写真:アフロスポーツ
「オレゴン2022世界陸上競技選手権大会」が7月15日(金)、アメリカ・オレゴン州のヘイワード・フィールドスタジアムにおいて開幕しました。コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な拡大の影響で、東京オリンピック同様に1年の延期を得て行われた今大会は、7月24日までの10日間の日程で開催されます。第1日となる7月15日は、モーニングセッションが午前9時05分からスタート。日本勢は、男子走高跳予選、男女混合4×400mリレー予選のほか、大会最初の決勝種目として、男女20km競歩の決勝に出場しました。
そのなかでも、素晴らしい成果を上げたのが男女20km競歩です。前回チャンピオンの山西利和選手(愛知製鋼)と、東京オリンピックでその山西選手を制して銀メダルを獲得した池田向希選手(旭化成)が終盤でマッチレースを展開する展開となり、山西選手が、1時間19分07秒で2連覇を達成。池田選手が1時間19分14秒で、世界選手権では自身最高順位となる2位で続き、「ワンツー・フィニッシュ」を達成したのです。さらには、今回初出場の住所大翔選手(順天堂大学)も1時間20分39秒で8位に入賞する活躍を見せました。
また、男子に先駆けて行われた女子20kmでは、藤井菜々子選手(エディオン、ダイヤモンドアスリート修了生)が徐々に順位を上げていくレースを展開しました。ファイナルラップを5位で回りましたが、フィニッシュ直前でHong LIU選手(中国)にかわされて1時間29分01秒でフィニッシュ。世界選手権・日本人過去最高タイの成績となる6位入賞を果たしています。
男女20km競歩の各選手のコメントは、以下の通りです。
◎山西利和(愛知製鋼)
男子20km競歩 金メダル 1時間19分07秒
写真:アフロスポーツ
(2大会連続で金メダルを取れたことは)すごく嬉しいことだし、誇らしいこと。連覇という気持ちもあるが、一方で(池田選手に敗れた東京オリンピックの)リベンジという気持ちもあった。本当にいろいろな感情を抱えながらレースに臨んでいたと思う。今回は、ある程度、「集団を絞っていく」ということを1つテーマとしていた。それをちゃんとできたと思う。(スタート直後で飛び出したが、4kmあたりから集団のなかで進む歩きに変えたのは)もう少し速いペースで持つかなと思っていたから。ただ、ちょっと動きが噛み合わなかったので、追いつかれて集団に入ってから少しフォームや余裕度を確認する時間をつくった。今日は湿度が低く、(男子の前に行われた)女子のペースもけっこう速かったと聞いて、「じゃあ、それなりのペースで行っても大丈夫なんだろうな」というのと、体感的にも意外と行けるなというのがあったので、最初少し早めに入った。また、ペースは、具外的に決めていたわけではなく、自分の力感との相談だと考えていた。「スローペースで入って、ゆっくり10kmまで(レースが進む)」みたいなのがイヤだったので、まずレース全体の流れをまず自分で決定させようという思いがあった。
その後は、10kmから段階的に(ペースを)上げていこうかなと思っていた。そこはある程度、決めたことをきちんとやれたと思う。
(池田選手と)2人になってからは、まず、後ろの2人…ダシンバ選手(ケニア)とカールストローム選手(スウェーデン)の状態を見た。けっこう止まっていたので、「これだったら、追いつかれないか」という安心感と、「じゃあ、この2人(自分と池田)でどうしようか」というところになった。彼は集団のなかでかなり力を溜めていたと思うので、どこで(勝負を)決めるか。そして、自分の余裕度やフォームの余裕度などを確認しながら、最後は思いきっていこうという気持ちだった。
ラスト3kmも(ペースを)上げるポイントとして考えていたところだった。とにかく段階的に集団(の人数)を絞っていき、その上でラストをどう差しきるか、というのが目的だった。
途中までは集団が大きかったので、東京(オリンピック)のレースがフラッシュバックしたが、そう意味では、本当に東京と同じような展開になりかけるところを、残された課題をまたもらったのかなと思って、今年はきちっと決めたいなと思ってレースをしていた。
ただ、もっと落ち着いて動けると思うし、まだチョロチョロした動きが多いかなと思う。今日の僕の実力はあんなもの。もっと力をつけていかないと、本当の「横綱相撲」にするには足りないものがあるなと思っている。
東京(オリンピック)が終わって、少し自分のなかでは新しいフェイズに入ったというか、今日までの自分のストーリーと、ここからの自分にとってのストーリーは全然違うものだと思うので、そういうものを今新しく紡いでいる途中という感じがして、そこはすごく楽しめていると思う。まだまだ途上だし、できることはたくさんあると思うので、道が続く限りは…たぶん一生続くのだろうが、しばらくは休めたらいいなと思う。
