2023.04.19(水)委員会

【強化委員会】2023年度 強化方針発表レポート:ブダペスト世界選手権、パリオリンピックに向けて国際的な競争力を



日本陸連強化委員会は4月6日、オンライン形式での記者会見を開き、2023年度の強化方針を発表しました。
この会見は、年度はじめに毎年実施しているものです。今回は、山崎一彦強化委員長および各ブロックの担当責任者全員が出席。まず、山崎委員長が全体を通しての方針や見通しを述べたのちに、中長距離・マラソン、競歩、ハードル、跳躍、投てき、混成、短距離(リレー)の順に、現在の状況や2023年度の方針、今後の計画等を説明していきました。以下、要旨をご報告します。
※競技者の所属、記録およびリスト順位、その他の状況は、会見実施時点の情報に基づきます。


【2023年度の強化方針について】

山崎一彦(強化委員長、兼トラック&フィールドシニアディレクター)

先ほど(4月6日)、強化競技者および、その専任コーチ約250名を集め、強化委員会主催のオンラインカンファレンスを開いた。ここでは2023年度の目標や戦略等、そこで話をした内容を抜粋する形でご報告する。

◎国内だけでなく、国際的な競争力を視野に
今年は、ブダペスト世界選手権が最重要大会となる。ただ、来年には私たちが一番の目標としているパリオリンピックが迫っている。(1年延期して2021年に開催された)東京オリンピックから3年というスパンは少し短いという気持ちはあるが、私たちは、ブダペスト、パリを射程距離に入れた戦いを進めていくことになる。
本日のカンファレンスにおいて、選手、コーチに向けて話をしたのは、まず、東京オリンピックは「1人でも多く参加者を出す、1人でも多く入賞者を出す」を目標にしたが、パリオリンピックに向けては、もう一つステップアップして「1人でも多く入賞、メダルを取っていく」を目標にしていくということ。また、そのなかで日本国内の争いだけでなく、国際的な陸上競技の競争力を上げることに視野を持ってもらいたいと伝えた。

◎一大会で揺るがない実力を備えた競技者を増やす
もう一つは、一大会で揺るがないような実力のある競技者を育てること、または、その選手たちをサポートしていきたいということである。昨年は、サニブラウンアブデルハキーム(タンブルウィードTC、男子100m)、三浦龍司(順天堂大学、男子3000m障害物)、北口榛花(JAL、女子やり投)、山西利和(愛知製鋼、男子20km競歩)といった選手たちが、日本だけでなく、世界に認められる選手となった。強化委員会としては、そのような選手たちを、さらに一人でも多く輩出したいと考えている。その実現に向けて、ブダペスト世界選手権、パリオリンピックに向けては、“二つ巴”で、しっかりと結果を出していきたいと思っている。
また、この「一大会で揺るがない」というのは、ダイヤモンドリーグといったグレードの高い大会に、「当たり前のように出場し、活躍していく」ことを含んでいる。少し先の話になるが、パリオリンピックに向けても、そこを奨励する形をとっていきたい。こうした上の大会に出場できる選手たちが、国内選手選考のみに終始するというところに引きずられないようにし、世界大会でのメダルや入賞、日本を代表する世界的な陸上競技者となる選手を増やしていくことを目指したい。

◎U20、U23世代の国際経験の機会を増やす
また、若年層となるU20、U23については、「国際競争力」をつける育成を目指したい。これは、コロナ禍の影響で止まってしまっていた国際経験を豊かにする機会を、吸収の早い若年層のうちに積み重ねていけるようにしようというもの。すでにダイヤモンドアスリート制度を実施しているが、これに加えて、大学生アスリートを中心に、安藤財団(公益財団法人 安藤スポーツ・食文化振興財団)から多大な協力をいただき、海外研鑽をさせている。今年度は、これまで以上に選手たちのサポートを推奨し、拡充させていくことにも取り組んでいきたい。

