100th JAPAN NATIONAL CHAMPIONSHIPS

News

NEWS 2016.06.23

第100回日本選手権 前日会見(山縣亮太、桐生祥秀、ケンブリッジ飛鳥、福島千里)

 

リオデジャネイロオリンピック代表選考会を兼ねて開催される第100回日本選手権の前日会見が6月23日夕刻、大会会場となるパロマ瑞穂スタジアム(愛知県名古屋市)で行われました。会見には男子100mに出場する山縣亮太選手(セイコー)、桐生祥秀選手(東洋大)、ケンブリッジ飛鳥選手(ドーム)と、女子100m・200mに出場する福島千里選手(北海道ハイテクAC)が出席。大会を翌日に控えての心境や体調、レースに向けての抱負を語りました。
大会は、6月24日~26日の3日間で行われ、7種目の決勝が実施される初日の24日は、14時20時より競技が開始されます。山縣選手、桐生選手、ケンブリッジ選手が出場する男子100mの決勝は2日目に行われますが、初日に準決勝まで行われ、16時15分から予選が、20時28分から準決勝がスタート。2種目にエントリーしている福島選手は、大会初日は19時23分から始まる女子100mに出場します。

 

【各選手コメント(記載は登壇順)】
■ケンブリッジ飛鳥選手(ドーム)

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大事な大会なので、優勝してリオの切符を手に入れたい。
この大会に向けては、(10秒10をマークした)東日本実業団以降も、流れはこれまでと変えていない。課題のスタートだけでなく、後半もしっかり走れるようにするために、上体に力が入るクセをなくし、できるだけリラックスした状態でトップスピードに乗れるようにすることを意識したトレーニングをやってきた。体調はいいので、明日から楽しみ。

9秒台を出して優勝するというのが最大の目標ではあるが、今回は、タイムは意識せず、勝ちにこだわっていきたい。同世代の桐生選手や山縣選手は、目標する、勝ちたいと思う選手だった。これまでなかなか勝てなかったので、今回はちゃんと勝てればいいなと思う。前半がすごく苦手だが、しっかり(前半を)出て、自分の持ち味である後半(の走り)を生かすことができれば、チャンスはあると思っている。

 

■福島千里選手(北海道ハイテクAC)

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6月初めにヨーロッパへ行き、無事にレースを走ることができた。春先、出場しようと思っていた試合にすべて出ることができなかったが、今は、その不安や違和感も解消できている。また、春先(のレースに)出られなかったからといって、冬季練習でやってきたこと全てが失われたわけではない。長い間、準備してきたものがあるので、しっかり日本選手権に臨みたいと思う。

今シーズンに入ってからは、冬季練習だけでなく昨シーズンの試合や昨年の冬季練習なども含めて、オリンピックに向けて準備してきたこれまでの成果を出せないことに対して不安もあったし、大丈夫かなと思うこともあった。しかし、それと同じくらいに、自分自身の身体や、(自分がやってきた)トレーニングも信頼していた。また、私を支えてくれている方々が、(春先の状況に)誰一人として焦っていなかったことにも助けられた。そういう人たちと一緒だったから、ここまで持ってこられたのかなと思っている。

日本選手権の目標は、まずはオリンピックの代表になれるよう頑張ること。納得のいくレースができたらいいな…、いえ、できるようにします。

 

■桐生祥秀選手(東洋大)

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(ここまで)試合が続いているが、いい感じで来ていると思う。日本選手権はここぞという勝負のとき。もちろん優勝を狙って走りたい。これまで自分の持ち味は中盤のところだったが、それに加えて(10秒01が出た)日本学生個人選手権では、後半のイメージをよくするような走りを初めて試して、それがけっこううまくいった。明日は中盤から後半にかけて、しっかりと自分のレースをしたい。

今のところ、いつもと同じで、あまり感じはわからないが、(レースのある)明日、明後日になれば、オリンピックがかかっているとなると気持ちが入ると思う。それを緊張とかじゃなく、自分の気持ちを高めていく方向に持っていきたい。