▼山西利和選手:レース後コメントはこちら
◎池田向希(旭化成)
男子20km競歩 銀メダル 1時間19分14秒
写真:フォート・キシモト
「嬉しさ半面、悔しさ半面かな」というのが、直後の率直な感想である。山西選手がああいうレーススタイルであることはわかっているので、「そこで慌てるのではなく、自分のスタイルを貫こう」と、「じわりじわりと追いつけばいい。トータルで勝てばいい」と、そういうレースプランで行こうと判断した。ただ、前(の選手)との距離を10秒は空けたくはないなという話はコーチともしていたので、そこを押さえつつ、周りを利用しながら、落ち着いて平常心を保ちながらいこうと考えていた。残り2kmで前に出たが、そこを行ききれなかったところが、最後で勝てなかった要因だと思う。ラスト5km、4kmのところもまだ余力があったので、「これ、行けるかもな。まだまだ落ち着いて行くぞ。いつ行ってもいいぞ」という心構えは常にしていて、そこも落ち着いてレースを進めることはできていたが、やはり途中、途中でペースアップをして、自分のやりたいレースをした山西さんには完敗だったなと認めざるを得ない結果となった。
(一方で)収穫は、「銀メダルで半分悔しい」と思えたところ。今までだったら、「メダルを取りたい」という一心でやっていたので、「嬉しさ100%」だったかなと思うが、そこは、ドーハ(世界選手権)、東京(オリンピック)と経験してきたからこそ、半分悔しさが残ったのだと思う。
ここまでコーチと作り上げてきて、歩型も自信を持って臨むことができたし、体調は、ドーハや東京オリンピックよりもいい状態で臨めたように思う。特に今回「個の力」だけの銀メダルでなく、「チーム力」という部分が本当に大きかった。私1人の力では決して取れなかった銀メダルで、(酒井)瑞穂コーチをはじめ、周りのスタッフ、チームメイト、所属の旭化成の方々など、サポートや応援をしてくださっている方々の力が、最後、後押ししてくれたのではないかと思う。
▼池田向希選手:レース後コメントはこちら
◎住所大翔(順天堂大学)
男子20km競歩 8位 1時間20分39秒
写真:フォート・キシモト
今日は何も考えずに、できるだけ先頭についていくというレースプランで臨んだ。後半粘ることはできなかったが、ペースアップをしっかりできていたので、そこはよかった点にしたいと思う。「自分は挑戦者」という思いがあったので、何のプレッシャーも感じることはなかった。先頭の2人(山西、池田)よりは緊張はなかったと思う。
タイムの1時間20分39秒は、ベスト(1時間20分14秒)から20秒ほどしか離れていない。達成度ということでは、すごくよかったのではないかと思う。
レースは、10km過ぎで(1kmの)ペースが3分台に上がった。そういう練習もしていたので、最初は自信もあったのだが、この暑さというなかで、まだまだ自分の力不足を感じる形となった。これから、パリ(オリンピック)に向けてしっかりスピード持久力を鍛えていく必要と、暑くなる夏の大会でしっかり歩ける、ベストパフォーマンスができるトレーニングをする必要があると感じた。
入賞することは、(以前から)夢見ていた部分ではあったが、(ここまでの過程において)途中から現実的なものになっていたので、10km過ぎからは「絶対に入賞する」という強い気持ちで、きつくなってからも「あと1km、あと1km」と粘ることを考えながら歩いた。
▼住所大翔選手 レース後コメントはこちら
◎高橋英輝(富士通)
男子20km競歩 29位 1時間26分46秒
写真:フォート・キシモト
輪島(全日本競歩)くらいから少し右の膝裏をケガしていて、6月中盤から7月頭まで練習をうまく積めない期間があった。勝負はできるかなと思っていたのだが、ここまでうまくいかないとは考えていなかった。レースペースでの練習が全然できていなかったが、とはいえ、力的には入賞は狙わなければいけない位置にいた。また、レースは(1km)4分少しのペースで進むかなと思ったので、そこで流れをつくって、後半でペースを上げていければと考えていた。ケアなどをしていただいて、フォームのバランスも戻ってきていた。ドクターの方にも、ずっと診てもらってやっていたので、力を出しきれる、勝負できると思ってのレースだったが、レースペースと力の入れ方(との調整)を本番だけでなんとかするのは難しかった。
山西とか池田くんとかとは、ずっと(一緒に競技を)やっていて、彼らの強さはわかるのだが、自分の良さも、練習とかをしていると感じるので、「まだまだやれる」という思いがある一方、こういう結果しか出せていない。今後については考えざるを得ない。全然ダメであれば楽なのだが、信じてくれる人も周りにはいるし、練習とかでも勝負できるときがあるので、気持ちはとても難しい。でも、(日本チームとしては)結果が出て、複雑だが嬉しい。自分もまたみんなと強くなりたいと思う。