◎アジア選手権、アジア大会の位置づけ
2023年度は世界選手権だけでなく、バンコク2023アジア選手権杭州2022アジア競技大会も開催される。1年に主要大会となるこの3つが重なるのは異例であるが、「パリオリンピックに参加する選手たちを一人でも多く」という観点でみると功を奏するものとなる。このアジアの2大会については、近年ではアジア選手権の位置づけが大きくなっている状況だが、両大会をうまく利用し、パリオリンピックの出場者を1人でも多く輩出したい。
また、これら3大会への出場意思は、世界選手権、オリンピック出場につながるWAワールドランキング制との兼ね合いもあるため、個人の権利に依存することになる。選手個々の競技レベルにもよっても状況は異なってくるため、そのあたりも踏まえて対応する。
アジア選手権とアジア大会の代表選考は、日本選手権終了時点で決めていく計画が立っている。このため、選手たちは、世界選手権の内定も含めて、日本選手権の段階で、おおよその目算をつけることができる状況となる。このあたりは、各ディレクターとも確認済みで、本日のカンファレンスで周知も行っている。

◎パリオリンピックへの準備を兼ねた事前キャンプの実施
このほか、パリオリンピックに向けた準備の一環としては、ブダペスト世界選手権の事前キャンプを、パリ近郊で実施することを計画している。これは、パリの事前キャンプ地として候補に挙がっている場所を今年利用することで使い勝手の良さを含めて精査し、そのうえでパリオリンピックにおいて活用するためである。オリンピックはADカードの取得が非常に困難で、各専任コーチが選手村や会場に入ることはまず望めない状況となるため、こうした拠点を設けることで大会直前まで専任コーチとの協力態勢をとれるようにすることを目指す。長距離、マラソン、競歩種目については、異なる形をとるかもしれないが、トラック&フィールド種目としては、パリから車で40~50分に位置するところを候補に据えている。また、パリオリンピックの日本代表選考要項についても、これから考えていくことになる。早めに計画を出し、日本選手権の前には、パリに向けて、ブダペストに向けてという青写真を描いていけるようにしたい。

◎アスリート委員会との連携
また、本日のカンファレンスでは、アスリート委員会についての説明を行った。アスリート委員会自体は、以前から強化委員会に属する形で存在していたが、このたび専門委員会として独立し、現役競技者の戸邉直人選手(JAL、走高跳)が委員長に就任した。強化委員会としては、これまで同様にサポートしていくと同時に、選手強化または情報提供、選手たちの意見を汲むというところも含めて、アスリート委員会との関係を、より強固なものにしていけたらと考えている。


【中長距離・マラソンについて】

高岡寿成シニアディレクター(中長距離・マラソン担当)

中長距離・マラソンは、東京オリンピックのときは、トラックで入賞が3、マラソンで入賞が2であったが、オレゴン世界選手権では入賞がゼロという結果だった。パリオリンピックに向けては、ブダペスト世界選手権で入賞のみならず、メダル獲得に向けて準備を進めていきたいと思っている。

◎中距離について
まず、中距離では、ブダペスト世界選手権に向かうところで、ターゲットナンバーが前回のオレゴン世界選手権のときから大きく拡大している。パリオリンピックに向けても、ブダペスト世界選手権に出場し、WAワールドランキングのポイントを獲得することが非常に重要になってくるのではないかと思っているし、すでに2月、3月と、室内の競技会であったり、オーストラリアへの遠征であったりという形で、中距離の選手もポイントを上積みすることを目的に、遠征を繰り返しているといった状況である。

◎長距離について
長距離に関しては、ブダペスト世界選手権の参加標準記録が非常に高くなり、日本記録を上回る状況になっている。そのなかでロードでの記録も参加標準記録に関わってきたり、10000mにおいては、世界選手権10000mの出場資格にクロカンツアーのトップ8が加わり、ターゲットナンバーから出場が難しい状況になっている。日本のトップ選手は記録の突破やワールドランキングでなくクロカンツアーの参戦も検討しなければならない。
現在、日本で開催されているクロスカントリー大会が非常に少なく、選手がクロカンに挑戦していくにはハードルの高い状況にあるが、情報を集めつつ、出場を検討していく必要があると考えている。また、女子長距離では、研修を兼ねた練習会を実施するなどの取り組みも始めている。そうした成果も今後、期待していきたい。

