2022.04.19(火)委員会

【強化委員会】2022年度日本陸上競技連盟 強化方針説明会 レポート



日本陸連強化委員会は4月6日、メディアに向けた2022年度強化方針説明会を、オンラインによる記者会見方式で開催しました。
説明会には、山崎一彦強化委員長のほか、シニアディレクター2氏およびディレクター3氏が出席。山崎委員長が全体を通しての方針を述べたあと、担当ディレクターから各種目における方針や今後の取り組み、現在の状況等の説明・報告が行われ、最後にメディアからの質問に応じました。以下、要旨をご報告します。

※競技者の所属、記録およびリスト順位、その他の状況は、会見実施時点の情報に基づきます。

【2022年度の強化方針】

山崎一彦(強化委員長、兼トラック&フィールドシニアディレクター)

前回(2021年11月24日)、実施した記者会見の際に、(新体制の概要とともに)今後の方針、オレゴン世界選手権、杭州アジア大会の選手選考要項について説明をした(https://www.jaaf.or.jp/news/article/15658/)ので、今回は、そのあたりを掌握されているという前提で話を進めさせていただく。
ロードシーズンが終わり、いよいよトラック&フィールドシーズンが始まる。今年は、世界選手権(7月:アメリカ・オレゴン)とアジア大会(9月:中国・杭州)が行われるが、先日、両大会の男女マラソン代表が決定している。今後は、他の種目についても選考が進められ、代表選手を決めて、現地に乗り込むことになる。

<オレゴン世界選手権に向けて>

世界選手権に関しては、今回は1人でも多く入賞することに目標を置く。この設定に先立ち、強化委員会では、昨年の東京オリンピックの分析を行い、入賞者がどのくらいの水準なのかを調査した。その結果、トラック&フィールド種目に関しては、高い精度で競技を行っていかないと入賞には到達しないことがわかっている。
まず、大会前の段階で、世界選手権の参加標準記録に到達していること、WA(世界陸連)ワールドランキングにおいては13位相当にいることを尺度にしていただければと思う。13位相当というのは、パフォーマンススコア(リザルトスコア+プレイシングスコア)では1300点前後、記録だけのスコアリングテーブルでみるなら1200点程度に該当し、そのあたりを目標としていくことになる。
さらに、大会当日には、98~99%の自己記録到達率に至れば、入賞に手が届くこともわかっており、それは日本だけでなく、世界全体の傾向でもある。日本の場合は、世界選手権出場を確定させる国内競技会は、競技場の環境が整っているうえに、追い風やペースメーカーの設定など好条件のなかで実施されるケースもあるだけに、世界選手権本番は、自己ベストに近い記録が出せる状態で臨めていることが必要な点を、我々の共通理解としている。
東京オリンピックにおいても、自己記録、あるいは日本記録を出した選手が、きちんと入賞していた。今回は、その点を継承したうえで、目標値は少し高くしようとしている。以前は、自己記録達成率97%前後を目安にしていたが、今回はトラック種目では99%を、フィールド種目では98%を目標として、精度を高めていきたいと考えている。これは、選手だけでなく、我々強化委員会、そして専任コーチ全員が総力を上げて取り組まなければ実現できないこと。当日にピークを合わせることができるよう、しっかりサポートしていきたい。

<杭州アジア大会の位置づけ>

アジア大会については、開催は世界選手権のあとに行われる。しかしながら、(決められたエントリールールにより)選考競技会は、アジア大会のほうが先で、5月8日までに実施される競技会が対象となっている。このため、5月8日までに開催される競技会の選考対象種目(https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202203/04_133535.pdf)の結果から決定する(※内定選手は、5月24日に行われる理事会で承認を受けたのち、同日に発表の予定)。
重要度としては、本来であれば、世界選手権のほうが最重要の位置づけとなるため、過去には選手のグレードや年代に応じて派遣する戦略をとった例もあった。しかし、今回については、大会グレードを配慮した強化委員会からの戦略的派遣方針を明示していない。
これは、アジア大会が9月に開催され、その結果が2023年に開催されるブダペスト世界選手権のWAワールドランキングに反映されることが理由となっている。選手によっては、オレゴン世界選手権とアジア大会の両方に出場するという観点も必要となるため、一概に我々の方針として「どちらに出てほしい」ということは決めず、あくまでの各選手の個人戦略として捉えてもらう方向性を持っている。
オレゴン世界選手権では入賞することに、そして杭州アジア大会に関してはWAワールドランキングのポイントを上げることに焦点を絞って、それぞれの目標値において、2023年ブダペスト世界選手権につなげていくこととなる。そして、ブダペスト世界選手権は、2024年パリオリンピックの前年となるので、その結果は、オリンピックにも紐付くことになる。そういう意味で、パリオリンピックへの戦いは、もう始まっているという認識である。

