2023.12.15(金)その他

【ライフスキルトレーニング】第1回プログラムレポート&コメント:目指す成果を達成している組織が実践できている原理原則とダブルゴールの重要性について




日本陸連は、大学生アスリートを対象に展開する「ライフスキルトレーニングプログラム」の第4期をスタートさせました。2020年度から実施しているこのプログラムは、「自らの思考や置かれた状態を把握する方法」や「常に最善の選択を行えるよう自身をコントロールしていくスキル」を学び、より実践的に磨き、習得できる機会として設けられたもの。学生年代のアスリートが、この能力を使いこなせるようになることで、より高い競技力の獲得やさらなる向上を実現できるようにするとともに、「自分の“最高”を引き出す技術」を備えた人材として、競技以外のさまざまな場面で、幅広く活躍していけるようになることを目指しています。

4期目となる今年度は、11月に6名の受講生が選出( https://www.jaaf.or.jp/news/article/19256/ )。第4期生は、これから2024年3月までの4カ月にわたって、4回予定されている全体講義のほか、仕事理解・社会理解のワークショップ、グループあるいは個別でのコーチングを受けていくことになっています。12月2日には、1回目となる全体講義が行われました。


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第1回全体講義は、12月2日、例年同様にオンラインで行われました。開会に際して田﨑博道日本陸連専務理事が挨拶。「ライフスキルトレーニングは、競技においても、キャリアにおいても、自分の“最高”を引き出す技術を身につけるトレーニング。これまでに1~3期生合わせて33名が受講したが、このトレーニングで習得した考え方やスキルを自分のものにして、今、みんながそれぞれのステージで活躍している」と述べた田﨑専務理事は、第4期では、合宿形式の日程も組んで先輩受講生との交流を考えていること、第1期生である伊藤陸選手(スズキ)が運営に加わって受講生のサポートを務めることなど、さらにブラッシュアップさせた展開を計画している点にも明かしたうえで、「自分の“最高”を引き出すための努力を惜しむことなく、力いっぱいトレーニングに励んでいきましょう」と受講生たちを鼓舞しました。



その後、本プログラムの講師で、スポーツ心理学のエビデンスを背景に、組織・チームつくり、個人のパフォーマンス向上などを手掛け、さまざまな競技で多くのチームや個人をサポートしているスポーツ心理学博士の布施努特別講師が登壇。「ここまで3年間、受講生の皆さんといろいろやりとりしてきて、毎回こちらもすごい刺激を受けている。皆さんからの現場でのリアルな声に基づいて、“じゃあ、どう考えたらいいのだろうか”と進めていくことがプログラムの質を高めていくことになる。これから一緒に頑張っていこう」と呼びかけ、全体講義をスタートさせました。

この日が第4期生と初の顔合わせということもあり、布施特別講師は、まずは自身の経歴に触れつつ、専門とするスポーツ心理学について、「ひと言でいえば、“見える化”ができる学問で、“経験を科学する”ことが真髄」と述べ、個々の勘や経験に頼っていたことが、スポーツ心理学を用いることで可視化(科学的モデリング)され、言語化・イメージ化ができるようになり、最終的に再現性を高める(使える自分の引き出しを増やしていく)ことにつながっていくと説明するところから始まりました。

これから第4期生が取り組んでいくライフスキルトレーニングは、このスポーツ心理学がベースになっています。ライフスキルとは、自分が夢中で打ち込めることに取り組んでいるときに、身につけることができるさまざまなスキルで、心の使い方や行動の起こし方、取り組みに向かう際の考え方や姿勢にポジティブにはたらく形で表れます。特に、競技スポーツにおいては、「プレッシャーのもとでの実行」「決意して粘り強くやり続ける」「成功と失敗を処理する」「自分の行動に責任を持つ」「成功するために柔軟な思考を持つ」「目標を設定し達成する」「他者を敬う」「限界まで自分をプッシュする」等々、競技活動を行っていくなかで獲得できるライフスキルが非常に多く、これらが活用できるようトレーニングしていくことによって、競技力の向上や目標の達成に大きく役立ちます。さらに、それらは、実は人生のさまざまな場面での応用が可能。自覚して使いこなせるように能力を磨き続けていくことで、生涯にわたっての自身の強み(武器)となります。

