
大学生アアスリートの競技力向上とネクストキャリアでの活躍も期した人材育成を目的に、日本陸連が展開する「ライフスキルトレーニングプログラム」。第6期となる今回は、9名の受講生たちが、スポーツ心理学博士の布施努特別講師による全体講義とグループコーチングで、数多くの「自分の“最高”を引き出す技術」を学び、陸上に取り組む日常において実践・活用することで、自身の強みとして使いこなせるよう“トレーニング”してきました。昨年の10月からスタートした、いわば“基礎トレーニングの鍛錬期”もいよいよ最終局面へ。2月14日には、集合型の講義として最後となる第5回全体講義が、東京・北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで行われました。
この日は、飯塚翔太選手(ミズノ)と中島佑気ジョセフ選手(富士通)を特別ゲストに迎えてのトークセッションも加わる豪華な内容に。最初の60分で飯塚選手のトークセッションが、続く90分で布施特別講師による全体講義が、最後の60分で中島選手のトークセッションが行われるタイムテーブルで実施されました。
最初のゲストとして、布施特別講師とのトークセッションに招かれた飯塚選手は、1991年生まれで、現在34歳。中・高校時代から国内トップで活躍し、大学1年時(2010年)に世界ジュニア選手権(現U20世界選手権)男子200mで金メダルを獲得して国際シーンに飛び出しました。シニアの世界大会では、2012年ロンドン大会でオリンピックに初出場。以降、男子4×100mリレーにおける2016年リオオリンピック(銀メダル)、2017年ロンドン世界選手権(銅メダル)獲得を筆頭に、世界やアジアの各大会で数多くの実績を残し、チームジャパンの“顔”として日本の男子短距離を牽引してきました。長年にわたって世界水準のパフォーマンスを維持していることも特徴で、オリンピックは4大会連続で出場、世界選手権には2013年以降、1大会を除いて2025年東京大会までの6大会に出場しています。

トークセッションでは、布施特別講師が、さまざまな質問を投げかけていくことで、飯塚選手がどんな考え方で競技に向き合い、どう取り組むことで、高いレベルでの競技活動を維持しているのかが紐解かれていく形に。「軸はしっかり持つ。物事は自分のフィルターを通して捉え、必ず自分で決める」「試行錯誤したことはすべてノウハウとして持っておく。“失敗”はなく、すべては“学び”」「気づいたことはすべて“データ”。正解・不正解はなく、すべて記録している」「俯瞰した位置から自分を客観的に見る」「理論は熱量に勝てない。だから自分の熱量が上がるよう工夫する」「どんなときも、必ずプラスの状態(ポジティブな考え方)で気持ちを処理する」など飯塚選手ならではの言葉とともに、具体的なノウハウが披露され、その一つ一つから、飯塚選手が常に、自分の“最高”を引きだし続けていけるような思考の巡らせ方や心構え、行動パターンを選んでいることが明らかになりました。

また、この日の講義で最後に行われたトークセッションには、東洋大2年時の2021年度に、第2期生として、このライフトレーニングプログラムを受講した中島選手が臨みました。中島選手は、当時から、ロングスプリンターとしての躍進が期待されていましたが、プログラム受講後の2022年シーズンに、オレゴン世界選手権男子4×400mリレーでアンカーを務め、アジア新記録での4位入賞に貢献する形で、最初のブレイクを果たします。以降、2023年ブダペスト選手権、2024年パリオリンピック、2025年東京世界選手権と、400mと4×400mリレーの代表として世界大会に連続出場、日本の頼れるエースへと成長しました。春先のケガや体調不良を乗り越えて代表入りを果たしていた2025年東京世界選手権男子400mでは、予選で従来の記録(44秒77)を大きく上回る44秒44の日本新記録を樹立すると、準決勝ではパフォーマンス日本歴代2位の44秒53でフィニッシュして、この種目で日本人として34年ぶり2人目のファイナリストに。決勝でも同歴代3位の44秒62をマークして日本人最高位の6位入賞を達成しています。
布施特別講師は、中島選手が、代表入りに届かなかった東京オリンピックを目指す戦いを振り返るところまでさかのぼって、ライフスキルトレーニングプログラムを受講するに至った経緯や、プログラムを受講するなかで学んだことや気づいたこと、実際の競技現場でどう生かしたかを質問。続いて、オレゴン世界選手権で一定の成果が出たあと、大きな目標として迎えたパリオリンピックで経験したこと、その結果を踏まえて東京世界選手権ではどういう考え方でレースに臨んだかなど、素晴らしい結果を残すに至った東京世界選手権での考え方や取り組みを深く掘り下げたうえで、今後のビジョンや、実現のために必要と考えていることなどを聞きだしていきました。
