2023.05.12(金)選手

【記録と数字で楽しむ第107回日本選手権】男子走幅跳:橋岡優輝「3連覇&6度目の優勝」なるか



6月1日~4日に大阪(ヤンマースタジアム長居)で行われる「第107回日本選手権」の「見どころ」や「楽しみ方」を「記録と数字」という視点から紹介する。
各種目の「2023年日本一」を決める試合であるとともに、8月にハンガリー・ブダペストで行われる「ブダペスト2023世界選手権」、7月のタイ・バンコクでの「アジア選手権」、9月末からの中国・杭州での「アジア競技大会」の日本代表選手選考競技会でもある。また、「U20日本選手権」も同じ4日間で開催される。
本来であれば全種目についてふれたいところだが、時間的な制約のため10種目をピックアップしての紹介になったことをご容赦いただきたい。また、エントリー締め切りは5月15日であるが、この原稿はそれ以前の10日までに執筆したため、記事中に名前の挙がった選手が最終的にエントリーしていないケースがあるかもしれないことをお断りしておく。

過去に紹介したことがあるデータや文章もかなり含まれるが、可能な限り最新のものに更新した。
スタンドでの現地観戦やテレビ観戦の「お供」にして頂ければ幸いである。

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男子走幅跳は、大会3日目6月3日実施

【男子走幅跳】

・決勝/6月3日


橋岡の「3連覇&6度目の優勝」が濃厚か

橋岡の日本選手権での歩み

3年連続&6度目の優勝を目指す橋岡優輝(富士通)の調子が良さそうだ。
23年の初戦は4月28日、アメリカ・ジャクソンビルでの試合で8m11(+1.5)を跳んだ。

日本選手権は、日大2年の17年に初優勝し、そこから3連覇した。
「4連覇」になるはずだった20年はコロナで春先からの多くの競技会が中止や延期となり、日本選手権も6月から10月に、会場も当初の大阪から新潟に変更された。この年も橋岡は好調で9月11日の日本インカレでは、20年世界4位(室内の記録も含む)となる8m29(-0.6)をマーク。向風の中での記録だけに高い評価をえた。3週間後の日本選手権で「V4」が間違いなさそうと思われていた。が、踏切脚のカカトやハムストリングスに違和感が出て無念の欠場。連覇がストップしたのだった。
翌21年は、前年の無念を晴らすかのように8m36(+0.6)の自己ベスト&大会新記録で2位に45cmの大差をつけて圧勝。
22年も8m27(+1.4)で2位に20cm差でオレゴン世界選手権参加標準記録(8m22)もクリアし、5度目の優勝を飾った。

今回、6度目の優勝となれば、この種目での優勝回数としては、8回の臼井淳一さん(78~87年。82~87年に6連勝)に続き、歴代2位の南部忠平さん(28~33年に6連勝)と並ぶ。

なお、父・利行さんは棒高跳で5連覇(85~89年)と2連覇(93・94年)を合わせ7回の優勝。母の直美さん(旧姓・城島)も、100mハードルで2回(91・92年連覇)、三段跳で3回優勝(93年。95・96年連覇)しているので、計5回。今回優勝すれば、現在並んでいる母を上回るが、父に並ぶのは最短でも24年になる。


橋岡は毎年のシーズン初戦からどれくらい記録を伸ばしてきたか?

先に、橋岡が今季の初戦で8m11を跳んだことを紹介した。
では、これまでに橋岡は、毎年の初戦からシーズン中にどれくらいまで記録を伸ばしてきたのか?
そこで、橋岡が走幅跳に取り組み始めた高校1年生の14年からのシーズン初戦とその年のシーズンベストを調べてみた。
なお、中学生の頃にも陸上競技に取り組んではいたが、四種競技がメインで走幅跳はやっていない。

<橋岡優輝のシーズン初戦とその年の最高記録>
・初戦がすべて追風参考だった19年は次戦の公認記録を、初戦が室内競技だった場合は屋外での初戦も掲載
年月日初戦記録-->年最高月日記録の伸び
2014.06.156m43(+0.9)-->6m73(±0)09.0730cm
2015.04.047m17(+1.7)-->7m70(+1.4)10.1653cm
2016.05.087m48(+0.7)-->7m75(-1.6)07.3127cm
2017.04.027m79(+1.9)-->8m05(+1.4)06.2426cm/8m07W(+3.2)07.09
2018.04.297m74(+1.6)-->8m09(+1.2)06.2335cm
2019.03.308m25W(+4.2)-->8m32(+1.6)08.17(7cm)
〃.04.237m81(+0.2)--> 51cm
2020.02.218m02(室内)-->8m29(-0.6)09.1127cm
〃.08.237m96(-0.1)--> (33cm)
2021.03.188m19(室内)-->8m36(+0.6)06.2717cm
〃.04.297m97(+1.1)--> (39cm)
2022.03.18なし (室内)-->8m27(+1.4)06.12--
〃.04.098m07(+0.1)--> 20cm
2023.04.288m11(+1.5)-->???  