レースの想像はあまりしていない。いつもだとスタートがどうとか、ごちゃごちゃ考えていたが、日本選手権はそんな考えている大会じゃない。自分の持っている力をどれだけ発揮できるかという大会なので、何も考えないで思いきり走って、それに自分の走りが出てきたらいいなという感じでいる。

――今季、山縣選手に2大会で先着されているが?
日本で走っていて、最後に競り負けるということはあまりなかったが、初めて鳥取(布勢スプリント)で、中盤から(山縣選手が)並んだのに気づいて硬くなってしまった。でも、それがあったから日本学生個人選手権までに自分の走りを見直すことができた。しかも、夏に向けて調子も上がってきているので、いいと思う。

――ライバルたちをどう思うか?
一番最初にゴールした人が1番。中間(が速い)とか後半(が速い)とかあると思うが、1番にゴールを駆け抜けるのが自分だったらいいなと思っていて、それを自分にしようと考えている。みんな調子がいいにしても、僕も調子はいい。みんなが調子のいいなかで明日のレースを迎えたい。

 

■山縣亮太選手(セイコー)

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ケガもなく、自己ベストを出して臨める初めての日本選手権。そういう意味では独特の緊張感もあるし、ワクワクしている、期待をしている部分もある。(自己ベストの10秒08を出した)布勢スプリントのあとは、スタートを安定させることと、手応えをつかんでいた中盤の加速力にさらに磨きをかけるような質の高いトレーニングを積んで調整してきた。

100回目の記念すべき日本選手権に、調子がいい状態で臨めることをすごく嬉しく思う。これだけの条件や雰囲気は、望んでも手に入らないものだと思うので、そのチャンスを生かして自分のなかでいい試合にしたいし、優勝してリオ五輪の代表になりたいという思いが強い。オリンピックは出られたら2回目になるが、心も身体もひと回り成長していると考えている。まずは五輪の出場権を獲得して、リオ五輪では4年前よりもいい結果を出すことを達成したい。

――桐生選手が10秒01をマークしたとき、どう感じたか?
わあ、すごいなと思った。9秒台が注目されているなかでの10秒01。僕自身もすごく刺激を受けたし、その記録を日本選手権で超えていきたいなと強く思った。

――「打倒、桐生」のイメージは?
桐生選手はしっかり走ってくると思うが、僕ができるのは、ありきたりだが自分の走りに集中すること。身体と精神面の両方でコンディショニングして、自分のレースが最後までできれば、おのずと結果はついてくると考えている。

 

(文:児玉育美/JAAFメディアチーム)
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第100回日本陸上競技選手権大会は6月24日~26日の3日間、名古屋市パロマ瑞穂スタジアムで開催。

リオデジャネイロ五輪代表選手選考競技会を兼ねた本大会をぜひスタジアムでご覧ください!

 

<第100回日本陸上競技選手権大会チケット情報>  #100日本陸上

http://www.jaaf.or.jp/jch/100/ticket.html

 

 

 

NEWS 2016.06.22

重心を4.5~6ミリ中心からずらす、 ニシ・スポーツ製ハンマー

 
2009年ベルリン陸上世界選手権、2011年韓国テグ陸上世界選手権、2013年モスクワ陸上世界選手権では、男子ハンマー投メダリストの9人すべてが、ニシ・スポーツ製のハンマーを選択。また、2012年ロンドン五輪では銀銅のメダリストが、2015年北京陸上世界選手権では、銀メダリストが同社のハンマーを使用した。
世界のハンマースロワーの多くが選ぶニシ・スポーツ製のハンマーは、どのようにして作造られ、どんな秘密が隠されているのか、千葉県船橋市にある工場でその工程を聞いた。

 

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男子一般用ハンマー(タングステン入り)を例にとると、その製造は4つの工程に分けられる。
①鋳物工場で成型した、中空のダクタイル鋳鉄の材料(球体の左右に機械でつまむための棒が出ている)から、規定サイズの球体を削り出す。
②中空部分にタングステンと鉛を注入する。
③ヘッドの穴にねじ山を切って、ヘッドとピアノ線をつなぐ吊管と呼ばれる器具をねじ込み固定する。
④塗装して、ピアノ線とハンドルを取り付けて完成。
この中でキモとなるのは、工程の①と②の部分のようだ。
①の切削作業は、簡単に言うと、直径116~117㎜の材料から、規定下限より少し大きな、直径110.5㎜(0.5ミリの余裕をみる)の球形を削り出すことである。
作業はもちろん手作業ではなく、数値制御ができるNC旋盤が使われるが、とはいえ、ボタン1つで球体が自動的に削り出されるわけではない。

