10日間の日程で実施されたオレゴン世界選手権は7月24日に閉幕しました。日本陸連強化委員会は、同日午前のセッションが終了した段階でオンラインによる総括会見を開き、全般およびトラック&フィールド種目に関しては山崎一彦強化委員長が、また中長距離、マラソン種目について担当の高岡寿成シニアディレクターが、それぞれに総括しました。
会見の要旨は下記の通りです。
■山崎一彦強化委員長(日本選手団監督)
大会も最終日を迎えた。今のところ日本選手団の成績は、メダルの獲得が4つと入賞が4つ。このあとのセッション(7月24日のイブニングセッション)で、決勝に臨む男子4×400mリレー(注:4位入賞)と、準決勝に2名が進んだ女子100mハードル(注:準決勝で福部真子選手が12秒82の日本新記録を樹立)がある。男子4×400mリレーに関しては、ここまでJSC(日本スポーツ振興センター)が行っている次世代ターゲットスポーツ育成支援事業の対象となり、3年前から強化に取り組んできた。メダルまたは上位入賞が期待できる状況にある。今大会の成果としては、競歩がメダルを3つ、入賞2つということで非常に大きな成果を上げた。こちらはもう、日本の「お家芸」と言っていいといえる。今回は新種目として35km競歩が行われたが、川野将虎選手が銀メダルを獲得した。今村文男シニアディレクターによると、この種目では20kmに出場した選手たち、または20kmから35kmにトランスファー(種目変更)した選手たちが見受けられたとのこと。このため、これまでの20kmと50kmの別々の強化から、今後は20km・35kmを両輪でトレーニングしたり、強化したりするなど、戦略をもって進めていきたいとのコメントをもらっている。パリオリンピックに向けては、入賞またはメダルというところが期待できるので、変わらず強化を行っていきたい。
このほか、メダルということでは、女子やり投で北口榛花選手が銅メダルを獲得。また、入賞を果たした藤井菜々子選手(女子20km競歩6位)、サニブラウンアブデルハキーム選手(男子100m7位)あたりは、ダイヤモンドアスリートとして、(施行を初めて)8年をかけて、ここまで到達した。これらは、私たちが行ってきた中期・長期の強化計画として、国際人となること、国際競技者としてのレベルを上げていくことを目指してきたところを考えると、国際的な選手としてすでに溶け込んでいるなと思った。その成果として、ダイヤの原石が(磨かれて)輝きを放ったといえる。パリに向かっては、彼らを中心として戦っていけることを確信した。これは陸連としても長期計画のなかで国際競技力を上げていったということは、とてもよかったと考えている。
また、8位となった走高跳の真野友博選手は、この種目で日本人初の世界選手権入賞を果たした。このほかフィールド種目では、決勝に進出して惜しいところまでいったディーン元気選手(やり投)、橋岡優輝選手(走幅跳)あたりも確実に入賞が狙えるところまで来ているので、引き続きチャンスはあると思っている。特に橋岡選手については、決勝ではうまくいかなかったが、予選はトップ通過を果たしているので、十分にチャンスはあるとみている。
日本チームの今回の成績は、前回のドーハ大会(2019年)と昨年の東京オリンピックの間あたりの成績と考えている。このほかにも新しい入賞者(住所大翔、男子20km競歩8位)も出て、ブダペスト世界選手権が実施される来年や、パリオリンピックが開催される再来年に、チャンスがあるのではないかと思う。
このほか中長距離種目については、高岡シニアディレクターから話をいただくが、全種目を通じて言えることはPB(パーソナルベスト)を出していくことが一つのポイントになっていくのかなと感じている。最初のラウンドで、PBまたは自己記録達成率99%以上の記録を出していく選手が活躍しているという結果が出ている。
今回は、「チャレンジ」を日本チームの目標に掲げて臨んだが、こうした若い選手たちが高いパフォーマンスを出してきた。そして、PBということではチームになるが、女子4×100mリレーで日本新記録が誕生した。女子4×100mリレーは、昨年の東京オリンピックに続いての出場となったが、着実に力をつけて、リレーとしての安定感を高めてきている。女子短距離では長年牽引してきた福島千里さんが引退したが、個人種目ではまだ彼女に続く出場者が出ていない状況なので、今後、個人での代表出場ができるようになってくると、リレーのほうも42秒台が出て、入賞のラインに乗っていくのかなと特に感じた。以上のように、概ね選手たちは頑張ってくれていたと思う。
