2023.05.29(月)選手

【第107回日本選手権展望】男子短距離編:前回覇者のサニブラウンに坂井が挑む。9秒台決戦なるか!? 男子400mでは44秒台での対決に期待



第107回日本陸上競技選手権大会」が6月1~4日、第39回U20日本選手権との併催で、大阪市のヤンマースタジアム長居で開催される。今回、実施されるのは、12月10日に予定されている男女10000m、6月10~11日に行われる男女混成競技(十種競技、七種競技)を除くトラック&フィールド全34(男女各17)の決勝種目。2023年度の「日本一」の座が競われるとともに、本年8月にハンガリーのブダペストで開催される世界選手権、そして来年のパリオリンピックに向けて大きな影響力を持つアジア選手権(7月、タイ・バンコク)、アジア大会(9月、中国・杭州)の日本代表選手選考競技会も兼ねている。

ブダペスト世界選手権の出場資格は、昨年行われたオレゴン世界選手権同様に、ワールドアスレティックス(WA)が設定した参加標準記録を突破した者と、各種目のターゲットナンバー(出場枠)を満たすまでのWAワールドランキング上位者に与えられる。日本代表選手の選考は、日本陸連が定めた選考要項(https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202209/27_175114.pdf )に則って進められるため、日本選手権で即時内定を得るためには、3位以内の成績を収めたうえで、決勝を終えた段階で参加標準記録を突破していることが条件(ただし、オレゴン世界選手権入賞者は、順位に関係なく参加標準記録を突破した段階で内定)となる。
ここでは、各種目の注目選手や見どころをご紹介していこう。

※エントリー状況、記録・競技結果、ワールドランキング等の情報は5月29日時点の情報により構成。同日以降に変動が生じている場合もある。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト


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【男子100m】

サニブラウン、日本選手権初の9秒台突入へ。坂井、圧巻のスタートでリード奪えるか



昨年のオレゴン世界選手権で、サニブラウンアブデルハキーム(Tumbleweed Track Club)が7位に入賞。世界大会としては1932年ロサンゼルスオリンピックで6位となった吉岡隆徳以来、1983年から行われている世界選手権では初の快挙を成し遂げた。サニブランは、同大会の予選をセカンドベストの9秒98で通過。世界大会で日本人初の9秒台もマークしている。
ブダペスト世界選手権100mの参加標準記録は10秒00。東京オリンピックやオレゴン大会時から引き上げられた。これをクリアした選手はまだおらず、日本選手権で即時内定を得るためには、予選・準決勝・決勝のいずれかで、このタイムをマークすることが大前提。世界選手権入賞者であるサニブラウンについては、選考基準により10秒00をクリアした時点で内定し、そのほかの選手については決勝を3位内で終えれば即時内定となる。タイムという点でも、決勝に向けて各ラウンドをどう戦っていくかという戦術の点からも、予選から見逃せない。
大本命は、やはりサニブラウンとなる。今季は、例年よりも遅く4月22日に、拠点を置くアメリカでシーズンイン。10秒13(+2.3)で初戦を終えると、翌週に臨んだ2戦目も10秒16(+2.9)と、まずまずの滑りだしをみせた。その後はレースに出ていないが、この冬は数年苦しんできた腰への不安が解消し、充実したトレーニングを消化できており、バックグラウンドは十分に整っている。世界選手権でのメダル争いを目標とするサニブラウンにとっては、シーズンが本格化するのは日本選手権以降となる。ブダペストに頂点を合わせるピーキングのなかで、日本選手権を勝ちきることは織り込み済みのはずだろう。過去106回の日本選手権において、まだ9秒台のパフォーマンスは出ていない。サニブラウン自身が2019年にマークした10秒02の大会記録を、9秒台で塗り替えてほしい。

サニブラウンが万全で臨んでくれば、他の選手が太刀打ちするのは難しいかもしれない。そのなかで、強い自信を持つ「スタートからの飛びだし」をフルに使って、サニブラウンをヒヤリとさせられるとしたら坂井隆一郎(大阪ガス)だろう。東京オリンピック前から力があることは知られていたが、ケガもあって、昨年ようやく結果が伴ってきた選手。日本選手権で2位となったあと、10秒02の自己新を出して参加標準記録も突破。世界選手権では準決勝まで駒を進めた。今季も10秒08(+1.7)を筆頭に、10秒10(+0.4)、10秒12(-0.3)と順調だ。目標に掲げている「10秒0台を安定させたなかで9秒台を出す」パフォーマンスを、日本選手権で見ることができるようだと勝負も面白くなる。

