2022.04.28(木)その他

【ダイヤモンドアスリートスペシャル対談】室伏由佳×新規認定アスリート佐藤圭汰&西徹朗~プログラムへの期待や両選手の将来像に迫る!~



日本陸連が、2014-2015年に創設した「ダイヤモンドアスリート」制度。当初は、「2020年東京オリンピックと、その後の国際大会での活躍が大いに期待できる次世代の競技者を強化育成する」ことを目的に掲げていましたが、その「2020年東京オリンピック」が終わって迎えた第8期(2022-2023年)も継続されます。昨年11月には、プログラムマネジャーとして、競技者時代にオリンピックをはじめ豊富な国際舞台を経験し、競技引退後は、研究者・大学教員の仕事を軸に、さまざまな分野で幅広く活躍する室伏由佳氏(順天堂大学)が就任。これまでと同様に、オリンピックや国際大会での活躍を期待できる次世代アスリートを、中・長期的なスタンスで、競技面はもちろん、日本や国際社会の発展に寄与できる人材に育てることを理念に据え、さらにアップグレードさせたプログラムの提供を目指しています。

新しいオリンピックサイクルに入って最初となる第8期指定競技者は、例年よりも少し遅いタイミングでの決定となり、3月28日に、継続認定者4名、新規認定者2名の全6名(https://www.jaaf.or.jp/news/article/15963/)が発表されました。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、例年行われてきた認定式・修了式は、昨年に続いて今回も見送りとなりましたが、認定競技者は、今後、さまざまなプログラムを受けていくことになります。

日本陸連では、第8期指定競技者の発表を機に、室伏プログラムマネジャーが、新たな顔ぶれにさまざまな話を聞いていくスペシャルトークイベントを企画。新年度がスタートして2週間ほど経った4月中旬、第8期新規認定アスリートに選出された中・長距離の佐藤圭汰選手(駒澤大学、洛南高校出身)、110mハードルの西徹朗選手(早稲田大学、名古屋高校出身)、そして室伏プログラムマネジャーの各氏が、それぞれ3地点からオンラインで繋ぐ形で行われました。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)



第8期新規認定アスリートは 佐藤圭汰・西徹朗の2選手

最初に、室伏プログラムマネジャーが、挨拶と導入を兼ねて、この対談の企画趣旨、ダイヤモンドアスリートプログラムの概要を説明。「昨年、このプログラムマネジャーに就任し、ここまでに、いくつかの打ち合わせなどを行い、皆さんへのプログラムをどんな形にすればよいか、山崎一彦強化委員長とともに検討してきている。これから皆さんが一流アスリートとなったときに困らないよう、いろいろなことを想定して、学びや実践的に応用できるさまざまなプログラムを用意しているので、第8期生の皆さんには、ぜひ楽しみにしてもらいたい」と、同プログラムに対する思いを述べたのちに、新規認定アスリートの2選手を簡単に紹介。「プロフィルも準備しているが、ここはぜひ、お二人に、自身の“魅力ポイント”をアピールしてほしい」と、両選手に自己紹介を促しました。

中・長距離で第8期新規アスリートに認定された佐藤圭汰選手は、京都・洛南高校3年の昨年の日本選手権男子1500mで高校生ながら8位に入賞。7月に1500mで3分37秒18をマークして、22年ぶりに高校記録を塗り替えるとともに、U18およびU20でも日本記録保持者となると、インターハイでは母校の総合優勝に貢献。秋には、5000mで13分31秒19(U18日本記録・日本高校記録)、3000mでも7分50秒81(U20日本記録・U18日本記録・高校最高記録)をマークし、高校中・長距離を席巻した選手。本年2月の日本選手権クロスカントリーでは、シニアの部(10km)に参戦し、29分18秒で8位に入賞しています。今春からは駒澤大学に進学。このトークイベントを収録した段階では、4月9日に行われた日本グランプリ(GP)シリーズの金栗記念選抜中長距離の1500mに出場。東京オリンピック3000m障害物で7位入賞を果たした三浦龍司選手(順天堂大学)をはじめとする錚々たる顔ぶれのなか、3分42秒02・7位で初戦を終えたばかりです。

