6/12(金)~14(日)「第110回日本選手権」
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2026.05.15(金)委員会

2026年度強化競技者および専任コーチカンファレンス実施 強化方針を共有/レポート



日本陸連強化委員会は、4月3日に、2026年度強化競技者および専任コーチを対象とするカンファレンスを開催しました。このカンファレンスは、例年、強化指定競技者と、その専任コーチおよび関係者に向けて、新年度開始のタイミングで実施しています。今回も、2026年度の強化方針を全員で確認するとともに、アジア大会をはじめとする国際競技会の関連情報、強化競技者として知っておくべき国際情報や留意事項の共有、研修・情報提供のプログラムが組まれたほか、日本陸連の2026年度事業計画についても説明が行われました。

カンファレンスはオンライン方式が採られ、強化委員会の各担当責任者が日本陸連に集合し、同会議室からプログラムに沿って発信していく形で行われました。オンラインには、250名を超えるJOC(日本オリンピック委員会)指定強化競技者および日本陸連指定強化競技者と、その専任コーチおよびスタッフが参加。4時間にわたって行われました。


【田﨑専務理事挨拶】

開始にあたって日本陸連の田﨑博道専務理事が挨拶に立ち、参加者に向けて、本カンファレンス開催の趣旨を以下のように説明しました。

◎すべては「トップアスリートの輝き」から
ここには強い目的意識を持ったアスリートの皆さん、指導者の皆さんに集まっていただいた。大人数のように思えるが、競技種目ごとに見れば、わずか数名ということになる。皆さんは、まさに日本を代表するトップオブトップということになる。

本日、用意したプログラムは、多岐にわたっているが、そのすべてに、日本陸連が皆さんに何を期待し、どのように支援させていただこうとしているのかを具体的に理解していただきたいという私たちの強い思いが込められている。

昨年9月に行われた東京2025世界陸上(東京世界選手権)では、国立競技場で世界のトップアスリートが最高のパフォーマンスを発揮し、そのなかで堂々と戦う日本選手の雄姿もあった。アスリートの放つエネルギーは日本中に興奮の渦を巻き起こし、来場した総計62万人もの人々からの地鳴りのような声援を生み出した。日本陸連の定款には「陸上競技を通じスポーツ文化の普及及び振興を図り、もって国民の心身の健全な発達に寄与し、豊かな人間性を涵養(かんよう)する」と記されているが、日本陸連が「すべての人が陸上を楽しむ環境をつくっていくこと」「アスリートが世界のステージで活躍し、国民に夢と希望を与えること」というナショナルフェデレーションとしての役割を果たすために不可欠なものは、ほかでもない「トップアスリートの輝き」といえる。

◎陸連が意図する「アスリートセンタードの実現」とは
アスリートセンタードという言葉があるが、私たちが目指しているのは、アスリートの価値を高めて、その権利をただ守るだけでなく、「権利を守るとともに、アスリートが陸上界やスポーツ界、そして社会に対して担うべき責任とは何かを、一緒に問い続けること」。昨年には陸連の事業の企画や決定、運営そのものに、アスリートの皆さんが、それぞれの形で主体的にかかわっていくような仕組みを実現していきたいという考えのもと、「RIKUJO JAPAN」と名付けたプロジェクトを立ち上げた。アスリート一人一人のアイデアや活動を支え、つなげていき、いつかはアスリートが経済的に自立していく手助けになるような活動を目指して、仕組みや環境つくりを進めていこうとしている。
また、2026年度の陸連の事業計画では、改めて明確に「アスリートセンタードの実現」を位置づけている。陸連活動のさまざまな場面において、アスリートの皆さんに企画の段階から参加していただき、意思決定にもかかわっていただく。そういう組織体制もつくっていきたいと思っている。

今日のカンファレンスでは、さまざまな具体的な支援について説明するが、他の競技団体と比較しても手厚いサポート体制を敷いていると自負している。これも、私たちに対して皆さんが期待することに本気で取り組むアスリートセンタードの一つの表れであると理解していただきたい。

◎暑熱対策を含めた構造的課題の解決を目指して
さて、このアスリートセンタードの理念に基づいて、私たちが今、真正面から取り組んでいることの一つが暑熱問題である。長年、危険性を指摘されながらも本質的な解決が見送られてきたこの問題に、なぜ、3年前に改めて踏み込んだのか。それは、私たちがアスリート一人一人の未来、そして、何よりも命を第一に考えているからである。