◎マラソンについて
マラソンについては、すでにブダペスト世界選手権、杭州アジア大会の代表を発表した。出場する選手は、非常によい自己記録を持っているので、メダルの獲得や入賞を視野に入れて、調整を進めてもらいたいと考えている。また、パリオリンピックに向けては、マラソンについては、すでに道筋が決まっているので、どの選手も、それに沿って準備を進めているものとみている。(具体的には)10月15日に、東京でマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)が開催され、ここで男女各2選手が内定し、その後、MGCファイナルチャレンジで最後の1名が決まることになる。MGCファイナルチャレンジの派遣設定記録に関しては、現在、協議を始めたばかりである。決まり次第、公表する計画を立てている。


【競歩について】

今村文男シニアディレクター(競歩担当)

競歩については、今年行われる3大会(ブダペスト世界選手権、アジア選手権、アジア大会)の選考競技会は、すでに男女20km競歩が終了していて、残すところ4月16日に石川県輪島市で実施される日本選手権35km競歩のみとなっている。

◎男子20km競歩について
現状の進捗については、男子20kmでは昨年のオレゴン世界選手権で優勝した山西利和は、ワイルドカードにより出場権獲得済みで、5月に海外レースへ出場してからしっかりと準備をしていこうと聞いている。さらに、2月に行われた日本選手権20km競歩においては、昨年の世界選手権で銀メダルに輝いた池田向希(旭化成)、そして高橋英輝(富士通)がそれぞれ条件を見たし、代表に内定した。男子20kmについては、ワイルドカードの枠を含めて今回も4名が出場できる。すでに選考競技会が終わり、残り1名となっているが、よりメダルや入賞に到達できる選手を選考できるのではないかという期待感がある。

◎女子20km競歩について
女子20km競歩においても、昨年、オレゴン世界選手権で6位に入賞した藤井菜々子(エディオン)が、残念ながら派遣設定記録は破れなかったが、参加標準記録を突破しているなかで日本選手権を優勝している。最終的な発表は今後となるものの、ブダペスト世界選手権日本代表の有力選手と認識している。藤井については、今年は「メダル(獲得)を」という意識で臨んでおり、戦略的な強化やフィジカルの取り組みもできている。さらなる飛躍を期待したいところである。
また、女子20km競歩で、若手の柳井綾音(立命館大学)が急成長を見せている。柳井は、昨年のU20世界選手権で10000m競歩ではあるが銅メダルを獲得、また、全日本大学女子駅伝、富士山女子駅伝(全日本大学女子選抜駅伝)と駅伝のほうでも主要区間を務めるなど“二刀流”で頑張っている選手。3月の全日本競歩能美大会において1時間30分58秒で優勝した。年齢的にもまだ19歳、躍動感のある歩きとファイティングスピリッツを持って非常に前向きに競技に取り組んでおり、「このまま競歩を続けてくれればな」と思いながら見守っている。柳井については、この夏行われるワールドユニバーシティゲームズ(旧称:ユニバーシアード)での金メダル獲得、願わくば2025年に東京で開催される世界選手権に目標を置きたいと言っていたので、そういった思いが叶うような選考結果になればと…という状況である。

◎男女35km競歩について
35km競歩については、新しい種目ということで、昨年のオレゴン世界選手権においても、手探りのペース配分、レースの展開を準備する形となった。そのなかで、男子では、東京オリンピック男子50km競歩においてメダルを獲得できず悔しい入賞(6位)となった川野将虎(旭化成)が、満を持して臨み、優勝には1秒及ばなかったが、見事銀メダルに輝いている。おそらくブダペスト世界選手権では、その雪辱ということで金メダルを狙っていくことが見込まれる。川野については、4月30日までに参加標準記録を突破すれば代表入りが内定する状況にある。4月16日に行われる日本選手権に出場するので、そこで内定を勝ちとってほしいということと、世界選手権本番での活躍を期待したい。
女子に関しては、実施されたばかりであった50km競歩からの普及の段階にある種目だが、そのなかで昨年のオレゴン世界選手権では、園田世玲奈(NTN)が積極的なレース運びで9位という結果を残した。そういった点からも、次に続く新しいタレントとして、20km競歩から距離を延ばして積極的に参戦してほしいという考えがあったが、4月16日に行われる日本選手権には、岡田久美子(富士通、20km競歩日本記録保持者)も出場してくれることになった。いわゆる「1人エース」の状態ではなく、高い志を持つ複数名の選手が同じレースに出場することで、競技力の向上はもとより、国際的にも活躍できるチャンスが増えてくるのではないかと思っている。
ただ、ミックス(男女混合)で実施すると言われていたパリオリンピックの種目設定が頓挫状況となっており、情報も非常に錯綜している。今年のアジア大会についてはミックスで実施され、こちらは男女とも35kmを歩くようだが、オリンピックに向けては35km競歩という距離自体もどうなっていくか不透明。このため、男女問わず20km競歩の延長に35kmがあるというところに方針、または方向性を見出しながら強化を進めているが、選手のほうも、我々のほうも非常に戸惑いがあるというのが現状である。
※注:パリオリンピックにおける競歩男女混同団体種目については、42.195kmを4分割して男女2名が交互にリレーして競うという概要が、本会見実施2日後の4月8日に発表された。
▼ https://www.worldathletics.org/competitions/olympic-games/news/olympic-race-walking-event-paris