<U23年代の強化>

現在すでに活躍している選手…東京オリンピックで入賞した選手たちは、比較的、若い年代が多く、パリオリンピックも狙える状態にある。これは明るく、楽しみな話題といえる。また、今後、現在のU23年代の選手たちが、東京からパリに向けて活躍が期待できるようになるとみていて、ターゲットエイジとして、この年代に少しずつ強化資金の投入も行っている。まだ十分ではない状況だが、パリオリンピック前年あたりから実力を上げてきて、パリオリンピックに臨むことになると考えられる。そのあたりを注視してサポートを進めていく。

<陸上競技の価値を高めるための取り組み>

また、大きな方針として掲げている「陸上競技の価値を高めること」に関しては、強化として取り組むべきは、選手たちがより良い環境で、より良く活躍することと認識している。国内競技会、そして国内選手の環境を整えていくのが私たちの役目なので、陸連事務局の事業部と連携して、いい競技会、イベントの実施等を、選手とともにやっていきたいと考えている。そういう視点では、5月に予定されているセイコーゴールデングランプリや、10月に行う日本選手権リレー(ともに国立競技場で開催)などが大きなイベントになる。


【中長距離・マラソンに関する方針と現状】

高岡寿成シニアディレクター(中距離・マラソン担当)

中長距離・マラソンにおいては、世界との距離が、男子と女子、さらには、各種目において、大きな開きがある。

<中距離について>

東京オリンピックでは、女子1500mで2名が出場し、田中希実選手(今季より豊田自動織機)が8位入賞を果たしているが、中距離全体でみると代表を多数出せているとはいえない状況にある。今後は、男女ともに800m・1500mの両種目において複数の選手が代表になっていくことを目指していく。すでに3月末には、「ザ・ミドル(THE MIDDLE)」という大会を実施し、世界選手権参加標準記録突破に必要な通過タイムを設定し、それをクリアしていくことを前提とするレースを実施した。このあと始まっていく日本グランプリ(GP)シリーズにおいても、ペースメーカーをつけて、レースを進めていくことを計画している。3月のザ・ミドルでは低温下の気象条件もあり、達成することはできなかったが、今後、選手の状態をみて、(ペース設定等の)判断を進めていこうと考えている。

<長距離について>

長距離に関しても、同様に、男子に関してはペースメーカーをつけて標準記録の突破を狙っていく方針である。その理由としては、先ほど山崎委員長も述べたように、世界選手権(2022年オレゴン、2023年ブダペスト)、オリンピック(2024年パリ)で入賞するためには、標準記録を突破して日本代表の座をつかみ取れるくらいの力がないと本番では勝負できないということを、東京オリンピックを見て強く感じたことによる。それも踏まえて、確実に標準記録を突破できるペース設定で進めていきたいと思っている。
一方で、女子長距離に関しては、すでに複数の選手が5000m、10000mで標準記録を突破(各種目とも5名突破)している。このため、もう一段上のレベルに引き上げた取り組みを進めるつもりでいる。すなわち、ペースメーカーはつけずに、「勝負を意識したなかでも記録を出せる」「記録を持っている選手たちが高いレベルで勝負をする」経験を積ませようとしていて、そういった経験が、今後の世界選手権、オリンピックにつながっていくと考えている。

