「セイコーゴールデングランプリ陸上2025東京」(セイコーGGP)が、5月18日、東京・国立競技場で開催されました。この大会は、ワールドアスレティックス(WA)が展開する「コンチネンタルツアー」シリーズにおいて最高位カテゴリとなる「ゴールド」に位置づけられている競技会。また、9月には、国立競技場で「東京2025世界陸上競技選手権大会」(東京世界陸上)が控えていることもあり、海外からも世界記録保持者やオリンピック・世界選手権メダリストが数多く参戦。また、4月から日本グランプリシリーズを連戦してきた国内勢も、翌週にアジア選手権を控えているなかトップ選手が多数参加し、全17種目(男子10、女子7)で熱い戦いが繰り広げられました。

今大会も、やはり一番大きな注目を集めたのは、この人でしょう。2023年ブダペスト世界選手権、2024年パリオリンピック2連覇中の世界女王・北口榛花選手(JAL、ダイヤモンドアスリート修了生)が、女子やり投に出場。国際的には5月3日のダイヤモンドリーグ上海大会に続く2戦目、国内では今季初戦となる戦いに臨みました。第2投てき者としてピットに立った北口選手は、1回目にシーズンベストとなる61m41をマーク。初っぱなから60mラインを越えていく投てきで、トップに立つスタートを切り、会場のテンションを一気に引き上げます。
ビッグスローが飛び出したのは5回目のことでした。2回目を58m48、3回目は59m23、そして4回目も60mラインに届かなかったため自ら足を踏み出してファウルにしていた北口選手は、観客に求めた拍手に包まれるなか助走をスタート。北口選手の武器ともいえるムチのような全身のしなりを使って、大きな声とともにやりを放ちます。投げだされたやりは、観客のどよめきに後押しされるかのようにぐんぐんと飛距離を伸ばし、65mラインの手前に突き刺さったのです。昨年に続く連覇が決まっての最終6回目は61m37にとどまり、記録を伸ばすことはできませんでしたが、全6回のうちの3回で2位(60m66)の記録を上回る圧巻のパフォーマンスを披露しました。
北口選手は、ブダペスト大会を制したことで、すでに東京世界陸上の出場権を獲得済みですが、64m16は東京世界選手権の参加標準記録(64m00)を上回る好記録。また、彼女自身の5月段階のパフォーマンスとしても、自己記録(67m38=日本記録)を樹立した2023年シーズンに次ぐ高水準となります。競技後には、決して満足の行く投てきではなかったことも明かし、ここから続いていくヨーロッパ転戦で修正をかけながら技術を磨いていきたいと話していましたが、同じ会場で行われる東京世界選手権に向けて幸先の良い結果を手に、同日の夜、海外拠点であるチェコに向けて出発しました。
なお、この種目で、海外からやってきた世界大会メダリストたちを押さえて2位の成績を収めたのは、昨年のパリオリンピックで決勝進出を果たしている(10位)上田百寧選手(ゼンリン)。4回目に60m40を投げると、最終投てきで60m66へと記録を上げ、北口選手に続いています。

女子やり投の5回目の試技で、北口選手が渾身の一投で、スタジアムを大きくどよめかせた直後、今度は観客の視線がトラック種目に釘付けとなりました。まるで見計らったかのようなタイミングで、進行中だった男子3000m障害物が“残り1周”の鐘の音とともに最後の1周を迎えたのです。中盤あたりから2番手でレースを進めていた日本のエース・三浦龍司選手(SUBARU)が、ここでかちりとギアを切り替えると、この動きに反応した観客から大きな歓声が上がるなか、バックストレートでミルケサ・フィカドゥ選手(エチオピア)をかわしてトップに立ちます。三浦選手は、水濠や障害を越えるごとに加速していける強みを生かした走りを見せつけ、さらに後続を突き放す走りを披露して、8分18秒96でフィニッシュしました。パリオリンピックで8位に入賞している三浦選手は、3000m障害物今回初戦となったダイヤモンドリーグ廈門大会でサードベストの8分10秒11をマークして、参加標準記録(8分15秒00)を突破したことで条件を満たし、すでに東京世界陸上の代表に内定しています。9月には、世界選手権としてはブダペスト大会(6位)に続いての、また、日本開催ということでは東京オリンピック(7位)に続いての快走を大いに期待できそうな滑りだしとなりました。