 

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㈱ニシ・スポーツ船橋工場で、ハンマーや砲丸などの造を担当する宮﨑大輔さんは言う。
「NC旋盤にプログラムを登録してしまうことは機械的には可能なのですが、機械も絶対ではないですから、毎回材料を自分の目で見て、そのうえでプログラムを打ち込む作業を行います。そのうえで、1個1個の製品をきっちりと造ることを心がけています」
1回の作業は、20個から30個を1つのロットとして行われる。
「旋盤の刃をバイトと呼ぶのですが、バイトの状態は、1個目と30個目では違ってくるんです。徐々に熱を帯びてくるし、消耗もします。場合によっては欠けることもあります。そういった変化は、切削中の音で気付くこともあるし、切削面を目視することで分かることもあります。変化が確認できたら、プログラムに補正を加えていくんです」

 

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変化や異常にどれだけ早く気が付くことができるか。そして、変化に対して正しい補正を行えるか。それが、同じロットの中の1個目と30個目に誤差を生じさせることなく造りあげるための技術であり、経験値だ。
「誤差が出ないようにするには、やはり手作業でこまめに寸法チェックをするしかありません」
しかし、誤差を出さずに、狙い通りのサイズの球体を削り出すだけでは、ヘッドは完成しない。②の工程もまた重要だ。
切削されたヘッドは計算された中空構造(形状は企業秘密)になっており、その中に比重の高いタングステンと鉛を独自の割合で注入することで、重心位置は球の中心よりスロワーから遠い方向に4.5ミリ以上6ミリ未満の範囲でずれ(規定によって重心は中心から6ミリ以上ずれてはいけないことになっている)ていることで、遠心力が最大限に発揮されることになる。

 

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「他社製のハンマーのヘッドの重心位置は正確には把握していませんが、当社の6ミリ弱未満でずれた重心を持つハンマーのヘッドが、少なからず飛距離に反映しているとは思います。私自身は、ハンマーを投げたこともないですし、投げられると思ったこともないので、実際のところは分かりませんが」
7キロを超える物体が、放物線を描いて80mの距離を飛行する現象の裏には、4回転という技術や、鍛え上げられた強靭な筋力の他に、6ミリという小さな宇宙も存在している。

 

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photo:Takashi OKUI
Text: Nobuaki TAN

 

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第100回日本陸上競技選手権大会は6月24日~26日の3日間、名古屋市パロマ瑞穂スタジアムで開催。

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INFORMATION

陸上日本代表ナナちゃん登場!

本日(6月22日)より、名古屋市名鉄百貨店本店に設置されている名古屋の大スターナナちゃんがサンライズレッドの日本代表ユニフォーム姿で登場しました。
できるだけ多くの名古屋の皆さんに日本選手権を応援してもらおうということで登場しました。
足元はサンライズレッドのアシックス製スパイクを履いて、トラックの上に力強く立っています。
その姿はまるでリオを目指してスタートラインに立つ選手たちのようです!
フォトコンテスト(詳細はクリック)を実施していますので、是非ナナちゃんと一緒に写真を撮ってツイッターにアップしましょう!
ナナちゃん

名鉄百貨店のナナちゃん紹介サイト

NEWS

月刊陸上競技編集局長・土谷的、第100回日本選手権展望

 

 今大会の最大の特徴は、第100回という大きな節目に、4年に1度の五輪イヤーが重なったこと。そして、何と言っても「大記録」への期待が、これほど高まったこともないのではないだろうか。

 