◎藤井菜々子(エディオン、ダイヤモンドアスリート修了生)
女子20km競歩 6位 1時間29分01秒
写真:アフロスポーツ
最後、5番だったのが劉選手(中国)に抜かれてしまったのだが、タイムも1時間29分ちょっと。この暑さのなかで4分20(秒)前後で刻めたということに、すごく成長を感じたし、最後まで余力を持って勝負することができた。今回は、すごくいいレースができたのではないかと思う。(1km)4分20秒で行くなら、第2(集団)で行くことは決めていた。4分30秒くらい(のペースであれば)先頭集団にぴったりつく予定だったのだが、それよりも速いペースで入ったので、第2集団につく形で最初はレースを進めていった。それは「私にはまだ力がない」と感じたので、そうしたのだが、ちょっと後半で暑さを感じてしまった。体幹的なきつさは、そんなになかったので、暑くなったことに影響を受けたかなと思う。
(自分のペースとして)想定していたのは4分25(秒)ベース。そのくらいの力はあるという確信はあったので、そこは自信を持って歩いた。
(順位を下げる場面もあったが)基本的に給水をとれなかったし、(東京)オリンピックのときに、ごちゃごちゃして脚を使ってしまったことが私としては(反省として)大きかったので、あまりそこで張り合っても仕方がないと、後ろに下がったりするなど調整した。そのあたりは、オリンピックの失敗が生きたといえる。(その影響か)脚がすごく楽で、最後まで20kmを持ったレースはラコルーニャのベスト(1時間28分58秒)を含めても今回が初めて。ラコルーニャのときも後半はきつくて、脚がもっていなかったのだが、今回は割と余裕をもって終わることができた。
今までは4分30(秒)ばかりの練習だったのを、4分20(秒)、15(秒)というレース展開を想定した練習をやってきた。また、そこにつながる技術についても、トレーナーさんといろいろと試行錯誤していて、それが実ったかなということを感じている。
少しずつトップとの差が縮まってきていると実感しているので、来年の世界陸上では、最初から先頭集団で戦いたい。今回は、どんどん拾っていったといういつものレースパターンになってしまったので、次は4分20(秒)、15(秒)のレースをしていって、トップ集団で最初から最後まで戦える練習をしていきたい。
▼藤井菜々子選手 レース後コメントはこちら
◎岡田久美子(富士通)
女子20km競歩 14位 1時間31分53秒
写真:フォート・キシモト
1カ月前に、右大腿骨を疲労骨折していることがわかって、練習不足というのが否めず悔しい。思ったよりも先頭集団(のペース)が速かったので、先頭につくとバテてしまうなという感覚があった。なので、自分のペースで(歩き)、最後に(順位を下げてくる選手を)拾っていくことを意識していった。ペースとしては、(1km)4分30~35秒を目標にしていた。脚は、7月5日に最後にMRIを撮り、「まあ、大丈夫だろう。(オレゴンへ)行きましょう」ということになった。痛いというのはないのだが、一番練習しないといけない6月中旬くらいの時期に、2週間くらいトレーニングを中断しなくてはならなかったので、その練習通りの結果というところかと思う。(練習再開後は)ドクターや富士通のコーチと話し合いをしながら練習を進めていて、なんとか形にはなったのだが、勝負というところは少し厳しいものがあったと思う。一方で、練習では20kmを2回しか歩いていなかったので、「この練習量で14位に行けるんだ」という思いも正直ある。
富士通に入ってからは、パリ五輪を見据えて、リスタートというところだったので、今回の結果をしっかりと受け止めて、ブダペスト(世界選手権)と、パリ(オリンピック)に向けて、ケガをしないようにやっていきたい。
藤井さんが6位となったわけだが、前回(ドーハ)大会の私の6位を継いで、しっかりと結果を残してくれた。私の1つの役目としては、次世代につなげていくことだと思っているので、一つ大きな結果を出してくれて嬉しく思う。
今回、あまり練習ができないなかで14位ということだったので、「ベテランの味」というところは出せたのかなと思う。でも、まだまだ入賞ラインにまた行きたいと思っているので、ゆっくり休んでしっかりと脚を治してからスタートしていきたい。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
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