ここで中島選手は、ピークに据えている2028年ロスオリンピックに向けて、何をすべきか逆算して、大会までの3年をどう取り組んでいこうとしているかを具体的に説明。また、「最終的には、“自分の哲学”をしっかり確立させて、それを発揮できるのが一番強い選手だと思っている」と述べ、その哲学をつくるために、他競技・他分野など、陸上以外にも幅広く目を向けてヒントを得ようと考えていることも明かしました。
さらに、「陸上で培ったライフスキルは、将来、どう活用できると思うか?」という問いに対して、「僕がアスリートとして養ったこと(ライフスキル)の一番核に近いところは、すべての分野において応用できると思っている」と回答し、「陸上選手は、ほかの競技に比べて内省能力の度合いが高い。その内省能力は、どの分野でも特に強いと思う」と述べました。そして、「陸上をやっていくうえで獲得した引き出しは、本質的に考えるとほかの場面でも応用できるし、応用するつもりで一貫性を担保して、そういったスキル・引き出しを持っておきたいなと思っている。今は、陸上のために、その引き出しを育んでいるわけだが、例えば、企業小説を読んだときに、“ここで実際に働いたら僕のスキルはどう生かせるか”など、練習時間以外のところで、どうすれば自分のスキルが生きていくかや、どういうふうに点と点を線にしていくかを考えるようにしている」と、OBならではの取り組み例も披露。“ライフスキルトレーニング初心者”である受講生たちにとっては、貴重なアドバイスを受け取る機会となりました。

2つのトークセッションに挟まれる形で実施された布施特別講師による全体講義では、まず、前回の講義で学んだ「ストーリー」を考えていくうえでカギとなる「問いの立て方」がレクチャーされ、これに関するワークが行われました。
続いて、“最強の役割性格”として紹介された「オートテリック」というパーソナリティの説明へ。オートテリックは「自己目的的」と訳され、評価や報酬など外から与えられた目的の達成や結果よりも、取り組んでいること自体に興味や関心を持ち、喜びや楽しさを見いだせる特性のこと。今回のトークセッションに協力してくれた飯塚選手や中島選手をはじめ、スポーツ界で頂点を極めたトップアスリートはもちろん、スポーツ以外の分野でも特筆すべき成果を残している人物に共通してみられることがわかっています。布施特別講師は、このオートテリックパーソナリティを獲得する条件として、1)挑戦のレベル、2)目標の明確さ、3)役割性格、4)自己決定能力、5)獲得型思考の5つを挙げ、ここまでに学んできた「CSバランス」「仮説思考」「ダブルゴール」「縦型思考」「役割性格」などが、それらの条件にどう位置するかを説明しました。さらに、物事に取り組む際には、“楽しいから、やる”という「自己決定能力」と、“勝つためにプレーする”という「獲得型思考」の2つの条件が重要になってくることを提示。受講生たちは、自身のライフスキルを活用し、常に自分の“最高”を発揮していく取り組みを続けていくと、このオーソテリックパーソナリティに近づいていけることを理解しました。
最後に、布施特別講師は、「今、皆さんが陸上を通じて試行錯誤していることは、この先、皆さんが30歳、35歳になったとき、どの分野に進んだ場合でも、そこで磨き続けられること」と述べ、「特に、陸上でない世界にキャリアチェンジした場合でも、陸上で使ってきたスキルは、シチュエーションや文化が違うだけで、どの分野でも使えるスキルであり、むしろ、ほかの人よりもスキルフルといえる。もちろん、その世界ならではの業務知識などを身につける必要はあるけれど、そこさえ頑張れば、自分の武器は十分にあるのだということを、皆さんへお伝えして終わりたい」と呼びかけ、第6期生に向けた全体講義を終えました。
最終回となる第6期生の振り返りインタビュー。今回は、田原佳悟選手(立命館大学4年、110mハードル)と釣本陽香選手(横浜国立大学2年、三段跳)の登場です。トップ選手を招いてのトークセッションで心に残ったことや、最後の全体講義の感想は? そして、このプログラムに参加したことが、自身の行動や考え方に、どんな影響をもたらしているかを話していただきました。
飯塚選手、中島選手の話から学んだことは?