これは、単に「インターハイや全日中を真夏にやるかやらないか」といった、大会運営上の局所的な話ではない。育成期にある子どもたちが、過酷な環境のなかで、どのようにスポーツに取り組んでいくのかを問うもの。さらには酷暑の日本において、アスリートだけではなく、競技会運営にかかわるすべての人々、応援してくださる皆さまにとってのスポーツの在り方そのものを、社会に問うことであると考えている。
スポーツの存在意義が、社会課題の解決にあると言われて久しいが、この暑熱問題を先送りすることは、陸上界が社会からの期待に応えられていないということと同義であると捉えている。皆さんにおいても、ぜひ、この問題を自らのことと受け止め、どうあるべきか考え、行動を起こしていただきたい。私たち日本陸連は皆さんの未来を守るために、この構造的課題から決して逃げることはしない。

◎アスリートが高めてきた能力は、社会で求められている能力
昨年、創設100周年を迎えた日本陸連では、100周年の記念事業の大きな柱に「人材育成(キャパシティビルディング)」を据え、社会性と主体性をキーワードに、皆さんへの支援活動を展開していこうとしている。このあと研修が用意されている「スポーツインテグリティ」は、社会からの期待に応えること、社会からの期待を裏切らないことを意味するが、その実現は、陸上にかかわる私たち一人一人の行動や言動にある。過去の成功事例が通用しないといわれている大転換点にある現代社会において求められているものは何か。そこには競技力を高めるトレーニングや、そこで発揮される能力やスキルが、社会で活躍するために求められている能力・スキルそのものであることがベースになると私は考えている。皆さんにはぜひ、競技力を高めるプロセスと、これからの社会が求める能力のベクトルが同じであることを理解していただきたい。
そして、この考え方は、アスリートだけのものでななく、アスリートの最も近くで、強い影響力を持つ指導者の皆さんにとっても同じこと、あるいはそれ以上に重要なことといえる。「スポーツインテグリティを備えて、自立した個として思考し、いかなる逆境も切り拓いていく知性、社会性、主体性を持った人材を育むこと」、これこそが我々の目的である。この場をともにするアスリートと指導者の皆さんこそが、新たなステージへ向かう陸上界、さらには、日本・世界の未来を担うリーダーになるのだという認識を強く持ってほしいと願っている。

◎「アジアナンバーワン」を目指す真の意味
今年は、愛知・名古屋でのアジア大会が控えている。日本陸連は、プレイシングテーブルでアジアナンバーワンとなることを目標に掲げている。この「ナンバーワン」というのは、単なる競技力の数値目標ではない。アジアにおいて、今最も輝いている人材、最も期待されている人材になることだと捉えている。アジア大会は、2028年のロサンゼルスオリンピックにもつながるビクトリーロードである。
陸連では、先日、「競技者育成プログラム」を発表し、その内容をホームページにも掲載した(https://www.jaaf.or.jp/development/program/)。ここには、アスリートの皆さんが世界で活躍し、輝くための方向性を示している。ロスオリンピックを目指す人、その次を目指す人、そして指導者の皆さんには、ぜひ読んでいただきたい。
それぞれに目標や位置づけに違いはあると思うが、母国・日本で開催されるアジア大会での皆さんの素晴らしい活躍は、そのすべてが、これからのエネルギーになると信じている。今日は、長丁場となるが、皆さんが競技力を高めていくことと同時に、今、私が述べたような社会からの期待を理解し、これからの陸上界の未来をつくるための有意義な時間となることを期待している。ぜひ、トレーニングと同じように、高いモチベーションを持って、これからのカンファレンスを楽しんでいただきたい。


【強化方針の説明(山崎一彦強化委員長)】

プログラムとして最初に組まれたのは、山崎一彦強化委員長による2026年度の強化方針説明です。「昨年は東京での世界選手権では、テレビや会場でたくさんの声援を受けた。今年は、名古屋でアジア大会が開催される。昨年のような声援をまた受けて、それを力にしていきたい」と話を始めた山崎委員長は、東京世界選手権を終えたあとに、「実は、ほかの競技団体から、皆さんのコメント力が非常に高いという評価を受けた」と述べ、「これは、陸連が特別に何かをしたというわけではなく、選手個人あるいは指導者のなかで考え方が浸透し、選手たちがメディアの前でありのままの思いをコメントしたもの。そうした言葉が多くの共感を得たということは、私たち陸上競技の価値をさらに高めたのではないかと思う」と胸を張りました。そして、「今年も、アジア大会が自国で開催されるので、大いに注目されると思う」として、強化委員会が今年の最重要競技会と掲げるアジア大会に向けての目標をはじめとして、2028年ロサンゼルスオリンピックまでの中期的な取り組みの進捗や今後の方針を説明および共有。続いて、本年2月に更新・発行された「競技者育成プログラム」の内容に基づき、最終的に強化に直結していくことになる競技者育成について、強化委員会としての考え方を示しました。