以上の通りで、ベストが8m台に乗った17年以降の室内を含めた初戦とシーズンベストの伸び(初戦が「すべて追風参考」と「記録なし」を除く)の平均値を計算したところ「29.3cm(範囲17cm~51cm)」となった。この平均値を23年の初戦8m11に加えると「8m40」になる。
これまでの最小の伸びの17cmでも「8m28」、最大値の51cmならば「8m62」にもなる。過去6年間のデータからすると橋岡は、今年もそれくらい跳べるであろうということだ。

追風参考や室内を含め、19年以降は初戦(22年のみ屋外初戦)で8m台を跳んでいる。
そして、世界大会が開催された19・21・22年は、世界の大舞台で「8位入賞・6位入賞・10位」という結果を残してきている。ただし、橋岡自身は、もっと高いレベルを目標にしていたので、その結果には全く満足していないようだ。頼もしい限りである。今年のブダペストや24年のパリでより高い目標達成を実現してもらいたい。


打倒・橋岡を目指すのは?

「8m00以上」の参加資格記録でエントリーする可能性があるのは9名。
その9名と22年日本選手権で8位以内の選手の入賞歴をまとめた。



<参加資格記録8m台と22年入賞選手の日本選手権入賞歴>
・記載順は参加資格記録(22年のベスト)の順
 141516171819202122
橋岡優輝
山川夏輝
吉田弘道
鳥海勇斗
松本彗佑
小田大樹
藤原孝輝
津波響樹
泉谷駿介
======= 以下、22年入賞選手 =====
城山正太郎
谷口祐
山浦渓斗

橋岡が勝てば2年連続6回目。
津波ならば3年ぶり2回目で、直近は2年連続2位。
その他の選手ならばいずれも初優勝となる。
日本記録保持者の城山は2位が2回あるが、優勝にはまだ届いていない。
山川は3位以内2回に5位以内が4回、小田は3位以内3回で4位も1回。山川も小田も橋岡と同じく日大OB。現役生の鳥海(4年)を含め、日大OBによる上位独占の可能性もあり得るかもしれえない。


ブダペスト世界選手権への道

ブダペスト世界選手権参加標準記録は「8m25」で有効期間は、22年7月31日から23年7月30日。
橋岡を含め、5月7日時点でこれをクリアしている日本人はいない。

ただし、19年以降の橋岡の年次ベストは最低でも8m27なので、期待していてもいいだろう。5月2日現在の「WAランキング」で橋岡は「15位」にいる。が、上記22年7月31日以降の5大会の記録が有効となる世界選手権に通じるランキングには名前は載っていない。ポイントに反映される競技会が5大会に満たないからだ。万が一、参加標準記録の「8m25」に届かなくとも、7月30日までには「36名」のターゲットナンバー内には間違いなく入ってくるはずだ。

他の日本人選手で、世界選手権向けの「WAランキング(5月2日現在)」で「36位以内」にいる人は誰もいない。
43位 山川夏輝(佐賀県スポーツ協会)
44位 小田大樹(ヤマダホールディングス)
50位 鳥海勇斗(日大4年)
が日本人トップ3。
59位 吉田弘道(神崎郡陸協)
60位 有村拓巳(福岡大4年)
と続いている。

22年に8m台を跳んだのは9人。7m90以上が14人。このあたりの選手を中心に「36位以内」を目指して、日本選手権をはじめとする各種の競技会で、ランクアップを目指すことになる。

5月2日時点の「36位」は、5試合平均で1140点。記録は7m80程度で順位ポイントが40~50点くらい加わっている感じだ。
が、7月末までにはどんどんボーダーラインが上がってくることは間違いない。

8m00の記録ポイントは「1138点」、8m10は「1160点」、8m20は「1181点」で「1cmで約2点アップ」となる。
一方、日本選手権での順位ポイントは、
1位 100点
2位 80点
3位 70点
4位 60点
5位 55点
6位 50点
7位 45点
8位 40点

1位と2位の20点差は、記録で10cmくらいの差にあたる。2位~4位の10点ずつの差は記録なら5cm程度の差だ。
例えば、同記録で日本選手権で1位と2位になった場合、2位の選手は「WAポイント」の上では10cm差で負けたという計算になる。
順位ポイントがつかない試合で20点差を挽回するには10cmの差をつけなければならない。
日本選手権優勝の順位ポイント「100点」を記録のみで挽回するには、50cmあまり遠くへ跳ばなければならない計算だ。
そんなことから、どの選手も順位ポイントが高い試合では、ひとつでも上の順位に入っておきたいとこだ。


日本の層の厚さは、アメリカについで世界2位!