もう1人、要注目なのが小池祐貴(住友電工)だ。2019年に9秒98をマークし、100mで東京オリンピックに出場している選手。昨年の冬から拠点をアメリカに移し、トレーニングを積んできた。今季はアメリカで4戦したのちに、セイコーゴールデングランプリで自己5番目の記録とタイの10秒11(+0.4)をマークして4位でフィニッシュしている。優勝あるいは日本人トップといった結果でないため目立っていないが、シーズンベストでみるなら9秒台に突入した2019年に次ぐところまで戻っており、出場したレースすべてをシーズンベストで消化しているところも頼もしい。今大会は、優勝実績(2021年)もある200mは出場せずに100mのみでの出場。パワーあふれる走りで、2019年・2020年の最高成績(3位)を上回る戦いを見せてくれるかもしれない。

東京オリンピックまで長きにわたりトップ戦線をリードし続けてきた桐生祥秀(日本生命、9秒98)、山縣亮太(セイコー、日本記録保持者9秒95)、ケンブリッジ飛鳥(Nike、10秒03)、さらには東京オリンピック100m代表の多田修平(住友電工、10秒01)は、いずれも来年に迫るパリオリンピックをしっかりと見据えているが、今大会はエントリーしていない。10秒2台、10秒1台でずらりと並ぶ若手たちは、この面々が万全で戻ってくるまでに、少しでも近づいておきたい。リレー代表としてオレゴン世界選手権代表に選出された栁田大輝(東洋大、ダイヤモンドアスリート)は、昨年のU20世界選手権で100m6位、4×100mリレーで金メダルを獲得した次代のエース候補。今季も自己記録を10秒13まで縮めているが、10秒0台で勝負強さを発揮できるようになると、存在感に厚みが増してくる。同じくオレゴン世界選手権リレー代表の鈴木涼太(スズキ)も、ここでアジア選手権、アジア大会も含めた日本代表入りを常態化しておきたい。ケガで泣くことの多かった東田旺洋(関彰商事)、は、2021年の10秒18を筆頭に、2019年以降は10秒2台以上のタイムをマークしている。この水準をもう一つ引き上げていきたいところだろう。


【男子200m】

初優勝とブダペスト内定を狙う鵜澤か、上山が連覇か、飯塚のV奪還か!



静岡国際決勝で、追い風参考記録(+2.6)ながら、日本歴代3位相当となり、20秒16へと引き上げられたブダペスト世界選手権参加標準記録も上回る20秒10をマークして、会場を大きくどよめかせた鵜澤飛羽(筑波大)が、優勝候補の筆頭に名乗りを挙げた。陸上を始めて2年目の2019年に、高校2年にして100m10秒19(+2.9)・200m20秒36(+2.1)をマークし、ポテンシャルの高さを知らしめた選手。しかし、抜群の素質に身体が追いつかず、大学1年時の2021年には重症の肉離れ。以降は、姿勢や動かし方から身体つくりを全面的に見直しつつ、ケガのリスクと戦いながら競技に取り組んできた。今季は公認記録でも静岡国際予選で今季日本最高となる20秒38(+1.1)をマークして自己記録(20秒54)を大幅に更新、雨の悪条件下となった木南記念でも20秒44(+0.6、優勝)のセカンドベストをマークするなど、その成果が形となりつつある。ターゲットナンバー「48」のこの種目で、現段階のWAワールドランキングは日本人最上位の28位と、安全圏内といえる場所にいる。日本選手権で自己記録を更新していくようだと、初優勝とともに、世界選手権はもちろん、アジア選手権、アジア大会代表の座も引き寄せることになる。すでに内定しているワールドユニバーシティゲームズとの連戦を懸念できるような状況に持ち込みたい。