――今日で全体講義がすべて終了しました。最初の全体講義が10月末で、その前に行われたオリエンテーションを含むと約4カ月。けっこうな長い期間を過ごしたわけですが…。
釣本:確かに長いけれど、なんか、あっという間だった感じがします。
田原:はい、始まったと思ったら、あっという間に終わりました(笑)。
――どちらも“あっという間”ということで、充実の4カ月間だったようですね。このインタビューも今回が最終回。お二人には総括的なことも含めて、伺っていこうと思います。まずは今日の全体講義を振り返っていただきます。今日も盛りだくさんの内容で、さらにすごく豪華でしたね。ゲストとして、飯塚選手と中島選手が来てくださいました。最初は、この話題から行きましょうか。両選手のトークセッションで、一番心に残ったことをお聞かせください。
釣本:私は、中島選手が「1年だけの合理性よりも、長期的な合理性を優先させるべき」という話をされたことです。その具体例として、学生のときに200mをやらなかったことに対して、「そのときの合理性で考えると、やらなくてよかったといえるけれど、スピードが課題となっている今現在で考えると、あのときリスクがあっても200mにチャレンジすべきだったのではないかと思う」と説明してくださったことで、なんかすごく腑に落ちました。私は、陸上を100mから始めたのですが、跳躍に移ってからは、ずっと跳躍で勝負してきたんですね。でも、今は走力というのが課題になっていて、実は、それは高校のときから感じてきたことだったので、お話を聞いて、まずそれが頭に浮かびました。長期的な合理性を優先させるって、聞くだけだと確かにそうだと思うのですが、現役選手としてやっているなかでだと、実践するのはすごく難しいこと。そこに気がつき、ハッとする思いでした。
――この部分は、大西勧也選手(天理大学2年、走幅跳)や吉澤登吾選手(東京大学1年、800m)も、悩みの一つとして、似たことを話していましたよね。アスリートとして決断に迷うところでしょうから、経験を踏まえての中島選手の考え方は、きっと皆さんの参考になっただろうと思います。田原選手は?
田原:僕は、自分が質問した内容につながるのですが、飯塚選手が話していた「今の自分の状態での100%を出せるようベストを尽くす」という考え方のところです。
――飯塚選手が「自分の状態が80%のとき、そこで100%を求めるのではなく、80%の状態のすべてを出しきることを目指す」と話した部分ですね。田原選手が質問したのは、「もし、自分が、そのときのベストを尽くせても勝てなかったときにモチベーションは下がらないのか?」「自分が100%を出せても、結果として負けてしまったときに、自分をうまく保てている理由や、長年、ハイパフォーマンスを続けられている理由を知りたい」という内容でした。これに対して、飯塚選手は、「自分がその状態のベストを出せて、それでダメだったときは、“今日は、この位置だったのだ”というだけのこと。そう思って終わって、“次はもっと上に行けるように、どう準備すればいいか”を考える」と答えました。
田原:はい。僕は、陸上に限らず、すぐに一喜一憂してしまうところがあって…。陸上でいうなら、110mハードルと400mハードルに取り組んでいるのですが、両立を目指しているものの目先の結果ばかりを考えて、長期的な視点での目標を立てたことがありませんでした。常に自己ベストや良い結果を出さなければいけないという固定概念があって、それで空回りして、大事なところで負けてしまうことも多かったんです。今日、飯塚選手は、「“成功か、失敗か”ではなく、“成功か、学びか”だ」と話していましたが、中島選手も、それと同じようなことを言っていて、そのおかげで「今やれる力を出した結果のすべてが“学び”で、それがたとえ失敗に終わったとしても、学びとして次につながっていくんだ」ということを、自分のなかで改めて言語化された形で理解することができました。そう考えたら、一喜一憂してしまうこともないのだな、と。なんか、自分の固定概念を崩してもらえたように感じています。
――確かに、飯塚選手と中島選手のセッションは、別々に実施されたのに、それぞれが口にした考え方には、共通する点が多かったですよね。それを直接聞くことができたのは、とても良い機会だったと思います。
「すべてのベースは、“楽しいから、やる”。土台を、もっと広くしたい」(釣本)
「凝り固まっていた自分と、その要因に気づくことができた」(田原)

――さて、両選手のトークセッションの間に行われた布施先生の全体講義は、これまでの内容を総括していくような内容となりました。続いて、この全体講義で心に残ったことを聞かせていただきましょう。最強の役割性格として「オートテリック」というパーソナリティが紹介されましたね。そして、このオートテリックパーソナリティを獲得する条件として、ここまでに学んできた「CSバランス」「仮説思考」「ダブルゴール」「縦型思考」「役割性格」が改めて示されたうえで、新たに「自己決定能力」「獲得型思考」という概念も解説されました。それぞれに印象に残ったのは、どの部分でしたか?