<3000m障害物について>

3000m障害物についても、男女でレベルに差がある状況。女子については、ペースメーカーを用意して参加標準記録突破を狙う。逆に、東京オリンピックでフル出場(3名)を果たした男子については、女子長距離と同様に、三浦龍司選手(順天堂大)を軸に、高いレベルでの勝負を意識しながら世界選手権、オリンピックにつなげていくことを目指すため、ペースメーカーは設定しない方針である。

<マラソンについて>

男女マラソンについては、世界選手権、アジア大会ともに、過日、日本代表選手を確定・発表した。ここに関しては、各チームでレースまでのプランは作成済みであるため、チームの考えを尊重しながら強化を進めていく方針である。我々強化としては、さまざまな情報を集めたり、医科学委員会の情報を提供したりすることでサポートし、本番での入賞もしくはメダルに届く結果を達成できればと考えている。


【競歩に関する方針と現状】

今村文男シニアディレクター(競歩担当)

競歩種目の強化方針については、昨年11月の会見でも説明した。本日は、現場および強化指定選手の状況、そして今後の展望について話をしたい。

<これまでの強化と代表選考レースの状況>

(東京オリンピックが終了したことで)さすがに強化事業の数は少なくなっているが、日本実業団連合の合宿と日本陸連の強化事業とを合わせながら、今年も、例年通り1月に宮崎で3週間の合宿を実施した。この合宿では、本年行われるオレゴン世界選手権と杭州アジア大会に向けた国内外の選考競技会に向けた強化、および技術面の確認・修正を目的としており、これらに注視した強化を図ることができた。この合宿には、事情により参加できなかった勝木隼人選手(自衛隊体育学校)を除く8名の東京オリンピック代表が参加したほか、強化対象選手10名ほどが参加した。
世界選手権、アジア大会に向けた選考競技会の現状としては、2月の日本選手権20km競歩(男女20km)、3月にオマーンで行われた世界競歩チーム選手権(男女20kmおよび男子35km)、3月20日の全日本競歩能美大会(男女20km)が終了している。2月の日本選手権では派遣設定記録を突破して優勝した高橋英輝選手(富士通)が条件を満たしたことで内定した。世界競歩チーム選手権では、20kmで、優勝を果たした山西利和選手(愛知製鋼、2019年世界選手権20km優勝により、ワイルドカードによる出場権を獲得済み)を除いて日本人最上位となった池田向希選手(旭化成)は銀メダルの成績を残したものの、派遣設定記録・参加標準記録をクリアすることができず、4月17日に輪島で行う特別レースに出場する。また、3月20日に行われた全日本競歩能美大会では、松永大介選手(富士通)が20kmで派遣設定記録を突破して優勝し、今のところ男子20km競歩では(山西選手のほかに)2名の選手が内定している状況となっている。
いずれも全体的に記録面では、世界リストからみると少々物足りなさは残るが、現状ではベストの状況であり、7月の世界選手権に向けては、これから徐々に記録面でのチャレンジが期待できるとみている。
今後の選考会としては、4月17日の日本選手権35km競歩が残っている。この大会では、男女20km競歩についても、特別レースの実施を予定している。ここでも各選手は、参加標準記録を目指す、あるいは内定を得るために派遣設定記録での最上位を目指すことになり、それぞれが自身の目標達成に向けて準備してくれるものと思っている。順調にいけば、今のところ、男女ともに20km・35kmの各種目で標準記録突破、またはWAワールドランキングの順位により、各3名の選考は可能と想定している。