 まず、最大の注目種目として挙げたいのは、やはり大会2日目の男子100m決勝だ。6月11日の日本学生個人選手権準決勝で日本学生新、3年ぶりに自己ベストに並ぶ10秒01をマークした桐生祥秀(東洋大)、その1週間前の布勢スプリント第2レースで4年ぶり自己新の10秒06を出し、桐生に今季2勝している山縣亮太(セイコーホールディングスAC)の「2強」に、5月の東日本実業団選手権の予選レースで10秒10と快走したケンブリッジ飛鳥(ドーム)が挑む構図は、冒頭の3つの特徴すべてが凝縮されている。
 桐生は日本陸連が定めたリオ五輪派遣設定記録にピタリ到達し、山縣とケンブリッジは五輪参加標準記録(10秒16)を突破。代表争いの点では桐生が有利な立場だが、3人が見据えるのは「優勝」の2文字のみだ。まずは、日本のトップスプリンターたちが繰り広げる激闘を堪能し、その先に夢の「9秒台」という歴史的瞬間を待ちたい。

 
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 勝負の点では、派遣設定を突破している藤光謙司(ゼンリン)と髙瀬慧(富士通)、標準突破の飯塚翔太(ミズノ)とサニブラウン アブデルハキーム(城西高3東京)が争う男子200mにも注目。2大会連続の五輪代表を狙う飯塚が今季絶好調。初の五輪を目指す藤光と、ロンドン五輪代表の髙瀬も今大会に向けて徐々に調子を上げている。昨年の世界ユース選手権2冠のサニブラウンも、高校生ながら抜群の調整力を誇る。第100回大会のフィナーレを飾るにふさわしい名勝負の予感が漂う。

 
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 派遣設定や標準記録を複数が突破し、熱戦が期待されるのが男女の5000mと10000m、男子400mハードル、男子棒高跳、男子三段跳。このうち、男子400mハードルは日本勢4年ぶりの48秒台をマークした野澤啓佑(ミズノ)が勢いに乗り、80年も前のことながら日本が五輪で3連覇を遂げた伝統を誇る男子三段跳は長谷川大悟(日立ICT)と山下航平(筑波大)が今季、相次いで標準突破を果たすなど、日本の〝お家芸〟と呼ばれる種目がにわかに盛り上がりを見せている。男子棒高跳は35歳の澤野大地(富士通)が、派遣突破済みの山本聖途(トヨタ自動車)と荻田大樹(ミズノ)に今季負けなし。あとは標準記録の5m70をクリアするだけだ。

 

 記録の面では、まず男子やり投を挙げたい。3連覇がかかる新井涼平(スズキ浜松AC)には27年ぶりの日本新、4大会連続の五輪代表入りを目指す村上幸史(同)、前回のロンドン五輪代表・ディーン元気(ミズノ)、今季80mスロワーの仲間入りをした長谷川鉱平(福井陸協)には83m00の標準記録突破に期待。女子短距離では福島千里(北海道ハイテクAC)が100m、200m両種目の日本新を視野に入れるとともに、史上最多タイの6年連続2冠の偉業に挑む。男子400mではトラック種目で史上最多の11連覇を誇る金丸祐三(大塚製薬)に、19歳のウォルシュ・ジュリアン(東洋大)がストップをかけるか。

 

 サニブラウン、女子やり投で62m00の参加標準に迫る北口榛花(日大)をはじめとする10代の〝ホープ〟たちには、2020年東京五輪へのステップとなるような活躍に期待。41歳の鉄人、男子ハンマー投の室伏広治(ミズノ)が優勝すれば、父・重信、妹・由佳を含む日本選手権「室伏家50勝」のメモリアルとなる。

 
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 どの種目もおそらく、かつてないほどの緊張感、緊迫感に包まれるだろう。スタート前の一瞬の静寂、試技の前の大きな手拍子、スタジアムが一体となって「大記録」誕生を待つ。そこに「第100回」という重みが加わることで生まれる〝空気〟は、きっと今大会でしか味わうことはできないはず。日本のトップアスリートたちの、プライドを懸けたパフォーマンスを、ぜひパロマ瑞穂スタジアムで見届けてほしい。
 
 
土谷公二(月刊陸上競技編集局長)
 

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写真提供:フォート・キシモト

NEWS 2016.06.19

陸上競技マガジン編集長・牧野的、第100回日本選手権の見どころ

 

