トラックで行われる長距離種目の第104回日本選手権が12月4日、東京オリンピック代表選考会を兼ねて、大阪・ヤンマースタジアム長居において開催される。
新型コロナウイルスの感染拡大・緊急事態宣言発令の影響で延期を余儀なくされた当初の日程を、世界陸連(WA)が各国の公平性に配慮して設けたオリンピック参加にかかわる諸条件(参加標準記録、ワールドランキングポイント)の適用除外期間(4月6日~11月30日)が明けた直後となるタイミングに再設定。さらに、昨年から別日程で行っている10000mだけでなく、5000mと3000m障害も組み込むことで、長距離種目すべてをオリンピック代表選考レースとして実施できるようにした。
今回の内定条件は、各種目ともに「優勝者で、日本選手権終了時点に東京オリンピック参加標準記録を満たしている競技者」であること。すでに有効期間中に参加標準記録を突破している競技者は優勝を、まだ突破していない競技者は参加標準記録を上回っての優勝を目指して、勝負に挑むことになる。ここでは、各種目における注目選手や見どころをご紹介していこう。
※情報や記録・競技会等の結果は、11月27日時点の情報で構成。
■「東京2020オリンピック競技大会」日本代表選手内定条件まとめ
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202011/17_124348.pdf
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト
【男子10000m】
55名がエントリーした男子10000mは、競技日程の都合により、AとBの2組に分けて、B組、A組の順にタイムレースで実施することになった。現段階で全53名が出場する見込みだが、大会最終種目となるA組に入るのは、前回(第103回)日本選手権の10000mおよびクロカン10kmの各優勝者を含む日本人競技者の資格記録上位30名と、オープンで出場が認められた外国人競技者の資格記録上位2名。欠場者が出た場合は、その人数分がB組から繰り上がり、合計32名で競われる。この種目の東京オリンピック参加標準記録は27分28秒00で、村山紘太(旭化成)が2015年に樹立した日本記録(27分29秒69)を上回る。2016年以降、27分40秒を切るタイムをマークしている日本選手がいないことも考慮すると、この大会で内定を決める(標準記録を突破して優勝する)のは、かなり難しいといわざるを得ない。ただし、エントリーリストを見ると多士済々の顔ぶれが揃っていることがわかるだけに、複数による27分台突入、さらには一人でも多くの選手が参加標準記録に迫るようなレースを期待したい。
今季日本リストの1位記録は27分47秒55。東京オリンピックの男子マラソン代表に内定している服部勇馬(トヨタ自動車)が9月の全日本実業団でマークしたものだ。その服部は、12月6日に行われる福岡国際マラソンを走るため、日本選手権には出場しない。このため、優勝争いは、今季の日本リストで服部に続く鈴木健吾(富士通、27分49秒16)、相澤晃(旭化成、27分55秒76)あたりを中心とする戦いになってきそうだ。
鈴木は、昨年9月に行われたマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)でも終盤まで粘る走りを見せて注目を集めた。10000mでは今年7月のホクレンDCで初めて27分台に突入(27分57秒84)、全日本実業団では27分49秒16まで更新して服部に続いた。3回目の27分台を自己新記録で出せるようだと、“金色のライオン”(日本選手権のメダルにはライオンの顔が彫り込まれている)を手にする可能性はさらに高まってくるだろう。
