2019.07.18(木)その他

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~東京五輪ゴールド・プラン~】第6回「競技者育成指針」の策定と運用(2)

第6回「競技者育成指針」の策定と運用(1)』から

 

6つのステージごとに指針を提示

── 競技者の一生を6つのステージに分け、それぞれに説明を加えています。

森丘 いろいろな立場の関係者と問題点を共有しながら、それを課題化し、実質化に向けてどのように表現するべきかを考えながら丹念に作り上げました。まずは素案を作って、「これでどうだろう」と提示すると、「これでは足りない」、「これは言い過ぎ」といったリアクションがありました。私のパソコンには、最初のたたき台から最終版に至るまでにバージョン30ぐらいのファイルが残っています(笑)。競技者育成の〝バイブル〟という位置づけでの作成を心がけていましたが、抽象的な表現になりすぎてしまい、山崎さんから「もっと具体的にしてください」と注文がつきましたね。

山崎 あまりきれいな文言になり過ぎても響きませんから。

森丘 「みんなでがんばりましょう」では説得力がないですからね。

山崎 発育発達のところは今、エビデンスもあるし、ステージ1から6まで盛り込まれています。陸上競技はその発育発達に添って成長していく、というのがわかっています。じゃあ、どうやって陸上の魅力を入れていくか。ステージ2の小学校期では「競技会への準備は避けるとともに、地元・地域(都道府県)レベル以下の競技会参加を推奨する」とあります。言いたいことの裏は読めますよね。陸上人口がグンと増える中学期、高校期にも、そういう含みを持たせた記述があります。

 



森丘 それぞれのステージにおいて、どういう環境で、どんなことを意識した競技活動をしていくべきなのかが前段に書かれていて、トレーニングのあり方などが中段で、後段に競技会のあり方や参加に関することが書かれているという流れになります。

──少子化の中で、競技者育成の前にまず、子供たちに陸上競技を選んでもらう必要があります。

麻場 競技人口を増やすというのは大事なことなんですが、「陸上だけ」という発想でいるとこういうものは作れないと思います。子供たちが健全に成長していく過程で、陸上競技がどう位置づけられていくのか、もっと大きな視点で捉える必要があります。違う言い方をすれば、子供の頃、サッカーをやるのもいいし、バスケットボールでもいい、野球でもいい。その中で陸上を選んでもらった時に「我々はきちんとあなたを受け入れて育てられる環境があるんですよ」というメッセージを発信する方が今は大きいと思います。

山崎 そうです。少子化だけにフォーカスを当てるとそこで議論は終わってしまいます。そもそも陸上競技の魅力は何なのかな、と。やっぱり身体の発育発達に合わせて伸びていくんですね。小さい頃に専門的に練習して、多くの時間を費やした人が〝早い者勝ち〟になる競技ではない。小さい頃、かけっこが速かったら、その後もずっと速いかというと、そうでもない。大人やマスコミが若い頃の素質から、ヒーローに仕立て上げてしまうことは非常に危険です。陸上はもっと経験値を高めたり、発達に合わせて地道にトレーニングを積んだり、人間的に成長していくと、記録もどんどん伸びていく。それが陸上競技の魅力だと思っています。この6つのステージがあって、それをきちんと上がっていった先で、みんなが「陸上をやってて良かったね」と言ってくれるのがいいですね。

杉井 そういう環境を整備することがすごく大事ですね。スポーツ庁から出たガイドラインで、学校の部活動が見直されています。陸上競技としては、そこをどううまく使っていくのかが大切ではないかと思います。基本的に陸上競技の活動はあのガイドラインに当てはまります。そのへんはしっかり発信すべきだと思います。

山崎 欧州と比べても、日本の陸上人口は多いんです。それはやっぱり全中やインターハイがあるからで、普及という意味ではすごく価値のあるコンテンツです。その制度が今、社会的な風潮などで見直しが迫られる中で、魅力ある競技会、楽しめる競技会が模索されています。陸上競技の最終地点は競技会に挑戦することなので、どのようなプロセスを作って行くかは、この指針が出たお陰で考えられます。

 その中で、エネルギーのある人たちはすごく大切な存在です。エネルギーがあり優秀な人材が今後のスポーツ制度で淘汰されてしまう可能性もあります。そうならないためにも、発育発達や社会情勢を考慮しながらルールをうまく設定したり、変えたりすれば、必然的にコーチの質も確保できると思います。

 
 




大会で年齢区分を変更した真の意図

──すでに昨年は陸連主催の大会でいろいろな試みが始まっていて、U20・U18日本選手権、ジュニアオリンピックなどでは年齢区分を変更しました。学年(4月~翌年3月)ではなく、生年(1月~ 12月)で分けた意図は何でしょうか。

杉井 一番大きな理由は実はここ(育成指針)ではなくて、現場サイドにありました。世界がジュニア・ユースからU20・U18と名称変更したのに伴い、国内も2017年からU20・U18日本選手権と大会名を変えました。その年、山形インターハイの女子4×100mリレー決勝で、3位に入った恵庭北高(北海道)が45秒94のU18日本新記録を出したのです。3年、1年、3年、1年のオーダーで、2人の3年生が早生まれでした。ところが、そのチームがU18日本選手権に出られない。理由は学年で出場資格が設けられていたからです。そこで「その年にU18の最高記録を出したチームが日本選手権に出られないのはおかしくないですか」という意見を出しました。今までの流れを知っている方からは別の意見もありましたが、「『日本選手権』となった以上、出場資格を変えましょう」ということになりました。そこが1つです。

