日本陸連強化委員会は4月4日、東京都内において、2024年度の強化方針を発表する記者会見を行いました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、ここ数年は、オンラインでの実施が続いていましたが、今回は、2019年度以来、実に5年ぶりに対面形式での開催です。
会見には、山崎一彦強化委員長をはじめ、高岡寿成・今村文男両シニアディレクターのほか、各ブロックの担当責任者(ディレクターおよびコーディネーター)が出席。山崎委員長が、強化委員会全体としての方針や見通しを述べたのちに、ブロックごとに昨シーズンの振り返り、2024年度の方針や現在の状況、今後の計画等を説明しました。
以下、要旨をご報告します。
【2024年度の強化方針について】
山崎一彦(強化委員長、兼トラック&フィールドシニアディレクター)
いよいよパリオリンピックを迎えることとなった。来年には、東京での世界選手権も控えており、私たちにとっては好材料・好契機が続く。パリ、東京で、ブダペスト(2023年世界選手権)、またはそれ以上の成績を出せればと考えている。
私たち強化委員会が「複数年にわたって、世界で活躍できる選手を育成、強化、サポートしていくこと」を目標としてきたことは、今までにも何度も述べてきた。もちろんパリで最高成績が出ればよいと思っているが、そこだけに終わらないことを我々のスタンスとしたい。
昨年のブダペスト(世界選手権)、一昨年のオレゴン(世界選手権)、そして、その前の東京(オリンピック)と遡ってみると、少しずつ成績を上げてきたことがわかる。入賞の数が増えるとともに、入賞種目の幅が広がり、20~30年前では考えられなかったような種目で、入賞者を出せるようになっている。それは、選手当人やコーチが現場で、ここまで(従来の)常識を突き破ってきた結果ともいえる。今年のパリオリンピックは、そのひと区切りとして、答えを出さなければいけないところになると考えている。
今後をみていくとき、特に好材料として挙げることができるのは、有力選手が熟練期・適齢期を迎えようとしている点。ほとんどの選手が、昨年、今年、来年と継続して、最高の状態で活躍できる年齢層・競技歴となっている。そうした選手たちに、今年もまた、一つでも上の成績を上げてもらいたい。
パリオリンピックに向けては、パリ郊外で事前合宿を実施する。場所は、パリの選手村から1時間程度のセルジーという街。事前に何度も下見を行い、昨年のブダペスト世界選手権の前には、競歩などの事前合宿も実施している。短距離からロード種目まで対応できるトレーニング環境となったほか、住環境となるホテル、さらに日本人シェフの手配ができたことで食事の面でも好環境を揃えることができた。すでにシミュレーションも行い、良い評価を得ている。
これにより、事前合宿地から選手村へ入り、選手村から大会本番へ向かうという期間の過ごし方が、これまで以上に良くなるとみている。利用期間は、それぞれの希望に沿って対応していくが、7月下旬あたりから利用できるよう用意をしていく。オリンピックにおける選手村は、必ずしも良い環境とは限らず、行ってみないとわからないという側面がある。このため、事前合宿地をうまく活用することで、自由度を高めていきたいとう考えがもともと我々にはあった。また、オリンピックではAD(アクレディテーション)カードの確保を含めて、世界選手権以上に制限が厳しいため、事前合宿地を置くことによって、選手村や大会会場では難しいパーソナルコーチとの連携も取りやすくなる。これによって、選手たちがストレスなく大会に向かっていけると考えている。
もちろん、直接、選手村に入るという選択肢もあり、私たちがかねてより目指してきた「選択肢を増やして、個人の調子に合わせていけるようにする」状態が整いつつある。フライトスケジュール等、限られてしまうところはあるかもしれないが、選手たちは以前よりも臨機応変に動けるようになっている。私たちとしても、このような最後の上積みを、しっかりサポートしていきたい。
パリオリンピックでは、ブダペスト世界選手権同等か、それ以上の成績を出せるようにしたい。オリンピックの派遣枠は、日本オリンピック委員会(JOC)が最終的に決定する。陸上の派遣枠について、現時点では具体的な提示はまだないが、昨年のブダペスト世界選手権のような直前の追加は難しいと予測していて、まずはターゲットナンバー内に入っていることが条件となるか。(ターゲットナンバー内に入り)参加資格を得ているという根拠があれば、足切りすることはないとみている。
種目ごとにおける2023年の振り返り、トップ選手の現状や今後の方針および計画等については、このあと各担当ディレクターから説明を行っていく。
【中長距離・マラソンについて】
