2018.12.21(金)委員会

【女子リレー】新プロジェクト説明会 その1




2020年東京オリンピック
出場権獲得を最大目標とする女子リレーの特別強化プロジェクトを立ち上げた日本陸連強化委員会は、12月15日、東京都内において、参加を希望・検討している女子競技者およびその専任コーチ、関係スタッフに向けた説明会を行いました。


説明会には、麻場一徳強化委員長のほか、本件のプロジェクトリーダーを務める山崎一彦T&Fディレクターをはじめとするプロジェクトメンバー全氏が出席。麻場強化委員長の挨拶ののちに、プロジェクトの趣旨、スタッフの紹介、セレクションの概要および評価方法、強化方針および今後のスケジュール、選考方針等を、各担当者が詳細に説明していきました。

会合には、11月29日の記者発表(詳細は ニュース:【女子リレー】新プロジェクト記者発表概要 をご覧ください)を経て、翌11月30日から開始した募集に申し込みのあった競技者、専任コーチ、関係者ら46名が参加。それぞれに神妙な面持ちで、各担当者からの説明に聞き入っていました。

以下、説明の要旨および会場で行われた質疑応答の模様を、ご報告します。


【あいさつ】
麻場一徳(強化委員長)

東京オリンピックを1年半後に向けて、我々日本陸連強化委員会では、メダルや入賞を1つでも多く獲得することを目標に掲げているが、それと同時に、“東京”の舞台に、1人でも多くのアスリートを送り込み、オリンピックを、そして陸上競技を盛り上げていくことも目指しており、そのために、女子のリレーがその舞台に立つことは必須と考えている。

そんな折に、我々にチャンスが巡ってきた。それは来年5月にIAAF世界リレー選手権(以下、世界リレー)が日本(横浜市)で開催されることである。出場権は得ているので、このチャンスを是が非でも物にしたいと、このプロジェクトを立ち上げた。女子リレーの強化は、これまで必ずしもうまく行っているというわけではなかったが、これを機にいったんリセットし、一からやり直していこうというのが、このプロジェクトの大きな趣旨。我々強化のスタッフだけでなく、もちろん競技者だけでもなく、指導者、そしてかかわる人たちみんなの力を結集して東京オリンピックに向かいたい。そのためにも、来年開催されるアジア選手権(ドーハ)、世界リレー、世界選手権(ドーハ)の各大会へ、どのように臨んでいけるかがとても大切になってくる。

プロジェクトの趣旨や方法については、このあと山崎プロジェクトリーダーや担当コーチから説明する。ぜひ、この取り組みに賛同いただき、みんなで東京に向かっていけるようお願いしたい。





<第1部>

【プロジェクト趣旨説明およびスタッフの紹介】
山崎一彦(プロジェクトリーダー/強化委員会T&Fディレクター)

◎はじめに
2020年に東京オリンピックを迎えるにあたって、「メダルを取る、入賞する」ことを目指したところでの強化は着々と進んでおり、これから仕上げに向かっていこうとしている。そのなかで女子の状況を考えると、このままでは出場できる競技者自体が本当に少なくなってしまうという状態にある。これを少しでもなんとかしようということで、まずは、女子リレーで代表権を勝ち取って東京オリンピックという舞台に立つことを目指すことにした。

(セレクションに参加いただく)皆さんに、まず頭に入れておいてほしいのは、現段階で女子のリレーは、強化という基準での評価はゼロであるということ。つまり、強化するに足る対象として、どこからも応援してもらえないし、強化資金も出ない状態である。そのなかからスタートするのだということを受け止めたうえで、取り組んでいきたい。

◎女子短距離および両リレーの現状
いきなり厳しい話になるが、まずは現状を把握する必要がある。ここでは、日本の女子短距離やリレーが、世界で戦えるレベルであるかどうかを見ていきたい。100mおよび400mにおいて、2018年シーズンの日本リスト6位(リレーメンバーは最大6人という視点で)までの競技者の記録をポイント換算し、ワールドランキングでの順位で見ていくと、1カ国上位3名まで(世界大会出場は各国3人が上限のため)のランキングで見たとしても、各人のランキングは2ケタというよりは3ケタに近い順位となる(100mの最高位が70位、400mは91位)。その一方で、東京オリンピック出場枠内とされているターゲットナンバーは、100mは「56」、400mは「48」。出場するためには、現状から倍速で順位を上げていかなければならないということが理解できると思う。

これが現状で、ここからのスタートとなる。このため、個人で何をするかというよりも、まずはみんなの力を合わせてリレーでとにかく出場権を取っていこうと考えた。また、これは、皆さんが東京オリンピックのトラックに立つための一番の近道でもあると考えている。