写真:アフロスポーツ

110mハードルで認定された西徹朗選手も、佐藤選手と同学年。名古屋高校3年の昨年は、インターハイの予選で初の13秒台に突入すると、決勝で、その自己記録を一気に13秒69に塗り替えてフィニッシュ。従来の高校記録(13秒83)を大幅に更新するとともに、シニア規格におけるU18日本最高をマークし、注目を集めました。秋には、U18競技会110mハードル(ジュニア規格)でも優勝。この大会の予選で、U18日本歴代2位の13秒41もマークしています。今年に入ってからは、3月に行われた日本選手権室内で、世界レベルに到達しているシニアに挑戦し、決勝進出はならなかったものの、一般規格におけるこの種目のU20室内日本最高記録、高校日本最高記録を上回る7秒85でフィニッシュ。早稲田大学に進んで迎える2022年屋外シーズンに向けて、好スタートを切っていました。

写真:フォート・キシモト

佐藤選手、西選手ともに、室伏プログラムマネジャーとは、実はこれが初の顔合わせ。しかも、それがオンライン上で、さらにYouTubeチャンネルで公開を予定している番組の収録とあって、画面に映る顔つきからは少し緊張している様子が窺えます。これを察した室伏プログラムマネジャーが、「ちょっと緊張されているようですが、呼吸していますか?」と笑いながら声をかけ、「ご自身がいつも試合に臨むルーティンか何かをやって、肩の力を抜いて参加して」とリラックスを促しました。
少し空気が和らいだなか、佐藤選手と西選手が、順に自己紹介。佐藤選手が「駒澤大学では、まだ入学したばかりで、慣れないこともあるが、ダイヤモンドアスリートに認定していただいたことを胸に刻み、世界で活躍できるような慣れるよう頑張っていきたい」と挨拶すると、続く西選手は、「今まで認定された方々、現在、認定されている方々は、すでに世界で活躍したり、日本のトップであったりと、素晴らしい方々ばかり。そうした方々と一緒に、このダイヤモンドアスリートのプログラムを通して、いろいろと共有していけることがすごく楽しみだし、それに見合う選手に成長していきたい」とコメントしました。
両選手の挨拶を聞いた室伏プログラムマネジャーは、「しっかりしたビジョンをお持ちなのかなと、思った」と感想を述べ、「2人とも大学に進学したばかりで、環境の変化などもあり、これから馴染んでいくことになると思うが、(ダイヤモンドアスリートに認定されたことを)重荷にせず、頑張ってほしい」と語りかけました。


これまでの接点や学生生活、今年の目標について

その後、室伏プログラムマネジャーが、2選手に質問を投げかけるセッションへ。ここでは、「互いに面識はあるのか?」「大学での新生活の感想や、高校時代と違うところ」「今後、出場を予定している競技会」などの質問に対して、各選手が、自身の状況を答えていきました。
オンラインではあるものの、話をしたのは今回が初めてという2人。しかし、「佐藤選手のことは、僕はずっとスタンドで見ている側で、一緒に話をするのは初めて。中2、中3くらいのときから、すごい人だなと思って見ていたので、話ができるのはありがたいなと思う」と西選手が話すと、佐藤選手も「自分もインターハイのとき、(110mハードルで高校新記録をマークしたレースを)スタンドから見ていた」と応えました。「同学年で、大会の記録とかを見て、互いに刺激になっていたのかな?」と室伏プログラムマネジャーが問うと、「(西選手が)インターハイで高校記録を更新したときは、本当にすごいなと感じたし、自分もいい刺激になった」(佐藤選手)、「僕も佐藤くんも2004年で早生まれということで、勝手に中2~3のころから親近感を覚えていた。早生まれは不利だといわれているが、それでも高校記録を出したり、U20の記録を出したりして戦えている。同じ早生まれとしてシンパシーを感じていた」(西選手)と、それぞれコメント。室伏プログラムマネジャーは、「シンパシーというのは、なんかすごくわかる。私も陸上競技をずっと続けてきたが、会ったことがなくても、同年代の人のことは、自分の目標設定のなかに入ってきた。最近では、オンラインで“はじめまして”となる機会も増えているが、早く、実際に対面する機会が来てくれるといいなと思う」と応えました。