◎今後の全体強化の方向性
その他に関しては、限られた強化の予算、そして強化の事業のなかで、トップアスリートのさらなる強化、社会人3年目くらいまでの選手を対象に、山西・池田のようなトップアスリートへとプルアップできる強化の実施、そしてオリンピックの2大会先を見据えて、U23世代をボトムアップする取り組みをタレント育成強化として行い、所属先を超えて働きかけながら、複数のエースが新たに育っていくようにしていきたい。
さらに、JISS(国立スポーツ科学センター)、NTC(ナショナルトレーニングセンター)などのハイパフォーマンススポーツセンターを拠点として、競歩技術の強化や個別の指導のフォローアップなどについても、ハイパフォーマンスサポート事業の活用を視野に入れながら丁寧にやっていきたいと考えている。また、日本陸連だけでなく日本実業団連合や日本学連との連携を強め、育成年代の強化とトップ強化との連動をうまく図りながら、2023年度を進めていきたいと考えている。


【短距離(リレー)について】

土江寛裕ディレクター(短距離)

男女短距離は、2023年度の位置づけとして話を進めるとき、ブダペスト世界選手権に向けての点とパリオリンピックに向けての準備の点の2つのなかに、個人とリレーがある。また、リレーは、男子4×100mリレー・男子4×400mリレー、女子4×100mリレー、女子4×400mリレー、男女混合4×400mリレーに分かれ、それぞれに異なった状況にある。このため、多くの要素が複雑に絡んでいる。

◎男子ショートスプリント個人と4×100mリレー
まず、男子4×100mリレーから話を進めると、東京オリンピックに向けては金メダル獲得を目指して、かなり個人(種目)を犠牲にしながら臨んだが、残念ながら失格という結果に終わっている。その反省をもとに、パリオリンピックに向けては、「しっかりと個人が戦えたうえでリレー」という位置づけに変えて強化に取り組んでいる。昨年のオレゴン世界選手権では、サニブラウンが実力を発揮し、日本陸上界としての念願であった100mの決勝に残ることができた。ただ、残念なことに、そのあとに行われた4×100mリレーは失格に終わり、記録を残すことはできなかった。これは、サニブラウンがリレーを走れなかったことと、新しいメンバーで組んだことで、これまでのノウハウを受け継いで情報を伝えていく選手がいなかったことも原因の一つとして挙げられ、さまざまな反省点があると考えている。
今年に関しては、まず(シーズン)前半となるアジア選手権までは、個人を中心にやっていくことを考えている。それぞれの選手に、自身の記録なり、WAワールドランキングのパフォーマンススコアなりを、世界で戦えるところまで引き上げていってもらう方針でいる。特に、パリオリンピックへの準備という点では、7月から参加資格の有効期間が始まるため、アジア選手権は、世界選手権とオリンピックの両方に効く大会となる。しっかりと個人で結果を残し、オリンピックにつなげていけたらと考えている。
4×100mリレーは、昨年の記録がないため、ブダペスト世界選手権の出場権はまだ得られていない。このため、アジア選手権のあと、ヨーロッパで行われるダイヤモンドリーグで4×100mリレーを実施する大会に臨み、一発で出場権を獲得することを考えている。実施される大会は、まだ確認中の段階だが、ロンドンダイヤモンドリーグ(7月23日)が有力とみられている。
リレーについては、来年5月初旬にバハマで世界リレーが開催され、そこでパリオリンピックの出場16カ国のうち14カ国が決まることがすでにリリースされている。この世界リレーへの出場条件はまだ発表されていないが、今年、国際レースにおいて、しっかりと4×100mリレーで記録を残していくことが重要になってくる。このため、アジア選手権を個人種目に出場しない選手でリレーを組む可能性も含め、ダイヤモンドリーグ、世界選手権、そしてアジア大会などで、しっかりと世界リレーにつないでおくところが最低条件として必要と考えている。