22年の世界リストの100位は、7m93。
世界100位以内の国別人数が最も多かったのがアメリカで18人。2位は日本で12人。3位が9人の中国。4位のフランスは6人と日本の半分の人数だった。日本の層は世界の中でもアメリカについで厚いのだ。これは、誇るべきことであろう。

新型コロナウィルスが世界に広がる前年の「19年世界100傑」にも日本は8人が入っていた。この年もアメリカの16人に次いで世界2位。7人のジャマイカの上にいた。

なお、20年は日本選手権を欠場した橋岡以外は誰も8mを超えることはできなかったが、王国・アメリカの競技会がコロナ禍でほとんど行われなかったこともあって、「20年世界100傑(7m82)」には、12人の日本人選手が名前を連ね「世界1位」の人数となった。

21年の世界100位(7m95)以内の日本人の人数は大きく減って4人。それでも20人のアメリカ、7人のジャマイカ、5人の中国に続いて、フランス・オーストラリアなどと並んで4位タイ(計8カ国)だった。


日本選手権での8m台の記録のあれこれ

<日本選手権における8m以上の記録>
※「w」は追風参考記録
順位記録風速氏名
1987年1位8.07+2.0臼井淳一
1988年1位8.06w+2.6柴田博之
2位8.06+0.6臼井淳一
1991年1位8.10±0下仁
2位8.04w+2.2T・ボグダン
1992年1位8.00w+2.5森長正樹
1994年1位8.06+0.8朝原宣治
2位8.03w+2.4志田哲也
3位8.01+1.5森長正樹
1997年1位8.10+0.9朝原宣治
1999年1位8.05w+3.5稲富一成
1位8.02w+3.0田川茂
2001年1位8.03+1.7渡辺大輔
2004年1位8.20+1.8寺野伸一
2008年1位8.13w+3.0菅井洋平
2009年1位8.00+1.5荒川大輔
2位8.00+0.6菅井洋平
2010年1位8.10+1.8菅井洋平
2017年1位8.05+1.4橋岡優輝
2018年1位8.09+1.2橋岡優輝
2021年1位8.36+0.6橋岡優輝
2022年1位8.27+1.4橋岡優輝
2位8.07w+2.3津波響樹(公認8.01+0.8)
3位8.07+1.9松本彗佑

日本選手権において、8mを初めて超えたのは、1987年の臼井淳一さん。それから35年間で追風参考も含め、16人が24回8mをオーバーしている。回数では、橋岡の4回がトップ。菅井洋平さんの3回が2位。

複数人が8m台を跳んだのは、
1988年柴田博之8m06w、臼井淳一8m06
1991年下仁8m10、T・ボグダン8m04w
1994年朝原宣治8m06、志田哲也8m03w、森長正樹8m01
1999年稲富一成8m05w、田川茂8m02w
2009年荒川大輔8m00、菅井洋平8m00
2022年橋岡優輝8m27、津波響樹8m07w、松本彗悠8m07
の6回。
22年2位・津波のセカンド記録8m01は追風0.8mで公認記録。22年は3人以上が公認条件で8mを超えた史上初の年となった。


日本選手権での「順位別最高記録」

・走幅跳では、公認あるいは追風参考に関わらず順位がつくので追参の記録も含めた
1)8.362021年
2)8.07w2022年
3)8.072022年
4)7.982022年
5)7.962022年
6)7.912022年
7)7.902022年
8)7.842022年

22年は超ハイレベルで、橋岡の優勝記録こそ自身の大会記録には及ばない8m27だったが、2位以下はすべての「順位別最高記録」を更新した。
今回も8m台ジャンパーが9人揃う可能性があるので、たくさんの「順位別最高」が生まれることを期待したい。



・記録は、5月7日判明分。
・記事中の「WAランキング」は5月2日時点のもの(毎週火曜日に発表されるので、できる限り最新のものを盛り込みたいところだが、原稿の締め切りの都合で5月2日時点のものとした)。
・記事は、5月7日時点での情報による。上述の通り、エントリー締め切り5月15日以前に書いた原稿のため、記事に登場する選手が最終的にエントリーしていないケースがあるかもしれない。また、競技の実施日は確定しているが具体的なタイムテーブルとエントリーリストは5月19日に公表される予定である。
・現役選手については敬称略をご容赦いただきたい。

なお、日本選手権の期間中、ここで取り上げることができなかった種目以外の情報(データ)も日本陸連のSNSで「記録や数字に関する情報」として、その都度発信する予定なので、どうぞご覧くださいませ。



野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)



【第107回日本陸上競技選手権大会】




今年はスペシャルチケットとして、テーブル・コンセント付きの最上位グレード席となる「SS席」、1日50席限定の「B席アスリート交流チケット」、1日15席限定の「カメラ女子席」、そして日本選手権では初めてサブトラックの観戦ができる「サブトラック観戦チケット」を販売!既に一部の席は完売となっておりますので是非お早めにお買い求めください!
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※エントリー締切期日は5月15日(月)17時00分となります。
※エントリー締切後に資格審査を行った後に、出場可否が決定します。

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■「世界選手権」「アジア選手権」「アジア競技大会」日本代表選手選考要項
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■ブダペスト世界選手権参加資格有資格者一覧
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■「WAランキング」ブダペスト世界陸上への道
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