「陸上競技」に関わるお仕事は多種多様、多くの人たちによって支えられています。ここでは、みなさんが目にしたことのあるお仕事から裏側のお仕事まで、さまざまなプロフェッショナルを紹介します。知れば知るほど深い陸上競技を「支える人」の視点から見てみることで、新たな陸上競技の魅力に気がつくかも!?ぜひ一緒に活躍の場をのぞいてみましょう!
記念すべき第1回は、大会で選手紹介から競技場内の盛り上げまで、幅広く活躍する「アナウンサー」の方へ、ものまねアスリート芸人のM高史さんがお話を伺いました。
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Vol.1「アナウンサー」中村拓也さん
陸上との出合い
群馬県出身の中村拓也さん。中学1年生の時に陸上を始めました。最初は走幅跳と1500mという珍しい組み合わせ!1500mで県大会6位にもなったそうですが、その後は短距離と走幅跳をやるようになり、走幅跳では県大会で優勝を飾りました。群馬県立桐生高校に進んでからも陸上を続け、4×100mリレーでインターハイにも出場しました。大学卒業後は群馬で講師(英語科)を4年間勤めたあと、現在の職場である立正中学・高等学校(東京)に着任。今年で18年になります。陸上部の顧問もされています。
アナウンサーの役割
日本陸連の「陸上競技ルールブック2021」によると『アナウンサーは「見(魅)せる競技会」実現の重要な役割を担っている』とあります。中村さんが競技会のアナウンサーを始めたのは、群馬で教師をしていた頃に「やってみない?」と他の先生から声をかけられたことがきっかけでした。
競技会のアナウンサーと聞くと、選手紹介、結果発表、表彰アナウンスといったイメージがあると思います。しかし、実際はそれだけではなく、熱中症対策、応援マナー、競技場での注意事項、グランドコンディション、落とし物や迷子のお知らせまで、たくさん役割があります!
中村さんは「ちゃんと正しく話す」ということに加えて「観客のみなさんにどのように伝えるか」まで意識されています。選手紹介のアナウンスもトラック競技、フィールド競技によって異なります。トラック競技でも中・長距離では途中の通過タイムをアナウンスするほか、通過タイムからフィニッシュタイムを予測して、記録更新の可能性がある場合は強調!例えば「このままいくと日本新記録ペースです!」とアナウンスされたら場内も沸き、選手もさらにパワーをもらえそうですよね!
一方、短距離種目ではコメントを入れず、あえて「見せる」ことに徹する場合もあるそうです。「沈黙が逆にレースを引き立てることもあるんですよ!」と中村さん。選手の走る足音、息づかい、スタンドからの声援や拍手のみという環境がむしろ魅力や迫力をより伝えてくれるんですね!そして、フィールド競技ではフィールド競技審判員と連携が必須になってきます。
「フィールドで同時展開している場合。例えば走幅跳が2回目で、やり投が6回目だったら、やり投をアナウンスして、終わったらすぐ走幅跳にいきます。『どうぞ』とふられてすぐにコメントできるようにトップ8も把握していなければいけないので、考える力が必要になってきますね」。全体を見渡す視野が求められ、さらに情報が入り次第できるだけ早く、わかりやすく発表することが大切なのだそうです。
日本新、大会新、標準記録突破などが目の前で達成されて、ついつい興奮し過ぎて見入ってしまうと、肝心なアナウンスができなくなってしまうので、会場を盛り上げながらも正確な情報を伝えることが重要になってくるんですね!
日本選手権、五輪では?