スプリント系の最初の決勝種目として行われた男子110mハードルも、大きな期待と関心が集まっていた種目でした。昨年のパリオリンピックで5位入賞を果たし、今季初戦のダイヤモンドリーグ廈門大会で参加標準記録(13秒27)を上回って東京世界陸上内定を得るとともに、その廈門大会、上海大会と続いたダイヤモンドリーグを連戦し、ともに2位の成績を収めている日本記録保持者(13秒04)の村竹ラシッド選手(JAL)が、日本人初となる「12秒台を狙う」と公言して臨んでいたからです。5レーンに入って行われたレースは、第1ハードルのアプローチにやや狂いが出たこともあり、ハードルを複数台でぶつけながらクリアしていく展開となりましたが、向かい風1.1mという悪条件をものともせず、さらに後続につけいる隙を与えない貫禄の走りを見せつけ、13秒16でフィニッシュ。前回に続く優勝を飾りました。
この種目を2位でフィニッシュしたのは、村竹や泉谷駿介(住友電工、今回は走幅跳に出場)という両日本記録保持者の大学の後輩に当たる阿部竜希選手(順天堂大学)。昨シーズンから急成長を遂げ、今年4月に行われた日本学生個人選手権では、東京世界陸上参加標準記録(13秒27)をクリアする13秒26まで記録を縮めてきた選手ですが、強い向かい風のなか13秒27のセカンドベストをマーク。再び参加標準記録をクリアし、高い安定感を印象づけました。

全17種目が行われた今大会では、日本勢は、ここまでに紹介した3種目も含めて、6種目で優勝を飾りました。
昨年のシーズンベストで9秒台を出している4選手に決勝のシードが与えられ、残る5選手をチャレンジレース(予選)のタイム上位者によって決める変則ルールで実施された男子100mでは、予選からの出走となった栁田大輝選手(東洋大、ダイヤモンドアスリート修了生)が、今季日本最高となる10秒06(+1.1)のシーズンベストで、前回に続く優勝を果たしました。予選でスタートにミスが出て10秒20(+0.5)にとどまり、5人中5番目での通過となった栁田選手は、決勝は、シードレーンに入った世界選手権金メダリスト(2019年ドーハ大会)のクリスチャン・コールマン選手(アメリカ)や、昨年、18歳で9秒93をマークしているアメリカ期待の新鋭、クリスチャン・ミラー選手らと離れた1レーンに入ってのレース。しかし、「最初のところだけ絶対に外さない」意識で臨んだという決勝では、高い集中力でイメージ通りにスタート。序盤でリードを奪うと、ミラー選手(10秒08・2位)、コールマン選手(10秒11・3位)も寄せつけず、そのままフィニッシュラインを駆け抜けました。10秒16で日本人2番手の4位を占めたのは、世界リレーでの好走が記憶に新しい井上直紀選手(早稲田大)。隣のレーンに入った桐生祥秀選手(日本生命)と競り合うレースを繰り広げ、同タイム着差ありで桐生選手を押さえています。
なお、シードに入って決勝のみ出場の予定だったサニブラウンアブデルハキーム選手(東レ、ダイヤモンドアスリート修了生)は、ウォーミングアップ中に生じた脚の違和感により、大事をとって棄権しました。

男子走高跳は、2m24をクリアした瀬古優斗(FAAS)、原口颯太(順天堂大)、真野友博(九電工)の日本人3選手が、2m27で優勝を巡って戦う展開となりました。この高さで、それまでの形勢を逆転したのが真野選手。瀬古選手と原口選手が2m15・2m20を1回目、2m24を2回目に跳んで同率首位に立っていたなか、2m15を2回目、2m24では3回目に成功させて、2m27に臨んでいた真野選手が、この高さを1回で鮮やかにクリアしたのです。瀬古選手、原口選手は、ともに攻略することができず、真野選手が優勝。シーズンベストとなる2m30のクリアは叶いませんでしたが、静岡国際に続き2m27で2戦2勝となりました。

