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2025.12.15(月)その他

【「役割性格」と「目標のつくり方」を理解する】ライフスキルトレーニング第2回講義・村田選手&吉澤選手インタビュー



大学生アスリートを対象に日本陸連が展開する「ライフスキルトレーニングプログラム」は、自身の思考や状態を的確に把握し、常に最善の選択を行っていくための方法を学び、それらを使いこなせるようトレーニングしていくプログラム。「自分の“最高”を引き出す技術」を身につけることによって、競技力の向上だけでなく、日常のあらゆる場面で生かし、幅広く活躍できる人材の育成を目指して行われています。第6期は、10月末から9人の受講生に向けたプログラムがスタート。11月30日には2回目の全体講義が行われました。

この日は、宿題として出されていた「自分がありたい将来像」について、自身が考えてきたことを2テーブルに分かれたグループ内で話し合うところから講義がスタート。そのうえで、自分の理想とする将来像に近づいていくために有効であるとして、「役割性格」という概念が紹介されました。これは、自分が「こうしたい、こうなりたい」という目標を達成するために適した性格を演じること。例えば、オリジナルの性格が「内向的で人と話すのは苦手」であっても、多くの人とコミュニケーションをとる必要が生じたとき、「外交的で話をするのが好きな自分」を演じることで、目的を達成しやすくしようとする方法です。布施特別講師は、「実は、私たちは、いろいろな場面で自然と役割性格を演じている」と述べたうえで、その役割性格を、意図して活用できるようになると、さまざまな場面で役に立つこと、また、最初からうまく使いこなせるわけではなく、意識して用いていくなかでコントロールできるようになっていくことを、事例を示しながら説明。受講生たちは、あるペアワークを実施して、「役割性格」がどういうものであるかの理解を深めました。

続いて、布施特別講師は「スポーツ心理学のリサーチで、オリンピックメダリストには共通する特徴があることがわかっている」と述べ、それぞれに条件がついたなかでの「5つの特徴」を提示しました。今回は、そのうちの「現実をしっかりと捉えたうえでの“楽観主義”」と「完璧でなくとも勝つ“完璧主義”」について説明。これらを実現するために効果のある「ダブルゴール(目標をダブルに設定する)」「CSバランス(目標を設定する際に、挑戦<C>と能力<S>のバランスを考慮する)」「仮説思考(物事に取り組むとき、“仮説を立てる→実行する→データを分析して再仮説を立てる”のサイクルを回す)」の概念を紹介しました。

なかでも「目標は一つでなく、ダブルで持つと効果的」とする「ダブルゴール」では、特に、時間軸を意識して分ける「大きな目標と小さな目標」と、そのときどきで設定する「最高目標と最低目標」について、その重要性や設定する際のポイントなどが丁寧に説明されました。その説明の最中には、「最高目標」「最低目標」という言葉の定義を巡って、受講者から質問が挙がり、ほかの受講者も加わって、それぞれの考え方や視点を布施特別講師と論じ合う場面も。対面式の講義ならではの光景というべき展開のなかで、言葉一つとっても印象や受け止め方は人によって違うこと、思考のゴールとなる部分は同じであっても、そこに至る考え方が異なる場合もあることなどを認識する機会となりました。
第6期のレポートでは、各全体講義終了後に実施する受講生へインタビューを通じて、ライフスキルトレーニングで得られる学びや生じる変化などを紹介しています。今回は、村田蒼空選手(筑波大学3年、棒高跳)と吉澤登吾選手(東京大学1年、800m)に話を伺いました。


◎「役割性格」について抱いた印象は?



――2回目の全体講義が終わりました。今回の講義はいかがでしたか?

吉澤:前回(1回目)はイントロみたいな感じのところも多かったのですが、今回は、実用できる事柄が多くて、学びが多かったかなと思います。

――村田選手は、いかがでしたか? 心を惹かれたことはありましたか?

村田:「役割性格」の話がすごく面白いなと思いました。前回、「大きな目標」とかを考えたじゃないですか? その姿に近づいていくために、自分に役割を与えて演じていく…というのを聞いて、今までそういうのをしたことがなかったので、競技で抱えている悩みとかを解決していくにあたって役に立ちそうだなと感じました。

――「役割性格」は発想そのものがなかった?それとも、“ああ、言われてみれば、やっていたな、私”という感じだったのですか?