◎2026年度強化方針
・アジア大会の目標は、「アジアナンバーワン」の座
現在、アジアナンバーワンの座は中国が守っているが、私たちは、その中国に勝つことを本気で目指していく。まだ勝てたことはないので、なかなかの障害であると思うが、今年は、過去最大級の選手派遣をする予定なので、チームジャパンとして、ともに戦っていきたい。

アジア大会の目標を「プレイシングテーブル1位」としたが、実際は、ナンバーワンである中国には、大きく水をあけられている。前回の2023年杭州大会(日本は中国、インドに次いで3位)については、アジア選手権、世界選手権、アジア大会が重なったことで戦略的な派遣を行ったためフルメンバーではなかったという側面はあるものの、1位となった中国(329.5ポイント:金18、銀11、同9)とは大きな差がついている(日本222.5ポイント:金2、銀6、銅8)。今回は、中国に肉薄し、中国に勝てるよう「アジアナンバーワンを目指す」をキャッチフレーズにみんなで向かっていく。
オリンピックや世界選手権のプレイシングテーブルでは、日本が中国を上回ったこともあるが、アジア大会のような出場種目数が多いなかでの勝負となったときには、中国が圧倒的な強さを持つことを承知おきいただきたい。そのうえで、前回の中国のプレイシングテーブルに迫るように、特にメダルを獲得していくところを目指して、全員で挑戦していきたい。

アジア大会に向けての体制は、組織委員会が運営しているなかで、さまざまなレギュレーションがまだ出てきていない状況にある。ただし、選手村への入村や離村、直前のトレーニング拠点などについては、地元の利を生かして最大の配慮をとることを計画している。行動規範に基づき、フレキシブルに対応したい。今後、具体的な情報が入ったところで随時共有していく。

・JAAF VISION 2017に向けての進捗
陸連として掲げている中期ビジョンは、これまでに何度も説明している通り。2028年ロサンゼルスオリンピックで世界のトップ8を目指しており、その目標値としてプレイシングポイント(1~8位を8~1点で得点化し、合計したもの)で50点あたりを目指している。現時点は30点前後で推移しているため、あと20点の上乗せが必要。そのためには、メダル数・入賞数を増やしていく必要がある。しかし、ここまで2016年リオオリンピック24位、東京オリンピック17位、パリオリンピック15位、東京世界選手権16位と推移しており、複数名の入賞者が出たり多くの種目で入賞を果たしたりしていることから、「世界のなかでの日本は、確実に力を上げている」ということができる。

・世界で戦うために求められる実力は
世界大会に出場する、あるいは入賞やメダル獲得を果たすために必要な実力についても、何度も説明している通り。一昨年のパリオリンピックに続き、昨年の東京世界選手権もそうだったが、「そのとき、その場所で、その記録を出す」ことができなければ、入賞もままならないということ。これについては、日本人だけに限らず、出場してくる世界中の選手たちに共通するもので、大会本番においてパーソナルベスト(PB)やシーズンベスト(SB)を出すくらいの実力発揮度でないと入賞やメダルには届かない。つまり、それほど高精度のなかで競技をやっているということである。

日本の選手も近年ではこの数値を上げ、着実に力をつけてきているということができるが、現在は、PBであれば97%前後、SBであれば99%の達成率が必須となっている。また、フィールド種目に関しては、WAワールドランキング上位者…さまざまな国際大会で上位を占める“常連”と言える選手たち…がほとんど入賞していることを考えると、記録だけではなく強さも必要な厳しい状況といえる。しかし、私たちも負けていられないと思うし、少しずつそうした領域に近づく選手も出てきている。今回のアジア大会では、自国開催という地の利も生かし、各々がこの数値以上のものを出せるようにしていくことを目指してほしい。

・U23強化対策プログラムの推進
「複数年にわたり世界で活躍できる確固たる実力をつける」という強化方針を2028年ロサンゼルスオリンピックまで継続していくことは、昨年までと同じ。そのなかで、全選手が世界トップ基準への視座を高めていけるようにすることに加えて、今年は、特にアンダー23(U23)年代の強化に取り組んでいく。具体的には、大学生だけでなく実業団に所属する選手も対象と考え、海外での高度かつ多様な競技・指導環境を提案していくプログラムを設けた。

