2022.10.26(水)大会

【第59回全日本35km競歩高畠大会】レポート&コメント:男子は35km競歩初挑戦の山西利和が貫録の歩きで優勝、女子は園田が参加標準記録を突破して優勝!



第59回全日本35km競歩高畠大会が10月23日、山形県高畠町の「高畠まほろば競歩コース」(日本陸連公認コース1周2km)において行われました。レースウォーカーたちにとっては、競歩のロードシーズン開幕戦として、大切な位置づけをもつこの大会ですが、昨年、一昨年と、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響で、2年続いて中止となったため、大会が開催されるのは、50kmとして行う最後の全日本競歩となった2019年の第58回大会以来3年ぶり。来年の夏に開催される「ブダペスト2023世界陸上競技選手権大会(ハンガリー)」、および秋に開催される「杭州2022アジア競技大会(中国)」の日本代表選手選考競技会として実施された男女35km競歩のほか、男女20km競歩の全4種目が行われ、各種目で白熱したレースが繰り広げられました。


世界選手権20km金メダリストの山西

35km初挑戦で快勝!



男子35kmには、「オレゴン2022世界選手権」20kmで2連覇を果たした山西利和選手(愛知製鋼)のほか、「東京2020オリンピック」50km日本代表の丸尾知司選手(愛知製鋼)と勝木隼人選手(自衛隊体育学校)、勝木選手とともに3月にオマーンで行われた「第29回世界競歩チーム選手権」に出場している高橋和生選手(ADワークスグループ、35km)や諏方元郁選手(愛知製鋼、20km)らがエントリー。明け方まで断続的に降っていた雨が上がり、青空が広がってきたなか号砲が鳴り、「全日本35km競歩」として初めてとなるレースが始まりました。スタート時点の気象状況は、気温15.4℃、湿度82.5%で風はほぼ感じられず、この時期の高畠町にしては、かなり暖かく感じられるコンディションでした。
スタートしてすぐ勝木選手が先頭に立つと、これに山西選手、丸尾選手ら7選手が続き、8名の第1グループが形成されました。8選手は、最初の1kmを4分13秒で入ると、1~3kmと3~5kmの周回を、ともに8分39秒で回って、5kmを21分32~23秒で通過しましたが、5~7kmの周回で山西選手と丸尾選手が前に出て8分20秒のラップを刻んだことで、先頭グループは山西・丸尾・高橋・諏訪の4選手となり、勝木選手、伊藤佑樹選手(サーベイリサーチセンター)、石田昴選手(自衛隊体育学校)の3名が追い、これに少し遅れて山本徹選手(K.A.C)が続く展開となりました。先頭集団のラップは7~9kmの周回でさらに上がって8分17秒となり、10kmを42分21秒で通過していきます。山西選手と丸尾選手が、11~13kmの周回を1km4分05~06秒で刻んだことで高橋選手と諏訪選手が後れて、そこからは2人のマッチレースに。15kmを1時間02分51秒(この間の5kmは20分51秒、以下同じ)、20kmを1時間23分33秒(20分42秒)で通過していきました。
レースが動いたのは、20~21kmの地点でした。ここで丸尾選手が山西選手につけなくなり、21kmの通過時点で約4秒の差がつきます。山西選手はその後も20~25kmを20分31秒でカバーして25kmを1時間44分04秒で通過。その後は、ペースを落として、次の5kmは20分53秒(30km:2時間04分57秒)、最後の5kmはペースダウンして21分21秒というラップになったものの、2時間26分18秒でフィニッシュし、オレゴン世界選手権で銀メダルを獲得した川野将虎選手(旭化成、2時間23分15秒)、9位となった野田明宏選手(自衛隊体育学校、2時間25分29秒)に続く日本歴代3位の好記録をマーク。ブダペスト2023世界選手権の参加標準記録(2時間29分40秒)、日本陸連が独自に設定している派遣設定記録(2時間27分30秒)を、ともにあっさりとクリアしました。
「(1km)4分10秒を切るくらい、(最終的に)2時間26分台の真ん中くらいかなというのを一つの目安にしていた」という山西選手は、それもあって2時間26分18秒という結果については、「まあ、こんなものかなと思う。想定の範囲内のそのまんまという感じ」と評価。派遣設定記録をクリアしたことによって、金メダル獲得で前回に続きワイルドカードでの出場が確定している20kmとともに、ブダペスト世界選手権では35kmにも挑戦できる可能性が見えてきました。しかし、2種目を兼ねる取り組み自体は「選択肢としては十分にあり得ると思った」と述べつつも、「連戦がきくタイプではないので…」とブダペストでの挑戦については慎重な姿勢を示し、「しばらくは20(km)を軸足でやるつもりでいる」と話していました(山西選手の優勝コメントは、別記をご参照ください)。
2位で続いた丸尾選手は、20km以降の各5kmを20分52秒、21分17秒、21分52秒とペースを落としながらも最後まで粘り、今年4月の日本選手権(4位)でマークしていた自己記録(2時間29分19秒)を大幅に更新する2時間27分33秒でフィニッシュ。派遣設定記録こそわずかに3秒届かなかったものの、参加標準記録は大きくクリアしました。
「山西くんも私も、(1km)4分10秒前後でレースを進めていければと思っていたのだが、私のほうに余裕がなかった。20kmのところで心拍数が179に上がっていて、30kmでペースを上げるというビジョンが見えなかったので、優勝しても内定が出ないこともあり、ペースを落として、とりあえず2番を確保するところに(目標を)シフトしてレースを進めた」と振り返った丸尾選手は、ブダペスト世界選手権代表争いについて、「結局のところは、輪島(日本選手権)での勝負になる。輪島で残り1枠とか、残り2枠(を争う)というのは得意なので、そこに対する思いが強い」と今後を見据えました。また、同時に、今回の対戦や全日本実業団でのレース(10000m競歩)を経て、「(スピードのある)山西くんや池田くん(向希、旭化成)との間に大きな力の差を感じていて、そこに対して、もっと向き合って食らいついていかないとダメだということを改めて感じた」とコメント。次戦として予定している来年2月の日本選手権20kmに向けて、「これまで50kmの練習の一環として臨んでいたが、今年はきっちりと仕上げて、池田くんたちと戦えるようにしたい」ときっぱり。「今、(1km)3分55秒で継続して歩くことはできるが、その先に行かないと話にならない。この冬、どこまで仕上げられるかだと思う」と強い意欲を見せていました。
トップ2に続いたのは、今回が初の35km挑戦となった社会人1年目の石田昴選手(自衛隊体育学校)。安定したペースで周回を重ねる展開で、代表実績を持つ先輩ウォーカーたちをかわして終盤で順位を上げ、2時間30分37秒の好タイムで3位に食い込む結果を残しています。