釣本:そうですね。ここまで学んできた「仮説思考」とか「役割性格」とかは、もちろん実際に生かしていきたいなとすごく思っているのですが、それを生かすうえでも重要なのだなと感じたのが、今日、教えてもらった「自己決定能力」と「獲得型思考」の部分でした。飯塚選手が「理論は、熱量に勝てない」と話していましたよね?「理論は、熱量に勝てない。だから、自分の熱量が上がるように工夫している」と。仮説思考とかは、いわば理論の部分なわけですが、その仮説思考自体を「やらなきゃいけないから、やる」と取り組むのではなくて、まず「楽しいから、やる」という土台が大事なのかなと思いました。
――「楽しいから、やる」は、自己決定能力の5段階でいう最高の取り組み方という説明でしたね。つまり、釣本選手は、仮説を立てて物事に取り組むことも、役割性格を演じてみることも、「やらなきゃ」とか「人に言われたから」とかではなく、そのこと自体が「楽しいから」やってみることが大切だと感じた?
釣本:はい。図で表すのはちょっと変なのかもしれませんが、「自己決定能力」とか「獲得型思考」とかが土台にあって、そこに「仮説思考」とか「役割性格」とかが成り立っていくのかなと感じたんです。まず土台の部分を広く、大きくしていかないと、積み上がるものも積み上がらないのかなというふうに、私は解釈しました。
――そこは、今までにはなかった発想だった? それとも、もともと持っていたことが明確になった感じ?
釣本:もともとあったことが、明確になった感じでしょうか。私自身、これまでずっと「楽しい、楽しい」で陸上をやってきていて、それで伸びてきていたのですが、去年は満足のいかない結果が続いて、「しんどい」という思いが大きかったんですね。「やらなきゃいけない」という感覚がすごく強くて、理論的な部分にずっとフォーカスしていたのですが、この話を聞いて、「ああ、そういうことだったんだな」と思って…。やっぱり自分の熱量とかモチベーションとかの部分を、もっと大事に見つめ直さないとダメなのだなと実感しました。
田原:僕は、2つありました。1つは、「視座と視点・視野」の話。自分は、視点とか視野を広げることばかりにフォーカスしていたと気づきました。新しいことや自分で何かを始めてみることは好きなので、気になったことや面白そうと思ったことに、すぐ手を出してしまうところがあるのですが、そのこと自体はいいけれど、その際に、いったん視座を高く持って整理したりまとめてみたりすることも大事なのだなと思いました。そうした俯瞰視する能力は、今後、陸上に関係なく、必要になってくると思います。
――なるほど。ここは、飯塚選手が「俯瞰して自分を客観的に見る」と話したことについての、布施先生の解説でしたね。物事を3次元で捉えると、見えてくることや新たに気づくことが劇的に変わるというのがよくわかる説明でした。もう一つはなんですか?
田原:今までに何度も出てきたことですが、正確性と納得性のところです。
――「正確性<納得性」と説明があった部分ですね。物事に取り組むとき、数字やデータが正確であるかよりも、いかに自分が納得できるものであるかのほうがチャレンジは続く。だからこそ、そのエネルギー源となるストーリーが必要になるということでした。具体的には、どの部分が?
