スタートを切りたい。
◎リレー代表候補者の選出方法
このプロジェクトでは、リレー代表候補者を選出するために、2つの方法を予定している。1つは、公募型の選抜システム。これまでは、選手は受け身の立場で、こちらが選んだ人たちが合宿に参加するという形だったが、逆に、自らの意思で挑んでいただき、そのなかで我々が候補選手を選抜するというもの。基準を設定して、公募をかけ、セレクションを行う。
もう1つは、ワイルドカードによる選抜。公募でのセレクション後、強化を図っていくが、シーズンに入ると力をつけてくる選手も出てくるので、そうした選手を、ワイルドカードという形で、ある一定の記録水準に達した選手を代表候補として選抜する。この2本立てで行く。
1)公募型選抜システム:「プロジェクトの趣旨を理解し、リレーの代表としてオリンピックを目指すことを2020年まで最大目標とする女子競技者」を第1公募資格としたうえで、リレーでの競技力を総合的に判断するためのセレクションを行う。
2)ワイルドカードシステム:2019年3月から2019世界リレーエントリー期日までに、本プロジェクトが設定した記録水準に到達したものを候補選手として選抜する。
◎プロジェクトで期待される成果・効果
このプロジェクトを展開することによって期待できる成果と効果は、以下の5つとなる。
1)重要国際大会に向けて十分な準備期間を設けたリレー強化チームビルディング
2)選抜の客観化、明確化、透明化
3)リレーにおける競技力の適性診断
4)女子リレーの強化に対する選手、指導者、医科学サポートの一体化
5)連続的、継続的に高い競技力を示す女子短距離競技者および国際的な視野を有する競技者の輩出
◎今後の日程
まず、明日11月30日に、公募のリリースを行う。そして、12月15日に競技者や専任コーチ、関係者に向けて、プロジェクトの趣旨やセレクションの概要を説明する会を行う。セレクションの仕方や具体的な、方針も含めて、その場で具体的な話をする。
セレクションは2回行う。まずは1月13日に実施し、第2回は1月26日に開催する。合宿等もその辺りから始まることになるが、そのセレクションを経て、1~3月にリレー強化合宿、海外遠征を実施していく計画を立てている。とにかく選手たちと私たちコーチ、スタッフが一つになって、目標を具体的に持って進めていきたい。
【質疑応答(抜粋)】
Q:女子短距離が、近年低迷してきた原因を、陸連としてはどう捉え、どう改善しようとしているか?麻場:先ほど今回の趣旨の1つとして「継続して強化ができるチームづくり」を挙げた。逆に言うと、そうした継続メンバーがなかなか出てこなかったところに原因があるとみている。4×100mRでいえば、福島さん(千里、セイコー)や市川さん(華菜、ミズノ)のように、ずっとメンバーに入っている選手もいるのだが、それに続く選手が出てこないことが、一番大きい要因であったと思う。なので、継続性をしっかりと持たせるためにも、ナショナルチームを編成してまずは東京オリンピック出場を目指す。そして、その過程で1つのプロセスを確立し、東京オリンピック以降にも継続していけることを目指したい。
Q:プロジェクトのなかで、セレクションのメンバーの枠はどのくらいを想定しているか?
瀧谷:セクションの要項は、明日(11月30日)リリースするが、だいたい16名を想定している。今までは、いろいろな理由があって少数で強化していく形だったが、若い力も入れながら、熟練の選手も入れながら、公募したい。
Q:トップレベルの選手が故障で伸び悩んだり、記録を落としたりする例が目についた。故障に関してどう把握して、何か対策を講じているのか?
山崎:まず、基本的に陸上競技の短距離は、ほかの競技に比べると比較的故障が多い種目といえる。そうしたなかで、いわゆるエースといわれる選手たちは、年齢的にもケガをしやすくなってきている。今回のアジア大会でもそうだったが、我々しては無理をさせないということをやってきた。あとは、JISS(国立科学スポーツセンター)や日本陸連の医科学委員会とも密な連携をとっている。その背景には、先ほども述べたように継続的・連続的に強化を進められなかったこと、または継続してメンバーに入るような選手がいなかったということもあると思う。近年においては、特に福島さんに頼りきりになっていた。今回の趣旨としても、また、リレーのバトンにしても、男子のようにメンバーがある程度決まっていたり、そしてそのあとに厚みが出たりというところが理想形。そこを目指してやっていきたい。それができれば、女子も入賞は可能とみている。
Q:セレクションは、具体的にどのようなことを行うのか?
瀧谷:セレクションは過去の実績も踏まえつつ、1月13日、1月26日の2回行う。具体的な内容については、12月15日の説明会で示すが、4×100mR、4×400mRともに、それぞれに求められるタイムトライアル数種目を行い、それによる総合判断を考えている。
Q:セレクションの会場はNTCか? タイムトライアルというのは、4×100mRはショートスプリント系の数種目、4×400mRはロングスプリント系の数種目をやるということか?