高岡寿成シニアディレクター(中長距離・マラソン担当)
◎2023年の振り返り
中長距離、マラソンでは、2023年ブダペスト世界選手権において、3種目で入賞することができた。入賞したのは、男子3000m障害物の三浦龍司(順天堂大→SUBARU)、女子5000mの田中希実(New Balance)、女子10000mの廣中璃梨佳(JP日本郵政G)。この3名は、ご存じの通り東京オリンピックでの入賞経験がある選手で、オレゴン世界選手権を経て再び入賞できたことは、大きな意義があると考えている。
また、昨年は国際大会が数多く開催された。アジア選手権では6個の金メダルをはじめ、メダルを10個以上獲得している。その一方で、アジア大会においては、インドや中国の活躍があり、メダルを取ることができない種目が多くなったという経緯もあった。
マラソンに関しては、世界選手権、アジア大会ともに、メダルや入賞を目指したものの、残念ながらそれを達成することはできなかった。しかし、世界ロードランニング選手権や世界室内では、田中が1マイルや3000mという距離で入賞を果たしている。このことで、中距離から長距離まで、多くの種目で可能性があることを示せたと思っている。
また、日本記録という観点では、男子10000m、男子3000m障害物、女子5000m、女子マラソンにおいて記録を更新することができたことも、この先につながると考えている。
◎トップ選手の現状
田中に関しては、今年に入っても各レースで結果を残している。至近では、世界クロスカントリー選手権のシニア男女混合8kmリレーに出場。2走を務めて、日本の順位を10位から5位へと引き上げ、日本チームの7位入賞に貢献した。このあともトラックレースでの躍進に期待したい。
三浦は、レースに出ていないが、先月にはナショナルトレーニングセンターで実施した3000m障害物の研修合宿に参加した。他選手とともに水濠飛越の練習にも取り組むなど、元気な状態にある。
◎今後の方針および計画
パリオリンピックに向けては、中長距離としても多くの選手を派遣したいと考えている。
種目別にみていくと、10000mは、このあと参加標準記録突破に挑める機会は少なく、ワールドランキングにおいても、ターゲットナンバー「27」に対して、各国3名を上限としても男子は16選手、女子は15選手が参加標準記録をクリア。10000mにおいてはクロスカントリー競走のワールドランキング上位8名も参加標準記録を達成したものと見做されることにより、男子では24、女子では23までがすでに埋まっている状況である。しかし、そのなかでも、女子では、廣中(24位)、小海遥(第一生命グループ、26位)、五島莉乃(資生堂、27位)がターゲットナンバー内に名前を連ね、男子では田澤廉(トヨタ自動車、26位)、太田智樹(トヨタ自動車、27位)のほか、塩尻和也(富士通)も28番目に位置するなど、多くの選手が可能性を持っている。5月3日に静岡で開催する日本選手権10000mでは、ペーシングライトやペースメーカーをつけて実施するので、さらにポイントの上積みを目指し、オリンピックへとつなげていきたい。
5000mでは、女子は田中がすでに参加標準記録(14分52秒00)を突破済みで、このほか山本有真(積水化学、24位)と廣中(29位)がターゲットナンバー(42)内にいる。男子については現段階でターゲットナンバー内にいるのは佐藤圭汰(駒澤大、ダイヤモンドアスリート、42位)のみだが、昨年のアジア選手権を制したことで高いポイントを得ている遠藤日向(住友電工)が、まだ(レースの)本数自体が揃っていないためにランキング外となっているだけに、今後、セイコーゴールデングランプリや日本選手権などでポイントを加算し、圏内への浮上を目指していく。
3000m障害物(ターゲットナンバー36)は、女子は不在ながら、男子では参加標準記録突破済みの三浦を含めて、青木涼真(Honda、18位)、砂田晟弥(プレス工業、33位)と3名が、ターゲットナンバー内に名前を連ねている。中距離(800m・1500m)に関しては、オリンピックに向けてターゲットナンバーが少なくなったことで、現在は男女ともゼロの状況にあるが、どの種目においても派遣できるよう、今後、春のレースからペースメーカーなどを立てて挑戦していく。
マラソンについては、内定している選手に関しては11月末にコース視察に行き、その後、内定した選手と補欠競技者については、4月中旬にコースを視察する計画を立てている。このほか、3000m障害物とマラソンでは、科学委員会の力を借りて、3000m障害物では障害クリアランス技術の向上を目指したデータの蓄積やアドバイスを、マラソンでは選手の体調を良くするような取り組みをいくつか行っている。
中長距離、マラソンとしても、オリンピックで活躍できるように取り組んでいきたい。