<今後の方向性について>

なお、競歩においては、本年までは実施種目が決まっているものの、2023年ブダペスト世界選手権、さらには2024年パリオリンピックに関しては、男女20km以外は、ミックスイベントが実施されるところまでは把握しているが、それ以外の具体的な実施内容が公表されていない。このため、現段階では、本年実施される20km、35kmに向けた強化を進めていこうという方針で取り組んでいる。また、新種目の35kmについては、先日の世界競歩チーム選手権の結果などからも、50km競歩の持久力よりも、20km競歩のスピードが求められる点がわかってきており、これまでの取り組みや練習方法を、一部見直すことも必要になってきているように感じている。
とはいえ、今年の世界選手権、アジア大会の各種目で、選手が最大限の競技パフォーマンスを発揮するために、引き続き、東京オリンピックで核となった選手の強化を進めていく。それと同時に、2大会先のオリンピック、すなわち2028年ロサンゼルス大会を見据えたターゲットエイジとなるU23年代の強化、さらには、今、申し上げた35kmの対策としては、男女20kmのトップエンドの選手や、50km競歩とデュアルキャリアで活躍しているような選手を、これまで以上に丁寧に見届けながら、うまくプルアップできるような状況を考えていきたい。
また、今後の競歩コースについては、20km・35kmともに1kmの往復コースがスタンダードになっていく。これによってIRWJ(国際競歩審判員)の判定の回数が増えることや、さらに予測される高速化に備えて、個々の技術に応じて対策を講じていく必要があると認識している。今年も7月あたりに合同で強化を図り、選手、スタッフと目標を共有しながら、しっかりと成果を上げていきたい。


【短距離に関する方針と現状】

土江寛裕ディレクター(短距離)

東京オリンピックが終わったばかりだが、次のパリオリンピックは、もうすでに2年後に迫っている。ごく短い期間での強化をやらなくてはならないと考えている。
今年に関しては、多くの国際大会が行われる。これまで、コロナ禍の影響で海外に出かけることが難しい状態、あるいは、競技レベルの問題で国内の競争が中心だったブロックもあったが、今年は、国際大会でしっかりと戦う経験をさせることを念頭に、強化を進めていきたいと考えている。

<男子ショートスプリント(100m・200m、4×100mリレー)>

東京オリンピックの失敗の影響が、インパクトとしては非常に大きい。これはリレーのバトンパスの失敗だけでなく、個人種目でも戦えなかったというところもある。仕切り直しのシーズンがこれから始まるという認識でいる。
方針としては、これまで「リレー重視」ということで、個人の希望を犠牲にする側面もあるなかで強化を進めてきた。これは、オリンピックの開催地が、自国である「東京」であったことが理由としてあったから。2024年のパリオリンピックに向けては、再度「個人種目で、しっかりと戦える」ことを一番の目標に置く。まずは個人を重視して、強化をしていきたい。
100mについては、9秒台に突入する選手が増え、世界大会におけるファイナル(決勝)進出への期待が高まってきたなかで、まだ実現できていない。まずはファイナルに残ることが必要な目標で、それを達成することによってリレーの強化にもつながっていくと考えている。
また、リレーに関しては、常に表彰台を狙っていく。「メダルを取る」ことを最低条件とし、そのなかで「金メダル」を狙っていきたい。新体制では、高平慎士さんに4×100mリレーのヘッドコーチをお願いした。今後は、彼が中心となって4×100mリレーを引っ張っていく。(現役を退いてから時間が空いていないことで)まだ選手に近い存在である点を生かし、(コーチ目線だけでない)選手目線での強化を図っていけると考えている。これまでと違った「高平体制」をつくっていきたい。
この冬も、これまでと同様に、個人それぞれの強化をバックアップする形で、陸連としての強化を図ってきた。各選手の状況は、これからシーズンが始まって見えてくると思うが、何人かの選手は、すでに室内競技会や海外の屋外レースでシーズンインしている。特に、このところあまり調子がよくなかったサニブラウン・アブデル・ハキーム選手(タンブルウィード トラッククラブ)が10秒15で走ったという情報が入ってきていて、これに刺激された選手が、今後、いい結果を出してくれると期待している。

