第107回日本陸上競技選手権の最終日は6月4日に、大阪市のヤンマースタジアム長居で行われ、12種目の決勝が実施されました。
男子110mハードルでは、13秒06の日本記録保持者・泉谷駿介(住友電工)が今大会最大級の歓声を巻き起こすパフォーマンスを見せました。序盤は泉谷と同様にブダペスト世界選手権の参加標準記録(13秒25)を突破済みの高山峻野(ゼンリン)と競り合う展開になりましたが、中盤から徐々に抜け出します。そして、3連覇のフィニッシュラインを駆け抜けると、速報タイマーは「13秒05」で止まりました。正式タイムは「13秒04」(-0.9)。2年前の日本選手権で作った自身の記録を0.02秒塗り替える日本新、今季世界リスト2位という大記録で、文句なしの3大会連続世界選手権代表内定を決めました。
高山も13秒30で2位を確保し、2大会ぶり2度目の世界選手権代表に名乗りを上げました。
大観衆が固唾を飲んで見守った大会最終種目・男子100mは、地元・大阪出身の坂井隆一郎(大阪ガス)が渾身のスタートを決めてそのまま逃げ切り、10秒11(-0.2)で初優勝を飾りました。2位はダイヤモンドアスリートの栁田大輝(東洋大)が自己タイの10秒13で続き、3位は10秒18の小池祐貴(住友電工)。オレゴン世界選手権7位入賞の前回王者、サニブラウン アブデルハキーム(東レ)は脚にケイレンを起こした影響で全力を出せず、8位でフィニッシュしました。今大会での世界選手権代表内定は得られませんでしたが、この後のワールドランキング対象大会で有効期限内に参加標準記録10秒00を突破すれば、5大会連続の代表入りが決まります。
男子100mの前に行われた女子5000mでは、田中希実(New Balance)が1500mに続いて圧巻の走りを見せました。9分21秒の3000m通過とともに先頭集団から抜け出すと、ラスト1周で力強くスパート。1500mの残り1周(61秒)を上回る60秒でカバーし、15分10秒63で2大会連続3度目の2冠に輝きました。ブダペスト世界選手権マラソン代表の加世田梨花(ダイハツ)が15分21秒72で2位、20歳の小海遥(第一生命グループ)が自己新の15分23秒98で3位と健闘しました。
男子400mでも熱戦が繰り広げられました。4×400mリレーのオレゴン世界選手権4位メンバーである中島佑気ジョセフ(東洋大)と佐藤風雅(ミズノ)、同東京五輪代表の佐藤拳太郎(富士通)がデッドヒートを展開。佐藤風雅がややリードし、中島と佐藤拳太郎が並んで最終コーナーを抜けると、そこから伸びてきたのが中島でした。初優勝のタイムは日本歴代5位、学生歴代2位の45秒15。5月の静岡国際(45秒46)、木南記念(45秒39)、セイコーゴールデングランプリ(45秒31)と自己新を連発してきましたが、その勢いを日本選手権へとつなげました。2位の佐藤風雅も日本歴代8位の45秒26、3位の佐藤拳太郎は45秒47と好タイムをマーク。日本人2人目の44秒台突入が間近に迫っていることを予感させるレースとなりました。また、学生歴代8位の45秒54で4位に続いた今泉堅貴(筑波大)ら4位から7位を学生が占め、若手の台頭も目を引きました。
男女跳躍では、世界を見据える選手たちが力を発揮しました。男子走高跳は2月のアジア室内選手権王者・赤松諒一(アワーズ)が日本歴代8位の2m29で初優勝を飾り、2大会連続の世界選手権代表入りに大きく前進しました。2m25の同記録で長谷川直人(新潟アルビレックスRC)が2位、真野友博(九電工)が3位でした。世界選手権で日本人初入賞(8位)を果たした真野も、この後のワールドランキング対象大会で2m32の参加標準記録をクリアすれば、その時点で2大会連続の代表に内定します。
女子走幅跳は秦澄美鈴(シバタ工業)が4回目に6m63(+0.6)をジャンプし、3年連続4回目の日本一に輝きました。2度のファウルはあったものの1回目に6m60(+2.8)、2回目と6回目は6m58と充実のシリーズ。今季は日本歴代4位の自己記録を6m75へと引き上げたほか、ワールドランキングでの2大会連続世界選手権代表入りが十分可能な位置にいます。世界のファイナルを見据えて、さらなる大ジャンプなるかに注目です。
その他の種目も、好記録ラッシュに沸きました。女子200mは第2日目の100mで連覇を飾った君嶋愛梨沙(土木管理総合)が、3年ぶり優勝を狙った鶴田玲美(南九州ファミリーマート)を突き放し、第2日目の400m女王・久保山晴菜(如水会 今村病院)の追い上げも許さず、堂々の2冠を獲得。日本歴代3位タイの23秒17(±0)をマークしました。鶴田は23秒49で2位、久保山は自己新の23秒57で3位でした。
女子400mハードルは山本亜美(立命大)が日本歴代5位の56秒06で3連覇を達成しました。得意の後半でグンと伸びる、力強いレースでした。2位の宇都宮絵莉(長谷川体育施設)も歴代8位の自己ベスト(56秒50)に迫る56秒65をマークしました。
男子800mは日本記録保持者の川元奨(スズキ)がオープンレーンになってから先頭に立つと、そのままその座を譲らず、5年ぶりの優勝を30年ぶり大会新の1分46秒18で飾りました。これで元日本記録保持者の横田真人と並んでいた同種目の優勝回数を単独最多の「7」に伸ばしました。2位の松本純弥が日本歴代9位タイの1分46秒52をマークしました。女子800mは終盤に抜け出した池崎愛里(ダイソー)が日本歴代10位の2分03秒08で初優勝。2位の渡辺愛(園田学園女子大)が学生歴代9位の2分04秒20をマークしました。前回女王でアジア室内選手権銀メダルの塩見綾乃(岩谷産業)は2分04秒21で3位でした。
男子砲丸投は上位3人が18m20オーバーを果たすなか、社会1年目の奥村仁志(東京陸協)が日本歴代7位タイの18m42を放ち、初の日本一をつかみました。2位の岩佐隆時(Team SSP)も日本歴代9位の18m36、3位の森下大地(第一学院高教)は自己記録にあと5cmの18m24をプットしました。女子砲丸投は郡菜々佳(新潟アルビレックスRC)が2投目の16m19で逃げ切り、3年連続6回目の栄冠を手にしました。
第107回日本選手権の全日程が終了し、大会最優秀選手は男子が泉谷、女子は前日の女子三段跳で24年ぶり日本新の14m16をマークした森本麻里子(内田建設AC)が選ばれました。大会記録は日本記録の2種目を除くと、男子の800mと1500mの中距離2種目で誕生。今大会でのブダペスト世界選手権内定者は泉谷、高山、男子3000m障害の三浦龍司(順大)の3人でしたが、日本歴代上位記録が多数生まれるなど各種目で熱戦が繰り広げられました。
同時開催のU20日本選手権は13種目で決勝が行われ、男子砲丸投は最終投てきでU20日本歴代4位の18m34をマークした渡辺豹冴(新潟医療福祉大)が劇的な逆転優勝を飾りました。男子110mハードル(U20規格)では山中恭介(市立船橋高・千葉)が13秒54(+0.1)の好タイムで快勝。女子200mは杉本心結(市立船橋高・千葉)が高2歴代10位の23秒96(-0.5)で、日本選手権100m3位の藏重みう(甲南大)を同タイム着差ありで抑える殊勲の優勝を飾りました。
文:月刊陸上競技編集部
写真:フォート・キシモト