200mで優勝実績を持ち、この種目でも日本代表として国際大会でも実績を残しているサニブラウンアブデルハキーム(Tumbleweed Track Club)、小池祐貴(住友電工)が今回は100mに絞ったなか、ショートスプリント2種目にエントリーして代表入りを狙っているのは飯塚翔太(ミズノ)と上山紘輝(住友電工)の2人だ。飯塚は、ご存じ2016年リオオリンピック男子4×100mリレー銀メダリスト。2010年に世界ジュニア選手権(現U20世界選手権)200mで金メダルを獲得、2012年ロンドンオリンピック以降は、日本のエース格として牽引し、今も変わらず第一線で活躍している。その実績や取り組み、人物像はアスリートのロールモデルといえる存在だ。ここ数年は持病となっている膝の痛みとつきあいながら取り組んでおり、冬場もコーナーを走る200mではなく、直走路でカバーできる100mの練習をメインとしているほどだが、オレゴン世界選手権もWAワールドランキングの順位できっちり代表権を獲得。今季も現段階で39位と出場圏内に位置する。出場選手のなかでは唯一、参加標準記録を上回る自己記録(20秒11、2016年)を持つが、現状で20秒16まで持っていくのは厳しい。ただ、今季はオーストラリアで臨んだ初戦から向かい風1.1mのなか20秒53と快走。静岡国際決勝は、レース展開をミスして勝負は5位に沈んだが、タイムは追い風参考記録ながら予選・決勝ともに20秒4台でまとめており、続く木南記念では、静岡での失敗をしっかり修正する走りを見せて20秒57(+0.6)で鵜澤に続いた。初優勝を遂げてから10年目となる今大会で、5回目の優勝と、5回目となる世界選手権代表の座に迫れる状況は整っている。

社会人1年目の昨年、一気に表舞台に躍り出てきた上山紘輝(住友電工)も、連覇と2大会世界選手権連続代表入りが狙える位置にいる。 公認のシーズンベストは、静岡国際の予選でマークした20秒43(+1.1)だが、追い風2.6mのなか行われた決勝では20秒32で鵜澤に続いた。昨年は日本選手権(20秒46=当時自己タイ)、世界選手権(20秒26、予選)と、ここ一番でベストを出していく勝負強さも印象深かった。同様の軌跡を描くことができれば、45位のWAワールドランキングも自然と上がっていくはずだ。
ここに続く層は、上位候補とは少し差があるものの、力は拮抗しており、決勝進出を含めて大接戦となるだろう。正直、誰が抜け出てくるか見通せない。ただし、サニブラウンや小池という圧倒的な強さを持つ選手が不在のなかで、アジア選手権やアジア大会代表入りに近づく絶好のチャンス。パリオリンピックに向けたポイント獲得を考えるうえでも、ぜひものにしておきたい。


【男子400m】

躍進中の中島か、復活の佐藤拳か!?1991年以来の44秒台突入に期待



男子ロングスプリント界にとっても昨年は、「歴史が動いた」シーズンだった。オレゴン世界選手権男子4×400mリレー決勝で、2分59秒51のアジア新記録で4位入賞を果たしたのだ。この記録は、1996年アトランタオリンピックで樹立され、2021年東京オリンピックで並んだ3分00秒76を更新し、初の2分台に突入する日本新記録。世界大会の実績としては、4位入賞を果たした2004年アテネオリンピックに並ぶ最高順位であった。この快挙を実現したメンバーのうち45秒13の自己記録を持つ大エースのウォルシュジュリアン(富士通)が故障からの回復が間に合わず欠場することになったことは惜しまれるが、「マイル」のアジア記録保持者として臨む面々、歴代優勝者、復活ののろしを上げた元エース、新規参入に迫る若手と、多士済々の顔ぶれが並ぶ。

初優勝に向けて着実な歩みを見せているのは、オレゴンでアンカーを務めた中島佑気ジョセフ(東洋大学)。世界選手権後も自己記録を45秒51まで引き上げると、400mで出場した国内主要大会をすべて勝ってシーズンを終えた。今季も、静岡国際45秒46(2位)、木南記念45秒39(優勝)、セイコーゴールデングランプリ45秒31(優勝)で3大会連続自己新と、快進撃を続けている。特にセイコーゴールデングランプリは4月の出雲陸上から6週連続のレース(400m以外の種目も含む)でマークしたもの。日本選手権までの2週間で、修正や上積みを行ったうえで、さらに一段階高い水準の記録を狙っていく計画だ。
この中島よりも先に、今季日本最高となる45秒31をマークしていたのが佐藤拳太郎(富士通)だ。タイムレース決勝で実施された静岡国際で、上位記録者が入る最終組の前に行われた2組で、8年ぶりの自己新となるこの記録をマーク。3組1着の中島を上回ったことで優勝した。佐藤拳は、東京オリンピック4×400mリレーの“日本タイ記録”メンバー。2015年世界リレー以降、常に“マイル”メンバーの常連として名前を連ね、2021年世界リレーでは2位の成績を収めて東京オリンピックの出場資格獲得にも貢献している。しかし、故障の影響もあって昨年は日本選手権でまさかの予選落ち。代表入りを逃して気を落としていたが、仲間たちのオレゴンでの活躍に再奮起し、充実したトレーニングを積んで、今季を迎えている。

