陸上の大会はたくさんの「縁の下の力持ち」によって支えられています。2022年1月号から連載してきた陸ジョブナビは今回が最終回!ラストを飾るのは〝審判の審判〟とも言われる「JTO(Japan Technical Officials)」についてです。日本選手権をはじめ各種全国大会でサポートする青柳智之さんにお話を聞きました。
■JTOとは?JTOになるためには?
青柳智之さんは中学校から陸上部に所属し、高校、大学と110m、400mの両ハードルを専門に競技を続けていました。そこから、審判を務める経緯を話してくれました。「大学1年の時に膝の半月板のケガをして、その時点で競技からは一度退きました。そんな時に、お世話になった先生方から『ちょっと審判を手伝わないか?』と声をかけていただき、大学の時に審判員資格を取ったのです。ですから、審判歴は大学2年生だった19歳から。今は46歳なので、もう25年以上になりますね」その後、大学院を経て地元の長野で教員を務めながら、審判員としてのキャリアを積み重ねています。そして、36歳だった2013年に、当時最年少でJTO(Japan Technical Officials:日本陸連技術委員)試験に合格しました。でも、そもそも「JTO」とはどんなお仕事なのでしょうか。
「元々、オリンピックや世界選手権などの国際大会で、審判のジャッジでトラブルがないように対応する『ITO(International Technical Officials:国際技術委員)』と言われる役割がありました。その日本版として作られたのがJTOです。大会がルール通りに、スムーズに、トラブルなく進行できるように、そして万が一トラブルが起きたとしてもトラブルを最小限にして進行できるように審判長を補佐する役目です。日本陸連主催大会や共催大会、日本グランプリシリーズ、JMCシリーズなど大規模な大会で現場の審判をサポートしています」JTO資格を持つ審判員は現在、日本では55人。どうしたらJTOになることができるのでしょうか。
「JTOになるためには試験を受ける必要があります。何年かに一度、日本陸連でJTO試験が実施され、地域陸協から推薦されると試験を受けることができます。陸上競技の審判はC級から始まり、それぞれ一定の基準を満たすことでB級、A級、S級へと昇格します。A級の資格を取らないとJTOの受講資格を得られません。また、審判や審判長を補佐する役目なので、各競技会で主任や総務の経験を積んでいることも必要です。関東や東北といった各地区のブロックから2人ずつJTO候補者として推薦され、そのメンバーがJTO養成講習というセミナーを受けます。その後に試験を受けて合格し、日本陸連の理事会で承認されると晴れてJTOのメンバーになることができます。セミナーは2日間しかありませんが、それまでに経験をしてきた審判の業務やルールの知識などが大事になるので、講習会の2日間はそれまでやってきたことの確認といった感じですね」知識と経験を積んだ人が試験を経て、合格すると、晴れてJTOのメンバーになれるんですね!
■年間スケジュールや1日の流れ
日本選手権やインターハイ、国体などの陸上競技場で行われるトラック&フィールドの競技会から、室内競技会、マラソン、駅伝、競歩などのロードレースまで多岐にわたります。JTOとして派遣される大会での1日はどんな流れになるのでしょうか。「大会によってスケジュールも変わりますが……」と前置きをしながら、「最も過酷」だというインターハイを例に聞きました。「インターハイは真夏に5日間にわたって活動するので、JTOの中でも最も過酷な大会です。前日の監督会議から参加するので、派遣期間もほぼ1週間と長いです。開催地にもよりますが、大会期間中は朝6時半過ぎにはホテルを出発。朝食を競技場で摂って、7時15分から7時半ごろには審判の主任会議に参加し、準備を進めます。現地の審判員と一緒に、トラック種目や跳躍種目、投てき種目など担当が現場で分担されます。競技が同時に行われるので、昼食は途中で相談しながら、空き時間で。インターハイは夜も遅く、競技終了が20時頃になる日もあるので、ホテルに戻ったら食事、洗濯をして次の日に備えます」JTOはどの大会でも、常に冷静な判断が求められます。
「どの大会も選手にとっては重要ですが、特にインターハイでは、その結果によって将来がかかってくる選手がいます。また、監督やチーム関係者が熱くなることもあります。それでも、どんな時でも審判長とルールブックを見せながら対応し、抗議の場合は動画を見せながら「『こういうジャッジをしました』と冷静に、事実をお伝えするように心掛けています。大会が終わった時はいつもホッとした気持ちと達成感を感じます。大会をやっている間は緊張感とアドレナリンが出ているのか疲れないのですが、大会が終わった次の日はぐったりしています(笑)」
▼競技会を支える審判の方々。前列右から4人目が青柳さん
■陸上が好き!審判が好き!