田原:さっき出た「理論は、熱量に勝てない」の話にも通じるのですが、僕は完全に理系の考え方をするタイプで、自分が一番腑に落ちるのは、結果や数値など、いわば正確性の部分なんですね。だからその部分が嚙み合っていないと、自分のなかで納得がいかない…。だから、どうしてもそっちに考え方が走ってしまいがちで、その結果、感覚を見失ったり、さっきも話した目先の結果に囚われて一喜一憂したりして、ストーリーを立てることができていませんでした。さらに、本来の性格がそうなのに、役割性格でも同じことをやってしまっていて…(笑)。
――なんと、本来の性格が、さらに強まってしまった…(笑)。
田原:そうなんですよ(笑)。なんかもう、オリジナルしか持っていない、凝り固まった状態になっていたんですね。ある程度までは行けるものの、なぜかいつも行き詰ってしまうことは感じていたので、今日の講義を受けて、自分には、もっと納得性の部分が必要なのだなと気がつきました。また、その点は陸上だけに限ったことではないな、とも…。普段の生活でも、自分は理詰めで淡々と考えてしまうところがあるので、日常にも納得性のあるストーリーを持たせてみるといいのかもしれないと感じました。
ライフスキルトレーニングが、自身にもたらしたものは?

――今日の全体講義によって、ここまで学んだこと全部が、実はつながっていることがはっきりとわかってきたのではないかと思います。第6期では対面式での全体講義が5回、オンラインによるグループコーチングが2回実施されたわけですが、受講を通じて、自分自身に大きく影響したことや、考え方に変化が起きたことはありますか?
釣本:もともとは、試合の大事な場面で、なかなか結果が出せないことについて、その理由や対処の方法を知りたいと思って応募したのですが、“そこじゃなかったんだな”と思いました(笑)。なんかもう、それこそ、その1点に尽きるのではないかと思います(笑)。
田原:確かに(笑)。なんか、最初の理由はそこだったよな、みんな(笑)。
釣本:そうそう(笑)。それこそ、私も初めはその1点にフォーカスしていたのですが、本当はそこじゃなくて、もっと全部がつながっていて、(要因となることは)もっと前段階から全体として物事を捉えないといけないんだなとわかりましたね。そうやって全体として捉えたうえで、部分部分を細かく記録して、自分のことをもっとよく知っていかないと、本番だけでどうにかしようとしても、そりゃ無理だよな、と…(笑)。
――そこは、先ほど釣本選手自身が仰っていたベースを大きくするという部分の一つになるのかもしれませんね。
釣本:そうですね。点で見るのではなく、全体を見て、やっていかなければいけないのだなということを、ただ認識するだけじゃなくて、ちゃんと理解することができました。それこそ腹落ちして、納得できたと思います。
――田原選手は、いかがですか?
田原:自分の場合は、受講目的の一つとして、ほかの種目をやっている人の意見や考えを知りたいという思いがあったのですが、それを実現することができました。また、陸上オタクなので(笑)、メディアが報じている記事とかトップ選手のインタビューなども全部見ていて、例えば中島選手のインタビューなんかも、すでに読んでいるのですが、今回の講義で直接話を聞くことができました。このプログラムでは、そうやって、自分とは違う種目に取り組んでいる人たちとディスカッションを重ねるなかで、その人が本当に考えていることを知ったり、また、トップ選手の考えていることを本人から直接聞いたりする形で、たくさんの考え方や情報をインプットすることができたわけです。僕は、自分が高校時代に一人で陸上に取り組んでいたこともあって、いろいろな情報をたくさんの人と共有したいという思いから、今までにSNSで発信することなどもやってきましたが、アウトプットに走りすぎてしまっているところがあったんですね。そういう点からも、ここでのインプットは、“引き出しが増えたな”という感じで、すごく大きかったです。今すぐ使う・使わないは別にしても、自分自身の部屋がすごく広くなった気がしていて、今後、いろいろな場面で生かすことができそうだと感じています。
――なにか情報を受け取るにしても、いったん「あれ、これは本当かな?」と疑ってみるとか、「自分はこう思うけれど、ほかの人だったら、どう思うのかな?」と、物事を一つの視点でなく、さまざまな視点で捉えて考えられるようになった?
田原:はい。そうですね。
――今までは、そうではなかったのですか?