同様に、2018年シーズンの記録で、日本の女子リレーの現状を見ていきたい。

東京オリンピックに出るためにはランキングで16位に入っていなかければならない。その東京オリンピック出場は、世界選手権で8位以内となれば自動的に獲得することができる。また、その世界選手権の出場権は、世界リレーで10位に入ると得ることができる。そこで、私たちがまず目標とするのは、世界リレーでなんとか10位以内に入ろうということ。これを達成して、世界選手権に出場することが最初の目標となる。

そのために求められる記録の目安はどのくらいか。2018年の世界リストでみると、10位に相当するのは4×100mRは43秒06。日本記録(43秒39)を上回っていかなければならない。また、そのタイムを出していくためには、個人の100m記録も、11秒4を切ってくるくらいの選手が4人揃わないと厳しいということがわかる。まず目指すのは世界リレーで10位、あるいは決勝に残るということになる。

日本のバトンワークやチームワークが世界でも見劣りしないことは、男子で証明されているが、女子の場合は、今のところ、そのバトンワークが世界大会ではうまく行っていない。まずは、このバトンワークの精度を高めて、チームとしての力をうまく出せるようにしていきたい。

また、4×400mRの現状を見ても、2018年度の世界リストは32位。順位を大きく上げる必要がある。記録的には、10位のラインを目指そうとすると3分27秒台が必要になる。ただし、今年は世界大会がなく、アジア大会などのエリアチャンピオンシップでの結果となっているので、記録自体の水準が低くなっている可能性がある。世界選手権やオリンピックイヤーになると、もっとレベルが高くなる可能性があるということ。このために、3分27秒を切っていくようなところがまず目標となり、それを5月の世界リレーで出していく必要があるということである。

◎強化の理念とキーワード
一番の目標は、私たちがオリンピッ出場権を獲得することが目標。そのための理念として、「リレーチームの活躍は、日本女子短距離の競技力の水準を向上させ、連続的・継続的な競技者の強化育成および国際的な視野を有する競技者の育成に寄与する」を掲げたい。

ここでは、「連続的・継続的」ということが重要になってくる。現状は、何人かの競技者はいつも代表になっているものの、大半の競技者が毎年入れ替わっている状態である。これを、まずは複数年で活躍できるような競技者が多く出るようになるにしていくことを目指す。このため、今回のプロジェクト実施やセレクションにおいて、「複数年で活躍できるようになるという強い意志を持った人たち、日本代表としての誇りを持っている人たちに協力してもらいたい」ということを、我々の共通理解としたい。

まさに、「一からのスタート」ということで、プロジェクトのキーワードは「再構築(Rebuilding)」とした。

その再構築は、どのようにしていけばいいか。具体的な方針・戦略は、次の通りとなる。

◎「再構築」のための方針・戦略
・その1:リレー種目での東京オリンピック出場権獲得に対するモチベーションとマインドセットの再構築
→「東京オリンピック出場権を獲得する」の実現に向けて、チームとして全員の気持ちを1つにしていく。

 ・その2:リレー能力(リレーに特化した技能、リレーでの実力発揮)の再構築
→個々の走力を高めると同時に、バトンパスワークやチームワークなどリレーに特化した技能を身につける。また、海外遠征でのテストマッチや100m、200m、400mそれぞれを得意とする競技者の総力戦として、4×100mRも4×400mRもさまざまな選手が出られるような状態にしていく。

・その3:チームスタッフの配置と役割の再構築
→アドバイザーとして、メダルを獲得した男子リレーで強化の陣を取った苅部俊二さんを、さらに競技者として長年の代表経験を持ち、現在指導者として活躍する信岡沙希重さん、吉田真希子さんをコーチに起用したほか、下記のスタッフでプロジェクトを推進していく。
・プロジェクトリーダー:山崎一彦(強化委員会T&F ディレクター)
・アドバイザー(リレー戦略):苅部俊二(強化委員会強化・情報戦略部<リレー戦略担当>)
・ヘッドコーチ(両リレー統括):瀧谷賢司(強化委員会女子リレーオリンピック強化コーチ)
・強化スタッフ(4×100mR担当):信岡沙希重(強化委員会強化育成部委員)、太田涼(強化委員会女子リレーコーディネーター兼務)、
・強化スタッフ(4×400mR担当):吉田真希子(強化委員会強化育成部委員)、前村公彦(強化委員会女子ハードルオリンピック強化コーチ兼務)
・コ―ディネーター:太田涼 (強化委員会女子リレーコーディネーター)、遠藤俊典(強化委員会T&F コーディネーター)
・科学スタッフ:渡辺圭佑(科学委員会委員)

・その4:リレーの日本代表選手としての誇りとつながり、代表コーチと専任コーチとをつなぐコミュニティの再構築
→チームとして1つになるためには、情報共有、協力や互いへの理解が不可欠となる。これまで以上に各競技者の専任コーチと代表コーチとのコミュニケーションを密にとっていく。また、「(陸連や強化に)何かをしてもらう」ではなく、「自分たちが日本代表として何ができるか」を考えて行動できるような流れをつくっていく。