 そうなると、U18のカテゴリーに高校3年生の早生まれの選手が入ってきます。逆に、高校1年生の早生まれがはずれます。高1の早生まれの選手の全国大会が、1つ消えてしまいました。「でもジュニアオリンピックは昔、高校生が出ていたじゃないか」ということで、ジュニアオリンピックも合わせて学年ではなく年齢で参加資格を考え直しましょうということになりました。

 本当にいろいろご批判をいただいたのですけど、指針にもある「相対年齢効果」(注・同じ学年における誕生日の違いが学業やスポーツの成績に与える影響のこと)による1つの取り組みです、という説得力のある説明ができたので、大変ありがたかったですね。

山崎 今までは目指す山が1つだったんですよ。中学生は全中、高校生はインターハイ、大学生はインカレ。みんな、そこを目指します。1つじゃなくて〝ダブル・スタンダード〟でもいい。1つというのはオリンピックぐらいですかね。あとは価値観の多様化が重要ですから、2つでも3つでもいいと思います。そんな価値観でみんなが陸上競技をやることが大事だし、それで競技人口が増えたりするわけですよ。

──インターハイだけが突出した大会じゃなくていい、ということですか。

山崎 1年に1回、5日間の大会だけが目標ではもったいなくないですか。確かに負けられない勝負は重要ですし、感情を大きく動かせる魅力があります。しかしながら、普及をしなければならないのに、振るい落としを同時にしていることになります。やっぱり、陸上競技は試合に出ないと楽しくないと思うので、異なる趣向の魅力ある競技会を我々大人が考えないといけないと思います。

──日本はどうしても年度、学年という感覚が拭えないので、さまざまな意見が出たのではないでしょうか。

杉井 まずインターハイには70年以上の歴史があります。そしてその歴史が、皆さんの潜在意識に共通の目標として強くすり込まれています。強化育成部の中で強化対象者を検討する際にも、必ず「インターハイの……」と、枕詞のように「インターハイ」という単語が出ます。また昨年のジュニアオリンピック後に、「全中の〝リベンジ大会〟ということをよくわかってない」というご批判をいただきました。ということは、いつも活躍する人は決まっていて、そのグループの中での順位の変更しかなかったということになります。しかし、年齢区分を変えることでまったく違う人が入り、違う順位になるということになります。こちらとしてはそこが狙いだったので良かったと思うのですが、そこに違和感を持つ人もいたということです。早生まれの選手が、新たなチャンスをもらったわけですよ。いい思いをすれば当然継続するエネルギーが生まれるわけですから、できることなら1年に3つぐらい年齢区分のスタート月が変わる大会があってもいいと思います。

森丘 「今(運動やスポーツが)できている」という身体的有能さの認知や、「努力すればできそうだ」という統制感と呼ばれるファクターなどで構成される「運動有能感」を感じられない人は、運動やスポーツを継続しない傾向にあるという指摘があります。先ほどの年齢区分の話で、私が期待するのは「競技の継続」です。2015年のデータなのでちょっと古いですが、中3で陸上をやっていた子供たちの6~7割が高校で陸上を辞めてしまう。辞める理由はいろいろあると思われますが、発育発達の差が大きい小中学校期に「競技会で記録が出なかったから……これからも出そうもないから……」と感じて辞めてしまっている子供たちも少なからずいるはずです。

 年齢区分の話で言うと、高1でジュニアオリンピックに出られるのであれば、そこまでやってみようかなという子たちが増えてくる可能性がありますよね。学校や学年の区分をベースとする中体連、高体連がやっている全中やインターハイは1つのかたちとして、それ以外に陸連として別のかたちを用意して、そちらもやってみる。そうすれば「全中には出られなかったけど、全国大会を目指して高校までやってみたら」という声かけもできます。そういう幅広い意味でのサポートをしていくことも、この指針の中には盛り込まれています。



第6回「競技者育成指針」の策定と運用(3)』に続く…

JAAF Official Partner

  • アシックス

JAAF Official Sponsors

  • 大塚製薬
  • 日本航空株式会社
  • 株式会社ニシ・スポーツ
  • デンカ株式会社

JAAF Official Supporting companies

  • 株式会社シミズオクト
  • 株式会社セレスポ
  • 近畿日本ツーリスト株式会社
  • JTB
  • 東武トップツアーズ株式会社
  • 日東電工株式会社
  • 伊藤超短波株式会社

PR Partner

  • 株式会社 PR TIMES
  • ハイパフォーマンススポーツセンター
  • JAPAN SPORT COUNCIL 日本スポーツ振興センター
  • スポーツ応援サイトGROWING by スポーツくじ(toto・BIG)
  • 公益財団法人 日本体育協会
  • フェアプレイで日本を元気に|日本体育協会
  • 日本アンチ・ドーピング機構
  • JSCとの個人情報の共同利用について