瀧谷:NTCで実施する。また、具体的な距離等は説明会で公表するが、そういう内容を想定している。
山崎:詳細は、明日公表するが、そのうちセレクションの応募資格についてご紹介する。
応募資格は、以下の3点。
1)本プロジェクトの理念・趣旨を理解し、リレーの日本代表として東京オリンピックを目指すことを最大の目標とする競技者、
2)2018年度に、100m11秒75、200m24秒25、400m54秒80の、いずれかの記録に達している選手、もしくは、それに相当すると判断する女子競技者であること、
3)選出された場合に、ナショナルチームでの強化活動を優先し、参加できる競技者であること(ただし、学生の学業については配慮する)。
もちろん、選抜されても、そのまま全員が出られるわけではないので競争ということになるが、その競争をチームとしてやっていくことが狙いとなる。
Q:男子は、個々に強化する策がとられているが、なぜ女子は、こうした策をとることにしたのか?
瀧谷:これまで女子は、ある程度の記録を出した選手を選抜する形できたわけだが、結果的には福島さんのあとに続く選手が出てこなかった。高校生などにも素材のいい選手はたくさんいるのだが、その後、なかなか育っていかない現状がある。4×400mRのほうも千葉さん(麻美、400m日本記録保持者)を超えるような選手が出ていない。こういうやり方で厳しい状況になってしまったということから、今回、陸連にバックアップしてもらって、若い力も熟練の選手も一緒に1つのチームとなって、海外遠征や合宿を継続的にやっていくことが、女子が強くなっていく道ではないかと思って、今回のプロジェクトを立ち上げた。
Q:すでに冬期の計画を立てて、取り組んでいる選手がほとんどでは? それらをいったん白紙にして、強化合宿や海外遠征に来てもらえる選手でないとナショナルチームには入れないということか?
麻場:趣旨に賛同して、計画を変更してでも参加したいと言ってくれる人には、ぜひ来ていただきたい。それが公募型選抜システムに応じてくれる選手たちだと思う。しかし、そうでないとリレーに出さないと言っているわけではない。それが2番目のワイルドカードシステム。シーズンに入って、ある水準のパフォーマンスを出した選手にはリレーチームに招聘し、メンバーの一員としてやっていただく。そういった両面からやっていこうと思っている。
いずれにしても、広く、意思のある選手に来ていただいて、みんなでリレーを盛り上げていこうというのが趣旨。これまでは、我々のほうで選抜して、そして、だんだん人数を少なくして最後に4人が走るという形だったが、今回は、チームとしての間口を広げ、意思と能力のある方に自ら参加していただこうという点が、一番の大きな違いだと思う。
Q:陸連側の公募をすることの一番のメリットは何か?
麻場:「我々が選ぶのではなく、(ナショナルチームのメンバーになることを)選手が選ぶ」というイメージ。これまでだと、例えば8人の強化選手がいたとしたら、その8人以外の人たちが選抜される対象となる可能性はかなり低かった。そうではなくて、「自分も強化の対象であってもいいじゃないか」ということをアピールしたり、自らの意思で参加を志望したりすることが可能となる。山崎ディレクターが述べた通り、一定の基準があるので、「誰でも」というわけにはいかないが、それなりの意思と能力がある方なら「チャンスは自分にもある」と思ってもらえるのでないか。それは、今の日本のスポーツ界において、大切なことだと思っている。
Q:候補に挙がってくる選手には、おそらく高校生もいると思う。インターハイ路線との兼ね合いなど、高体連との連携はできているか?
麻場:その点は、このプロジェクトを立ち上げるにあたり、強化委員会のなかでも議論した。当然、女子の短距離の場合は、高校生、場合によっては中学生も対象になってくる。そういうこともあって、強化育成部との連携を図っていこうと話している。今回、プロジェクトチームのコーチとして新たに参加していただく信岡さんと吉田さんは強化育成部のコーチも兼ねている。そのへんは連携を密にとりながらやっていく。
Q:公募対象となる選手の年齢は考えているのか? また、陸上競技以外のスポーツに取り組んでいる競技者からの申し込みも受けつけるのか?
山崎:年齢は、オリンピックの規定に対応させることになる。また、私たちとしては、公募して「意思のある人たち、強い思いを持った人」を募りたい。そうした意思を私たちと共有できて、一緒に頑張れる人であることが一番の条件。もし、陸上競技以外の他のスポーツから、それ相当の人が来てくれるのであれば、とても嬉しい。
Q:福島選手、市川選手、世古選手(和、クレイン)あたりは、ワイルドカードのほうで対象に入ると思うが、そうなると、公募型選抜は空洞化するのではないか?
山崎:ワイルドカードの記録設定は、まだしていない。先ほど申し上げた11秒75、24秒25、54秒80は、公募基準の目安。ワイルドカードのほうは、それ相応のものになってくる。もし、公募に応じず、リレーの意思があるということであれば、ワイルドカードの記録が目安となってくる。
Q:ワイルドカードの記録は、いつアナウンスされる?