スタートしたばかりの大学生活については、ともに初めて経験する寮生活で感じた親のありがたさや、先輩や仲間のサポートなどが明かされたほか、新たな環境で取り組んでいる日々のトレーニングの様子や、高校時代と違うと感じたことなどが、それぞれから紹介されました。なかでも、陸上競技に取り組む場面においては、「自分で考えること」が高校時代以上に必要になってきていると実感していることが、共通点として挙がりました。
また、今後の試合や目標については、佐藤選手は、日本GPシリーズの兵庫リレーカーニバルの1500mが次戦になるとし、すでに出場済みの選抜中長距離での反省を踏まえた練習をしていること、今季は、まずは、シーズン前半は1500mを中心に取り組み、世界選手権出場を目指し、その後は、駅伝に向けて長い距離に対応していく計画であると発言。その言葉を聞いて、「僕は、1年目の今年は、しっかりと強化して、来年から戦っていこうと思っていた。1年目から戦っていこうというのは、すごいなと思う」と感想を述べた西選手は、大学最初にメインと据えているレースに、日本GPシリーズの織田記念を挙げ、「そこでベストが出せるようにしたい」と話しました。


プログラムで身につけたいことや自身の将来像

ダイヤモンドアスリートの本格的なプログラム開始を前に、室伏プログをラムマネジャーは、「どんなことを身につけたい?」と尋ねるとともに、「自身の将来像」を、2人に質問しました。
西選手は、語学研修や国際舞台で戦う心構え、競技以外の日常の面などを学ぶとともに、「いろいろな種目の人がいるので、人の話を聞いて、自分の競技に役立てていきたい」とコメント。将来像については、「競技をするのも好きだが、見るのも好き。大学院に入ってスポーツの研究をしてみたい。走高跳の戸邉(直人)選手のように、研究にも競技にも取り組んで、それを自分や世間にフィードバックすることで日本全体の競技レベルが高くなったら…。また、スポーツを知らない人でも、気軽にスポーツに参加できるような仕組みをつくる取り組みもやってみたい」と話しました。
一方、「認定されている方々を見ても、活躍されている人ばかり。長距離以外の選手も多くいるので、そういった方たちとコミュニケーションをとって、自分のできることを取り入れ、世界で活躍していく気持ちで頑張っていきたい」と述べた佐藤選手は、将来については、「人の役に立ちたい。誰かにやってきたことを教える立場になりたいと思っている。これまでに教えていただいた高校や中学の先生のように、経験したことを次の世代の人に教えられるようになりたい」と指導者への道を志していることを明かしました。
この2人の言葉を聞いて、室伏プログラムマネジャーは、「まだまだ、これからいろいろな経験をしていくことになる。ダイヤモンドアスリートのプログラムを通じて、自分の視野や世界観を広げてほしい。そして、そこでまた出てくる新たな課題や取り組みなどに、自分らしさを保ちながら挑戦していってほしい」と激励。名称の由来となっている“ダイヤモンド”を例に、「ダイヤモンドは、原石を磨くことによって輝く。皆さんには、多少(研磨されることで)痛いな、辛いな、難しいなということがあっても、ぜひ、前向きにこのプログラムを通じて、自分をたくさん成長させてほしい」とエールを送りました。