◎男子ロングスプリント個人と4×400mリレー
男子4×400mリレーに関しては、これまでJSC(日本スポーツ振興センター)の次世代ターゲットスポーツ育成支援事業の対象に選択されたことで、潤沢な強化予算を使って積極的な強化を行うことができた。それが結実した形で、2021年世界リレー2位、東京オリンピックでの日本タイ記録、そして昨年の世界選手権決勝で3分の壁を破るアジア新記録(2分59秒51、4位入賞)の樹立に至っている。また、この結果により、ブダペスト世界選手権の出場権もすでに獲得している。このため、世界選手権までは個人種目に注力し、しっかりスコアを上げたり、参加標準記録を狙ったりすることができる。ブダペストに向けても、昨年の入賞メンバーを中心に、「次はメダル」というところを現実的な目標として持ち、非常に高い意識で取り組むことができている状況である。
4×400mリレーにおいても、パリオリンピックに向けては、来年の世界リレーが非常に重要となるため、今年、しっかりと結果を残すことで世界リレーにつなげ、パリへの足がかりとしたい。

◎女子個人種目と両リレー
女子4×100mリレー、4×400mリレーについては、女子4×100mリレーは昨年の世界選手権予選で日本新記録(43秒33)を樹立した。兒玉芽生(ミズノ)や君嶋愛梨沙(土木管理総合)といった中心選手が出てきて、非常にいい方向に進んでいる。ただ、日本記録を出しても予選通過には届かず、世界で戦うには42秒中盤のタイムが必要となる。女子も男子と同様で、リレーに偏りすぎず個人の強化をしっかりやっていく必要があるという認識でいる。兒玉・君嶋を中心に、個人でアジア選手権、世界選手権に出場する選手を育て、そのうえで同時にリレーのチャンスを考えていくようにしたい。これは女子4×400mリレーも同様で、まずは個人のレベルをしっかり上げて、個人で戦える状況でリレーが組めるようにしていくことを目指す。そして、リレーでは、今年のアジア選手権、世界選手権、アジア大会のどこかで記録を出して世界リレーにつなぎ、「戦える個人」を擁した形でパリオリンピックを迎えられるような強化をしていきたい。

◎男女混合4×400mリレー
男女混合4×400mリレーについては、なかなか手が回らないというのが正直なところ。ただし、むしろこの種目のほうが、パリオリンピックに近い可能性もある。それが見込まれる場合は、今年度中のどこかでリレーを組み、来年の世界リレー、オリンピックをつないでいくことも検討していくつもりでいる。
このように、いろいろな変化する要素があるために、なかなか計画的に進めるのは難しい状況にあるが、パリオリンピックに向けた準備としては、すべての種目において、今年度が足がかりとなるようなシーズンにしたい。


【ハードルについて】

苅部俊二ディレクター(ハードル)

◎2022年度の評価
ハードルブロックは、去年のオレゴン世界選手権では、合計で7名が出場した。男子110mハードルでは、泉谷駿介(住友電工)、村竹ラシッド(順天堂大学)、石川周平(富士通)の3名が出場し、泉谷と石川が準決勝に進出した。泉谷には、決勝進出も期待していたが、残念ながらこれは叶わなかった。黒川和樹(法政大学)と岸本鷹幸(富士通)出場した男子400mハードルでは黒川が準決勝に進出。女子100mハードルでは、福部真子(日本建設工業)と青木益未(七十七銀行)がともに準決勝に進み、福部については、準決勝で8着ながら12秒82という日本新記録も樹立している。ハードルとしては、ある程度の結果をオレゴン世界選手権では残してくれたのではないかと思っている。