【競歩について】
今村文男シニアディレクター(競歩担当)
◎2023年の振り返り
ブダペスト世界選手権では、男女20km競歩は振るわなかったが、男子35km競歩において川野将虎(旭化成)が2大会連続のメダルを獲得。また、女子35km競歩においても、園田世玲奈(NTN)が入賞してくれた。このことは、35km競歩を実施する来年の東京世界選手権に向けた明るいニュースになったと考えている。
他方で、昨年は、アジア選手権、ワールドユニバーシティゲームズ(WUG)、アジア大会と、3つの大きな国際競技会が行われた。競歩から、この3大会に若手のアスリートを派遣できたことは、強化の進捗を図っていくうえで重要な競技会になったと思っている。
アジア選手権においては、男子20km競歩で村山裕太郎(富士通)が金メダル、女子20km競歩では梅野倖子(順天堂大)が銅メダルを獲得した。WUGにおいても、男子20km競歩は3選手が入賞して団体戦において銀メダルを獲得、女子20km競歩においても6位入賞を果たしている。また、アジア大会では、男女20km競歩において村山と藤井菜々子(エディオン、ダイヤモンドアスリート修了生)が銅メダルを獲得したほか、男女混合団体種目として行われた35km競歩においても、男子1位の石田昴(自衛隊体育学校)と女子3位の渕瀬真寿美(建装工業)の合計タイムにより銀メダル獲得となった。
いずれにしても昨年においては、トップアスリートのみならず、若手となるU23年代や、これから核になるであろう25歳前後の選手、特に社会人3年目くらいの層の選手が国際大会に出場し、しっかりと結果や成果を残してくれた。
◎トップ選手の現状、今後の方針・計画
いよいよパリオリンピックの年となったが、競歩に関しては、今のところ男女20km競歩においては、国内の選考競技会が終了し、現時点で、池田向希(旭化成)と藤井の2名が内定している。
2月に行われた日本選手権20kmにおいては、男子は上位選手が軒並み好記録をマークした。オリンピックは3人しか出場できず、また多数が参加標準記録を上回る水準で戦っていく、非常な熾烈なレースとなったわけだが、そのなかでしっかりと順位・記録を残してくれたことは、パリオリンピックにつながり、きっと本番でも活躍してくれるだろうと期待している。
また、パリオリンピックでは、男女混合リレーが新種目として配置された。本来であれば、他国のように実際の競歩リレーを行って選考する準備ができればよかったのだが、20kmの選考競技会を縫うような形で、この種目のための選考レースを設定するのは困難であったため、今回のような選考方法を採用している。3月26日には、パリオリンピック男女混合リレーの選考要項を追記することができ、現在は、4月21日にアンタルヤ(トルコ)で開催される世界競歩チーム選手権(世界競歩)に向けて準備を進めている。世界競歩に向けたペアの組み方やレース中の休息時間の使い方、身体の回復方法などを日本陸連科学委員会スタッフと検討し、今後、パリに向けて、どう準備していくかの対策を練っていく。
世界競歩では、男子20kmに内定している池田も、個人の20kmではなく、混合リレーに出場する予定。池田は、今回の日本選手権の記録(1時間16分51秒)や安定した歩型から、パリオリンピック本番では、両種目での出場も視野に入れることができよう。また、20km競歩では、前回の東京大会銀メダルということで、おそらく心に秘めているものもあるだろうとみている。しっかりサポート体制を整えていきたい。
女子の藤井も、日本選手権20km競歩では4年ぶりに自己記録を更新。いよいよ中心的なアスリート、エースになる状況ができてきた。パリオリンピックに向けては、しっかりと結果にこだわりながら準備を進めていってほしい。
男女混合リレー種目については、世界競歩が終わってから選考を行うほか、レース中の種々のサポートまたは測定等も含めて分析しながら、準備していきたい。世界競歩では混合リレーにおける最大出場枠の2枠獲得を目指す。そして、パリでは、20km競歩、男女混合リレー競歩ともに、とにかくメダルにこだわったレースをしていきたい。
【短距離・リレーについて】
土江寛裕ディレクター(短距離)
◎2023年の振り返り
ブダペスト世界世界選手権では、男子100mでサニブラウンアブデルハキーム(東レ)が2大会連続で決勝に進出。世界トップスプリンターとしての地位を確立する成果が出た。また、男子4×100mリレーが5位に入賞。東京(オリンピック)、オレゴン(世界選手権)と2年連続で失敗していたので、入賞は2019年ドーハ大会(3位)以来となる。5位という結果は日本にとって喜べる結果ではないものの、パリに向けた一つの足がかりになったと考えている。