北口選手とともに女子優勝者に名前を連ねることになったのは、大会最初の決勝種目となった女子三段跳を制した髙島真織子選手(九電工)。2回目に13m61(+0.3)をマークしてトップに立つと、狙っていた14m台には届かなかったものの、そのまま逃げきって、貴重な「カテゴリA大会での優勝」を手に入れました。

優勝は叶わなかったものの、日本勢が好記録をマークしている種目もあります。女子100mハードルでは、12秒36の自己記録を持つトニー・マーシャル選手、2022年オレゴン世界選手権4位で自己記録12秒40のアリア・アームストロング選手のアメリカ勢が、追い風0.7mの条件のなか、12秒54、12秒68でワン・ツー・フィニッシュし、地力を見せつけました。しかし、これに食らいついた日本勢も、好記録を続出させています。まず、日本人トップとなる3位でフィニッシュしたのは、昨年からの好調を維持できている田中佑美選手(富士通)。日本歴代2位の自己記録(12秒83)を0.02秒更新する12秒81の自己新記録を叩きだしました。また、織田記念で自己新を塗り替えたばかりの中島ひとみ選手(長谷川体育施設)と清山ちさと選手(いちご)が4・5位ながら快走。中島選手は12秒85、清山選手は12秒89と、ともに初の12秒8台をマークしたのです。この結果、中島選手は日本歴代3位に、清山選手は日本歴代6位へと浮上することになりました。

男子400mハードルは、前回覇者の豊田兼選手(トヨタ自動車)が、世界選手権参加標準記録(48秒50)突破を狙って、序盤から果敢に飛ばすレースを展開しました。2022年オレゴン世界選手権銅メダリストで、2023年ブダペスト大会でも入賞を果たしているトレバー・バシット選手(アメリカ)にフィニッシュ直前で逆転を喫し、2位でフィニッシュ。48秒55と、参加標準記録には惜しくも届きませんでしたが、好調を維持している様子を印象づけました。

リース・ホルダー選手(オーストラリア)が44秒76で制した男子400mでは、佐藤風雅選手(ミズノ)が今季日本最高となる45秒23で2位、3位には日本記録保持者(44秒77)で今季初戦の佐藤拳太郎選手(富士通)が45秒76で続き、故障から着実に復調している様子を伺わせました。

また、男子走幅跳では、東京オリンピック代表の津波響樹選手(大塚製薬)が、セカンドベストとなる8m15をマークして、トップに立つ展開に。最終跳躍で2番手につけていた前回覇者のリアム・アドコック選手(オーストラリア)が8m20を跳んで逆転され、惜しくも優勝は逃したものの、4年ぶりとなる世界大会代表入りに前進する一歩を踏みだしています。また、この種目には、3月に行われた世界室内男子走幅跳で4位の好成績を残し、東京世界陸上では前回のブダペスト大会で5位入賞を果たし、日本記録(13秒04)も保持する110mハードルとの2種目での活躍を目標に掲げている泉谷駿介選手(住友電工)も出場。8m02(+0.3)で3位となっています。
このほか、男子3000mでは、5000mで金栗記念を制し、アジア選手権の日本代表にも選出されている森凪也選手が、日本人トップの4位でフィニッシュ。日本歴代2位となる7分41秒58をマークして、日本選手権10000mを制した鈴木芽吹選手(トヨタ自動車、7分44秒45・6位)らを押さえました。