◎スプリントハードルの状況
今年は、男女スプリントハードルで、ブダペスト世界選手権参加標準記録突破者がすでに4人出ている。男子110mハードルでは高山峻野(ゼンリン)、泉谷、村竹が突破。特に村竹は、3月11日にシドニー(オーストラリア)で13秒25をマークと、今年に入って参加標準記録を突破している。また、女子100mハードルでは、福部が昨年9月に12秒73へと日本記録を更新して、参加標準記録を突破した。
男子110mハードルは、日本のレベルが近年向上しており、“世界に近い種目”として日本選手が活躍できるようになっている。ここまでに挙げた選手のほかにも続く選手が多く存在し、楽しみな状況になっている。また、女子100mハードルも、寺田明日香(現ジャパンクリエイト)が12秒台を2019年に出して以降、そこから記録が向上する形になった。寺田、青木、福部が日本記録を複数回更新する形で、12秒73まで記録を伸ばしており、世界に近づいてきているといえる。

◎400mハードルの状況
400mハードルに関しては、男女ともにまだ突破者は出ていないが、男子は、前述の黒川・岸本のほか、田中天智龍(早稲田大学)も良い記録をマークしている状況。多くの選手が世界選手権に出場してくれたらと思っている。今季に入ってからは、黒川が4月2日に気象条件に恵まれないなかで49秒35を出してきた。早いタイミングで参加標準記録を突破してくるのではないかとみている。
女子については、世界選手権の参加標準記録は54秒90。宇都宮絵莉(長谷川体育施設)が少しずつWAワールドランキングのポイントを積み重ねていて、なんとかランキングでの出場が可能になれば…という状況ではあるが、なかなか厳しいところにいるというのが正直なところである。このため、女子400mハードルについては、まずはアジア選手権、アジア大会あたりを目指し、少しずつ世界に近づいていってくれたらと思っている。

◎パリオリンピックに向けて
このように、トップ選手も力を発揮できるようになってきたし、若手も育ってきているので、いい感じでブダペスト世界選手権に臨み、来年のパリオリンピックを迎えることができればと考えている。強化方針としては、今年に関してはアジア選手権、アジア大会があったので、多くの選手のサポートと強化に努めていたのですが、パリに向けてはもう少し強化する選手を絞って迎えるようにすることを計画している。パリでは、なんとか決勝を、そしてメダルに近い位置、メダルに届くよう、しっかりと進めていきたい。


【跳躍について】

森長正樹ディレクター(跳躍)

◎跳躍ブロック全体の展望
跳躍ブロック全体の目標としては、今年は、ブダペスト世界選手権が開催されるので、そこで入賞を確実に、メダルに手が届くのであれば、その辺りまで行くことができればと考えている。また、来年にはパリオリンピックが開催されるので、そこを見据えて、今年行われるアジア選手権、アジア大会へ、確実に多くの選手が出場できるよう戦略等を立てて、進めていければと思っている。
最終的には、来年のパリオリンピックにおいて、跳躍でメダルを獲得することが最大の目標となってくる。フィールド種目が1人で出場して、1人で戦っていくのが非常に難しい種目であることから、オリンピックでは、各種目で複数人が出場し、さらにそのなかで数名が決勝に進んでいくような状況をつくりだしていくことを目指して、強化を進めていきたいと考えている。

◎今後の強化の道すじ
具体的には、跳躍のなかでも大きく2通りの形をとって進めていく。まず、上位選手…すでにターゲットナンバー付近にいる選手に関しては、世界選手権等で力を発揮できるよう積極的に国外の大会等にチャレンジしてもらい、そのなかで自分自身の(試合の)ペースや(戦い方の)パターンを見つけてもらうといった形で進めていくことが1つめとなる。
そして、もう一つは、情報共有しながら全体を強化していく形を進めていくことである。より多くの選手が各種世界の大会に出ていくためには、その下の選手層の底上げが大事になってくるが、跳躍をはじめとフィールド種目は参加標準記録が非常に高い位置に設定されているので、現実的により多くの選手が代表となっていくためには、ターゲットナンバーを見据えてポイントを獲得できるよう進めていくことが必要となる。どういった状況でも安定して結果を出していく力、特に重要な大会で確実にポイントを稼いでいく力を高めるために、科学委員会等に協力を仰ぎ、各種の情報を提供していただき共有していく。今までは、国内選手同士では、どうしてもライバル意識などが働き、実現が難しい面もあったが、今後は、跳躍として一つのチームとなって、全体の力を高めていけるようにしようと、先ほど行ったミーティングでも話をした。
そこで必要となれば、各種データの共有のためのミーティングを実施するとか、体力やストレングス等、求められる強化要素があれば、それに特化したコーチが跳躍として全体をみていくような形もとるなど、新たなチャレンジもできるような態勢をとって進めていきたい。最終的に、パリ、さらにはその次の機会に、多くの跳躍選手が世界にチャレンジしていけるような見据えた強化を進めていきたいと考えている。