<男子ロングスプリント(400m、4×400mリレー)>

ロングスプリント系については、2019年度以降、JSC(日本スポーツ振興センター)の「次世代ターゲットスポーツの育成支援委託事業」の対象種目となっており、強化のてこ入れを行っている。具体的な強化方針としては、4×400mリレーでスピードに対応できていないという問題を提起し、スピード化を図っている。昨年は、世界リレーで2位の成績を収め、それによって東京オリンピックの出場権を獲得し、オリンピックでは日本タイ記録をマークするなど、少しずつ成果が出てきている。
今年も、その事業を利用して、アメリカの南カリフォルニア大学(USC)と提携して、現地に選手を送ることを行った。昨年はコロナ禍により派遣できなかったが、今年に関してはウォルシュ・ジュリアン選手(富士通)のみ3カ月の期間、現地でマイケル・ノーマン選手(東京オリンピック4×400mリレー金メダリスト、PB:100m9秒86、200m19秒70、400m43秒45)と一緒にトレーニングを行った。すでに帰国して、シーズンインに向けた準備に取り組んでいる。実施したトレーニング内容についても現地のコーチと共有しており、そのトレーニングをそれぞれが取り入れながらスピード化に取り組んでいる。
今年に関しては、まずは4×400mリレーでファイナル進出を目指したい。そのためにも個人のレベルアップが必要だが、USCに行ったウォルシュ選手だけでなく、国内で合宿したほかのメンバーも、非常に手応えのある強化ができている。期待していただければと思っている。

<女子短距離>

女子短距離は、オリンピック強化コーチに就任した吉田真希子コーチを中心に、強化を行っている。各種目ともに、まだ世界とのギャップが大きい状況だが、リレーと個人の両面から強化を図っている。4×100mリレーについては、昨年の世界リレーで入賞したことにより、東京オリンピックの出場権とともに、今年のオレゴン世界選手権の出場権を獲得した。このため、今年は世界選手権が大きな目標となってくる。
一方で、4×400mリレーのほうは、今年に関しては、個人のレベルアップを積極的に図っていくことを方針に掲げている。


【ハードルに関する方針と現状】

苅部俊二ディレクター(ハードル)

次のパリオリンピックまであまり時間がないということで、男女ハードルについては、トップで活躍している選手たちの強化が中心となってくる。
ここまでの経過をみると、3月にベオグラードで開催された世界室内選手権60mハードルにおいて、野本周成選手(愛媛陸協)が準決勝に進み、全体で8番目の記録をマークしたものの同タイムの選手がいたために抽選となり、そこで惜しくも決勝進出を逃す結果となった。野本選手は110mハードルでは、昨年は日本リスト6位(13秒38)の選手。そういう観点では、日本の男子スプリントハードル(110mハードル)の層の高まりが明らかになったといえる。

<男女スプリントハードル(男子110mハードル、女子100mハードル)>

スプリントハードルについては、男子は、昨年、泉谷駿介選手(今季より住友電工)が13秒06の日本記録をマークして、世界リスト5位になっている。現段階で、男女ハードル4種目のなかでオレゴン世界選手権参加標準記録を突破しているのは泉谷選手のみ。前述した世界リスト5位の上にいるのは、アメリカとジャマイカの選手各2名で、本当に世界のトップといえる顔ぶれだけになっている。3月の日本選手権室内(※ハードルに接触してバランスを崩し8位)は残念な結果になったが、トレーニング自体は順調にきているので、今季は、彼が中心となった強化が進んでいくことになる。ただし、男子110mハードルは、金井大旺選手は昨年引退したが、参加標準記録の13秒32を、ベスト記録では上回っている選手が泉谷選手以外にも複数(村竹ラシッド=順天堂大、高山峻野=ゼンリン)いるし、13秒3台の自己記録を持つ者も複数人(石川周平=富士通、野本)出てきていて、非常にレベルが高くなっているということができる。
女子100mハードルについても、昨年は、(公認記録で)12秒台をマークする選手が複数となった。ともに東京オリンピックに出場した寺田明日香選手(ジャパンクリエイト)と青木益未選手(七十七銀行)が12秒87の同タイムで日本記録を保持する形となっている。オレゴン世界選手権の参加標準記録は12秒84と、目前のところまで来ているので、ぜひ、突破を果たしてほしい。