JTOの方々のほとんどは、普段は仕事をしながら、休日や有給休暇などを利用して活動しています。「私は小学校の教員をやっています。インターハイはちょうど夏休み期間ですが、国体の時期は仕事の調整をして活動していますね」JTOのやりがいについて、「基本的に、私は陸上が好き、審判が好きなのです。競技場にいられるのが幸せ。みんなが幸せに感じるような大会を作り上げていくことに、やりがいを感じますね」と青柳さん。これからの目標については、次のように話します。「日本でいつでも質の高い競技会を提供できることです。主役はもちろん選手ですが、運営スタッフの力で少しでも選手のみなさんのパフォーマンス向上に貢献できたらいいなと思っています。選手のみなさんに伝えたいことは『ある程度、ルールを知ってほしい』ということ。例えば、跳躍などの待ち時間や抗議の方法などですね。ルールを知っていることは、自分を守ることにもつながります」また、JTOとして11シーズン目を迎える青柳さんは、〝世界〟にも目を向けています。
「WA(世界陸連)でもゴールドレフェリー、シルバーレフェリー、ブロンズレフェリーという審判資格があります。国際審判の資格を持つことで、国際大会や海外の大会にも派遣されるようになってきます。JTOでも挑戦する道はいろいろありますし、若い方にも地元の大会でまずは挑戦してもらえたらいいかなと思います」陸上競技が大好き、審判が大好きという青柳さんは、これからも〝現状打破〟し続けます!
>>インタビューVol.27(PDF版)はこちら
■青柳智之さん
中学1年から陸上部に所属し、大学2年時に審判員資格を取得。大学院修了後、地元・長野で教員として小・中学校に勤務している。36歳でJTO(Japan Technical Officials:日本陸連技術委員)に合格(当時、最年少合格)し、日本選手権、国体、インターハイ、全中などの大会支援に従事。現在、日本陸連競技運営委員会幹事、長野陸協常務理事(競技運営担当)。東京オリンピック・パラリンピックでは、スターター主任を務めた。ちなみに、全日本スキー連盟(SAJ)の準指導員の資格も有している。
■M高史(えむたかし)さん
1984年生まれ。中学、高校と陸上部で長距離。駒澤大学では1年の冬にマネージャーに転向し、3、4年次は主務を務める。
大学卒業後、福祉のお仕事(知的障がい者施設の生活支援員)を経て、2011年12月より「ものまねアスリート芸人」に転身。
川内優輝選手のモノマネで話題となり、マラソン大会のゲストランナーやMC、部活訪問など全国各地で現状打破している。
海外メディア出演、メディア競技会の実況、執筆活動、ラジオ配信、講演など、活動は多岐にわたる。
~月刊陸上競技3月号(2月14日発売)掲載~
「陸ジョブナビ」アーカイブ
Vol.13~(2023年1月~)
【Vol.13 タイム計測編】徹底した準備でランナーの努力を刻む【Vol.14 通訳編】来日した外国人選手をサポート
【Vol.15 高校生審判編】大会運営を支える高校生たち
【Vol.16 競技場検定員編】安心・安全、正確な競技会を目指して
【Vol.17 スポーツカメラマン編】感動の瞬間を世界に届ける
【Vol.18 セイコーGGP・日本選手権直前スペシャル】大会担当のお仕事を紹介
【Vol.19 レースマネージャー】ホクレン・ディスタンスチャレンジを盛り上げる
【Vol.20 国際大会渉外担当】世界で活躍する日本代表選手を支える
【Vol.21 マーシャル】選手も観客も安心・安全に競技に集中してもらうために
【Vol.22 リレフェス担当編】みんなが"笑顔"になれるイベントを目指して!
【Vol.23 マラソン大会ボランティア編】マラソン大会を支える!
【Vol.24 JUMP FESTIVAL編】ジャンプでみんなにワクワクを
【Vol.25 関東学連 学生幹事編】第100回箱根駅伝に向けて準備中!
【Vol.26 公認スポーツ栄養士】アスリートの「土台」作りをサポート!
Vol.1~Vol.12(2022年1月~12月)
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【掲載内容】・競技場アナウンサー編
・写真判定編
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・競歩審判員(JRWJ)編
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・トレーナー編
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・世界陸連公認代理人(AR)編