このプログラムでは、選手だけでなく、その指導者も対象としていることが特徴である。今まで、私たちは、ダイヤモンドアスリートをはじめとする選手たちを、海外研鑽の対象としてきたが、その成果をより広げていくためには、指導者が世界のレベルに達していることが不可欠と考えた。このため、指導者も同時に海外研鑽を積むなかで質的向上を図り、持続性と広がりを持たせていくことを期している。

このプログラムについては、相当額の予算もつけて重点的に行っていく。すでにロサンゼルスオリンピック前までは予算も確保できているので、しっかり進めていきたい。

◎競技者の育成について
山崎委員長は、続けて、「今回集まっている皆さんはハイパフォーマンスの方々だが、これから話していく内容について、“関係のないこと”と思わないでほしい」と前置きして、育成年代を含めての競技者育成に対する強化委員会の考え方を説明しました。

ここで示されたのは、今まで誰もが疑うことなく踏襲してきた育成年代の過程を、改めて見直してより良いものに変えていくことが、最終的にはシニア期の競技発達をより高いものにするという考え方です。山崎委員長は、なぜ、今ある育成年代の競技環境を変えていく必要があるのかを、次のように述べました。

・「日本人に合った技術やトレーニング」という思い間違い
育成年代から競技を続け、日本のトップとなって世界へ出たときに初めて、自分が身につけたと思っていた「日本人に合った技術やトレーニング」が、実は世界では通用しないものであったことに気づくケースが多い。国内において高校や大学期において負けられない戦いが続くなかで身につけてきた技術や体力は、実は短期的技術や体力に過ぎず、世界で戦っていけるような大きな成長につながる技術や体力とは別物。世界に出てみて、ようやくそのことに気づき、取り組みを変えてみたものの、「すでに時遅し」という経験をした競技者は、過去に多く存在する。では、これを正すためには、どうすればよいのかを考える必要がある。

・さまざまな課題の根源に、育成年代の「やりすぎ」がある
冒頭で、田﨑専務も述べているように、現在、日本陸連では育成年代の競技会のおける暑熱対策に取り組んでいる。その背景には「育成年代における競技者の健全な成長を促し、安全で公正かつ多様な競技環境を提供する」という競技者育成指針に基づく方針があり、暑熱対策もその一つ。突き詰めていくと、育成年代の「やりすぎ」に、どう歯止めをかけていくかという点につながっている。

海外の論文では、すでに、高校生年代に「他スポーツの練習量が多かった選手は伸びしろが大きい」「専門競技の時間が多くても他競技の経験に乏しいと伸びしろは小さい」「専門練習の時間が累積4000~5000時間以上となっている競技者は伸びが小さい」というエビデンスが発表されている。今までは、いわゆる「1万時間の法則」の考え方を元に「大成するためには、そのくらい頑張らなければならない」とハードワークを求める傾向があった。しかし、前述のエビデンスを踏まえるなら、練習時間やハイパフォーマンスが可能な期間は有限で、実は1万時間が寿命かもしれないと考えるべきでなないか。もし、その時間を育成期にたくさん使ってしまうと、その後、さらに高いレベルを目指す際の伸びしろは少なくなってしまう。世界で戦える水準になったときの伸びしろを残しておくために、育成年代における従来の時間の費やし方を見直し、最適化することが必要になってくる。

・育成年代アスリートの選択肢を広げるために
日本の育成年代の年間競技会出場回数は世界でも最高レベル。おそらく練習も世界最大級と言ってよい。さらに、そうしたなかで負けられない戦いが続く状況に置かれている。しかし、こうしたことが、知らない間に育成年代アスリートの選択肢を狭めているのではないかということを疑ってほしい。

中学生や高校生年代で陸上をやるとなったときに、若いころから生活のすべてを犠牲にして取り組んだとしてもオリンピックや世界選手権に行けるわけではない。また、育成年代で陸上にピリオドを打つにしても、ケガをしたり燃え尽きたりしてしまうほどの無理をするべきではない。つまりは、中学生は中学生らしい、高校生は高校生らしい生活をしながら、心身の成長に合わせた競技活動が求められるということ。私たちは、そうした状態が、世界で活躍できる取り組みにつながっていくような仕組みにしたいという考えのもと、暑熱対策を含めた育成年代のさまざまな課題に向き合っている。
カンファレンスに参加いただいているシニアの皆さんには、直接は関係のないことかもしれない。しかし、陸上界全体でみたとき、改善しなければならないこうした問題があるままでは、選手が伸びるわけはないし、人気が出るわけもない。ぜひ、そうした点を汲みとって、この課題を認識・共有してほしい。そのうえで、「世界で通用するとは何か」を考えていけるようにしたい。