<男女ロングハードル(男女400mハードル)>

400mハードルは、東京オリンピックで男女ともに世界記録が誕生した。男子は45秒94(K・ワーホルム=ノルウェー)、女子は51秒46(S・マクラフリン=アメリカ)という記録で、世界のトップが遠くなってしまった感がある。しかし、日本勢も男子については、46秒6台の自己記録(ともに48秒68)を持つ安部孝駿選手(ヤマダホールディングス、2018年にマーク)と黒川和樹選手(法政大、2021年にマーク)は、トップの水準が高くなったとはいえ、47秒台、48秒台前半を出せば世界で戦える状況で、参加標準記録(48秒90)の突破もできる位置にいる。この状況から、男子スプリントハードルとともに、ぜひ、オレゴン世界選手権で決勝を走ってほしいと思っている。
女子400mハードルに関しては、かなり世界に離されてしまっている感がある。世界記録の51秒台は、日本の女子ではハードルがなくても勝つことができない状況で、非常に厳しい戦いではある。日本勢では、宇都宮絵莉選手(長谷川体育施設)が頑張って、昨年56秒50まで記録を伸ばしてきた。そのほかでは、大学1年生で昨年の日本選手権を制した山本亜美選手(立命館大、PB:57秒04、2021年)が、今季すでに58秒台(58秒92、4月2日:京都インカレ)で走っているので、注目していただければと思う。

<多くの国際大会経験を、今後の強化につなげる>

基本的に、今年の強化は、男女ハードルも男女短距離と同様に、世界選手権とアジア大会が最大目標となる。また、学生に関してはワールドユニバーシティゲームズ(WUG;旧称ユニバーシアード)もあるため、選手によってはかなりタイトなスケジュールとなる。戦略上、3大会とも出場を狙う選手も出てくると見込まれるので、専任コーチとも十分にコミュニケーションとってスケジューリングしていくつもりでいる。世界大会をはじめとする多くの大会を経験できる機会でもあるので、そのあたりをうまく使いながら、今後の強化につなげていきたい。
また、アジア大会では、男女ハードル4種目すべてにメダル獲得のチャンスがある。特に、世界選手権出場を目指したいものの現状ではなかなか厳しい状況にある女子400mハードルについては、アジア大会でのメダル獲得に主眼を置いて臨んでいきたい。


【投てきに関する方針と現状】

田内健二ディレクター(投てき担当)

男女投てきは、東京オリンピックまでは、大会での活躍を見越して、一番世界で戦える可能性がある男女やり投に特化して、強化を進めてきた。それは、あくまで(自国開催のオリンピックという点で)「東京の大会」を前提としたものであったので、2024年パリオリンピックに向けては、投てき全体の強化を図っていく方針に切り替えた。
方針自体は、東京オリンピックに向けて男女やり投の強化で実施してきた、「選手とコーチが一番やりやすい状況を陸連としてバックアップする」方式が最適であるという認識から、これを継続していく。最近では、選手たちから映像やデータのフィードバックを求められることがあるので、科学委員会との連携を深めて、特に即時フィードバックができるように進め、選手たちが気持ちよく強化に取り組めるよう、陸連としてバックアップを図りたい。

<砲丸投>

男女砲丸投に関しては、歴史的にもそうだが世界との差が依然として大きい種目である。男子砲丸投については、回転投法を採用する選手が増えていて、日本記録(18m85)の大きな更新はまだないものの、これに近づく層に厚みが増している。日本記録を更新したとしても、世界にはまだ遠い状況ではあるが、まずは日本記録の更新を目指したい。一方、女子は、いろいろな要因はあるものの長くレベルが停滞している。女子に関しても、回転投法へ移行していくような取り組みが必要ではないかと考えている。

<円盤投>

男女円盤投に関しては、これもレベル的には世界には遠い状況だが、男子は、現役では堤雄司選手(ALSOK群馬、62m59=日本記録)、湯上剛輝選手(トヨタ自動車、62m16)に加えて、昨年、幸長慎一選手(今季より四国大アスリートクラブ)が60m台に到達し、この60mを超える3選手を中心に、日本記録の更新を期待できる選手が増えてきた。62m50前後の記録をコンスタントにマークできるようでなれば、アジアで通用する。まずはアジアにおけるメダル獲得を目指し、その状態を安定させることによって、世界選手権出場の可能性へとつなげていきたい。
女子は、郡菜々佳選手(今季より新潟アルビレックスRC)が2019年に日本記録を更新(59m03)した。この記録が、60mに近づけば、アジア大会だけでなく世界の入口に立てる。昨年56m58まで記録を伸ばした齋藤真希選手(東京女子体育大)ほか女子のトップ10のレベルは上がってきているので、まずは日本記録の更新と、アジア大会で活躍することを目指したい。

