2018.05.15(火)選手

【桐生祥秀選手参戦!IAAF DL上海 大会レポート&コメント】「このメンバーで落ち着いて走れた」ことは大きな収穫

国際陸連(IAAF)が主催するダイヤモンドリーグの第2戦が5月12日、中国・上海市の上海体育場で開催されました。

実施されたのは、ダイヤモンドレース非対象種目(男子5000m、女子3000mSC)を含む全16種目。男子1500m、男子5000m、男子110mH、男子走幅跳、女子3000mSC、女子走高跳、女子三段跳、女子砲丸投の8種目で今季世界最高記録(男子110mHはタイ記録)がアナウンスされたほか、5種目で大会新記録が誕生しました。

最終種目として行われた男子100mには、桐生祥秀選手(日本生命)が出場。オリンピックや世界選手権メダリストやファイナリストが並ぶ最高峰のレースで、100mでの今季初戦に挑みました。



男子100mは、今年はダイヤモンドレース対象種目。このため、レースは最終種目に据えられ、上海ダイヤモンドリーグの“メインイベント”として行われました。

昨年、9秒82で世界リスト1位となり、ロンドン世界選手権2位、3月の世界室内60mでは金メダルを獲得したクリスチャン・コールマン選手(アメリカ)が直前に欠場した点は惜しまれましたが、それでも出場選手は9名中7名が9秒台。すべての選手が世界大会メダリストあるいはファイナリスト(リレー含む)という錚々たる顔ぶれです。

さらに、地元・中国からも2選手が出場するとあって、ホームストレートの観客席は満杯。フィニッシュライン上の周辺席は通路まで人がびっしりと埋まるなかでのレースとなりました。

この日の上海は、午後から雨の予報が出ており、朝から曇りがちの天気。夕方になると雲が空を覆うように低く垂れ込め、高い湿気のためかうっすらと靄がかかったような状態になりました。

競技が始まって30~40分経ったあたりから霧雨が降り始めると、雨粒が次第に大きくなっていく時間帯も。男子100mは、いったん強まった雨が小康状態となったタイミングで行われました。

出場選手は1レーンから順に、

・アイザイア・ヤング選手(米国、自己記録と主な実績<以下、同じ>100m9秒97・200m19秒86;2017年世界選手権200m8位)

・アンドレ・ドグラス選手(カナダ、100m9秒91・200m19秒80;リオ五輪100m銅・200m銅)

・ジャスティン・ガトリン選手(米国、100m9秒74・200m19秒57;アテネ五輪100m金・200m銀、ロンドン五輪100m銅、2016年リオ五輪100m銀、2015年世界選手権100m・200m2冠、2017年世界選手権100m金)

・蘇炳添選手(中国、100m9秒99;2015年世界選手権決勝進出<9位>、2017年世界選手権100m8位、2018年世界室内60m銀)

・チジンドゥ・ウジャ選手(英国、100m9秒96;2017年ダイヤモンドリーグ種目別チャンピオン)

・ラミル・グリイェフ選手(トルコ、100m9秒97・200m19秒88;リオ五輪200m8位、2017年世界選手権200m金)

・桐生選手

・謝震業選手(中国、100m10秒04・200m20秒20;2016年&2018年世界室内60m4位)

・リース・プレスコッド選手(英国、100m10秒03;2017年世界選手権100m7位)

の9名。現地時間20時53分、気温24℃、湿度83%、向かい風0.5mという条件のもと、レースはスタートしました。

7レーンに入った桐生選手は、上々のスタートからスムーズな加速に移行し、序盤は、蘇選手、ガトリン選手、ヤング選手、ウジャ選手らとともに上位争いを展開しました。

しかし、蘇選手が身体ひとつ抜け出した60m過ぎ辺りで、右隣の謝選手に抜かれると、その後、グリイェフ選手、プレスコッド選手、ドクラス選手にかわされ、9着でのフィニッシュとなりました。

レースを制したのはプレスコッド選手。序盤は最下位にいながら中盤以降で上位に追いつくと、フィニッシュライン直前で先行する蘇選手を捉えました。プレスコッド選手の優勝タイムは10秒04。100分の1秒差の10秒05で蘇選手が続き、謝選手が10秒17で3位に食い込みました。

4・5位は10秒18、6・7位も10秒20と、それぞれ着差ありでウジャ選手、ヤング選手、グリイェフ選手、ガトリン選手の順でフィニッシュ。ドグラス選手が10秒25で8着となり、10秒26で桐生選手が続く接戦でした。

「(100m)初戦なので、自分の今の走りがどんなものかを知りたかった」という思いで臨んでいた桐生選手は、レース後、「今まで、決勝とかで最後に力んでゴールしてしまうことがあったけれど、今日は最後まで自分のレース展開を意識して走りきることができた。トップには離されたけれど、10秒2台が多い(接戦の)なかでの結果。先週(の静岡国際200mで)21秒台だったのが10秒2台まで来たわけで、自分としてはそんなに悪くないと思う」と振り返りました。

100mのレース自体は、9秒98の日本記録をマークした昨年の9月9日以来。実に8カ月ぶりのレースであることも、絶好調で臨みながらフライングで失格となった前回での失敗も、「そんなに気にならなかった」と言います。何よりも、「このメンバーで落ち着いて走れた」ことは大きな収穫と自信になった様子。

「確かに勝負に負けたことは悔しいけれど、初戦を最下位でスタートしたら、もう上がるしかない。ここから先が楽しみ」と、国内における100m初戦となる5月20日のゴールデングランプリに向けて好感触を得たようでした。

「順位と記録だけを見ると、“ん?”と思うかもしれないが」と前置きしたうえで、「私個人は、今後の自信につながるレースだったと高く評価している」と振り返ったのは、桐生選手を指導する土江寛裕コーチ。

「あの顔ぶれのなか、埋もれる(混戦になる)レースになることがわかっていて、そのなかで、いかに周りに関係なく自分の走りに徹することができるかを課題にしていた。桐生は、今回のようにまずまずのスタートができると、そこでコントロールできなくなってしまうことが多いのだが、今日は大崩れすることなく最後まで走れていた」と評価し、「足りないのはトップスピード。周りよりもまだギアが1つ低い状態だから、終盤で前に出られてしまう。その部分の磨きをかけて、もう一段階上げることができるようにしていきたい」と述べました。

土江コーチも「すごく悪かった」と苦笑いしながら振り返った静岡国際での走りが、「この4日間くらいで一気に変わった」とのこと。「まだ修正が必要な点もあるけれど、桐生自身が感覚を思い出した段階だと思う。少なくともゴールデングランプリでは、もっと違う内容のレースができるはず」と期待を寄せていました。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト

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