女子35kmは園田が圧勝

実力者の貫禄示す



女子35km競歩には、初出場を果たしたオレゴン世界選手権で入賞にあと一歩となる9位の結果を残した園田世玲奈選手(NTN)が出場しました。
全6名の出場だった女子35kmは、午前8時に男子と同時にスタート。世界選手権でマークした自己記録2時間45分09秒(日本最高記録)の更新を狙っていた園田選手は、序盤を、同じくらいのペースでレースを進めていた男子の学生選手につく形でレースを進めていくことを選択。しかし、そのことによって、自身が描いていた「(1km)4分45秒くらい」という想定よりも速い、1km4分40秒前後のペースでレースを進めることになってしまいました。最初の5kmを23分34秒で入ると、10kmは47分02秒(23分28秒)で通過、15kmは1時間10分13秒での通過となり、この間の5kmは23分11秒までペースが上がります。レース後、「正直なところ、15kmくらいからきつかった」と明かした園田選手は、それでも「このペースで行ければ、自己ベストは確実」と、その後も粘ったものの、さすがに速すぎると判断して、中盤を過ぎたあたりで、ペースを落とし、単独でフィニッシュを目指すことに。20kmは1時間33分58秒と23分台のラップ(23分45秒)をキープしましたが、20~25kmは24分13秒(25km通過は1時間58分11秒)、25~30kmを24分57秒(30km通過は2時間33分08秒)にペースダウンする苦しい展開となりました。しかし、最後の5kmを懸命に粘って25分01秒でまとめ、2時間49分09秒でフィニッシュ。オーバーペース気味で入った序盤からの単独歩となったなかでも、参加標準記録(2時間51分30秒)を上回って、きっちりと2時間50分を切るタイムでレースをまとめました。
レースを振り返って、「1秒1秒の積み重ねが、35kmでは大きく響くのだなということを改めて感じた。記録を狙うというところでは攻めの歩きをしないといけないが、もう少し、コンディションを含めて考えながら歩くことが必要。そこがまだまだ足りない」と反省することしきりだった園田選手。その一方で、課題として取り組んできていたスピードについては、成果をつかめてきている様子。次戦となる日本選手権20kmで、実力者の藤井菜々子選手(エディオン)、岡田久美子選手(富士通)に「少しでも食らいつけるレースがしたい」と話していました(園田選手の優勝コメントは、別記、ご参照ください)。