<ハンマー投>

男子ハンマー投は、オリンピック・世界選手権金メダリストの室伏広治選手が2016年に引退して以降、それに続く選手は出てきていない状況だが、実は、今、現役で70m台の自己記録を持つ選手は8名いて、これは室伏選手が活躍していたころよりも層としては厚い状態である。この8人の選手のなかから73~74mを投げる選手が出てくれば、アジア大会でのメダル獲得と世界選手権出場は十分にみえてくる。近い将来、そうしたレベルに達することは可能と考えている。
女子ハンマー投についても、まずは長らく更新されていない日本記録(67m77、室伏由佳、2004年)を塗り替えることが目標になる。これに近い記録をマークできる選手は、すでに複数存在するので、それらの選手たちによる更新を期待したい。特に、高校3年の昨年、U18世界リスト1位の記録(62m88:U20・U18日本記録)をマークした村上来花選手(今季より九州共立大)が、今後、シニアのカテゴリーに入ってきて、どのくらい順調に伸びてくるか。まずはアジア大会上位、そして世界選手権出場を目指したい。

<やり投>

男女やり投は、東京オリンピックに向けた強化においても、非常に優遇された状況で取り組んできたが、残念ながら本番ではメダル獲得ならびに入賞はならなかった。しかし、男女ともに、日本国内におけるレベルは非常に高まってきている。
男子でいえば、小南拓人選手(染めQ)、ディーン元気選手(ミズノ)、小椋健司選手(栃木県スポーツ協会)。これに新井涼平選手(スズキ)も含めて、85m00の参加標準記録は十分に狙える力をもっている。まずは参加標準記録を突破する記録を複数名で出すが目標となるが、冒頭で強化委員長から説明があったように、世界選手権の大会当日にその記録をマークすることができれば、入賞やメダルを狙うことは十分に可能である。
男子よりもさらに層が厚くなっているのが、女子やり投。昨年の日本リスト上位を占めた武本紗栄選手(今季より佐賀県スポーツ協会)、北口榛花選手(JAL、日本記録保持者)、上田百寧選手(今季よりゼンリン)、佐藤友佳選手(ニコニコのり)、斉藤真理菜選手(スズキ)には、参加標準記録の64m00を突破できる力が十分に備わっている。また、その5名に続く層も、世界的にみてもレベルが高い状況。特に女子やり投に関しては、世界選手権における入賞、メダルは、具体的に期待できるといえる。各選手に状況を確認したところ、どの選手も特に大きなアクシデントなく、冬期トレーニングができていると聞いている。アジア大会の選考が行われる春先の競技会から、活躍が期待できるとみている。


【跳躍に関する方針と現状】

山崎強化委員長

※跳躍担当の森長正樹ディレクターに代わり説明

<室内競技会に関する反省>
跳躍に関しては、まず、昨年の東京オリンピックで入賞し、過去にもコンスタントに大きな大会では必ず良い成果を残している橋岡優輝選手(富士通)に、今年も注目したい。
橋岡選手は、3月に行われた世界室内では、3回ファウルして記録なしと、残念な結果に終わった。この点については、私たち強化にとっても反省材料となった。コロナ禍の影響で海外に出ていきづらい状況にはあるものの、特に跳躍種目に関しては、今後、冬期トレーニングと並行して臨める室内競技会への派遣にも、もっと目を配る必要があると痛感した。具体的には、世界室内だけに結果を求めるというよりは、いくつかの室内競技会に出場していく状況を設定したうえで、目指す大会に向かっていく、あるいは海外に挑戦していけるような環境をつくっていく必要がある。同じく跳躍種目で世界室内に出場した戸邉直人選手(JAL)も最初の高さとなった2m15のクリアのみで12位にとどまったが、2月に出場を予定していたアジア室内がコロナ禍の影響で延期となった背景もあり、こうした外的な要因が結果に影響しているのではないかとみている。