【投てきについて】

田内健二ディレクター(投てき)

◎今年度も全体の底上げに主眼
投てきについては、東京オリンピックまでは男女やり投に特化してきたが、今年度も、(方針を変更した)昨年度と同様に、投てき全体のレベルアップを図ることを大前提として進める方針でいる。そのために、選手を中心としたチームの活動が最適化されるようにサポートする計画である。また、世界選手権に行くためには、WAワールドランキングの順位を上げていく必要があるため、強化費に関しては、海外のランクの高い大会に積極的に派遣することをサポートしていく。また、こうした海外の大会にエントリーされないレベルの選手に対しても、強化競技者に対しては、科学委員会と連携し、映像やデータのフィードバックを即時的に実施したり、手厚く行ったりするなど、選手からの要望を聞いて対応していきたい。
2023年度のシーズンが終わり次第、オリンピックイヤーに向けて対象を絞り、よりパリオリンピックを想定した選手強化に移行していくことを計画しているが、今年度については、全体の底上げに主眼を置きたい。全体を手厚くサポートしていくのは、なかなか難しいことではあるが、できるだけ多くの情報共有を行って、進めていけるようにしたい。

◎男女やり投について
今シーズンに関しては、最大の狙いとなるのはブダペスト世界選手権。世界のレベルに近いところから述べていくと、やはり男女やり投を挙げることになる。特に女子の北口榛花は、オレゴン世界選手権で3位、ダイヤモンドリーグでもファイナリストになるなど、いよいよ具体的に金メダルを狙えるポジションに来ている。我々としても、ぜひ実現できるようにサポートしていきたい。また、同じくオレゴン世界選手権代表の武本紗栄(佐賀スポ協)、上田百寧(ゼンリン)に加えて、昨年は、世界選手権出場経験を持つ斉藤真理菜(スズキ)も60mを越えてきた。若い世代の層も厚く、高いレベルでタレントが揃っているという点で、女子やり投は、北口の金メダルだけでなく、複数での入賞も狙える状況にある。
また、男子に関しては、オレゴン世界選手権9位のディーン元気(ミズノ)、そして同じく世界選手権に出場した小椋健司(エイジェックスポーツマネジメント)が中心となるほか、昨年復調の兆しを見せた新井涼平(スズキ)が今季はすでに80m越えの投てきを見せ、完全復活の印象がある。また、“世界の入り口”といえる80m前後の力を持つ選手も多く、期待できる状況にある。男子やり投はベルリン世界選手権で銅メダルを獲得した村上幸史以降、入賞に届きそうで届かないことが長くなっているので、ブダペストでは、そこを打破する活躍を見せてほしい。男女やり投は、昨年のオレゴンでは男子2、女子3のエントリーであったが、今年の世界選手権では男女3名ずつのフルエントリーで臨み、その中からより多くの選手が入賞やメダルに到達できるようにしていきたい。

◎女子円盤投への期待
世界レベルでみると、男女やり投のほかでは、女子円盤投の郡菜々佳(新潟アルビレックスRC)がかなりいいポジションにいて、今季も調子が良い状況にあるので、具体的に世界の舞台に立てるようサポートしていく。齋藤真希(東海大学大学院)も非常に調子がいいと聞いているので、この2人が中心となって競い合うことで、女子円盤投でも複数名が世界選手権出場を果たすことができればと考えている。郡については、実際には2019年世界選手権にインビテーションでの出場を果たしているが、ぜひ、WAワールドランキングのターゲットナンバー内にしっかり入って、本番で戦っていける選手になってほしい。