ロングスプリントでは、個人の男子400mで決勝進出は叶わなかったものの、佐藤拳太郎(富士通)が44秒77をマーク。髙野進先生の保持する44秒78の日本記録を32年ぶりに更新する嬉しいニュースもあった。一方、オレゴン世界選手権で4位に入賞し、次は「メダル」という意気込みで臨んだ男子4×400mリレーに関しては、予選落ちの結果に終わっている。
アジア選手権では、男子は100m・200m・400mのすべてで優勝を果たした。栁田大輝(東洋大、100m優勝、ダイヤモンドアスリート)や鵜澤飛羽(筑波大、200m優勝)といった若い選手が出てきたことは好材料といえる。アジア大会の男子200mでは、上山紘輝(住友電工)が金メダルを獲得している。
女子に関しては、アジア選手権で入賞するなどの結果はあったが、「世界」ということでは、インビテーションで世界選手権に2名(君嶋愛梨沙=土木管理総合:100m、鶴田玲美=南九州ファミリーマート:200m)が出場したものの厳しい結果にとどまり、苦しいシーズンとなった。秋になって兒玉芽生(ミズノ)が復調傾向を示したことは、今季に向けての明るい兆しになったと考えている。
◎トップ選手の現状
強化の具体的な内容としては、数年前から合宿形式ではなく、個人の強化を全力でサポートする形で進めてきている。男子4×400mリレーに関しては、JSC(日本スポーツ振興センター)の次世代ターゲットスポーツ育成支援事業の対象が2022年度末で終わったが、それ以降も、ずっと取り組んできたストレングストレーニングの合宿を行ったり、安藤財団からのサポートにより中島佑気ジョセフ(東洋大→富士通)が継続して南カリフォルニア大学で合宿したりといった形で取り組んでいる。
至近では、3月25日にサニブラウンがアメリカでシーズンインして、10秒02(+0.5)をマーク。世界選手権に入賞しているサニブラウンは、参加標準記録(10秒00)を突破すれば、代表に即時内定する。すぐにでも突破してくれるのではないかとみている。また、室内シーズンでは、1月末に桐生祥秀(日本生命)がチェコで60m6秒53の室内日本新を出すと、世界室内男子60mでは多田修平(住友電工)がこの記録を6秒52へと更新したほか、決勝に進出して7位入賞を果たしている。このように走るべく選手がしっかりと準備をしている状況にあるかなと思う。
◎今後の方針および計画
男子に関しては、オリンピック個人種目の100m・200m・400mのすべてで入賞できる次元にあるといえる。多くの選手が少なくとも出場圏内におり、3種目とも3枠ずつ派遣したいと思っているが、どの選手が出場しても、決勝を狙うという目標を持ってオリンピックに臨めると考えている。
また、男子リレーについては、4×100mリレーは、前回の東京大会で取り損ねたオリンピックの金メダル獲得を狙って臨んでいくし、男子4×400mリレーに関しても、「次はメダル」ということで取り組んでいる。リレーにおけるダブルのメダル獲得を目指していきたい。
ただし、リレーに関しては、パリオリンピックに出場するためには、5月4~5日にバハマで行われる世界リレーに出場しなければならない。リレー種目のオリンピック出場枠は16カ国だが、そのうち14カ国が、この世界リレーで決まることになっている。
この大会の選手選考は、4月13~14日の出雲陸上で行われるため、選手にとっては、春先から大変なシーズンとなってしまうが、オリンピックのダブルメダルを目指して、まずは世界リレーでしっかりと出場権を獲得してきたい。現在、オリンピック出場圏内にあるのは、男子4×100mリレー、男子4×400mリレー、女子4×100mリレー、男女混合4×400mリレー。世界リレーには、この4種目での派遣を予定している。
【ハードルについて】
苅部俊二ディレクター(ハードル)
◎2023年の振り返り
昨シーズンは、まずは男子110mハードルの泉谷駿介(住友電工)が、ブダペスト世界選手権で5位入賞を果たしたほか、日本選手権では13秒04をマークして自身が保持していた日本記録を更新したことがすごく大きな出来事だった。彼の活躍は一発に留まらず、ダイヤモンドリーグでも出場2大会で上位を占めたほか、ファイナルでも4位の成績を収めている。13秒04は2023年の世界リストで6位となるもので、13秒0台は複数回(3回)マークと、非常に力をつけてくれた。また、泉谷の(順天堂大での)チームメイトであった村竹ラシッド(順天堂大→JAL)も、昨年の日本インカレで、日本タイ記録・学生新記録となる13秒04をマーク。どちらも良い状態にあると聞いている。
ブダペスト世界選手権では、出場した3選手(泉谷、高山峻野=ゼンリン、横地大雅=Team SSP)すべてが準決勝に進出。アジア選手権とアジア大会では、高山がともに金メダルを獲得した。このほか、野本周成(愛媛陸協)もオリンピック参加標準記録(13秒27)を突破(13秒20)するなど、非常に層の厚さも増してきている。