布施特別講師は、これまでにサポートを行ったチームや個人のケースや、第1~3期生へのインタビュー動画や記事を例に挙げながら、ライフスキルトレーニングを行っていくことで、どんな変化が期待できるのかを紹介したうえで、受講生たちに、「ライフスキルトレーニングに参加しようと考えた理由と、このトレーニングを通して何を得たいか」を質問。受講生たちから挙がった「最終目標に向かっていくステップの踏み方を身につけたい」「いろいろな考え方を柔軟に取り入れられるようにしたい」「成功と失敗を見分けられるようになりたい」「プラス思考を身につけたい」「他者の意見を聞くことで、自分を変えるきっかけをつくりたい」「物事を今までとは異なる視点で見られるようにしたい」「陸上競技とそれ以外の出来事とを結びつけたり関連づけたりする方法を学びたい」「緊張をコントロールして自分のパフォーマンスを発揮できるようにしたい」などの声に対して、さらに質問を重ねていくなかで、各受講者の現状や思い、課題などを掘り下げていきました。そして、今後、ライフスキルトレーニングによって高めていける「目標設定」「役割性格」「仮説思考」「心理的安全性(セキュアポイント)」「縦型思考」「リーダーシップ」などとの関連性を示しつつ、「今後、こうすることができる」「あとでできるようになってくる」と“予告”。受講生たちの関心を高めました。

続いて紹介されたのは、「勝ち続ける組織・選手」の共通項です。布施特別講師は、目指す成果を達成していけるチームや個人は、「やっていることは、それぞれで異なっているが、原理原則がある」として、「関係」「思考」「行動」「結果」という4つが良い形で影響しあい、1つのサイクルとなって質が高まり続けていくような状態がつくれていることを説明。思考の質を高める鍵として「仮説思考」を、関係の質を高める鍵として「心理的安全性」を挙げ、心理的安全性は「役割性格」を用いることでより高まること、役割性格を考える際には、将来のなりたい自分や目指すゴールから逆算して考える「縦型思考」によって、より明確にできることが示されました。

その後、受講者たちは、「将来、こうなりたい自分」を個々に書きだしたうえで、それを用いたブレイクアウトセッションに取り組み、「自分のありたい将来像」に到達するために、どう「役割性格」を活用すればよいかを実際に体験。この実践を踏まえたうえで、布施特別講師は、目指すゴールに進んでいく過程で、挑戦に対する心理的安全性を担保しつつ自信と能力を高め、さらに高い挑戦へと向かっていけるようにするためには、目標をダブルで設定していく「ダブルゴール」の概念を用いると有効であることを説明しました。そして、次回までの宿題として、「自分のありたい将来像を描き、大きな目標から逆算して小さな目標を具体的に書きだす。その小さな目標を最高目標と最低目標に分け、それらを達成するために必要な役割性格を設定し、実際に演じていく」ことを提示。その導入として、3人ずつに分かれて、1人の例をモデルに、目指す役割性格を演じるための小さな目標と、それを実現するための最高目標と最低目標を意見交換するブレイクアウトセッションに取り組みました。

最後に、全員で、ブレイクアウトセッションで出た内容を確認。この際に布施特別講師は、
・ここで求められるのは、正解を出すことではない。自分の状況や視点が変われば、見える世界は変わってくる。物事がスパイラルで見えるようになることを経験してほしい、
・小さな目標は、連鎖して考えていくのがポイント。要素はたくさんあるので、とにかく最初は書いてみることが大事。あることに注目し始めると、考えは広がっていく。それを深掘りしていくことが自身の行動につながっていく、
とアドバイス。さらに、今回の宿題について、「これをやることによって、自分の解像度はどんどん挙がってくる。今回重要なのは、自分を知るために目標を使っていくこと。“目標の使い方”がわかる第一歩になるので、頑張って取り組んでほしい」と促し、初回の全体講義を終えました。