ダイヤモンドアスリートからの「逆質問コーナー」

続いて行われたのが、ダイヤモンドアスリートたちから室伏プログラムマネジャーへの「逆質問コーナー」。西選手からは、「現役で活躍したころに、引退後のセカンドキャリアを考えていたか?」、佐藤選手からは、「大学生なので、競技と学業の両立が大事だが、1つのことに集中してしまうタイプ。どうすればいいか?」と、それぞれに学生アスリートらしい質問が飛び出しました。

西選手の質問に対して、室伏プログラムマネジャーは「引退後は、研究者か大学教員などの教育職になることを考えていた」と述べ、その実現のために、社会人になって3年目に大学院へ進んで博士課程まで出て、引退後に博士号取得を目指して再び大学院で学んだ経験に触れました。そして、「(博士号取得は)大変難しかったけれど、競技者時代に出会った人々に、刺激を求めて自分から(協力を)取りにいった」と振り返り、「熱意があれば、協力してくださる。そうして、できないながらも、前に進んでいればできると信じてやっていた」とコメントしつつ、「ビジョンは、はっきり持っていたと思う」ときっぱり。「成し遂げられるかどうかは時の運もある。そこは身を任せることになるが、コアなところをぶらさないことが大事であるとお伝えたい」と訴えました。

また、佐藤選手の問いには、「苦労しているアスリートは、いっぱいいると思う。私も勉強は得意ではなかった」と、まず応えた室伏プログラムマネジャー。「大学生になると、専門科目をいっぱい学んでいくことになるが、そこで深く探求していく考え方を学ぶことは、直接競技と関係ないように見えることでも、競技に応用できる」と述べ、「競技に没頭しながらも、(大学で勉強するなかで)“もう1個の自分”をつくっていく作業をしていってほしい」と提案しました。「勉強も含めて“学ぶ”ということを、わからないながらでもやっていくと、いつか自分の宝になる。それは自分にしかわからない感覚。苦手な科目もあるかもしれないが、“ヒントはどこに転がっているかわからない”という気持ちで、自分の活動に繋げていくつもりで取り組むと、視野が広がる」と述べ、「ちょっとずつやっていくといい。3年生になるとまた変わってくるから、まずは2年。身近な目標を置いていくことで、長期的にやり抜く力を養ってほしい」と助言しました。


この機会を“自分を磨く砥石”として使ってほしい

最後に、室伏プログラムマネジャーは、「皆さんが、このダイヤモンドアスリートプログラムを通じて培ったものは、一生の宝になっていく。ぜひ、この機会を、“自分を磨く砥石”として使っていただきたい。そして、成長した自分を、自分だけの宝にせず、最終的に人に伝えられるように、将来にわたって、いろいろな人に貢献できるよう発信していくことを考えながら進めていってほしい」と、佐藤選手と西選手に声をかけ、「今後のプログラムについては、今、プランニングしているところ。これまでに行っていない種類の内容も検討してるので、楽しみにしていただきたい」と期待を呼びかけ、トークイベントを締めくくりました。

なお、この「スペシャルトークイベント」の模様は、日本陸連の公式YouTubeチャンネルの収録番組として、ご覧になることができます。概要にとどまった本稿ではわからない、ダイヤモンドアスリートたちの魅力、室伏プログラムマネジャーの奥の深いアドバイスを、ぜひ、お楽しみください!

※本稿は、4月14日に収録した、「ダイヤモンドアスリート第8期生スペシャルトークイベント」の模様をまとめました。各氏の発言内容は、より正確に伝わることを意図して、一部、編集を加えています。

>>ダイヤモンドアスリート特設サイト
http://www.jaaf.or.jp/gp-series/



▼【ダイヤモンドアスリート】スペシャル対談<前編>

~プログラムへの期待や意気込み、今期の目標に迫る!~

▼【ダイヤモンドアスリート】スペシャル対談<後編>

~両選手の将来像に迫る!修了生のサニブラウン選手からのメッセージも!~

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