男子400mハードルに関しては、現在、豊田兼(慶應義塾大、48秒47)と黒川和樹(現住友電工)の2名が参加標準記録(48秒70)を突破している。決勝に届くのではないかというくらいの好調さをキープしているので活躍を期待したい。豊田については、110mハードルにおいても13秒29と、参加標準記録に迫るタイムをマークしており、WUGではこの種目で金メダルを獲得した。日本選手権では両方で狙いたいという意向もあると聞いている、日本の宝ともいえる存在なので、あまり無理せず、まずはケガなく頑張ってくれればと思っている。
女子に関しては、昨年は日本新記録のアナウンスこそなかったが、100mハードルで新たに3選手が12秒台に突入し、日本リスト6位までを12秒台で占めることとなった。今まで、13秒00の日本記録が更新できない時期が長く続いたが、その時期に比べるとレベルが上がるとともに層に厚みも出ている。アジア室内(60mハードル)では青木益未(七十七銀行)が金メダル、アジア選手権では寺田明日香(ジャパンクリエイト)・青木が銀・銅メダル、アジア大会でも田中佑美(富士通)が銅メダルを獲得している。
女子400mハードルは、なかなか世界に遠いという状況。400mフラットレースのタイムを出したとしても、400mハードルの決勝に残れないというくらい、世界との差が開いてしまっている。時間をかけて、東京世界選手権あたりを見据えていければと思っている。
◎今後の方針および計画
パリオリンピックにおいては、男子110mハードルで泉谷もしくは村竹にメダルを狙ってほしい。それが可能な位置にいると思っている。そこでメダルを一つでも獲得できれば、ハードルブロックとしては最大の結果といえるのではないか。あとは、男子400mハードルと女子100mハードルで、決勝に残る選手を出すことができればと考えている。
今後の予定だが、世界選手権で入賞している泉谷は、参加標準記録をもう一度突破すれば、すぐに内定を得ることができる。現段階で決まっているところでは、廈門(中国)のダイヤモンドリーグが初戦となり、セイコーゴールデングランプリを挟んで、ユージーン(アメリカ)のダイヤモンドリーグに出場していく予定。どんどん世界と戦って経験を積み、メダルを目指してほしい。村竹は、ダイヤモンドリーグをウエイティングで出場を目指している状態。400mハードルの豊田は、東京六大学400mハードルにエントリーしている。黒川は調整中の状況である。
女子100mハードルは、青木が北陸実業団でシーズンインの予定。寺田は、木南記念で屋外初戦を予定しており、セイコーゴールデングランプリを経て、日本選手権に向かうと聞いている。400mハードルについては、今後の足がかりとなるような形で底上げができればと思う。
ハードルブロックでは、若手も育ってきており、層が厚くなってきている。エースの泉谷も、まだ若く、ベテランの域には行っていない状況で、非常に活気づいている。今回のオリンピックで集大成の年にできればと思っている。
【跳躍について】
広川龍太郎コーディネーター(跳躍担当)
◎2023年の振り返り
森長正樹ディレクターに代わって、跳躍種目の振り返りと展望を説明させていただく。2023年シーズンは、女子棒高跳(諸田美咲=アットホーム、4m48)、女子走幅跳(秦澄美鈴=住友電工、6m97)、女子三段跳(森本麻里子=オリコ、14m06)の3種目で日本記録が更新された。特に、女子走幅跳と女子三段跳においては、世界大会に出場するのみでなく、戦いにいけるレベルまで上がったと感じている。また、ブダペスト世界選手権には、過去の大会と比べて、多くの出場者を送り込むことができたこと、そのなかで男子走高跳において2大会連続で入賞者を出せた(赤松諒一=アワーズ、8位)ことは、跳躍ブロックとして評価できると考えている。
このほか、男子走幅跳では、橋岡優輝(富士通)が本調子でないなか、ダイヤモンドリーグやダイヤモンドリーグファイナルで戦うことができた。これも2024年シーズンに向けて良い経験になったと思う。
◎トップ選手の現状
男女走高跳では、室内シーズンから好記録がマークされている。特に、男子ではベテランの衛藤昂(神戸デジタル・ラボ)が復帰したことで層も厚くなり、順調に進んでいる。
男子走幅跳では、アジア室内において鳥海勇斗(日大→ノジマ)が銀メダル、小田大樹(ヤマダホールディングス)銅メダルを獲得し、ワールドワンキングのポイントを順調に加算することができている。加えて、3月15日には橋岡が、アメリカの大会でパリオリンピック参加標準記録(8m27)を突破する8m28(+1.4)をマーク。女子三段跳では、髙島真織子(九電工)が追い風参考記録(+3.7)ながら14mを超える(14m08。※公認では13m83<+1.6>の自己新記録をマーク)など、跳躍全体としても良い状況にある。
