「第106回日本陸上競技選手権大会」が6月9~12日、大阪市のヤンマースタジアム長居で開催される。今回は、7月15~24日にアメリカで行われるオレゴン世界陸上競技選手権大会の日本代表選手選考競技会を兼ねており、5月7日に実施された男女10000mと、6月4~5日に実施される男女混成競技(十種競技、七種競技)を除くトラック&フィールド34種目(男女各17種目)の決勝が組まれるタイムテーブル。2022年度日本チャンピオンの座が競われるとともに、2024年パリオリンピックに向けた最初のビッグステージとなる世界選手権の出場権を懸けた戦いが繰り広げられる。
オレゴン世界選手権の出場資格は、昨年の東京オリンピックと同様に、ワールドアスレティックス(WA)が設定した参加標準記録を突破した者と、各種目におけるターゲットナンバーを満たすまでのWAワールドランキング上位者に与えられる。日本における選考は、日本陸連が定めた代表選考要項(https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202112/16_191504.pdf )に則って進められるため、日本選手権で即時内定を決めるためには、3位以内の成績を上げたうえで、日本選手権での競技を終えた段階で参加標準記録を突破していることが条件。まず、これを満たした競技者が、第1次日本代表選手として大会翌日の6月13日に発表され、以降、条件を満たした段階で随時追加がなされ、参加標準記録有効期間が終了する6月26日以降に、全代表が出揃うことになる。
即時内定とならなかった場合でも、日本選手権における成績(順位)が大きな鍵となるだけに、どの種目でも大激戦となることは必至。ここでは、オレゴン世界選手権代表の座を巡る戦いに焦点を当てて、各種目の注目選手をご紹介していく。
※エントリー状況、記録・競技結果、ワールドランキング等の情報は5月27日判明分により構成。ワールドランキング情報は、同日以降に変動が生じている場合もある。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォートキシモト
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【男子走高跳】
真野、初の日本代表入りを、戸邉、5回目のタイトル獲得を目指す!
2020年に日本歴代4位タイの2m31の自己記録をマークしている真野友博(九電工)が好調だ。今年は3月の日本選手権室内を2m24で優勝、屋外シーズンに入ってからは5月3日の静岡国際で2m27をクリアすると、5月22日の九州実業団では2m30に成功して、世界選手権参加標準記録の2m33にも挑戦している。2m30以上のクリアは、2020年以降3年連続4回目で、高いレベルでの安定感が強み。ターゲットナンバーが32の走高跳において、WAワールドランキングでは現状で20位と、すでに出場が見込める圏内にいるが、日本選手権で2m33をクリアして、即時内定を勝ち取ることができる力は、すでに十分に備わっている。2019年ドーハ世界選手権、2021年東京オリンピックと、あと僅かのところで届かなかった世界大会代表入りを、2年ぶり2回目の日本タイトルの座とともに、今回こそは手に入れたいはずだ。記録・実績から優勝候補の最右翼に挙がるのは、日本記録保持者(2m35)の戸邉直人(JAL)といえるだろう。昨年は、3大会で2m30をクリア。その跳躍の1つを披露した日本選手権では、4回目のタイトルを獲得し、東京オリンピックでも決勝進出を果たした。しかし、オリンピック前から出ていたアキレス腱の痛みにより、その後はトレーニングを中断する期間もあり、世界室内を含めてヨーロッパを転戦した室内シーズンは2m21にとどまった。屋外シーズンになってからも5月8日のセイコーゴールデングランプリ(GGP)での2m24(4位)が最高と、戸邉らしい跳躍が影を潜めている。本番までの1カ月で、どこまで調子を上げることができるか。2年連続5回目となる優勝も期待したいところだが、ワールドランキングでは日本人最上位の16位につけているので、状態によっては、オレゴン本番を見据えた戦略をとることも考えられる。
注目したいのが、今季勢いを感じさせる赤松諒一(アワーズ)と瀬古優斗(滋賀レイクスターズ)の2人。赤松は2020年に2m28を、瀬古は昨年2m27を跳んでいる選手だが、赤松は、セイコーGGPで2m27に成功して、真野を押さえて優勝。瀬古も、この大会で、真野と同じく2m24をクリアして3位の成績を残した。赤松のワールドランキングは、現時点で戸邉、真野に続く日本人3番目の30位、瀬古のワールドランキングは36位。大会カテゴリーがBとなる日本選手権での記録と順位は、初の代表入りに向けて、大きく影響する可能性がある。地力を問われる1戦となりそうだ。
【男子棒高跳】
山本が世界選手権参加標準、日本記録更新に挑む!