・世界で通用したあとに「世界で戦うために」必要なこと
また、今日は詳しく触れることをしないが、「世界に通用するようになったあと」のことについても考えていく必要があると思っている。世界で戦うために必要となってくるのはトレーニングに関することだけではない。例えば、チームマネジメントやコーチマネジメントなど、新たに検討しなければならない点は数多く出てくる。こうした点も、選手が精神的に、また経済的に自立して活躍できるような道すじをつくり、その選手たちが輝くことで陸上がさらに発展するようにしていきたい。こうした積み重ねによって陸上そのものの価値を高め、陸上が日本のトップ競技であるといえるようになることを目指す。

・アスリートも「競技者育成プログラム」を
今年2月、「競技者育成プログラム」を更新・発行した。これは、今後の競技者育成・強化の方向性および具体的な方策を示したもので、本日話した事柄も、ここに基づく内容である。今までは現役競技者が、これを読むことはあまりなかったのではないかと思うが、今回のプログラムは、より充実させ、教科書レベルといえる仕上がりにした。トレーニングだけでない陸上競技の側面を、さまざまな視点から学ぶことができる内容となっている。こうした側面を学ぶことが、世界への近道になってくれるかもしれない。ぜひ、ご一読いただきたい(https://www.jaaf.or.jp/development/program/)。


【強化関連情報の共有】

続いて、強化指定競技者および関係者に必要な情報についても、共有が行われました。ここでは、2026年度に予定されている主要国際競技会の日程が示されたうえで、最重要競技会に据えている愛知・名古屋アジア大会に関して、代表内定までのスケジュールおよび選考基準が改めて示されたほか、現時点で把握できている大会本番の情報が共有されました。
また、今後の国際競技会における専任コーチやトレーナーのAD(アクレディテーション)発行は、コンプライアンスの観点から有資格者に制限していく方針であることも示唆。施行時期や対象となる資格など具体的に内容は、今年度中の周知を想定していることがアナウンスされました。

WA競技規則情報では、WAが改正している規則のなかから主な変更点として、シューズに関する規則、上訴に関する規則、300mハードルの設置位置の国際基準など、7項目について解説。また、国際情報提供として、最近の中東情勢の緊迫化により、海外遠征に影響が出ている点を踏まえて、特に個人で遠征を予定している場合の留意点や安全確認の方法が示されました。

さらに、味の素ナショナルトレーニングセンターの利用に関する留意点の紹介や、アジア大会における日本代表選手団の肖像・オフィシャルウエア・取材等に関する注意事項、所属先や選手本人がSNS発信する際の規制事項の解説が行われたほか、日本代表ウエアの取り扱いについて、昨年生じた事例が共有され、どう留意する必要があるかも共有されました。


【2026年度日本陸連事業計画の共有】

また、今回のカンファレンスでは、日本陸連の2026年度事業計画についても基本的な方針と概要が共有されました。説明を行った事務局事業部の平野了部長は、「事業計画として日本陸連が大事にしているのは、“アスリートの皆さんの活躍を起点として陸上の価値を広げて、その成果をまた選手や現場に戻していく”という考え方。今日はそのなかでも、4つの重要な戦略、2026年度末に目指す姿、事業展開の全体像、そのための財源の考え方について説明させていただく」と述べ、日本陸連が進めてきた『JAAF REFORM』(2022年に策定した中長期計画。https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/reform_jp.pdf)のなかで、さまざまな事業が2026年度はどのような位置づけにあるか、年度末を迎える2027年3月の時点で、日本陸連がどのような姿を目指しているかの全体像を示しました。

◎日本陸連の2026年度重要戦略
2026年度は、JAAF REFORMのフェイズ2からフェイズ3にステージが移行する年。フェイズ2では構想・設計の段階であったが、フェイズ3に入る2026年度からは、各ビジョンのロードマップが本格的に動いていくことになる。最大のテーマは、「東京世界陸上で得た大きな熱狂・熱量を一過性に終わらせず、日常に定着させる」こと。そのために4つの成長戦略を掲げた。