また、女子中・長距離で注目を集めたのは、3000mでペースメーカーを務めたのちに、1時間40分後に行われた1500mに出場した田中希実選手(New Balance)。当初は、昨年同様に、1500mのあとに実施される日程を見込んで引き受けた3000mのペースメーカーでしたが、蓋を開けてみると3000mが先に行われることに。しかし、「世界で戦うことを考えるなら、こういう日程に挑戦していくことも必要」と回避せずに両種目へ出場することを決めたと言います。3000mでは2000mまでを5分55秒前後で引っ張って、8分50秒64の自己新記録で3位(日本人トップ)となった山本有真選手(積水化学)らのレースに貢献しました。1500mは、4分01秒10で優勝したジョージア・グリフィス選手(オーストラリア)が、最初から3分台を意識したと思われるハイペースでレースを進める展開に。これによって、田中選手が第2グループを牽引する形でレースが進んでいく形となりました。しかし、終盤できっちりと抜けだした田中選手は、2位でフィニッシュ。今季自己2番目の記録で、今季日本のパフォーマンスリストで2位となる4分06秒08をマークしました。
東京オリンピックチャンピオンのアンドレ・ドグラス選手(カナダ)が出場した男子200mは、強い向かい風(2.0m)のなかでのレースとなってしまいましたが、そんななかドグラス選手とアメリカの若手、ロバート・グレゴリー選手が最後まで激しく競り合うレースを披露。グレゴリー選手が20秒24をマークして、20秒29のドグラス選手に先着しました。また、女子100mには、10秒65の自己記録を持ち、ブダペスト世界選手権で金メダル、パリオリンピックは銀メダルを獲得しているシャカリ・リチャードソン選手(アメリカ)が出場。そのスプリントに注目が集まりました。しかし、全般に走りに硬さが見られたレースを制したのは、オーストラリアのベテラン、ブリー・リゾ選手(オーストラリア)。優勝記録は11秒38(-0.9)にとどまりました。2位は、パリオリンピック5位のテリー・トワニシャ選手(アメリカ)で11秒42。リチャードソン選手は11秒47で4位という結果でした。
日本人優勝者および外国人注目選手のコメントは、本稿とは別に、大会特設サイトのニュース欄(https://goldengrandprix-japan.com/2025/news/)において掲載しています。あわせてご覧ください。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:アフロスポーツ

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世界女王の北口、64m16のシーズンベストでV
圧巻のパフォーマンスで会場を沸かせる

今大会も、やはり一番大きな注目を集めたのは、この人でしょう。2023年ブダペスト世界選手権、2024年パリオリンピック2連覇中の世界女王・北口榛花選手(JAL、ダイヤモンドアスリート修了生)が、女子やり投に出場。国際的には5月3日のダイヤモンドリーグ上海大会に続く2戦目、国内では今季初戦となる戦いに臨みました。第2投てき者としてピットに立った北口選手は、1回目にシーズンベストとなる61m41をマーク。初っぱなから60mラインを越えていく投てきで、トップに立つスタートを切り、会場のテンションを一気に引き上げます。
ビッグスローが飛び出したのは5回目のことでした。2回目を58m48、3回目は59m23、そして4回目も60mラインに届かなかったため自ら足を踏み出してファウルにしていた北口選手は、観客に求めた拍手に包まれるなか助走をスタート。北口選手の武器ともいえるムチのような全身のしなりを使って、大きな声とともにやりを放ちます。投げだされたやりは、観客のどよめきに後押しされるかのようにぐんぐんと飛距離を伸ばし、65mラインの手前に突き刺さったのです。昨年に続く連覇が決まっての最終6回目は61m37にとどまり、記録を伸ばすことはできませんでしたが、全6回のうちの3回で2位(60m66)の記録を上回る圧巻のパフォーマンスを披露しました。
北口選手は、ブダペスト大会を制したことで、すでに東京世界陸上の出場権を獲得済みですが、64m16は東京世界選手権の参加標準記録(64m00)を上回る好記録。また、彼女自身の5月段階のパフォーマンスとしても、自己記録(67m38=日本記録)を樹立した2023年シーズンに次ぐ高水準となります。競技後には、決して満足の行く投てきではなかったことも明かし、ここから続いていくヨーロッパ転戦で修正をかけながら技術を磨いていきたいと話していましたが、同じ会場で行われる東京世界選手権に向けて幸先の良い結果を手に、同日の夜、海外拠点であるチェコに向けて出発しました。
なお、この種目で、海外からやってきた世界大会メダリストたちを押さえて2位の成績を収めたのは、昨年のパリオリンピックで決勝進出を果たしている(10位)上田百寧選手(ゼンリン)。4回目に60m40を投げると、最終投てきで60m66へと記録を上げ、北口選手に続いています。
3000m障害物は三浦、110mハードルは村竹
「世界陸上内定組」が観客を魅了