男子20kmは古賀がV

女子20kmは進境著しい内藤が制す



男子20km競歩は、オレゴン世界選手権で8位入賞を果たした住所大翔選手(順天堂大学)が、スタート直後から飛び出し、大きくリードを奪って、単独でレースを進めていく展開となりました。住所選手は、5kmを19分46秒、10kmを39分38秒、15kmを1時間00分05秒で通過していきましたが、最後の周回のフィニッシュ直前というところで、無念のペナルティーゾーン入り。この結果、最初の5kmを20分05秒で入って以降、20分10秒、20分07秒、20分12秒と、安定したペースでレースを進めてきた古賀友太選手(大塚製薬)が1時間20分34秒で優勝を果たし、住所選手が1時間22分10秒で2位という結果になりました。
女子20km競歩は、ともに大学2年生ながら、「日本学生陸上競技対校選手権大会」女子10000m競歩で優勝争いを繰り広げた梅野倖子選手(順天堂大学、優勝)と内藤未唯選手(神奈川大額、2位)がスタート直後から前に出て“並歩”、再びトップを争う展開となりました。今回は、ロードを得意とする内藤選手が中盤あたりでリードを奪うと、その後は独り旅。3月の日本学生選手権(能美)で1年生優勝を果たした際にマークしていた1時間35分51秒の自己記録を、大幅に更新する1時間33分41秒で快勝しました。2位でフィニッシュした梅野選手も、1時間35分44秒の自己新記録をマークしています。


※本文中の記録および5kmごとの通過タイムは公式発表の記録。ただし、各1kmあるいは1周(2km)の通過およびラップタイムは、レース中の速報を採用している。


【全日本競歩高畠大会男女優勝者コメント】

■男子35km競歩

山西利和(愛知製鋼)

優勝 2時間26分18秒 ※ブダペスト世界選手権派遣設定記録突破



やりたいレースにトライをして、良くも悪くも現状が出たかなと思っている。「今のこのくらいコンディション、完成度で、少なくともこれくらいのタイムになるのだな」というのがわかったことは、一つの手応えであり、収穫となった。逆に、最後の5km、10kmでペースが落ちていたことで、持久力的に足りない部分があるなということを感じたので、そこが今後の課題となる。
ペース自体は、(1km)4分10秒を切るくらい、(最終的に)2時間26分台の真ん中くらいかなというのを一つの目安にしていた。あわよくば4分05秒(のペースで行ければ)ということも考えていたが、それほどのコンディションではないことはなんとなくわかっていたので、(2時間26分18秒という結果は)まあ、こんなものかなと思う。
(終盤まで)競っている形であれば、25kmとか30km以降でのどこかで仕掛けることになったと思うが、今回は、それが必要ない展開となった。ただ、思っていたより、自分の脚も残っていなかった。20km(のレース)よりもペースが遅いので、スピードに関していえば当然、余裕を持っていけるわけだが、今回のレースを経験したことで、25kmとか30kmとか自分がまだ経験したことがないところでの「しんどさの種類」、例えば、接地の衝撃に耐えきれなってきて、姿勢が崩れてくるといったようなことを知ることができた。
(世界選手権以降、この大会に向けては)まずは持久力的な部分、長くなる時間や距離に対して耐性をつけていくことに取り組んだ。あとは単純に、余裕を持って進めるペースを上げていくとか、技術的な再現度を高めていくといったところ。このあたりは身体のコンディションが整ってくると、できる練習の強度や質は自然と上がっていくものだが、それらを時間をかけて戻していくことで、結果的に練習強度が上がっていけばいいなという意識で過ごした。
具体的には、(35kmに要する)2時間20何分の刺激に耐えられるように、最後の3週間前まではしっかり距離を踏む練習を入れた。距離はマックスで35km。それ以上の距離とか、ペースのばらつきを入れるとかいうような、そういう幅を出す練習をやることは、今回はタイムスケジュール的に無理だった。そうした準備も踏まえて、今回の結果は、「想定の範囲内のそのまんま」という感じである。
(レースを終えての感想としては)概ね自分の想定の範囲内、想定通りのなかにパフォーマンスが収まっているので、取り組み全体の方向性は間違っていないだろうなと思ったのが一つ。また、35kmという種目の特性が、50kmに比べると、かなり20kmと似ていることもわかった。トレーニングの特異性や種類をうまくやれば、もっと特化できるだろうなとか、(2種目を兼ねることが)選択肢としては十分にあり得るだろうと思った。
(35kmでも派遣設定記録を突破したが、2種目での世界選手権出場は考えているか、との問いに)ブダペストは、両レースの実施日が中5日くらいしかない。自分は連戦がきくタイプではないので、ちょっとしんどいかなと思っている。しばらくは20(km)に軸足を置いて取り組んでいくつもりでいる。
次のレースは、可能であれば2月の日本選手権(20km)を考えているが、無理せずに行こうと思っている。来年のブダペスト(世界選手権)、そして2024年のパリ(オリンピック)で勝ち続けられるように、地道に、一つ一つ自分の課題と向き合いながら、体力とか技術とかメンタリティとか、いろいろな部分を改善していくようにしたい。