①未来に輝く人材の投資
競技力の向上を目指すことはもちろんのこと、それだけでなく、JSCの課題解決型助成事業として採択されたアンダー23への重点的な投資(U23対策プロジェクト)、ダイヤモンドアスリート、ライフスキルトレーニング、ハイパフォーマンスリーダーズプログラムなどの支援を通じて、これからの日本の陸上になる人材をしっかり育てていこうとするもの。これまでは人材育成と称していたが、「人を育てる」というよりは、「陸上界にかかわる人たちがそれぞれの力を高めていく環境を整備する」という意味合いの「キャパシティビルディング」という言葉を用いて進めていく。選手・指導者・審判・関係者が、それぞれの立場で力を高め、現場全体の力として上げていくという考え方である。

②「陸上の楽しみ方の多様化と機会の創出
陸上というと、どうしても競技者の世界、記録を競う世界という見方が中心になりがち。それは本質ではあるが、日本陸連では、同時に、これからは競技をする人だけでなく、見る人、体験する人、応援する人、久々に陸上を始めた人なども含めて、陸上とのかかわりを広げていくことが重要と考えている。その実現に向けて、昨年、本格始動した「RIKUJO JAPAN」プロジェクトによる体験型イベントなどを通じて、陸上に触れる人口を増やしていく。一見、現役選手や指導者には少し離れた内容に思えるかもしれない。しかし、陸上にかかわる人を増やすことが、競技人口の拡大、応援する人の増加、大会の価値向上、さらには将来の競技者や指導者の拡大につながっていくと捉えている。
2025年度は、25の事業において、「RIKUJO JAPAN」の連携事業として展開することができた。ショッピングモールでの実施やお祭り、テレビ局のイベントとしてなど、さまざまな場所で陸上を体験できる場を設けることができた。そうした連携企業や団体様からは、非常に良い反応をいただいており、2026年度も実施したいという声もいただくことができている。

③パートナーとの共創
これまでスポーツ界では、「協賛をお願いします」「支援をしてください」という形が中心であったが、陸連ではその考え方を一歩進めて、「企業や団体から選ばれる存在になる」ことを目指す。陸上と組むことが、その企業や団体にとっても「価値がある、社会的な意義がある、将来につながる」と思ってもらえるような共創・協働関係をつくっていきたい。この関係性によるパートナーシップを、「ソーシャルイノベーションファミリー」と呼んでいるが、この考え方が進むことで、選手の活動支援、育成事業、競技会の充実、地域での普及活動にも、より安定して力を入れられるようになると考えている。

④DXを通じた「生涯つながる」関係性の構築

ここで言うDX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務プロセスなどを改革すること)は、JAAF ID(https://www.jaaf.or.jp/members/)を軸に、競技者、指導者、審判、ボランティア、ファンなど、陸上にかかわる人たちと、継続的に、生涯にわたってつながっていく仕組みをつくることである。現在、約80万人がJAFF IDを保持しており、直接的なコミュニケーションを取れる人は年々増加している。これまで企業が有料で提供していた記録やランキングサービスを、JAAF IDを持っていれば無料で見られるようにした(https://www.jaaf.or.jp/news/article/23231/)ほか、日本陸連のエントリーシステムを利用している大会については、携帯電話などからでもエントリーできるようになっている。また、2025年度から始めた「RIKUJOファンクラブ」(https://fan.pia.jp/rikujo-fc/)についても、当初の想定を超えて約1200名の方に登録をいただいており、競技者だけでなくファンとも直接つながる基盤が整いつつある。

◎2026年度末に日本陸連が目指す姿
2026年度を終える2027年3月末に日本陸連が目指す「在りたい姿」としては、「世界と戦えるトップアスリートの強化と、陸上が日常に根付き生涯楽しめる環境(ウェルネス陸上)の整備を推進すること」「デジタル活用で“ささえる”負担を軽減し、インテグリティを重視した組織基盤のもと、持続可能な環境を整備すること」を目指し、以下の5項目の実現に取り組んでいく。
①トップアスリートの強化と応援・体験文化の定着
②安全で持続可能な育成・指導体制
③多様な人が楽しめる環境の創出・拠点の整備
④「ささえる」人材とデジタル運営の進化
⑤強固な組織基盤とJAAF IDをベースとしたコミュニケーションの充実
これらの推進にあたっては、昨年策定したJAAF人権ポリシーおよびJAAFインテグリティ行動指針(https://www.jaaf.or.jp/news/article/22462/)に則って、誰もが安心して参加できる陸上界を目指していく。