<期待したい新たな顔ぶれ>

跳躍種目において世界大会で入賞等の実績を残している選手としては、橋岡選手、戸邉選手のほかに、棒高跳の山本聖途選手(トヨタ自動車)が挙げられるが、今季は、彼らを含むすでに代表経験を持つ選手に加えて、今まで海外の主要大会出場のチャンスがなかった選手たちに、まずは出場というところを期待したいという思いがある。新たな顔ぶれということで挙げることができるのが、男子走高跳の真野友博選手(九電工)、男子棒高跳の石川拓磨選手(東京海上日動SC)、男子三段跳の伊藤陸選手(近大高専)。このあたりの選手が、世界選手権の代表になるような結果を出してくることを期待している。

<女子跳躍>

女子跳躍においては、昨年の東京オリンピック出場に向けて、WAワールドランキングにおいて非常に惜しいところまでランキングインしていた走幅跳の秦澄美鈴選手(シバタ工業)に一つの光が出ているなと思っている。秦選手は、このあとオーストラリアで屋外シーズンを迎える予定だが、なんとか世界選手権の出場権を獲得できる結果を残してほしい。女子走幅跳の参加標準記録は6m82で、昨年、6m65まで自己記録を伸ばしたものの、まだ少し開きがあることは否めない。冒頭で述べた分析において、東京オリンピックでは、参加標準記録を突破しての出場が60~70%で、残る30~40%がWAワールドランキングによる出場だったことがわかっている。そういう意味では、少ない枠のなかで出場権を争うことになるが、ぜひ、そこに食い込んでいってほしいと思っている。
女子跳躍では、秦選手以外は、世界選手権出場を狙っていくことは、かなり厳しい状況にあるのが現状である。このため、アジア大会において、多くの選手を派遣できるような水準に達してほしいと願っている。この水準に関しても、選考要項 ( https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202202/03_223559.pdf )にも記載がある通り、世界選手権参加標準記録を突破する、あるいは「世界選手権出場記録水準を満たした競技者」をいう条件をクリアするために、5月8日時点のWAワールドランキングに入っていくことが必要となる。アジア大会のメダル到達ラインに達することができれば該当するとみている。そのレベルを目標に、アジア出場を目指してほしい。
これまでに代表選出の経験がないような新しい顔ぶれの選手たちにとっては、まずは世界選手権よりもアジア大会に出場することのほうが、より近く、「見える目標」といえる。このため、女子跳躍に関しては、アジア大会に1人でも多く出場し、1人でも多くメダルを取るということを目指していく形となる。


【混成競技に関する方針と現状】

山崎一彦強化委員長(混成競技担当)

混成競技については世界大会のターゲットナンバーが24と個人種目の中ではもっとも狭き門となっており, WAワールドランキングを上げるべく,海外も含めた戦略的な大会参加が課題となってくる。
男子は五輪に出場している右代啓祐選手(国士舘クラブ),中村明彦選手(スズキ)がベテランの域に到達しているため,これまで積み上げてきた強化のあり方,練習内容などを次世代に引き継いで強化を進める.世界選手権の出場とアジア大会の金メダル獲得を最大目標と考えている.
女子は昨年度日本記録を更新した山崎有紀選手,ヘンプヒル恵選手を中心にアジア大会のメダル獲得と6000点の突破を必須課題と考え,今後は世界選手権派遣設定記録の更新を目標に各個強化を進める。


取材・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)

※本稿は、4月6日に行われたメディアに向けて行われた2022年度強化方針説明会で、各氏が発表した内容をまとめたものです。より正確に伝わることを目的として、補足説明を加える等の編集を行っています。



■【強化委員会】委員長・シニアディレクター記者会見報告
~今後の国際大会に向けた新体制や強化方針を発表~
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15658/

■日本陸上競技連盟 強化委員会一覧について
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15636/

■強化委員会組織図
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202111/12_112250.pdf

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