・その5:医科学を最大限活用した強化・コーチングスタイルの再構築
→「ただただ頑張れ」ではなく、「頑張る根拠」に基づいた強化ができるよう、対象となる競技者個々の評価、科学的なサポートを行う。また、数値を出したりフィードバックを行ったりするなかで、各競技者が「個」として確立し、「自分に必要なものが何か」をディスカッションできるレベルになるまで引き上げていく。

・その6:タレントプール(若い競技者と実力ある競技者)の競争意識を再構築
→今回、フラットからのスタートということでまずは公募として、セレクションを実施してメンバーを選出することにした。また、これと並行して、ワイルドカードという形で、記録的な目標をクリアすることでチームに入っていただく方法との2つを用意した。詳細はあとで説明するが、そのどちらかを選んでもらうなかで、各人の競争意識を高めていく。

・その7:女子競技者の継続的・持続的なタレント育成システムを再構築
→このプロジェクトによって、①複数年にわたって活躍できる女子競技者を育てていく、②連続的にタレントが育成される環境や指導法を確立させていく、③国際的視野を有する女子競技者を育てていく、ことを目指す。






◎プロジェクトの目標

1)リレーチームジャパンを再構築し、女子4×100mRおよび4×400mRの2020年東京オリンピック出場権を獲得する。
→チームジャパンでの強化を進め、両リレーでの東京オリンピック出場権獲得を目指す。

2)横浜2019 世界リレーにおいて、ドーハ2019世界選手権出場権獲得と各リレー種目の日本記録を更新する。
→1)の実現のために、上記各大会での目標をクリアするとともに、まずは日本記録を更新していく。

3)リレー強化と個人強化の相互補完的関係を駆使した女子短距離競技者の育成システムを再構築し、ポスト2020における女子リレーの強化ならびに女子スプリンターの強化育成を持続可能なものにする。
→上記の2つを実現させていくなかで、「個」の力が高まり、その相乗効果によって、個人種目でも出場権が獲得できる競技者が増えていくことを目指す。


◎本プロジェクトによって期待される成果・効果

プロジェクトを進めることによって期待される成果・効果は以下の通りとなる。
1)重要国際大会に向けて十分な準備期間を設けたリレー強化、チームビルディング
2)リレー候補者選抜方法の客観化・明確化・透明化
3)リレーにおける競技力の適性診断
4)女子リレーの強化に対する選手・コーチ・医科学サポートの一体化
5)連続的・継続的に高い競技力を示す女子短距離競技者および国際的な視野を有する競技者の輩出
特に、2)の「客観化・明確化・透明化」は、きちんとはっきりさせたうえで選抜していきたい。また、3)の「適性診断」については、私たちを信頼していただき、しっかり見極めていきたいと思っている。あとは、1)の部分。チームビルディングをきちんとして、重要大会に向けてみんなの力を1つに合わせて準備していくというところを目指す。


◎2020年東京オリンピックへのロードマップ
目標達成に向けて描きたい大まかなロードマップは、まずは、世界リレーでの決勝進出、そしてドーハ世界選手権での決勝進出というもの。これが実現できれば、東京オリンピック本番でのファイナル進出も見えてくると思う。現段階では、「超飛躍」といえる状態だが、それができるように進めていきたい。


◎プロジェクトのモットーは「風姿花伝」
「風姿花伝」というのは、能を大成した世阿弥が残した伝書だが、そのなかで「初心忘るべからず」という言葉がある。一般的には、「始めたときの最初の気持ちを忘れない」というような意味合いで使われることも多いが、本当は、初心のころの何もできない状態、もどかしい気持ち、歯がゆい気持ちを持った状態を指す。それは、まさに今、皆さんが持っているものだと思う。そういう気持ちでいる「初心」を忘れないでいてほしい。また、皆さんは、これまでにも無用な失敗だったり挫折感を味わってきたりしてきていると思う。それを乗り越えるために重ねた努力を忘れないでほしい。また、ここには、高校生から経験を重ねてきた人たちまでがいる。その人たちが一緒になって、これから戦っていく。そのなかで、「歳を重ね経験を積むとともに、刻々と味わう競技の難しさ」を忘れないでほしい。

リレーという種目で同じ目標を目指して、みんなで時間と空間を共有していくのは幸せなこと。これから厳しい戦い、厳しいトレーニングが待っているが、そういう幸せをみんなで共有していければと思う。


「女子リレー新プロジェクト説明会 その2」に続く



(文・構成、写真:児玉育美/JAAFメディアチーム)


▼女子リレー新プロジェクト概要・資料はこちら
ニュース:【女子リレー】新プロジェクト記者発表概要

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