女子やり投の5回目の試技で、北口選手が渾身の一投で、スタジアムを大きくどよめかせた直後、今度は観客の視線がトラック種目に釘付けとなりました。まるで見計らったかのようなタイミングで、進行中だった男子3000m障害物が“残り1周”の鐘の音とともに最後の1周を迎えたのです。中盤あたりから2番手でレースを進めていた日本のエース・三浦龍司選手(SUBARU)が、ここでかちりとギアを切り替えると、この動きに反応した観客から大きな歓声が上がるなか、バックストレートでミルケサ・フィカドゥ選手(エチオピア)をかわしてトップに立ちます。三浦選手は、水濠や障害を越えるごとに加速していける強みを生かした走りを見せつけ、さらに後続を突き放す走りを披露して、8分18秒96でフィニッシュしました。パリオリンピックで8位に入賞している三浦選手は、3000m障害物今回初戦となったダイヤモンドリーグ廈門大会でサードベストの8分10秒11をマークして、参加標準記録(8分15秒00)を突破したことで条件を満たし、すでに東京世界陸上の代表に内定しています。9月には、世界選手権としてはブダペスト大会(6位)に続いての、また、日本開催ということでは東京オリンピック(7位)に続いての快走を大いに期待できそうな滑りだしとなりました。

スプリント系の最初の決勝種目として行われた男子110mハードルも、大きな期待と関心が集まっていた種目でした。昨年のパリオリンピックで5位入賞を果たし、今季初戦のダイヤモンドリーグ廈門大会で参加標準記録(13秒27)を上回って東京世界陸上内定を得るとともに、その廈門大会、上海大会と続いたダイヤモンドリーグを連戦し、ともに2位の成績を収めている日本記録保持者(13秒04)の村竹ラシッド選手(JAL)が、日本人初となる「12秒台を狙う」と公言して臨んでいたからです。5レーンに入って行われたレースは、第1ハードルのアプローチにやや狂いが出たこともあり、ハードルを複数台でぶつけながらクリアしていく展開となりましたが、向かい風1.1mという悪条件をものともせず、さらに後続につけいる隙を与えない貫禄の走りを見せつけ、13秒16でフィニッシュ。前回に続く優勝を飾りました。
この種目を2位でフィニッシュしたのは、村竹や泉谷駿介(住友電工、今回は走幅跳に出場)という両日本記録保持者の大学の後輩に当たる阿部竜希選手(順天堂大学)。昨シーズンから急成長を遂げ、今年4月に行われた日本学生個人選手権では、東京世界陸上参加標準記録(13秒27)をクリアする13秒26まで記録を縮めてきた選手ですが、強い向かい風のなか13秒27のセカンドベストをマーク。再び参加標準記録をクリアし、高い安定感を印象づけました。
栁田、今季日本最高の10秒06でV2
走高跳・真野、三段跳・髙島も優勝

全17種目が行われた今大会では、日本勢は、ここまでに紹介した3種目も含めて、6種目で優勝を飾りました。
昨年のシーズンベストで9秒台を出している4選手に決勝のシードが与えられ、残る5選手をチャレンジレース(予選)のタイム上位者によって決める変則ルールで実施された男子100mでは、予選からの出走となった栁田大輝選手(東洋大、ダイヤモンドアスリート修了生)が、今季日本最高となる10秒06(+1.1)のシーズンベストで、前回に続く優勝を果たしました。予選でスタートにミスが出て10秒20(+0.5)にとどまり、5人中5番目での通過となった栁田選手は、決勝は、シードレーンに入った世界選手権金メダリスト(2019年ドーハ大会)のクリスチャン・コールマン選手(アメリカ)や、昨年、18歳で9秒93をマークしているアメリカ期待の新鋭、クリスチャン・ミラー選手らと離れた1レーンに入ってのレース。しかし、「最初のところだけ絶対に外さない」意識で臨んだという決勝では、高い集中力でイメージ通りにスタート。序盤でリードを奪うと、ミラー選手(10秒08・2位)、コールマン選手(10秒11・3位)も寄せつけず、そのままフィニッシュラインを駆け抜けました。10秒16で日本人2番手の4位を占めたのは、世界リレーでの好走が記憶に新しい井上直紀選手(早稲田大)。隣のレーンに入った桐生祥秀選手(日本生命)と競り合うレースを繰り広げ、同タイム着差ありで桐生選手を押さえています。
なお、シードに入って決勝のみ出場の予定だったサニブラウンアブデルハキーム選手(東レ、ダイヤモンドアスリート修了生)は、ウォーミングアップ中に生じた脚の違和感により、大事をとって棄権しました。