【第1回全体講義受講後:受講生コメント】

栁田大輝(東洋大学2年、100m)


ライフスキルトレーニングプログラムの受講は、自分で決めました。最初、特設サイトの記事や受講生のインタビューなどを読んだ印象では、「講義も多いようだし、課題もあるようだから大変そうだな」と感じたのが正直なところで、「練習との兼ね合いもあるし、どうしようかな」と悩んだのですが、受講を経験した大学の先輩である中島佑気ジョセフさん(東洋大、第2期生)から、「大変なときもあるけれど、絶対に損することはないから、受けてみたほうがいいよ」というアドバイスをもらいました。ジョセフさんも練習と並行して取り組んでいたわけで、そのうえで「受けたほうがいい」と言うのなら確実にメリットはあるはずと思い、そこで受講を決めました。
まだ1回目の全体講義が終わったばかりですが、すでに、受講する前のマインドとずいぶん変わってきていることを実感しています。もちろん、これまでも競技を最優先として、いろいろなことに向き合ってきたつもりですが、一番高い大きな目標を決めて、そのためにはどんな人間になることが必要で、さらにそこへ到達していくための細かな目標を設定していくという考え方の大切さを、きちんと理解することができました。自分が掲げている「世界のファイナルで戦う」ためにはどうすればいいかということを、改めて明確にすることができたと思いますし、そこに向けて、僕が今すぐにできることにも気づけました。
また、今回は、3人で行ったブレイクアウトセッションを、競歩の内藤未唯選手(神奈川大)と柳井綾音選手(立命館大)で組む形となったのですが、そこで2人から、どういう練習をしているかとか、どんな振り返りを行っているかなどを聞くことができ、そこに僕が今までやってこなかったことがあったので本当に勉強になりました。いい意味でも悪い意味でも、僕のなかでは自分のスタイルというものができているので、逆に、こういう機会がなければ、ほかの人のやり方や取り組みを知ることができなかったと思うんです。「こういうやり方もあるんだな」という新しい考え方が頭のなかに入りました。
僕は、今まで、“目標とする世界のファイナルに届かなければ、そこまでの積み重ねも意味がない”と考えてしまうような、ある意味、極端な考え方をする傾向が自分にはあると気になっていました。例えば、ケガなどで思っていた通りに進まなくなったときに、たぶん投げやりになってしまうタイプだと思うんです。そういったときに、小さな目標をうまく設定しておくと、視点を変えることができます。特にうまくいかないときの考え方が柔軟になり、競技にいい影響を与えるような別の取り組みができるなど選択肢を増やせるんじゃないかと期待しています。
 最終目標に向かって小さな目標をつくり、さらにそれを実現するために最高目標と最低目標を設定していくと、日常のなかで達成できたかどうかがはっきりしていてくるはず。いきなり100%できるとは思っていませんが、「自分はどのくらい達成できるんだろう」と楽しみな気持ちになりました。(談)


文・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)


■【ライフスキルトレーニング特設サイト】

>>特設サイトはこちら 



■【ライフスキルトレーニングプログラム】第4期受講生が決定!
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19256/

■【ライフスキルトレーニングプログラム】第4期募集要項
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19151/

■受講生インタビュー
<Vol.1>福島聖:社会人として生かせているスキル、就職活動や競技面に繋がった経験を語る
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17053/

<Vol.2>中島佑気ジョセフ:活躍の糸口となった経験、更なる飛躍に向けた想いを語る
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17064/

<Vol.3>樫原沙紀:「なりたい自分」を見つめ直し、新たな一歩を踏み出す
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17070/

<Vol.4>梅野倖子:アジア選手権・世界選手権・アジア大会で日の丸を背負った1年を振り返り、自身に生じた変化を語る
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19163/

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