ブダペスト世界選手権の大会中日となった8月23日、日本陸連は同日のイブニングセッションの開始前に、日本選手団監督を務める山崎一彦強化委員長の囲み取材を行い、中間総括を行いました。山崎委員長のコメント要旨は、下記の通りです。
◎山崎一彦強化委員長(日本選手団監督)
大会も前半の日程を終了しようとしているが、日本チームは、ここまで概ね順調な成績を出しているといえる。1つは世界ランク上位にいる選手たちが、きちんと入賞してくれたこと。私は、「実力通りで実力を出す」というのは本当に難しいことだと思っているのだが、そんななか今の選手たちがきちんと成績を出してくれていることを嬉しく思う。まだメダルは獲得できていないが、男子110mハードルの泉谷駿介(住友電工、5位)、男子100mのサニブラウンアブデルハキーム(東レ、6位、ダイヤモンドアスリート修了生)、男子3000m障害物の三浦龍司(順天堂大学、6位)男子走高跳の赤松諒一(アワーズ、8位)、女子10000mの廣中璃梨佳(JP日本郵政G、7位)の5選手が入賞を果たした。特に、サニブラウンに関しては、去年も入賞(男子100m7位)をしている選手ではあるが、今季はここまで非常に厳しい状況にあった。しかし、この1カ月ほどで仕上げてきて、記録・順位ともに去年を上回っている点が素晴らしいと思っている。また、東京オリンピックの10000mで入賞経験(7位)を持つ廣中も、サニブラウン同様に、この数カ月で状態を上げて、入賞を実現させている。この2人のような推移を見せる選手は、今まではいなかったのではないかと思う。これまでであれば、日本選手権のころにピークが来て、その後、調子を落として世界大会を迎えるといった選手は見ることがあった。今回のように、その逆が出てくるということが、今の日本チームの強みだと思う。
三浦、泉谷に関しては、メダルに届くような状況ではあったが、獲得に及ばなかったというのは、まだレース展開や一つ一つのラウンドなどに課題があったと考える。そのあたりは、選手自身が一番真摯に受け止めているし、僕ら関係者もそれを受け止めて、次につなげられると思っている。競技が終わった時点で課題が見つかって、これからどういうことをやっていこうかということも見えてきているので、そこは次につながる状況かなと思う。
競歩は、35kmが終了した段階で改めて今村文男シニアディレクターが総括を行う予定だが、現段階で競技が終了している20kmについては、一番メダルが期待されていた種目だった。残念ながらメダルの獲得はかなわなかったが、他国の選手の状況が良かったなかで、日本の状況に準備不足があったという点も、今村シニアディレクターから報告を受けている。ただ、私たちは目標として「確固たる(力を持つ)選手たちの育成、複数年にわたって活躍する選手の育成」を掲げている。競歩はメダルを取るチームだし、複数年にわたってきちんと強化していくことが妥当と考えている。引き続き「メダルを取れる種目」というところの期待と応援を、皆さんからいただきたい。
入賞には届かなかったものの男子400mに関しては、出場した3選手全員が実力以上の力を出してくれた。全員が自己新記録をマークしており、佐藤拳太郎に関しては予選で32年ぶりに日本記録を更新した。さらに佐藤拳太郎と佐藤風雅の2人は、予選・準決勝で44秒台を2回続けて出しており、ここで実力を上げたと思っている。男子4×400mリレーは、JSCの次世代ターゲットスポーツ育成支援事業の対象となって、ここ3~4年は海外へ行ったり、マイケル・ノーマンやライ・ベンジャミンがいるUSC(南カリフォルニア大学)に継続的に出向いたりしてきた。トレーニングや考え方、またペース配分的な要素を肌で感じることができて、今の成績につながっていると考える。戦術的にも変化が現れていて、選手たちは、前半は余裕を持って様子を見ながら入り、落ち着いて最後までレースをできるようになってきている。これはまさに成熟した形といえるべきもので、日本代表チームの土江寛裕ディレクターをはじめとして、一致した方針で取り組んできた成果といえよう。大会終盤に行われる4×400mリレーのほうも、メダル獲得の期待がより高まる状況となってきている。
また、現段階で、男子100mのサニブラウン、男子400mの佐藤拳、佐藤風、男子400mハードルの黒川和樹が、新たにパリオリンピックの参加標準記録を突破した。私たちは競技力を分析する際、「世界で戦えるとは何か」ということをよく考えるのだが、その際、「まずは(オリンピック、世界選手権の)参加標準記録を突破している」「ダイヤモンドリーグやその他の国際大会で自己記録を更新したり、参加標準記録を突破したりする」「WAワールドランキングの12位相当内に入っている」といった条件をクリアしているようだと、限りなく入賞レベルに到達する考え、その指標として捉えている。両佐藤や黒川のように、参加標準記録を突破しても入賞レベルに届かなかった者がいるということは、標準記録というものが、そのレベルの記録であるということでもある。まずは一つクリアできた点はよかったと思う。
コロナウイルス感染症が沈静化し、以前の状況に戻りつつある今、世界の水準は、上がってきているし、これからさらに上がるとみている。今大会では、長距離種目を除くトラック&フィールド種目に関しては、条件がかなり良いのかなとみていて、トラックの状況、風、スタンドの状況、許容範囲の暑さのなど、瞬発系の種目では記録の出やすい環境となっている。ただ、この点も、今の日本チームは、自分たちのレベルも上がったうえで、他者との比較ができている。このように、選手が大きな舞台で、自分の力をきちと発揮することができ始めているのは、私たちも含めて、選手の考え方も変化していることによるのかなと思う。この状況は、今後も継続していけるようにしていきたい。
※本内容は、8月23日に実施した囲み取材において、山崎一彦強化委員長が発言した内容をまとめました。より明瞭に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施しています。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
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