また、今回、コロナウイルスの問題で出場できなかった5名となった。私も罹患してしまったわけだが、我々全員、十分に感染対策は行っていたなかでの感染だった。この点については、国際的な状況が日本と全く違っていたということを、こちらにきて初めて実感し、いわば鎖国状態で臨んでいたことに気づく形となった。私たちの免疫能力、他国の免疫能力の水準などについては、私たちが何かを変えていくことは難しいかもしれないが、国際場面で競技を続けていくうえでは、免疫力を高めていくこともしていかなければならないということを痛切に感じた。今回、出場がかなわなかった選手たちについても、次に向けて本当に頑張りたいという思いが1人1人にあったので、そのあたりは(報道にあたる)皆さんにも「その次のチャレンジ」として温かく応援していただければと思う。
■高岡寿成強化委員会シニアディレクター(中長距離・マラソン担当)
中長距離・マラソンについては、男子9名、女子10名…女子については種目が重なっている選手を延べ人数とすると13名となるので、合計延べ22名が代表となった。この大会に多くの選手を派遣できたことは本当によかったと思っている。内容に関して、日本の選手がパリオリンピックに向けて、どの程度活躍できるのか、勝負できるのかに注視していたが、残念ながら今回は入賞者ゼロとなった。しかし、若い選手が今回の経験を力に、今後につなげていってほしいと思っている。そのなかで廣中璃梨佳さんが10000mでパーソナルベストの更新ができた。昨年の東京オリンピックでも自己記録を更新している。ご存じのように、長距離種目は、コンディションやペース配分が重要となる種目であるだけに、このような大会で結果を出せているのは本当に素晴らしいと思う。ただ、順位が12位にとどまった点で、やはり少しでもコンディションが良くなったり、ペースが速くなったりすると、海外の選手のレベルもそれなりのところに来るのだなということを認識した。
また、3種目に挑戦した田中希実選手も、800m1本、1500m2本、5000m2本と、どの種目も全力でいかなければならないタフなレースであったと思う。そのなかで最後のレースとなった5000m決勝のラスト100mを見ても、最後まで力を振り絞るという気持ちが全面的に表われていて、12位という成績以上のレースをしたと思う。
男子のトラックでは遠藤日向くん(5000m)のラストに期待したり、三浦龍司くん(3000m障害物)に、非常に期待をしたりしたが、イメージ通りのレースをすることができずに予選敗退という形になった。この要因としては、今大会ではイメージを超えるレース展開や、なかなか日本で見ることのできないレースが数々あって、それに対応する能力がまだ日本の中長距離の選手に備わっていなかったのではないかとみている。
マラソンについては、補欠も立てて、万全の状態で取り組んできた。毎月個別にミーティングも行ってきた。そのなかでいい状態を確認しつつオレゴンへ来たのだが、最終的にスタートラインに絶ったのは3名と残念な状況となった。ただ、そのなかで西山雄介くんが2回目のマラソンというなかで自分のレースを貫き2時間08分35秒とうまく走ることができた。また、星岳くんも中盤以降で遅れてしまったが、前半は積極的に攻めていた。2名ともにまだ若い選手なので、今回の経験を力に、今後、さらに活躍してほしい。女子については、松田瑞生さんが入賞にあと一歩に迫るところの9位まで頑張ってくれた。入賞には僅かに届かなかったという印象を持っている。どの選手も、コンディションが暑いのか寒いのかといった不安も抱えながらであったが、最善の努力をして、結果を残したと思う。
※本内容は、7月24日に実施したオンラインによる記者会見において、登壇者が発言した内容をまとめた。より明瞭に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施している。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
▼オレゴン2022世界陸上競技選手権大会 特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/wch/oregon2022/
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