男子走高跳は、2m24をクリアした瀬古優斗(FAAS)、原口颯太(順天堂大)、真野友博(九電工)の日本人3選手が、2m27で優勝を巡って戦う展開となりました。この高さで、それまでの形勢を逆転したのが真野選手。瀬古選手と原口選手が2m15・2m20を1回目、2m24を2回目に跳んで同率首位に立っていたなか、2m15を2回目、2m24では3回目に成功させて、2m27に臨んでいた真野選手が、この高さを1回で鮮やかにクリアしたのです。瀬古選手、原口選手は、ともに攻略することができず、真野選手が優勝。シーズンベストとなる2m30のクリアは叶いませんでしたが、静岡国際に続き2m27で2戦2勝となりました。

北口選手とともに女子優勝者に名前を連ねることになったのは、大会最初の決勝種目となった女子三段跳を制した髙島真織子選手(九電工)。2回目に13m61(+0.3)をマークしてトップに立つと、狙っていた14m台には届かなかったものの、そのまま逃げきって、貴重な「カテゴリA大会での優勝」を手に入れました。
女子100mハードルで田中・中島・清山が12秒8台!
400mハードルの豊田は48秒55で2位

優勝は叶わなかったものの、日本勢が好記録をマークしている種目もあります。女子100mハードルでは、12秒36の自己記録を持つトニー・マーシャル選手、2022年オレゴン世界選手権4位で自己記録12秒40のアリア・アームストロング選手のアメリカ勢が、追い風0.7mの条件のなか、12秒54、12秒68でワン・ツー・フィニッシュし、地力を見せつけました。しかし、これに食らいついた日本勢も、好記録を続出させています。まず、日本人トップとなる3位でフィニッシュしたのは、昨年からの好調を維持できている田中佑美選手(富士通)。日本歴代2位の自己記録(12秒83)を0.02秒更新する12秒81の自己新記録を叩きだしました。また、織田記念で自己新を塗り替えたばかりの中島ひとみ選手(長谷川体育施設)と清山ちさと選手(いちご)が4・5位ながら快走。中島選手は12秒85、清山選手は12秒89と、ともに初の12秒8台をマークしたのです。この結果、中島選手は日本歴代3位に、清山選手は日本歴代6位へと浮上することになりました。

男子400mハードルは、前回覇者の豊田兼選手(トヨタ自動車)が、世界選手権参加標準記録(48秒50)突破を狙って、序盤から果敢に飛ばすレースを展開しました。2022年オレゴン世界選手権銅メダリストで、2023年ブダペスト大会でも入賞を果たしているトレバー・バシット選手(アメリカ)にフィニッシュ直前で逆転を喫し、2位でフィニッシュ。48秒55と、参加標準記録には惜しくも届きませんでしたが、好調を維持している様子を印象づけました。

リース・ホルダー選手(オーストラリア)が44秒76で制した男子400mでは、佐藤風雅選手(ミズノ)が今季日本最高となる45秒23で2位、3位には日本記録保持者(44秒77)で今季初戦の佐藤拳太郎選手(富士通)が45秒76で続き、故障から着実に復調している様子を伺わせました。

また、男子走幅跳では、東京オリンピック代表の津波響樹選手(大塚製薬)が、セカンドベストとなる8m15をマークして、トップに立つ展開に。最終跳躍で2番手につけていた前回覇者のリアム・アドコック選手(オーストラリア)が8m20を跳んで逆転され、惜しくも優勝は逃したものの、4年ぶりとなる世界大会代表入りに前進する一歩を踏みだしています。また、この種目には、3月に行われた世界室内男子走幅跳で4位の好成績を残し、東京世界陸上では前回のブダペスト大会で5位入賞を果たし、日本記録(13秒04)も保持する110mハードルとの2種目での活躍を目標に掲げている泉谷駿介選手(住友電工)も出場。8m02(+0.3)で3位となっています。
このほか、男子3000mでは、5000mで金栗記念を制し、アジア選手権の日本代表にも選出されている森凪也選手が、日本人トップの4位でフィニッシュ。日本歴代2位となる7分41秒58をマークして、日本選手権10000mを制した鈴木芽吹選手(トヨタ自動車、7分44秒45・6位)らを押さえました。