今春、東洋大から旭化成に入社した相澤は、学生時代から将来を嘱望されてきたランナーだ。昨年度はユニバーシアードのハーフマラソンで金メダルを獲得したほか、1月の箱根駅伝では歴代のエースたちが火花を散らしてきた2区(23.1km)で、史上初の1時間5分台となる1時間05分57秒をマークして、区間記録を11年ぶりに更新。社会的にも大きく注目される存在となった。ルーキーイヤーの今年は、環境の大きな変化と“コロナ自粛期間”とが重なった春から夏を経て、社会人デビュー戦となった10月中旬の記録会で、独走のなか、28分を切る27分55秒76の自己新記録をマーク。11月3日の九州実業団では3区(10.9km)で30分39秒の区間新記録を叩き出し、チームの優勝に貢献している。オリンピックにかかわる資格(参加標準記録、ワールドランキングポイント)の有効期間が再開し、高いレベルで競り合えるこの大会は、自己記録をさらに引き上げられる絶好のチャンス。それは、同じように今季27分台ランナーの仲間入りを果たした西山雄介(トヨタ自動車、27分56秒78)、河合代二(トーエネック、27分58秒13、MGCファイナリスト)、伊藤達彦(Honda、27分58秒43)にも該当するといえる。
前回、初優勝を果たした田村和希(住友電工)は、これらの選手を相手に連覇に挑むことになる。昨年は日本選手権後の7月に27分57秒14まで自己記録を縮めてきた。今季は、1500mで3分48秒71の自己新をマークしたほか、5000mでも10月中旬に昨年出した自己記録(13分33秒70)に迫るタイム(13分34秒67)で走っているが、懸念材料を挙げるとしたら、レース数が少ないこと、10000mには出場していないことか。
結果の如何を問わず熱い視線が注がれること必至なのは、オリンピック男子マラソン代表の大迫傑(Nike)だろう。今大会は5000mと10000mの両種目にエントリーしてきた。3月1日の東京マラソンで2時間05分29秒の日本新記録を樹立したあとは、7月にアメリカで1500m1レース(3分50秒69)と3000m2レース(7分59秒65、7分54秒49)を走ったのちに、9月末の東海大種目別記録会で5000mを走って13分33秒83をマーク。その後、10月末にアメリカでハーフマラソンに出場し、1時間01分16秒の記録を残している。今回は、東京オリンピック男子マラソンから逆算したなかでの戦略の一環として臨むレースとなるはず。どこにポイントを置き、どんなレースを展開するのか非常に興味深い。大迫の10000mの自己記録は、早稲田大4年の2013年にマークした27分38秒31。この水準に挑むのは難しいかもしれないが、仮に優勝争いが27分50秒から28分00秒あたりで決着するような展開になった場合は、首位争いの一角に加わる可能性もある。
ハーフマラソンとマラソンの前日本記録保持者(1時間00分17秒、2017年/2時間06分11秒、2018年)で、昨年の10000m日本リストで1位(27分53秒67)の記録を残している設楽悠太(Honda)も、大迫同様に、どういう位置づけでレースに臨んでくるかも含めて動向が注目される。今季は故障の影響もあり、トラックでは5000mのレースを1本走ったのみ(14分05秒81、10月末)。5区を担当して区間2位(24分03秒、8.4km)だった11月3日の東日本実業団駅伝の走りを見ても、万全とはいえなかった。年明けの全日本実業団駅伝や、それ以降に行われるレースに向けて、弾みのつく結果を残したい。このほか、MGCファイナリストでは、ここまでに紹介した選手のほかに、井上大仁(三菱重工)、佐藤悠基(SGHグループ)、宮脇千博(トヨタ自動車)もエントリー。34歳となった佐藤は、この種目で日本歴代5位となる27分38秒25(2009年)の自己記録を持ち、2011~2014年(第95~98回大会)には4連覇を達成している選手。今年11月からSGホールディングス所属となって初めてのレースとなる。
また、長距離・マラソンの名門である旭化成は、すでに名前を挙げた村山紘、相澤、オープンで出場するマゴマ・ベヌエル・モゲニを含めて、実に9名の選手がエントリーした。マラソンでのオリンピック代表入りは逃したが、トラックでの出場権獲得を狙っている。前述した日本記録保持者の村山紘に続く日本歴代2位(27分29秒74、2015年)の自己記録を持つ鎧坂哲哉は2015年(第99回)の優勝者、また、大六野秀畝も2018年(第102回)に選手権を獲得している。村山紘の双子の兄となる村山謙太は日本歴代7位の27分39秒95(2015年)の記録の持ち主。これらの選手たちが、オリンピック出場権を目指して、どう戦っていくかは、現在4連勝中の全日本実業団駅伝で、来年の元旦に最多優勝回数を26に増やしての5連覇を実現するためにも、重要な1戦となりそうだ。
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