日本歴代2位の5m77(2016年、室内日本記録)の自己記録を持つ山本聖途(トヨタ自動車)が、今季は順調な仕上がりを見せている。2月には室内フランス選手権にオープン出場して5m71をマーク。3月の日本選手権室内は5m60で優勝を決めると、世界選手権参加標準記録の5m80に挑み、惜しい跳躍を披露した。屋外でも4月に5m70をクリア。「いつでも(5m)70は跳べる」自信がついているという。「まずは5m80を確実に跳んで世界選手権に出る」ことを目標に掲げつつも、日本選手権室内の際には、「5m90は跳びたい」という頼もしいコメントも残しているだけに、4年ぶり5回目となる日本チャンピオンの座を、参加標準記録突破だけでなく、6年ぶりの自己記録更新、さらには17年ぶりとなる日本記録(5m83、澤野大地、2005年)更新で奪還することも期待できそうだ。これを追うのが、山本とともに東京オリンピックに出場した江島雅紀(富士通、ダイヤモンドアスリート修了生)か。日本選手権室内は山本に続いて5m40で2位。その後、屋外初戦から3試合連続で5m60をクリアした。昨年の日本選手権(5m60、2位)のあとは不振が続いていたが、状態は上昇機運に転じた様子。ワールドランキングを視野に入れて、6日間で3試合をこなした日本グランプリ(GP)シリーズは、脚を痛めていた影響で記録的はすべて5m40にとどまったが、静岡・水戸で連勝を果たしている。江島は、現段階で、ワールドランキングでは、山本(31位)に続いて32位にランクインしているが、ターゲットナンバーが32であること、さらには、男子棒高跳ではすでに参加標準記録突破者が22名(1カ国3名を上限として)に達していることなどを考えると、参加標準記録のクリアもしくは、さらにランキング順位を大きく上げていくことが必要となりそうだ。まずは、2019年に成功してドーハ世界選手権出場を決めた5m71の自己記録更新を目指していきたい。
昨年のこの大会で、5m70の自己記録をクリアして、初優勝を果たした竹川倖生(丸元産業)は、今季は木南記念(2位)でマークした5m50がシーズンベスト。今季はやや安定感に欠くパフォーマンスが散見されるが、もともとは一定の水準を確実に越えてくることができる選手。昨年は、木南記念(5m65=自己新)、日本選手権(5m70=自己新)、そして全日本実業団(5m50)と、長居で行われた試合をすべて制した。相性のいいスタジアムで、どんな跳躍を見せてくれるか。
昨年の日本選手権室内で5m70をマークして優勝している石川拓磨(東京海上日動CS)は、今季は4月に5m60を跳んでいるが、日本GPシリーズは5m30~40台にとどまってた。力のある選手だけに、世界で戦うことを考えるなら、決勝記録の最低ラインをもう一段階引き上げたい。このほかでは、今季、5m55まで記録を伸ばしてきている柄澤智哉(日本体育大)や、5m61の自己記録(2019年)を持ち、今季は初戦で5m50を跳んでいる澤慎吾(きらぼし銀行)あたりも、高いポテシャルを秘めている。試技内容で順位が変わることになりそうな入賞争いから抜け出してくるようだと、上位争いもいっそう面白くなってくるだろう。
【男子走幅跳】
東京五輪6位の橋岡、日本記録更新なるか!