村田:「役割を演じる」というのは、新しい発想でしたね。

――吉澤選手はいかがでしたか?

吉澤:僕もけっこう「役割性格」のところは、いいなと思いました。その話を聞いて、僕のなかでやっていたことが整理されたというか。というのも、僕には、僕という素の人間に対して、熱を与えてくれる人と、冷静な言葉をくれる人が、僕とは別に2人いて…。

――ご自分の中に?

吉澤:はい。例えば、ちょっと弱気になってしまうときは「お前、やれよ」とコーチが熱い言葉をかけるような感じで言ってくれる人で、逆にもう一人は、“すごく練習をやりたいんだけど、ちょっと足が気になるから、本当はやらないほうがいいんだよな”というようなときに、「いや、そこは絶対にやらないほうがいい。冷静になって考えろよ」と言ってくれる感じ。そういうふうに、僕という人間に対して、2人の人間が、そのときそのときにコメントをくれて、僕はそれに従って動いているのかな、と。これまで、あまり指導者みたいない人がいないなかでやってきた環境だったので、そういう2人が僕の中にできた感じなんです。

――アクセルを踏めと言ってくれる人と、ブレーキを踏めと言ってくれる人ですね。それは「役割性格」の話を聞いて、気づくことができた?

吉澤:頭の中にある声みたいなものを、そういうふうに整理できたという感じです。


◎言葉や概念の受け止め方は人それぞれ



――今回は、目標のつくり方についても詳しく説明がありましたが、いかがでしたか?

村田:私は、「ダブルゴール」の目標のつくり方のところで出てきた「最高目標・最低目標」が役に立つと思いました。棒高跳って、助走を意識したり、踏み切りを意識したり、空中(動作)を意識したりと、やらないといけない要素があるので、そのなかで「最低限どこを、何を、まずやるべきか」を考えておくことは、すごく大事だなと感じましたね。

――そこは、今まで考えたことはありましたか?

村田:優先順位を決めることはやっていました。まず、一番意識するのは助走で、リズムアップすること。その流れで踏み切り、空中はもう無理には意識しないとか。逆に、その日の調子によっては「今日は、ほかはうまく自動化できているから、空中を意識してみよう」と考えることもあります。

――では、そこをより明瞭にしていけそうですね。吉澤選手は、ダブルゴールの話のところで、積極的に手を挙げて質問していました。布施さんと意見を戦わせる受講生、6回目にして初めて拝見しました(笑)。

吉澤:そうなんですか?(笑)

――講義での説明とご自身の認識に相違があったようですが、そこも含めて納得・理解はできましたか?

吉澤:僕のなかでは「小さな目標を達成したら、あとは大きな目標を達成するしかないのか」と思えてしまったんです。どちらかというと僕は「大きな目標に対して、優先順位をつけたうえでの目標が何個もあって、それを一つクリアできたら次に行き、それがクリアできたら、さらに次に行く」と考えています。なので「どこが最低」とか「どこが最高」とかいうことではなく、「今できる次の一歩を目指してやっていく」というイメージだったので、なんかちょっと違う感じがしてしまったんです。

――言葉の定義が、しっくりこなかったのかもしれませんね。「最低」という言葉から“一番低い”ところで横並びしている印象を抱かれたのでしょうか。

吉澤:ああ、そうです。そこが自分の、一つひとつやっていく感じとは、ちょっと違うように思えたので、そこを確認したいという気持ちで質問しました。

――布施さんが説明された、その点についての理解はできましたか?

吉澤:わかりましたし、なんとなく(自分の考えていることと)同じことなのかなというふうにも思いました。ただ、ここは全体講義のなかでも話して、共感もしてもらえたのですが、僕は、最低・最高という考え方よりは、状況に応じて正しい目標を立てられるという能力が大事だと思っているんです。ですから、ある程度、パターンを見つけだして、“こういうときは、こういう感じ”というのを用意して、いい判断ができる人になりたいと思っています」

――引き出しの中に、「こういう場合には、こうしよう、ああしよう」というものをたくさん持っておいて、対処できるようにしようと?

吉澤:そうです。そういうのを持っておくことが大事だな、と。

――それで最終的にやりたいことを達成しようというイメージ?