田原:自分のテリトリー内で考えていて、自分のわかっていることや自分の理解できる範囲でしか手を出したくない感じでした。だから、新しいことは好きだけど、ちょっと試してみて合わなかったら、すぐに手を引くし、嫌なことはやりたくないというところがあったのですが、このプログラムの受講によって、人によって本当にいろいろな考え方があることを知って、自分のなかの引き出しが一気に増えたという感じがしています。
ライフスキルトレーニングで磨いた自分の強みを。将来で生かしていく
――お二人は、今後、将来的に、どういう方向を目指しているのですか? 今春卒業する田原選手は、確か大学院に進学するのでしたよね?田原:はい、大学院に進みます。まだ具体的には決めていませんが、今、中学生や高校生に陸上を教えていたりしていることもあって、陸上にはかかわり続けていきたいと思っていて、将来的に、陸上に何かを還元できたらいいなと思っています。あと、今の自分のなかで課題となっているのは、陸上だけでなくて、ほかに何か熱中できるものを見つけること。生活のすべてが陸上だけになりすぎていて、そこが崩れたとき…例えば、タイムが出ないとか、ケガをしたとなったときに、本当に何もなくなってしまうんです。そういうことがないように、もうちょっと視野を広げたいなと思っています。
――それって、実は「陸上オタク」には、なかなか難しいことなのかもしれませんね(笑)。ただ、「視野を広げたい」という意味では、今回は良い機会になったといえそうです。背景の異なるいろいろな人とつながり、別の視点を持つ別の種目との人と仲間になることができました。それって、すごく貴重なことだと思いますよ。
田原:はい、本当にそうですね。人によって、それぞれ考え方が違うというのも知ることができましたし、そのうえで、いろいろな考えを話し合ったり、相談したりすることもできるようになりました。最初は、陸上のためのプログラムだと思って来ましたが、陸上以外の部分で、こんなに勉強になるとは思っていませんでした。
――このプログラムで身についたことは、これからの将来、さまざまな場面で、絶対に役立つと思いますよ。社会人を経験した立場から言うならば、むしろ社会人になってから生かせることのほうが多いようにも思うので、楽しみにしていてください(笑)。釣本さんは、この春から3年生となるわけですが、将来はどう考えているのですか?
釣本:私は、全体講義のときにも話したように、「“幅・三段の人”といえば釣本」と言われる選手になりたいんです。そして、そこに向かうときの自分の姿勢として、日本代表になる時にはもうオリンピックを見ているくらい、オリンピックに出る時にはもうオリンピックの入賞を見ているくらい、常に先を見通せている選手、ずっと成長し続けられる選手になりたいなと思っています。また、教育学部で学んでいるので、選手生活を終えたあとは、指導者になりたいです。自分が突き詰めてきた陸上の経験を生かして、教える選手のターニングポイントになるような指導ができたらいいなと考えています。
――指導者養成の講習などを見ていると、そこでレクチャーされる現場での声のかけ方とか、コミュニケーションの取り方、物事の考え方などは、このライフスキルトレーニングで紹介されたことと共通する点がすごく多いことがわかります。そう考えると、ここで学んできたことは、競技者としての釣本さん、将来、指導者になったときの釣本さん、そのどちらにも大きく役立ちそうです。
釣本:楽しみです。
――このあとは、3月に布施先生とのワン・オン・ワンのセッションが行われて、予定されているプログラムが終了ですね。ここで学んだことや、秋から冬にかけて実践で取り組んできたことを生かして、6期生の皆さんが大きな飛躍を見せることを楽しみにしています。本日は、ありがとうございました。
(2026年2月14日収録)
文・写真:児玉育美(日本陸連メディアチーム)
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■ライフスキルトレーニング講義
▼【自分がなりたい理想の姿を描く】ライフスキルトレーニング第1回講義https://www.jaaf.or.jp/news/article/22916/
▼【「役割性格」と「目標のつくり方」を理解する】ライフスキルトレーニング第2回講義
https://www.jaaf.or.jp/news/article/23015/
▼【世界記録保持者・山西利和選手の「自分の“最高”を引き出す技術」に学ぶ】ライフスキルトレーニング第3回講義
https://www.jaaf.or.jp/news/article/23066/
▼【内発的モチベーションに寄与するストーリーとは?】ライフスキルトレーニング第4回講義・大西勧也選手&若菜敬選手インタビュー
https://www.jaaf.or.jp/news/article/23139/
▼【ライフスキルトレーニング】グループコーチングレポート②:取り組みの「核」となるものを深く考える
https://www.jaaf.or.jp/news/article/23147/
【日本陸連 100周年コンテンツ】スポーツと社会をつなぐ人材育成ビジョン
▼日本陸連 田﨑専務理事インタビューhttps://youtu.be/thE73keej4E?si=w-VRdpoVfZIkAmrD
▼人材育成における具体的アクション
https://youtu.be/aKVE5ZNmygg?si=EqPbmHw2M24itYwu
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