また、女子中・長距離で注目を集めたのは、3000mでペースメーカーを務めたのちに、1時間40分後に行われた1500mに出場した田中希実選手(New Balance)。当初は、昨年同様に、1500mのあとに実施される日程を見込んで引き受けた3000mのペースメーカーでしたが、蓋を開けてみると3000mが先に行われることに。しかし、「世界で戦うことを考えるなら、こういう日程に挑戦していくことも必要」と回避せずに両種目へ出場することを決めたと言います。3000mでは2000mまでを5分55秒前後で引っ張って、8分50秒64の自己新記録で3位(日本人トップ)となった山本有真選手(積水化学)らのレースに貢献しました。1500mは、4分01秒10で優勝したジョージア・グリフィス選手(オーストラリア)が、最初から3分台を意識したと思われるハイペースでレースを進める展開に。これによって、田中選手が第2グループを牽引する形でレースが進んでいく形となりました。しかし、終盤できっちりと抜けだした田中選手は、2位でフィニッシュ。今季自己2番目の記録で、今季日本のパフォーマンスリストで2位となる4分06秒08をマークしました。
女子走高跳・マフチフは1m96で優勝
200m東京オリンピック覇者のドグラスは2位
海外招待選手で、そのパフォーマンスに注目が集まったのは、女子走高跳で2023年ブダペスト世界選手権、2024年パリオリンピックで金メダルを獲得し、昨年2m10の世界記録を樹立しているヤロスラワ・マフチフ選手(ウクライナ)。銅メダルを獲得した東京オリンピック以来、4年ぶりの来日で、5月9日にカタールで2m02のシーズンベストをマークした直後の日本再訪となりました。髙橋渚選手(センコー)、伊藤楓選手(日本体育大)の2名を含めてエントリーが全6選手と、やや寂しい人数での戦いとなったなか、マフチフ選手は、1m88の高さまでをパス。2位のミハエラ・フルバ選手(チェコ)が、この高さを越えられずに終わったあと、1m91から試技を開始。1m91、1m96を、どちらも1回で成功させると、バーを2m00に上げました。しかし、この高さの1回目を失敗すると、そこで競技を終了。観客は、失敗も含めて全3回とう貴重な跳躍を目にすることになりました。東京オリンピックチャンピオンのアンドレ・ドグラス選手(カナダ)が出場した男子200mは、強い向かい風(2.0m)のなかでのレースとなってしまいましたが、そんななかドグラス選手とアメリカの若手、ロバート・グレゴリー選手が最後まで激しく競り合うレースを披露。グレゴリー選手が20秒24をマークして、20秒29のドグラス選手に先着しました。また、女子100mには、10秒65の自己記録を持ち、ブダペスト世界選手権で金メダル、パリオリンピックは銀メダルを獲得しているシャカリ・リチャードソン選手(アメリカ)が出場。そのスプリントに注目が集まりました。しかし、全般に走りに硬さが見られたレースを制したのは、オーストラリアのベテラン、ブリー・リゾ選手(オーストラリア)。優勝記録は11秒38(-0.9)にとどまりました。2位は、パリオリンピック5位のテリー・トワニシャ選手(アメリカ)で11秒42。リチャードソン選手は11秒47で4位という結果でした。
日本人優勝者および外国人注目選手のコメントは、本稿とは別に、大会特設サイトのニュース欄(https://goldengrandprix-japan.com/2025/news/)において掲載しています。あわせてご覧ください。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:アフロスポーツ
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【セイコーGGP】男子 200m 2位 アンドレ・ドグラス(カナダ)Andre DE GRASSE(2nd-place) コメント/Seiko Golden Grand Prix 2025 Tokyo - Men 200m
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2025.05.18(日)
【セイコーGGP】男子 400mハードル トレバー バシット(アメリカ) Trevor BASSITTコメント/Seiko Golden Grand Prix 2025 Tokyo - Men 400mH
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