 Decade(10年)で“歴史”を語ることはある。しかし、今回は何と言ってもCentury(100年)である。どの競技にも先駆け、100回目の開催を迎えた陸上の日本選手権。先人たちが日本一を懸け戦い続けてきた最高の舞台の大きな節目は、オリンピック選考会という巡りあわせもあり、より特別な期待感を醸し出す。どの種目でも熱い戦いが繰り広げられることは間違いないだろう。

 

 さて、今大会の見どころ、正攻法でいくと、リオデジャネイロ五輪につながる大会なので、派遣設定記録を突破している選手に注目したい。同記録は日本陸連が世界で戦う指針として設けている世界リスト12位相当の基準で、6月15日現在、同記録突破者は男子9名、女子3名いる。その12名は今大会の8位以内の最上位者となれば、即代表内定となるが、真の意味で世界へのチャレンジャーとなるには、やはり日本選手権優勝を果たしてからこそ。記録以上に「強さ」を見せてもらいたい。

 

 そのなかでも、あえて1名、オリンピックでの期待も含めて挙げるとすれば、男子やり投の新井涼平(スズキ浜松AC)だろう。
 新井は日本歴代2位(86m83)の自己ベスト、昨年の北京世界選手権では派遣設定(84m32)を上回る84m66をマークして入賞まであと一歩に迫った実績を持つ(決勝9位)。今年は大会ごとに記録面では波があるものの(シーズンベストは84m41)、世界のトップ選手しか出場が認められないダイヤモンドリーグ(DL)に3戦出場する機会に恵まれた。第2戦上海大会では6位入賞を果たし、DLでは日本人初のポイントを獲得するなど、世界での経験を積んでいる。
 昨年の世界選手権で「向こう側のスタンドまで飛ばすつもりで」というコメントを発したように、大舞台でも物おじしないタイプ。やりを放った後の迫力満点の雄たけびと共に、87m60の日本記録に迫る、いや一気に更新する投てきを見せてくれると、目標として掲げている90m、そしてサンバのリズムが聞こえる表彰台へ、ぐっと近づくはずだ。

 
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 また、どのような結果になるか全く想像が尽かないが、ハンマー投の室伏広治(ミズノ)の一挙手一投足は見逃せない。一昨年まで不滅の日本選手権20連覇、オリンピック・世界選手権での金メダルを獲得した説明不要の“生きるレジェンド”は、東京オリンピック・パラリンピックのスポーツディレクターとして多忙な日々を送るなか、2年ぶりにサークルに足を踏み入れる。大会史の5分の1も勝者として名を連ねる室伏が100回目の大会に出場することは、節目に相応しいニュース。競技者である以上、常に競技を極める姿勢を失わない“2016年の室伏広治”が、どんな投てきを見せてくれるのか。

 

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 最後に。勝負の行方はもちろん、選手たちの息遣いや表情もつぶさに見ていきたい。どのような表情で競技に臨もうとしているのか。結果に対して、どんな喜怒哀楽を見せるのか。彼らが発するオーラが、競技場の空気をどう醸成するのか。100回目だからこそ、選手たちの “超人的”なパフォーマンスと “人間味”に触れてみたいと思う。

 

 

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第100回日本陸上競技選手権大会は6月24日~26日の3日間、名古屋市パロマ瑞穂スタジアムで開催。

リオデジャネイロ五輪代表選手選考競技会を兼ねた本大会をぜひスタジアムでご覧ください!

 

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写真提供:フォート・キシモト

NEWS

日本選手権の好勝負 ―オリンピック選考会の激闘(その4)

 

4年に1回巡ってくるオリンピックイヤー。代表最終選考会を兼ねて行われた日本選手権では、数多くの激闘が繰り広げられてきた。日本選手権を彩った好勝負をご紹介しよう。

 

その4 第96回大会男子棒高跳(2012年)
豪雨のなかのジャンプオフ

 

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2012年のロンドンオリンピック最終選考会として開催された第96回大会男子棒高跳の優勝記録は5m42。A標準5m72、B標準5m60と設定されていたロンドン五輪参加標準記録から考えても、物足りなさを覚えてしまうかもしれない。しかし、実は、その背景には、「激闘」を通り越して「死闘」といえるような戦いが行われていた―。

 