跳躍男女各4種目のワールドランキングの現状は、パリオリンピックに向けた「Road to Paris」において、ターゲットナンバー(全種目32)内および付近にいる選手を挙げると以下の通りとなる。
・男子走高跳:赤松(10位)、真野友博(九電工、18位)、瀬古優斗(滋賀陸協、26位)、長谷川直人(サトウ食品新潟アルビレックスRC、27位)、衛藤昂(32位)
・男子棒高跳:澤慎吾(きらぼし銀行、38位)、柄澤智哉(日本体育大、42位)
・男子走幅跳:橋岡(参加標準記録突破)、鳥海(31位)、小田(40位)、藤原孝輝(東洋大、ダイヤモンドアスリート修了生、45位)津波響樹(大塚製薬、52位)
・男子三段跳:池畠旭佳瑠(駿河台大AC、33位)
・女子走高跳:髙橋渚(センコー、34位)
・女子棒高跳:諸田(34位)
・女子走幅跳:秦(参加標準記録突破)
・女子三段跳:森本(15位)、髙島(39位)
◎今後の方針および計画
2024年度の目標としては、まず、パリ五輪でのメダル獲得と複数入賞を1番の目標とし、2番目としてパリ五輪にできる限り多くの選手を送り込むこと。この2つをシーズン前半の大きな課題にしている。また、シーズン後半では、来年の行われる東京世界選手権に向けたポイント獲得および参加標準記録突破を狙っていきたい。
このほか、跳躍ブロックでは、2023年度から長期計画でストレングストレーニングを行っている。日本陸連医事委員会トレーナー部と連携をとり、選手たちは冬場、継続して行ってきた。選手たちからも、これを続けてフィジカルの能力を上げてきたいという要望も上がっているので、今年度も引き続き取り組んでいきたいと考えている。
【投てきについて】
田内健二ディレクター(投てき)
◎2023年の振り返り
昨シーズンは、女子やり投・北口榛花(JAL)のブダペスト世界選手権金メダル獲得。これが一番大きな成果だった。また、ブロック全体としては、男女やり投で世界選手権に初めて3名ずつのフルエントリーができ、勝負をしにいけたことが大きな成果の一つといえる。女子やり投では、スパイクピンに関わるトラブルも影響し、北口以外が成果を挙げられなかった反省点もあるが、フルエントリーの実現は層が厚くなったことの証明ということができる。
また、アジアに目を向けると、アジア選手権男女やり投でディーン元気(ミズノ)と斉藤真理菜(スズキ)がともに金メダルを獲得。アジア大会ではディーンが銅メダルを獲得し、ある程度の成果を収めることができた。しかし、特に男子では世界選手権の結果をみるとインド選手の層の厚さ、レベルの高さは脅威。そこを競っていけるようなレベルを目指さなければいけないと強く感じた。
やり投でだけでなく、女子円盤投で齋藤真希(東海大大学院)が世界選手権に出場できたことも、大きな成果だった。さらに、女子ハンマー投ではマッカーサー・ジョイ(NMFA)が69m89の日本新記録を樹立し、この種目のレベルを上げてくれた。また、男子ハンマー投では、福田翔大(日大→住友電工)が72m18まで記録を伸ばし、世界の入り口といえるレベルまで達してきた。どの選手もまだ若く、これからどんどん上がっていってくれる可能性を感じる選手が現れたシーズンといえる。
◎トップ選手の現状
トップ状況を確認したところ、まず、北口については、体力的な土台は上がっているが、投てきについては「投げてみないとわからない」ということで、今後、試合に臨みながら調整していく。競技会は4月27日に行われる蘇州ダイヤモンドリーグからスタートしていくことになっている。ディーンに関しては、例年同様にフィンランドと南アフリカでの合宿を終えて、順調に仕上がったと聞いている。織田記念からドーハで開催されるダイヤモンドリーグに行く形でシーズンに入っていくとのこと。
このほか、投てきブロックでは、すでに南半球にあるオーストラリアやニュージーランドに多くの選手を派遣している。男子やり投では新井涼平(スズキ)がニュージーランドで83m37をマーク。また、国内では3月29日に清川裕哉(東海大)が81m67を投げている。このほかニュージーランドでは3月10日に鈴木凜(九州共立大)が78m50でシーズンインしており、ベテランと若手が非常に高いレベルでシーズンをスタートさせている。
男子円盤投では、湯上剛輝(トヨタ自動車)が南半球の試合に多く出て、 3月14日にマークした59m44を筆頭に 、59m台の記録を連発。かなり仕上がりがよい状態にある様子がみてとれる。女子ハンマー投では、昨年に引き続き、マッカーサーが3月22日に日本記録を更新。日本人女子としては初めて70mを上回る70m51をマークした。このように、2~3月の段階から、好記録の報告が各地から届いている状況にある。