優勝候補の大本命は、橋岡優輝(富士通、ダイヤモンドアスリート修了生)。U20年代から飛び抜けた能力を示し、2019年にはドーハ世界選手権でこの種目で日本人初となる8位に入賞。昨年の東京オリンピックでは6位の成績を残し、この種目の日本人としては37年ぶりとなる決勝進出・入賞を果たした。自己記録は、前回のこの大会でマークした8m36(日本歴代2位)、昨年は室内でも8m19の室内日本記録も樹立しており、実績・安定感・勝負強さともにピカイチの存在だ。ただし、今回については、4月初旬に8m07を跳んだ際に痛めた左足首の状態が気になるところ。木南記念では2回で試技を終え(7m76、3位)、セイコーGGPは欠場して回復に専念している。万全の状態で臨むことができれば、この種目の世界選手権参加標準記録(8m22)の突破は難しいことではなく、前回マークした自己記録(=大会記録)、さらには4cmまで迫った日本記録(8m40、城山正太郎、2019年)の更新も期待できる。有効試技となった3回の跳躍(8m27、8m29、8m36)でオリンピック参加標準録(今回の世界選手権と同じ8m22)を上回った前回のような圧巻のパフォーマンスを見たいファンは多いはずだ。
橋岡を追う存在として挙げるとしたら、山川夏輝(佐賀スポ協)と吉田弘道(神崎陸協)の2人か。セイコーGGPを、日本歴代8位タイとなる8m14の跳躍で制し、今季日本リストトップに立った山川は、日本大4年時の2017年の段階で8m06をマークしている実力者。2020年に踏切脚の左膝を痛め、車いす生活を余儀なくされた日々を乗り越えての復活で、参加標準記録を突破しての日本選手権初タイトルに挑む。一方、自己記録で山川と並ぶ吉田は、その8m14は昨年マークしたもの。社会人1年目の今季は、中国で開催されるはずだった成都ワールドユニバーシティゲームズ(WUG)の代表選考会として行われた日本学生個人選手権で7m85をマークして優勝記録を上回り(オープン扱い)、兵庫リレーカーニバル(一般・高校の部、7m87)、木南記念(7m88)を連勝、セイコーGGPは7m99のシーズンベストで山川に続き2位と、高い安定感を見せている。WUGは代表に選出されながらも残念ながら延期により幻となったが、オレゴン行きチケット獲得に向けて、ワールドランキングでの出場も視野に入れつつ、あと8cmに迫った参加標準記録突破を狙っていきたい。
前回、橋岡に続き2・3位を占めて、東京オリンピックに出場した津波響樹(大塚製薬、PB:8m23)と城山正太郎(ゼンリン、PB:8m40、日本記録保持者)は、今季はともにセイコーGGPでマークした7m90(津波)、7m78(城山)がシーズンベストにとどまっている。2019年ドーハ世界選手権から続く世界大会連続出場を果たすためには、参加標準記録を狙っていく必要がある。
このほか、今季7m60~70台のシーズンにとどまっている選手のなかにも8mジャンパーはいる。気象条件にもよるが、8mを上回るジャンプの応酬で、優勝争いが繰り広げられることを期待したい。
【男子三段跳】
17mジャンパー伊藤に今期好調の池畠・足立が挑む!
男子三段跳は、昨年の日本インカレで、伊藤陸(近畿大工業高専)が日本人3人目の17m台となる17m00の日本学生新記録を樹立した。日本選手による17mジャンプは、2000年に杉林孝法がマークした17m02以来のハイパフォーマンス。かなり距離があるとみられていた17m14の世界選手権参加標準記録、そして1986年から塗り替えられていない17m15(山下訓史)の日本記録更新に向けて、光が差す出来事だったといえるだろう。
走幅跳でも8m05の自己記録を持つ伊藤は、今回の日本選手権は走幅跳・三段跳の2種目にエントリーしていて、現段階では走幅跳に絞る可能性もゼロではないが、もし、三段跳に出場してくれば、優勝候補の筆頭といえる存在だ。ただし、3月の日本選手権室内を16m20で優勝して屋外シーズンに突入したあと、走幅跳に出場した4月の日本学生個人選手権(7m68、2位)で足を痛めてしまった。三段跳での出場を予定していた日本GPシリーズは、4月末の織田記念、5月5日の水戸招待ともに欠場。以後、治療・回復に専念している。2カ月近い期間があったとはいえ、足に負担のかかる種目であるだけに、その後の経過が気になるところだ。
現時点で、今季日本リストのトップを占めているのは池畠旭佳瑠(駿大AC)。16m20をマークして織田記念を制した。池畠は、2020年に当時日本歴代9位の16m75をマークすると、同年の主要大会を総なめし、コロナ禍の影響で秋の開催となった日本選手権で初のタイトルを獲得している選手。昨年は3月の日本選手権室内を16m45で優勝したが、屋外シーズンはケガの影響で16m台に乗せることができずに終わった。安定した跳躍技術と、終盤で記録を上げてくる勝負強さが持ち味であるだけに、復調すれば上位争いを制して、2回目のタイトルを手にする力は備えている。
実績面での安定感ということであれば、昨年の日本選手権、日本インカレで2位の成績を残している安立雄斗(福岡大)が、今季に入っても日本学生個人選手権(優勝)、織田記念(2位)と着実な足どりを残している。自己記録は昨年の日本インカレでマークした16m20。記録面で、もう一段、上のステージへ進みたい。前回の日本選手権で初優勝を果たした山下祐樹(Break Parking)は、今季はまだ15m73がシーズンベスト。連覇に向けて、どこまでコンディションを上げてくることができるか。また、織田記念でシーズンベストの15m92(3位)をマークしている山下航平(ANA)は、5月5日の水戸招待では、1.2mの向かい風のなか15m50を跳んで優勝した。16m85の自己記録を持ち、2016年のリオオリンピックにも出場した選手。連覇を果たした2018年・2019年に続くタイトルを狙うとともに、記録面でも上昇機運を描きたい。
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