◎日本陸連における事業展開の全体像
日本陸連の活動は、それぞれの事業が単独に存在するわけではなく、一つの循環構造として考えている。このサイクルの頂点にあるのは、トップアスリートの活躍(国際戦略:感動体験の創出)。オリンピック、世界選手権などの国際舞台における日本のアスリートの挑戦や成果は、陸上競技に対する社会の注目を高める最大の原動力となる。次に、そこで生まれた熱量を、社会のなかに広げていく役割(社会価値・収入への転換)を果たすのが「RIKUJO JAPAN」と「デジタル基盤」。RIKUJO JAPANのイベントや街中での体験活動を通じて、これまで陸上に接点のなかった人々が競技に触れる機会を増やす。また、JAAF IDなどのデジタル基盤を活用することで、その体験を一過性のものでなく継続した関係につなげていく。そして、そこで生まれた収益と社会的価値を、次の世代への基盤として還元する(未来への戦略的再投資:キャパシティビルディング・地域基盤)。具体的には、次世代アスリートの育成、指導者・審判の養成、地域の安心・安全な環境構築など、陸上の土台となる部分への投資となる。

ここで伝えたかったのは、トップアスリートの活躍によって、生まれた感動が社会に広がり、その成果が次世代の環境整備につながり、さらに新しいアスリートの活躍につながっていくという循環をしっかりと回していくことが、陸上の発展につながるという考え方である。

◎事業計画における財源・予算配分について
最後に、収入の現状と今後の投資の考え方を説明したい。パートナー、大会協賛、チケット売り上げについて、2021年度以降の推移をみていくと、2022年度まではコロナ禍の影響で一時的に収入が落ちていた。しかし、その後は回復基調となり、2025年度にはコロナ禍前を上回る水準まで回復した。2026年度は、さらに収益を拡大し、現在確定しているものとして約12.7億円規模の事業収入を見込んでいる。

2026年度において、特に増加しているのがパートナー収入と大会協賛収入。この要因としては、「企業との関係性の変化」と「競技会のビジネスモデルの見直し」の2つを大きなものとして挙げることができる。前者については、従来、競技会の広告収入を中心とする支援型が主流だったパートナーシップが、企業の社会課題解決の取り組みと陸上競技の価値を掛け合わせる共創型へと進化していることが背景にある。また、後者については、これまで広告収入に依存する構造だった競技会での収入を、体験そのものに価値を持たせる体験価値型モデルへの転換を進めていることが影響している。具体的にはホスピタリティシートの導入、アスリートとの交流企画など、観戦そのものを特別な体験として提供する取り組みを進めたことが、チケット収入の増加を支えている。アスリートの皆さまの多大なご協力もあって、特に競技会でのアスリート交流は非常に好評を博しており、2025年から始まったRIKUJOファンクラブからも、多くの加入者の方に参加をいただいている状況である。

重要となるのは、こうして生まれた収益を、どう活用していくかということになる。日本陸連では、増収分を単なる運営費として、まんべんなく振り分けるのではなく、将来の成長につながる分野に戦略的に投資していく。

2026年度の予算編成については、今後、日本陸連のホームページにアップする予定だが、これまで説明してきた事業戦略を具体的に実行していくための「攻めの予算」と位置づけている。パートナー収入、大会協賛収入などの拡大による増収分については、重点事業を「国際競技力向上・キャパシティビルディング」「デジタル基盤強化」「機会と場の創出」の3領域に大きく分け、戦略的に配分していく。
このように2026年度の予算は、収入の拡大、成長分野への投資、陸上界の基盤強化という循環を生みだすための構造になっている。この投資を通じて「トップアスリートの活躍を生み、その感動が社会に広がって再び陸上界の成長につながるという」サイクルを加速させていきたい。

◎東京世界選手権の「熱」を、日常のものに
冒頭でも述べた通り、2026年度は、東京の世界陸上で生まれた熱を一過性のもので終わらせず、日常として定着させていくことが大きなテーマとなっている。日本陸連としては主催するゴールデングランプリや日本選手権で、昨年、世界陸上に触れてくださった方々に、再び会場で陸上の魅力を感じてもらえるような競技会の雰囲気をつくっていきたいと考えている。実際に、その2大会のチケット販売状況は、昨年以上に好調となっている。特に日本選手権の先行販売では、これまでのコアなファン層だけではなくて、世界陸上がきっかけで陸上に興味を持ってくださった新しい方々にも多く購入いただいている。世界陸上の熱が残る今年は、そうした意味でも、とても重要な1年になると感じている。