現状把握のためWAワールドランキングをみると、今の時期の「Road to Paris」はこれから順位が大きく変動していくため、必ずしも参考にはならないものの、北口が内定済みの女子やり投では、斉藤が13位、佐藤友佳(ニコニコのり)が18位、上田百寧(ゼンリン)が22位。このほか武本紗栄(佐賀県スポ協)や長麻尋(国士舘クラブ)といった60mを超える自己記録を持つ選手が連なっており、残る2つの枠を巡って、かなり高いレベルでの切磋琢磨があって決まっていくのではないかとみている。
男子やり投に関しても、ディーンが11位、鈴木が28位、小椋健司(エイジェック)が29位の順に、今のところターゲットナンバー内(32)に入っている。昨年、83m54を投げて日本リスト1位を占めた﨑山雄太(愛媛陸協)、そして、前述した新井や清川あたりも試合の組み方や獲得ポイントによっては、上位に食い込んでくる可能性があり、女子だけでなく、男子においても高いレベルでの戦いになる状況が揃ってきているのではないかと考えている。
ほかの種目では、男女円盤投で湯上が43位・齋藤が40位、男子ハンマー投では福田が39位ということで、このあたりは、海外の選手たちの動向によって上下はあると思われるが、ワールドランキングでの出場を狙えるところにいると思っている。
◎今後の方針および計画
パリオリンピックに向けては、これまで通り、選手個人と専任コーチのバックアップを十分にし、科学委員会との連携を図り、情報の共有やデータの提供を進めていく。ここ数年は、この方針で進めてきたが、投てき全体のレベルも上がってきているので、同様のスタンスをとっていきたい。
特に、女子やり投では、北口が、世界選手権に続いてオリンピックでも金メダルを獲得することを全力でサポートしたい。また、ほかにも十分な実力を持つ選手がいる状況なので、ぜひ男女ともに入賞、そしてメダルに手が届くよう全員で盛り上げていきたい。
男女円盤投、男女ハンマー投は、前述したように狙える選手が出てきている。なんとかターゲットナンバー枠内までランキングを上げられるよう、戦略的に試合をさせていきたい。
男女砲丸投に関しては、ランキング的でも届くのは困難なレベルにあるが、世界的な動向を見ても、男女ともに回転投法の普及が急務となっている。引き続き、そこを進めていくことを考えている。
【混成競技について】
眞鍋芳明ディレクター(混成競技)
◎2023年の振り返り
2023年シーズンは、日本十種競技界の新リーダーである丸山優真(住友電工)がアジア選手権の優勝と、エリアランキング1位の結果により、ブダペスト世界選手権への出場を達成した。結果は15位だったが、初出場で7844点の自己記録および世界選手権における日本人最高記録を樹立した点は高く評価できる。
もちろん世界大会でのメダルや入賞という観点からすると、まだまだ道のりは長い状況だが、右代啓祐・中村明彦時代で築いてきた礎をしっかりと引き継いでくれていると思っている。
一方、自己記録で丸山を上回る8008点の自己記録を持つ奥田啓祐(ウィザス)は、2022年度に発症した疲労骨折が完治せず、十種競技には出場できなかった。また、3番手の田上駿(陸上物語)もアジア選手権、アジア大会に出場を果たしたものの、やはりケガの影響で十分なパフォーマンスを発揮できておらず、2022年度に躍進した2人がケガに泣いたシーズンとなった。
女子では、日本記録保持者の山﨑有紀(スズキ)がアジア選手権で銅メダルを獲得し、アジアでは戦える姿を見せてくれた。2番手にいるヘンプヒル恵(アトレ)が男子と同様に、ケガでシーズンを離脱することになったのは残念だったが、3番手の大玉華鈴(日体大SMG)が木南記念で七種競技の初日最高記録となる3505点を獲得し、シニア初代表の座を射止めた。シニア初代表となったアジア選手権では 5487点、アジア大会では5605点と記録を伸ばし、アジア圏内でのメダル獲得が期待できるレベルへと成長した。混成競技は、長年ライバルがしのぎを削って競技レベルを上げてきたという歴史がある。近年における代表経験者の上位3名で、さらに次のレベルに押し上げてほしいと思っている。
◎今後の方針および計画
パリオリンピックに向けては、十種競技の参加標準記録が8460点、七種競技は6480点と、まだまだ程遠いレベルの差がある。このため、まずはパリオリンピックに1人でも多く出てもらうことが最大の目標となる。混成競技は、世界大会のターゲットナンバーが24で、ほかの種目と比較して、非常に狭き門となっている。現在のワールドランキングを見ると丸山が34位で「Road to Paris」では26位。丸山以外は60位以下という状況を考えると、現実的には丸山を中心とした強化方針をとらざるを得ない。