山崎:12月15日の説明会で、アナウンスさせていただくことになる。
Q:例えば、ケガをしていて、間に合うかどうかというような状況にある選手は選ぶのか。
瀧谷:総合的な判断を行う。今、故障しているというケースもあり得ると思うが、我々は、このレベルに入ってくる選手であれば、普段から競技は見ているし、観察もしている。それも含めての判断になる。「日本の短距離をどうにかしよう」「リレーのチームをどうにかしよう」という心意気のある選手を臨みたい。公募にするという理由は、志願して、セクションを受けて、その結果、日本代表になるという意識のある者を増やしていこうという目的もある。今までは、我々が実績を見て選んでいたが、今度は自分から挑戦していけるわけなので、その心意気を感じとりたいと思っている。
Q:東京オリンピック出場も見据えるとなると、どのくらいのタイムを両リレーで出していかなければならないと考えているか?
瀧谷:4×100mRに関しては、日本記録(43秒39)を出しても厳しい状態。43秒を切る力がないと、ベスト16に入るのは厳しいと思っている。4×400mRに関しては、3分26秒を切るタイムを出さないと、ベスト16には入れないと思う。そこが目標設定になると思う。
Q:そうした場合に、個人に求められるタイムもある程度走力を上げていかなければならないはず。どのくらいのレベルの選手が必要になると考えるか?
瀧谷:100mは11秒4前半をコンスタントに走れる選手。400mに関しては52秒前半で走れる選手を4人揃える必要がある。
Q:プロジェクトの期間は? 選手の入れ替えは行うのか?
麻場:今回選ばれた選手は、プロジェクトメンバーとして、少なくとも来シーズンまでは、プラスはあってもマイナスはない。当然シーズンが変われば、そこで入れ替えはあると思う。また、選ばれたメンバーで、もしケガなど不測の事態がシーズン中にあった場合は、入れ替えることもあるだろうと想定している。期間は、まずは東京(2020年)まで。ただ、この体制が東京オリンピック以降のリレーの強化の仕方になるようであれば続けるし、そうでなければ変えていく。男子についても強化の方法は変化している。2年後の状況の変化というか進化については、そのときになって検討されることになる。
Q:公募型の代表選考は、ほかの種目も含めて過去にあったか?
麻場:私が知る限り、公募型は今回が初めてだと思う。男子の強化については、2000年から2004年にかけては、いわゆるナショナルチームを組んで進めていて、特に、2004年アテネオリンピックの前は、ナショナルチームとして活発に動いていた。そこからだんだん個人の能力が高まり、北京オリンピックのメダルを経て、その先に行くために個々の能力を高めなければいけないということで、現状に至った。このように、スタイルは少しずつ変わってきている。
Q:総合的に判断するということだが、セレクションに当たっては、走力だけでなくチーム力を高めるための年齢構成やバランスなども加味する?
山崎:もちろんそうなってくる。例えば、世界選手権やオリンピックの選考要項などにも、必ず「リレーの特性をよく見極める」ということを入れてある。男子もそうだが、リレーの特性を加味して選ぶこと、そこが総合的ということになる。リレーの場合、チームワークを重んじて、選手として献身的に自分の与えられたパートを走る、役割を全うするということも非常に大切。陸上競技はほとんどが個人競技だが、リレーにおいて、個々が「チームで戦う」という意思があるかどうかが、バトンのほんの少しのタイム短縮につながっていくことは男子で実証済みである。バトンパスの精度、チームワーク、自分の意思などを、我々コーチングスタッフと共有できて一緒に戦えるようになることを、女子でもやりたい。厳しい状況にあるが、まずは日本記録を上回る記録を出して来年の世界リレーで世界選手権の出場権を獲得し、オリンピック出場につなげていくという強い意思が大切。そのための総合的なセレクションを行っていく。
Q:ワイルドカード選抜について、言える範囲でどのくらいを想定しているかということと、ナショナルチームから国際大会の代表を選ぶにあたって、公募型選抜で選ばれた者とワイルドカード選抜で入った者との間に、優位性の有無はあるのか?
麻場:ワイルドカードの基準は、先ほど申し上げたように、正式には12月15日の説明会で発表する。だいたいの目安としては、先ほど瀧谷コーチが、(目標とする記録を出していくためには)100mでこれくらいのタイムで4人必要、400mはこのくらいのタイムで4人必要であると申し上げた。そのくらいの記録でないと、入っていただく意味がなくなってしまうので、そのあたりの記録と見当をつけていただければと思う。また、優位性については、同じプロジェクトのチームの一員になるわけなので立場は同じ。どちらで選ばれたからということでの優先順位はない。
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この記者発表が行われた翌日の11月30日には、女子代表候補競技者公募要項がリリースされ、セレクションに向けての日程、応募資格、応募方法、エントリー先等を公開しています。12月15日に実施するプロジェクト趣旨・セレクション概要説明会参加の応募期限は12月10日です。
詳しくは、【女子リレー新プロジェクト】女子代表候補競技者公募要項 をご参照ください。
(文・構成、写真:児玉育美/JAAFメディアチーム)
※本文中の内容は、11月30日の新プロジェクト説明会における口頭発表、および質疑応答をまとめたものです。より正確に伝わることを目的として、掲載順序の変更、口語表現の削除等を含め、編集を加えてあります。