また、主要大会をご支援いただいている協賛企業様には、さらなる充実に向けて、2026年度からこれまで以上のご支援をいただけることになっている。ゴールデングランプリ、日本選手権ともに、日本陸連としては、これまで以上にしっかりとPRにも取り組んでいく計画である。

ただ、何よりファンの皆さまの心に届くのは、アスリートの皆さん自身の発信といえる。皆さんご自身の発信、あるいは日本陸連が発信しているものをフォローしていただく形などで、ぜひ、協力をいただきたい。多くの観客の皆さまに足を運んでいただくことで歓声あふれる競技会場をつくること、「また陸上の競技会を見に行きたい」と思ってもらえるような競技会をつくっていきたいと思っている。ご協力をよろしくお願いします。


【研修および各種情報提供】

このほかカンファレンスでは、例年同様に、強化指定競技者やその関係者が持っておくべき知識の研修や、トレーニングの実践に役立つ情報の提供も行われました。

◎アンチ・ドーピング研修
日本陸連医事委員会の山本宏明副委員長が講義を行った「アンチ・ドーピング」研修では、「負担感と納得感」という観点から、「なぜ、ドーピング検査が必要なのか」の考えを深めていく説明が行われたうえで、基本知識ともいえるアンチ・ドーピング規則に定められている11種類の違反を改めて確認、さらに、近年の国内違反例、居場所情報関連で留意すべき点、検査やドーピング調査に関する国際基準の2026年の変更点などが解説されました。

◎インテグリティ教育と誹謗中傷対策の研修
「インテグリティ教育」の研修は、昨年に続いて、JOC(日本オリンピック協会)の協力を得て実施。まず、丸山駿氏が、インテグリティの基本概念、なぜ必要なのか、直近のスポーツ関連の不祥事事案、もし不祥事に巻き込まれた場合の対処法などの説明を行ったほか、近年、大きな問題となっている誹謗中傷について、そもそも誹謗中傷とは何か、名誉毀損となる法的論点などを説明。また、誹謗中傷が生じやすい例としてSNSの炎上を挙げ、投稿に際して留意する事柄も紹介しました。

続いて、JOCが昨年度からJPC(日本パラスポーツ協会)との協働で展開している「誹謗中傷対策事業」について、事業を担当する千田美沙氏から説明が行われました。「“単に誹謗中傷をやめましょう”というだけではなく、アスリートをサポートする我々としては、アスリートに届く言葉を一つでも多く温かい言葉に変換していきたいと思っている」と千田氏。実際に推進している5つの対策を示したうえで、昨年の東京世界選手権でも運用されたSNSモニタリングについて詳しく解説。ミラノ・コルティナ冬季オリンピックで実施したモニタリングの分析から見えてきた誹謗中傷投稿の傾向などを示したうえで、こうした傾向を踏まえたモニタリング専門家からの提案として、
・万が一、何かが起きたとき、どう初動を取り、誰に助けを求めるかを知っておくことが大きな自衛につながる、
・対応の選択肢は、早ければ早いほど広がる。問題が発生した場合はもちろんのこと、気になる投稿や記事を見つけた段階で、すぐに共有する、
・大会期間中のSNSの使い方や設定の基本方針を明確にする、
・日常の段階で、SNSやメディア対応などに関する適切な知識を身につけておく、
などをアドバイス。さらに、JOCとJPCが実施している「オリンピック・パラリンピック誹謗中傷・相談『ホットライン』」についても紹介され、一人で抱え込むのではなく、すぐに相談することの有効性を呼びかけました。

◎トレーニングに関連する情報提供
また、日本陸連が2024年度から展開している日本陸連認定強化拠点について、現在「JAAF認定陸上トレーニングセンター」として認定されている4つの施設(蔵王坊平アスリートヴィレッジ、GMOアスリーツパーク湯の丸トラック、ジャパンアスリートトレーニングセンター大隅、網走市営陸上競技場)の各現地担当者が登壇し、施設の特徴や周辺環境、トレーニング・宿泊のために整備されている設備等を紹介。このほか、日本陸連のオフィシャルメジャーパートナーである大塚製薬株式会社から、「コンディショニングに関する情報提供」として熱中症対策に関する最新情報が共有されたほか、オフィシャルサポーティングカンパニーである伊藤超短波株式会社からは同社のコンディショニング機器の紹介が行われました。

最後に、各ブロックに分かれてのミーティングが実施され、必要な情報の共有や注意事項をそれぞれに確認、本年度のカンファレンスを終えました。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)

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