実際、この年の男子棒高跳は春から活況を呈していた。大会直前の日本リストは1位から順に5m72の澤野大地(富士通)、5m65の荻田大樹(ミズノ)、5m60の山本聖途(中京大)と、3選手がオリンピック本番でも決勝を狙える記録をマークしていたからだ。最もオリンピックに近い位置にいたのは日本記録保持者(5m83、2005年)の澤野。2005年ヘルシンキ大会で世界選手権における跳躍種目として日本人初の入賞(8位)を果たしたのを筆頭に、世界選手権では4大会(2003年、2005年、2009年、2011年)で決勝に進出し、アテネ大会、北京大会と出場したオリンピックでも決勝に駒を進めたことのある(アテネ大会、13位)実力者は、32歳を迎えるこの年、ロンドン五輪を集大成と位置づけシーズンイン。アメリカでの屋外初戦でA標準をクリアし、日本選手権で優勝すれば即時内定が出る状況にあった。そして荻田は、関西学院大3年時の2008年に5m56(日本学生記録)をマークして以降、伸び悩んだ時期を乗り越え、2012年2月に室内で5m60の自己新をマーク、その後、屋外でも5m60を跳び、4月の織田記念では5m65の自己ベストを跳んで澤野をジャンプオフ(優勝決定戦)で下していた。一方、2012年に入って著しい成長を遂げていたのが20歳の山本。4月初旬に自己記録を16cm更新する5m51をクリアすると、織田記念では5m60を1回で跳び、荻田が持っていた学生記録を塗り替えるとともにB標準も突破。日本選手権では3者による“史上最高の空中合戦”が期待されていたのだ。

 

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しかし、そんな彼らを待ち受けていたのは、“非情の雨”だった。大会初日の6月8日、梅雨入りしたばかりの関西地方にある大阪・長居陸上競技場は、風雨に見舞われる最悪のコンディションとなった。12人の出場者は、5m32を終了した時点で、この高さを1回でクリアした荻田、5m22を跳んで5m32をパスした山本、そして、ここまですべてパスしていた澤野の3人に絞られた。荻田がパスした5m42を、澤野と山本が1回でクリアしてバーは5m52に。だが、揃って挑んだこの高さを3人とも失敗してしまう。ここで荻田の3位が確定し、勝負は、同記録・同順位で並んだ澤野と山本による優勝決定戦へと持ち込まれた。
ジャンプオフは5m52からスタートしたが、2人はなかなか越えることができない。失敗試技に終わるたびにバーは5㎝刻みで下げられ、勝負が続く。5m47、5m42、5m37…。雨脚が強まり、冷たい雨は容赦なく2人を濡らし、体温を奪っていく。5m32、5m27、5m22。高校生でも跳べるような高さまでバーを下げても決着はつかず、「なぜ跳べないんだという気持ち」(山本)、「技術云々ではなく、本当にもう気力だけだった」(澤野)という壮絶なものに。そして、5m17。澤野が失敗したのちに、山本がこれをクリア。8回に及んだジャンプオフに終止符が打たれ、山本の初優勝が決まったのだった。

 

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さて、ここから先は後日談。
競技終了時点で内定できなかったため、選考は大会終了後の理事会まで持ち越され、その結果、棒高跳のロンドン五輪代表は山本のみが選出、澤野の五輪3大会連続出場は絶たれた。3位に終わった荻田は、日本選手権で代表争いの土俵に最後まで残れなかった無念を募らせた。そして、オリンピック出場を果たした山本も、初めての世界の舞台で力を発揮することができず、予選で記録なしという結果に終わってしまった。
しかし、3人はこの経験を、苦い思い出のまま終わらせることはしなかった。山本はオリンピックの悔しさを糧に大きく成長、2013年世界選手権で6位入賞を果した。2015年春に大学を卒業してトヨタ自動車の所属に。2016年1月には自己記録を5m77(室内日本新)まで伸ばし、エースとしての存在感を高めている。荻田は2013年・2015年と世界選手権に連続出場、ベスト記録でも5m70(2013年、2016年)と安定感を高め、山本・澤野に勝つ試合も増えてきた。そして、この敗戦のバネに、2大会ぶりの五輪出場に向けて現役続行を決めた澤野は、故障による2015年の休養も乗り越え、2016年シーズンに入って5m62を筆頭に5m60を2回クリア。山本・荻田には全勝し、11年ぶりの自己記録(5m83)更新も見据えつつ、第100回日本選手権を迎えようとしている。
4年の時を経て3者が相まみえる第100回大会。男子棒高跳決勝は、大会初日の6月24日、17時に競技が開始される。(※敬称略、所属は当時のもの)