吉澤:はい。

――なるほど。でも、そこは外から聞いていると、最終的に目指すところや考え方は同じように感じますよ。言葉に対する受け取り方でイメージが少し違うように思えるのかもしれませんが…。そういう意味では、自分の考え方と、最終的には同じことを言っていても、違う表現なり思考回路なりをする人がいることを知るのは新鮮じゃなかったですか? …って、すみません。これって、なんか誘導していますよね?(笑)

吉澤:笑。まあ、そもそも、こういう話をするということ自体が、機会として少ないので、講義が終わったあとに、少し話したことも含めて、いろいろな考えがあること…同じ考えだとしても言葉が違うというのも含めて、いろいろな選手の声が聞けるというのは貴重な機会だと思いました。


◎自身の課題を、どう解消する?

――お二人は、どういう思いから、ライフスキルトレーニングプログラムを受講しようと思ったのですか?

村田:パフォーマンスの向上を考えていくなかで、棒高跳の技術について考えることは多かったけれど、「競技への考え方」とか「自分の感情をコントロールする」とかいうことは、深く考えたことがなかったし、トレーニングする機会もありませんでした。それもあって「自分の“最高”を引きだす技術を身につける」という言葉に惹かれて、この取り組みを通して、自分を変えるきっかけになればいいなと思ったのが受講を申し込んだ理由です。

吉澤:僕は、けっこう一人で競技に取り組む時間が長くて、そのなかで「自分をどうコントロールしていくか」「自分の最大値をどう上げていくか」には自分で向き合って、けっこうやってきました。そういった能力を、今まで自分も養ってきたつもりなのですが、受講することによって、「新たな発見があるのではないか」という思いや、「自分がやってきたことが良かったことを確認できたらいいな」という思いがありました。

――「ここをこうしたい」とか「ここを変えたい」とか。ご自身が課題にしていることは何かありますか? 

村田:自分は、モチベーションに波があることでしょうか。

――村田選手は、中学時代から、ずっとトップで活躍してきましたが、それは中学のころから課題だった?

村田:大学になってから大きくなりました。自分一人でメニューを考えてやるようになったわけですが、強制力がないために、調子が上がらず練習がうまくいかなかったりすると、そこで「終わりにしようかな」と考えちゃったり(笑)してしまうんです。あとは、うまくいかなかったときに、自信をなくしてしまいがち。常に、ポジティブに考えられないというのが、けっこう大きな悩みですね。

――そのあたりは、もしかしたら、「ダブルゴール」や「役割性格」とかを使いこなせるようになると変わってくるのかもしれませんね。

村田:はい。そんな予感がしています。ですから、今日は学びになるところが多かったです。

――吉澤選手は、いかがでしょう?

吉澤:理詰めで考えてうまくいかなかったら、やる気がなくなってしまうことですね。例えば、去年のインターハイでは、日本記録を樹立した落合晃選手(滋賀学園高、現駒澤大)がいて、一応「勝ちます!」とは言うものの、きちんと考えたら難しいことはわかっているわけで、そうなるとモチベーションをうまく持っていけないみたいなところがあるんです。最初に言ったように、自分のなかには熱く頑張れと言ってくれる人がいるけれど、それをもってしても気持ちを高めていけないときがありますね。また、昨年だとU20世界選手権で準決勝には行ったけれど、「決勝に行ける!」とは思えなかったんです。そんな思いでレースに臨めば、そりゃ行けないですよね。そういうときでも、気持ちや身体をもっていけるようになる必要があると感じています。

――なるほど、吉澤選手は、きちっきちっと理詰めで考えて、その通りに事が運ぶ状態で進んでいくことを得意としているのですね。

吉澤:そうですね。自分の“道”に乗せてやるのが好きだし、そう言っているうちはモチベーションを保てますから。でも、そこに乖離が生じてしまうと、気持ち的に目指せなくなってしまうところがあります。
――そこは、チャレンジと能力のバランスを考える(CSバランス)とか、役割性格が利用できるのかもしれませんね。講義で説明があったように、役割性格は、最初は利き手で描くようにスムーズにはいかないかもしれないけれど、取り組み続けていくことで、きっと、うまくできるようになっていくと思います。


◎目指すチームをつくるために必要なことは?



――今日の講義の終盤では、チームで「全員が同じ絵を見る」ために、どういうことに取り組めばよいかをディスカッションしていました。村田選手は、先日、筑波大陸上部の副主将に就任されたことが発表されましたよね?