アナウンサーといっても高校の支部大会といった競技会から日本選手権や国際大会まであるので、事前の準備から話す内容まで、大会のレベル、規模によって大きく変わってきます。「大会当日は競技開始の2時間前には会場入りします。日本選手権の場合、選手がスターティングブロックを合わせている時に 注目選手を紹介するので、特に予習が大事ですね」 他の部署やアナウンサー間の連携ももちろん必要です。日本選手権はアナウンサーがたくさんいるので、担当は交代制。「例えば 100mの担当の場合、準決勝が終わってから決勝の前フリ(注目選手紹介など)のことを考えます。逆に東京五輪は話すスペースが1人分しかなかったので、1人だけでモーニングセッションまたはイブニングセッションを担当していました」。東京五輪は世界陸連お抱えのプロのアナウンサーが来ていたので、ついていくのが大変だったそうです。~1日のスケジュール(第105回日本選手権の場合)~
時間 | 業務内容 |
---|---|
前日18:30 | EP 会議 |
8:30 | 会場入り |
9:45 | 主任会議(※) |
10:15 | アナウンサー打ち合わせ |
11:15 | 競技開始 |
11:15-12:25 競技アナウンス | <担当種目> |
U20 女子円盤投 | |
12:30 | 昼食 |
13:25-19:25 競技アナウンス | <担当種目> |
U20 女子400m予選 | |
U20 男子400m予選 | |
U20 男子1500m予選 | |
U20 女子1500m予選 | |
女子100m予選 | |
U20 男子100m予選 | |
U20 女子5000m 決勝 | |
男子400m予選 | |
女子100m 準決勝 | |
19:45 | 競技終了 |
20:00 | アナウンサー振り返り |
20:30 | 退場 |
※2 審判全ての部署(総務、スターター、写真判定、出発、用器具、跳躍、投てきなど)の主任が集まっての打ち合わせ
今後の目標と読者へのメッセージ
今後の目標について、中村さんは次のように語ってくれました。「陸上をわからない人が観に来ても、『陸上って楽しい!おもしろい!』と思っていいただけるような競技会にしていきたいですし、そういう姿勢を持って取り組むことで、より観客が集まってくると思います。チケットを買って来場していただいて、それが選手の活動資金へと回っていくようになればいいなと思いますね」競技の魅力を伝えて、またそれが選手の活動に還元されてほしい。そんな熱い思いを持って、これからもマイクに向かいます。最後に「高校生でアナウンサーになってみたい人は、C級審判を取得するのと同時に、ぜひ地元のアナウンサーをしている先生方に立候補してみてください。東京をはじめ、若手がいなくて困っているところは多いと思います。マイクを持って話し始めると、きっと楽しいですよ!そこから世界が広がります」とメッセージもいただきました。気になった人は現状打破!陸上のアナウンサーに挑戦してみませんか!?
※C級審判員 https://www.jaaf.or.jp/news/article/14729/
C級審判員は2021年度から新設された制度。高校1年生から各都道府県陸協が開催する講習会や研修を受け、基礎的な知識を身につければ審判員資格が与えられる。
(従来は最初のステップであるB級取得条件が18歳以上)。
<アナウンサーのお仕事について>
陸上競技審判ハンドブック2021-2022(P121~P136)
https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/rule/handbook/2104.pdf
■中村拓也さん
1974年生まれ、47歳。群馬・太田宝泉中→桐生高→早大出身。
立正大学付属立正中学・高等学校で英語科教諭として勤めながら、日本陸上競技連盟競技運営委員会委員、東京都高体連陸上競技専門部競技委員長・同第1支部副支部長としてさまざまな競技会の運営に尽力。2021年は第105回日本選手権、東京オリンピック・パラリンピックにアナウンサーとして参加した。
2021年12月9日(木)に開催した「アスレティックス・アワード2021」では司会進行を務めた。
※アスレティックス・アワード2021ライブ配信
https://youtu.be/3guIJnE0Lb0
■M高史(えむたかし)さん
1984年生まれ。中学、高校と陸上部で長距離。駒澤大学では1年の冬にマネージャーに転向し、3、4年次は主務を務める。
大学卒業後、福祉のお仕事(知的障がい者施設の生活支援員)を経て、2011年12月より「ものまねアスリート芸人」に転身。
川内優輝選手のモノマネで話題となり、マラソン大会のゲストランナーやMC、部活訪問など全国各地で現状打破している。
海外メディア出演、メディア競技会の実況、執筆活動、ラジオ配信、講演など、活動は多岐にわたる。
~月刊陸上競技1月号(12月14日発売)掲載~
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