■女子35km競歩

園田世玲奈(NTN)

優勝 2時間49分09秒



自己ベスト(2時間45分09秒)の更新を目標にしていたが、それより3分以上遅い記録。正直、悔しい結果となった。しかし、この3カ月間、高畠競歩に向けてやってきていたので、今日の(気象)コンディションであったり自分の調子であったりも含めて、今日の結果が、今の自分の実力。そこをしっかり把握することができたと思う。
想定では、(序盤のペースを1km)4分45秒くらいで進めて、後半をしっかり上げきれるようにしようと思って臨んでいたのだが、それよりも速い展開となってしまった。これは、同じくらいのペースの大学生がいて、一緒に歩くことができたから。「このペースで行けば、自己ベストは確実」と考えていたのだが、(4分)40秒前後になることもあって、最初の15kmくらいから、きつくなっていた。記録を狙うために「攻めの歩きをしなければ」と思っていたが、「これでは速すぎる」と判断して、20kmくらいから少しペースを落として維持できればという形に変えた。1秒1秒の積み重ねが、35kmでは本当に大きく響くのだなということを改めて感じたし、記録を狙うというところでは攻めの歩きをしないといけないけれど、もう少し、コンディションを含めて考えながら歩くことが必要で、自分にはそこがまだまだ足りないと反省した。
(課題として取り組んできている)スピードは、感覚的にはだいぶつかめてきていて、今回も、少しは力がついたのかなという部分もあったが、それを持続させる力がまだまだ足りていない。一人でも最後まで押しきれる力をつける必要がある。今後は、神戸の20km(日本選手権)に向けて、もう一回、建て直す気持ちでつくり上げていきたいなと思っている。
神戸の日本選手権20kmは、ケガで2年連続して出場することができていない。今年こそは、しっかり出て、結果を出せるように頑張りたい。20kmの自己記録(1時間32分12秒)は、今年3月の能美で出したもの。輪島(日本選手権35km)を控えたなかでマークした。今回は、ばっちり(ピーキングして)ベストが出せればいいなと思う。具体的な目標タイムはまだないが、20kmで力のある藤井菜々子さん(エディオン)、岡田久美子さん(富士通)に少しでも食らいつくことができるような実力をつけられるように、しっかり頑張りたい。

文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)



【ダイジェスト】

https://youtu.be/63S8rdoyi2I





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■第59回全日本35km競歩高畠大会 大会ページ
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1675/

■第59回全日本35km競歩高畠大会 エントリーリスト https://www.jaaf.or.jp/files/competition/document/1675-4.pdf

■ブタペスト2023世界選手権 競歩日本代表選手選考要項 https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202208/30_124849.pdf

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