村田:はい。

吉澤:情報が早いなあ!

――任せてください(笑)。村田選手にとって、すごくタイムリーなテーマだなあと思っていたのですが、いかがでしたか?

村田:そうなんです。悩んでいたというか、ちょうど自分が考えていたことでした。筑波大陸上部は、一般入学もいれば推薦入学もいるし、学系が違う人もいるしと、けっこうさまざまなので、ほかの大学のみんなはどういう考えを持っているのだろうということを聞けて良かったです。何か結論が出たわけではないけれど、有意義な話し合いになりました。

――ご自身は、上級生になったらリーダー的な役割が求められることはイメージしていたのですか?

村田:はい。私は、もともと自分がトップに立つとか、自分の考えを言語化して人とディスカッションするとかいうのが、すごく苦手なタイプなんですね。だからこそ、来年は4年生になるから、そういうことを克服しなければいけないなと思っていました。それも、このプログラムを受講する一つのきっかけになっています。

――そうなのですね。今日は「相手に話す、相手の話を聞く」というペアワークもありました。さっそく、良い実地演習になったのでは?

村田:組んだ相手が田原さん(佳悟、立命館大)だったんです。ご自身も言っていましたが、「しゃべるのが大好き」(笑)みたいな感じだったので、すごくやりやすかったです。

――そのやりやすかったところは、今後、村田選手が聞く側となったときの参考にできそうですね。

村田:はい(笑)。

――チームといえば、東京大学も陸上部は人数が多いんですね。講義で、そう聞いてびっくりしました。

吉澤:そうなんです。陸上が好きな人が陸上をやっている感じです。陸上って、1人でもできる競技じゃないですか。だから多いのかなとも思います。「同じ絵を見る」のところで僕が思ったのは、「1人でもできるし、自分がやりたいからやる」というのでいいけれど、そのなかで「自分が速くなるために、他者とコミュニケーションをとったり他者とのつながりを大切したりするチーム」になったらいいのではないかということでした。特に、うちの場合は、競技力の差も大きいので、どこかに向かっていくというよりは、「自分のためなんだけど、そのなかで他者とのつながりがあって、そこがすごく活発であるチーム」、そういうチームになったらいいなと思いました。

――何かの大会で総合優勝とか、そういうのとは少し違う視点からの「チームとして同じ絵を見る」ですね。「陸上が好きで、記録を伸ばしていきたい」というなかでつながっていけるようなチームって、なんか素敵な集団だなと思います。…というか吉澤選手って、まだ1年生ですよね? 1年生とは思えないなあ(笑)。

村田:(大きく頷いて)はい、すごくしっかりしていますよね(笑)。

吉澤:(少し照れた様子で)笑。

――今、そういう点に何か課題を感じているところがあるのですか?

吉澤:というより、僕がけっこう1人でやっていることが多いんです、練習内容も、ペースとかも違うから。でも、そのなかでも練習前に話し合ったりはしています。「こういう走りをしたいから、こういうふうにやっていこう」と、みんなと陸上のことを話すのは自分のためにもなるし、単純にすごく楽しいので。ですから、そういうことがもっとできるようなチームにしていきたい気持ちはあります。

――このライフスキルトレーニングプログラムでは、チームつくりとか、リーダーシップという点についても、いろいろな在り方を示している印象があります。これからの講義で、自分がイメージするチームをつくっていくときに、どういうテクニックがあるのか、どんなコミュニケーションの取り方をすればいいのかなども、知ることができると思いますよ。私が言うのもなんですが(笑)、楽しみにしていてください。本日は、ありがとうございました。
(2025年11月30日収録)

文・写真:児玉育美(日本陸連メディアチーム)


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■ライフスキルトレーニング講義

▼【自分がなりたい理想の姿を描く】ライフスキルトレーニング第1回講義
https://www.jaaf.or.jp/news/article/22916/


【日本陸連 100周年コンテンツ】スポーツと社会をつなぐ人材育成ビジョン

▼日本陸連 田﨑専務理事インタビュー
https://youtu.be/thE73keej4E?si=w-VRdpoVfZIkAmrD


 
▼人材育成における具体的アクション
https://youtu.be/aKVE5ZNmygg?si=EqPbmHw2M24itYwu




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