偶然にも同記録で日本リスト1位を占め、日本選手権を戦うことになった中島と佐藤拳だが、ともにブダペスト世界選手権参加標準記録の45秒00ではなく、44秒台突入、さらには44秒78の日本記録(髙野進、1991年)を狙っている。45秒31の自己記録から一足飛びに実現できるほどたやすくはないだろうが、一方で、静岡国際と木南記念がタイムレースで行われたことで、2人が別の組で走った点は、記録を狙う意味ではもったいなかったといえる。前半型の佐藤拳と後半型の中島。好対照の強みを持つ2人がベストの状態で対戦したとき、どんな勝負を繰り広げるか興味深い。

昨年、初優勝を果たし、世界選手権ではリレー(1走)だけでなく、個人種目の400mで準決勝に進出した佐藤風雅(ミズノ)も44秒台を狙っている選手。今季は200m(20秒89、+1.3)でシーズンインしたのちに、出雲陸上300mでは中島を0.01秒差で抑えて優勝(32秒85)。その後の400mは46秒2~3台に留まるレースが続いたが、セイコーゴールデングランプリで45秒52まで上げてきた。ターゲットナンバー「48」のこの種目で、日本勢では中島が29位でトップに立つWAワールドランキング は、現段階で日本人4番手に迫りつつも圏外にいる。ランキング順位を上げていくためにも、昨年マークした自己記録45秒40前後の安定感が必要となりそうだ。前々回の覇者で、オレゴン世界選手権では400mとリレーで出場した川端魁人(中京大クラブ)は、ケガからの回復途上にある段階。復調して上位戦線に名を連ねたい。

中島をはじめとして今季は学生陣が元気だが、45秒65まで伸びてきた今泉堅貴(筑波大)と、45秒78をマークしている地主直央(法政大)は、安定して自己記録に近いパフォーマンスを続けたことで、WAワールドランキングでも出場圏内(今泉41位、地主44位)に浮上してきた。この2人はワールドユニバーシティゲームズの日本代表にも内定済みだが、世界選手権やアジア選手権、アジア大会も視野に入れるなら、ガチンコ勝負となる日本選手権での順位は重要になってくる。


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記録と数字で楽しむ 第107回日本選手権

第107回日本選手権展望:みどころをチェック!


【チケット情報】

今年はスペシャルチケットとして、テーブル・コンセント付きの最上位グレード席となる「SS席」のほか、1日50席限定の「B席アスリート交流チケット」、1日15席限定の「カメラ女子席」、そして日本選手権では初めてサブトラックの観戦ができる「サブトラック観戦チケット」の販売をいたします。既に完売の席種もございますので、是非お早めにお買い求めください!



■S席のポイント


S席はメインスタンド1階層の中央からフィニッシュ付近の座席です!
トラック種目のフィニッシュシーンを間近で観戦できます。
王者誕生の瞬間を近くで見届けたい方におすすめの座席です!


■A席のポイント


A席は南サイドスタンド側、フィニッシュ付近の自由席です!
トラック種目のフィニッシュを正面から観戦できるため、フィニッシュ直後の選手たちの表情も間近で見ることもできます。
また、投てき種目(やり投・ハンマー投・円盤投・砲丸投)のピットも近いので選手たちの投てき前の集中した表情も観戦できます。


■B席のポイント


B席はメインスタンドのスタート側から中央にかけての自由席です!
100m、100mハードル、110mハードルのスタートシーンが間近で観戦できます。
スタート前は選手の鼓動が聞こえるほどに静まり返ります。


■C席のポイント


C席はサイドバックの自由席となります
C席のチケットをお持ちの方の他、サブトラック観戦チケットを除く全てのチケットの方も移動しての観戦が可能です!!
バックスタンド側で実施される走幅跳・三段跳では是非、バックスタンド側のC席から大きな拍手で応援をお願いいたします。
また、北サイドスタンド側では3000m障害物の水郷付近での観戦が可能です。水しぶきをあげて駆け抜ける迫力のある走りを是非ご覧ください。

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