丸山がパリオリンピックに出場するためには、純粋にワールドランキングの順位を上げるしかない。このため、2024年度の春シーズンは、まず、4月にイタリアで開催されるマルチスターと、5月にスペインで行われるミーティングアローナという、ともにAカテゴリの2大会に出場し、6月の日本選手権に向かっていく計画で、ここで8100点を目指す。概算ではあるが、ランキングポイントで1212点に届けば、確実にターゲットナンバー(24)内に入ると想定している。このため、この3試合でどれだけ、そこに近づけるかというチャレンジとなる。ちなみにAカテゴリの試合で8100点を取って3位に入ると1202点を獲得できる。特に、5月のミーティングアローナは、その翌週にGLカテゴリとなるハイポミーティングを控えているため、世界のトップオブトップは出場してこないと予想しており、ここでプレイシングスコアの上乗せも期待している。まずはミーティングアローナで8100点に到達することを前提に、トレーニングに励んでいる。
2025年東京世界選手権に向けては、世界の混成競技者の動向が、冬季に室内競技会を有効活用し、春先のヨーロッパ各大会でランキングを上げていく戦い方になっていることから、丸山も同様に取り組んでいくことを考えている。また、アジア選手権、アジア室内は、丸山にとっては立場的に有利な試合ともいえるので、しっかりと仕上げてそこで戦い、その後の世界大会へとつなげていく。
七種競技については、世界のレベルは上がる一方で、日本記録保持者の山﨑でさえワールドランキングは64位(Road to Parisでは45位)という状況。まずは6000点を、できれば国内で複数の競技者が突破を果たして、競り合う中で互いの記録を引き上げていくことが重要となる。現状では、海外のBカテゴリの競技会にすら出場ができないため、環境が良く、記録を出しやすい競技会を国内で用意し、そのなかで6000点突破を目指していきたい。
取材・構成、写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)
※本稿は、4月4日に、メディアに向けて実施した2024年度強化方針発表の内容をまとめたものです。明瞭化を目的として、説明を補足する、質疑応答で出た内容を各氏の項に加えるなどの編集を行いました。また、競技者の所属、記録およびリスト順位等は、会見実施時点の情報に基づきます。
【セイコーGGP】チケット好評販売中!
>>https://goldengrandprix-japan.com/2024/ticket/
ラグジュアリーな空間で観戦できる「セイコープレミアムBOX」個人向け残り10席程度!
是非お早めにお買い求めください!
前売券は当日券よりも1000円オフでお買い求めいただけます(※一部券種をのぞく)
▼大会情報はこちら
https://goldengrandprix-japan.com/2024/outline/
▼出場選手情報:続々発表中!
https://goldengrandprix-japan.com/2024/news/?tag=GGP24%E9%81%B8%E6%89%8B
【日本選手権】4月20日チケット発売開始!
>>https://www.jaaf.or.jp/jch/108/tandf/ticket/
日本一、そして日本代表内定を目指して戦う選手に是非ご注目ください。
▼プロモーションビデオ公開
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19757/
▼第108回日本陸上競技選手権大会 特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/jch/108/tandf/
▼第108回日本陸上競技選手権大会 競技実施日
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19727/
【日本選手権10000m】観戦チケット絶賛販売中!
https://www.jaaf.or.jp/jch/108/10000m/
前回大会で好評だった「グラウンド観戦チケット」や、同日開催・第39回静岡国際陸上競技大会との「セット観戦チケット」を販売!
ゴールデンウィークは、静岡で日本一、そしてパリ2024オリンピック参加標準記録や自己記録の突破に向けて「Challenge」する選手たちを応援しましょう!
▼エントリーリスト公開!
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19762/
▼陸上マニアが語る!大会の見どころ
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19710/