◎その他の種目について
これ以外の投てき種目については、世界レベルという点では厳しいというのが正直なところだが、4月1日に、女子ハンマー投で村上来花(九州共立大学)が65m33をマークしている。また、男子砲丸投と円盤投では、どちらも日本記録(砲丸投:18m85、円盤投62m59)を更新できる選手が揃っている。まずは日本記録を更新してくることを期待したい。また、女子砲丸投と男子ハンマー投に関しては、日本記録(18m22/84m86)を更新することは世界のレベルに近づくことになるのだが、この位置に達する選手は、現状は見当たらない。ただし、今年は、アジア選手権とアジア大会が開催されるので、まずは、これらの大会で活躍できる選手が出せるようにサポートしていき、行く行くは世界の舞台に立てるように考えていきたい。


【混成について】

眞鍋芳明オリンピック強化コーチ(混成)

◎2022年度シーズンを振り返って
混成ブロックとしては、2022年度シーズンは、男子は丸山優真(住友電工)の7807点とアジア室内優勝、奥田啓祐(第一学院高教)の8008点とアジア室内の銀メダル、女子はケガから復帰したヘンプヒル恵(アトレ)の5872点、山﨑有紀(スズキ)のアジア室内銅メダルと、持てる力を発揮しながら世界を目指している状況となった。これまで男子のトップ2として世界で戦ってきた右代啓祐(国士舘クラブ)と中村明彦(スズキ)は年齢的な問題もあり、往年のハイパフォーマンスを発揮するのが難しくなっており、世代交代を感じさせるシーズンとなった印象がある。

◎ブダペスト世界選手権出場に向けて
ブダペスト世界選手権出場という観点で見ていくと、昨年のオレゴン世界選手権のエントリーでは、ワールドチャンピオンを除くと、WAワールドランキングで十種競技が28位くらい、七種競技は30位くらいまでが出場することができている。このあたりが当落線上と考えて、パフォーマンススコアをみると、概ね十種競技だと1200点は欲しい、七種競技では1160点くらいが欲しいということになる。混成競技は、アジア圏内ではメダル獲得および優勝は十分に狙えるため、それを利用しない手はなく、さらにターゲットナンバー24に入るためにはアジア選手権で勝つしかないという状況である。
昨年の男子のトップ2である丸山、奥田が、それぞれパフォーマンススコアで1200点に到達するためにはアジア選手権を8000点で優勝することが必須であり、奥田に関しては、日本選手権で8000点を出し、さらにアジア選手権でも8000点を出していかないと、世界選手権の舞台に立つのは難しい。ただし、すでに奥田は8000点をマークしており、決して不可能なことではない。丸山・奥田ともに、なんとかこれをクリアし、世界選手権出場を果たしてもらしたい。
女子については正直なところ、かなり厳しいのが現状である。仮に、ヘンプヒルが日本選手権で6000点を獲得して優勝し、アジア選手権も6000点を取って優勝すると、我々が想定する1160点のパフォーマンススコアに到達することがはできるが、女子についてはアジアにおいても、アジア室内を制したヴォロニナ(ウズベキスタン)というアベレージで6000点を取ってくる選手がいるため、そうしたライバルたちに打ち勝ち、目指す大会でしっかりと6000点を出していくしかない状況にある。

◎アジア選手権出場に向けた取り組み
強化費等は潤沢にあるわけではないので、これらのことから、アジア選手権等に出場するために使うのではなく、アジア選手権で優勝するために使用していくことを考えている。また、男女ともに3番手以降に位置する選手たちにも、アジア選手権への出場のチャンスはある。これらの選手たちは、なおさらに日本グランプリシリーズの木南記念やWRk対象競技会(ワールドランキングコンペティション:WAへの事前の申請により、WAワールドランキングおよび国際大会の参加標準記録の対象として許可された競技会)で少しでもランキングを上げながら、日本選手権でハイパフォーマンスを発揮してほしいと思っている。


取材・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)

※本稿は、4月6日に、メディアに向けて実施した2023年度強化方針発表の内容をまとめたものです。より明瞭化することを目的として、各氏の発表に補足説明を加える、質疑応答で出た内容を各氏の項に挿入するなどの編集を行っています。


■強化委員会組織図
https://cms.jaaf.or.jp/files/upload/202304/11_130341.pdf

■2023年度 国際大会日本代表選手選考要項
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15943/

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