 

(文:児玉育美/JAAFメディアチーム)

 

 

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写真提供:フォート・キシモト

NEWS 2016.06.14

日本選手権の好勝負 ―オリンピック選考会の激闘(その3)

 

4年に1回巡ってくるオリンピックイヤー。代表最終選考会を兼ねて行われた日本選手権では、数多くの激闘が繰り広げられてきた。日本選手権を彩った好勝負をご紹介しよう。

 

その3 第92回大会女子10000m(2008年)
渋井、赤羽、福士の壮絶バトル

 

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2008年北京オリンピック代表選考会を兼ねて開催された第92回日本選手権のなかでも屈指の注目種目ともいわれていたのが女子10000m。出場選手全20名のうち、実に16名が五輪参加標準記録(A:31分45分00、B:32分20秒00)の突破者。6月27日に行われた決勝は、前評判に違わぬ戦いが繰り広げられた。

 

歴史に残る名勝負の主役を張ったのは、この種目の日本記録保持者(30分48秒89、2002年)で、マラソンでも日本歴代2位となる2時間19分41秒の自己記録を持ち、2001年世界選手権女子マラソン4位の実績を残している渋井陽子(三井住友海上)、2003年世界選手権以降、2004年オリンピック、2005年・2007年世界選手権と、この種目で常に代表入りを果たしてきた福士加代子(ワコール)、2006年に出産後、2007年に日本歴代9位となる31分23秒27をマークして同年日本リスト1位の成績を収めるなど進境著しい赤羽有紀子(ホクレン)の3選手。こうした持ち記録だけでなく、渋井と福士は“マラソンで逃した五輪代表の座をトラック種目で獲得なるか”が、赤羽は“ママさんランナーとして日本陸上界初の五輪代表入りなるか”が、それぞれ大きく注目されるなかでのレースとなった。

 

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2日目の最終種目として組まれたレースは、気温23.5度、湿度75%というグラウンドコンディションのなか20時05分にスタート。赤羽が先頭に立って1周を73秒で入ると、渋井と福士を従える形で1000mを3分06秒で通過。そこで春から2度のA標準突破を果たす好調ぶりを見せていた渋井がトップに立つと、以降を3分08秒、3分09秒7、3分10秒、3分09秒というペースでレースを引っ張り、赤羽、福士がつく展開に。その間、ついていけない後続の選手たちが徐々に脱落し、先頭集団は5400mで渋井、赤羽、福士、松岡範子(スズキ)の4人となり、7600mで松岡が遅れると、いよいよ優勝争いは渋井、赤羽、福士の3人に絞られた。
最初に動きを見せたのは、それまでずっと3番手にいた福士だった。8000mでロングスパートを仕掛けて逃げを図るが、渋井は離れず、いったん遅れた赤羽も再び追いつく。今度は赤羽が前に出たが、渋井と福士は動じない。8800m過ぎで再び福士が仕掛けたが、2人を振り切ることはできないまま、勝負の行方は残り1周まで持ち込まれた。

 

ラスト300m、バックストレートに入る付近で赤羽が勝負をかけてスパート。福士はここで離されたが、渋井は逃げる赤羽に食らいつく。そして、ホームストレートに入ったところで、今度は渋井が猛スパート。残り50m付近で赤羽をかわすと、Vサインを作った右手を高々と突き上げながら31分15秒07でフィニッシュラインに飛び込んだ。赤羽が0.27秒差となる31秒15秒34で続き、福士が31秒18秒79で3位。死力を尽くした3人は、ゴール後、互いに抱き合い、笑顔で健闘を称え合った。

 

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3人の記録はともに大会新記録で、1996年アトランタ五輪代表選考会として、やはり壮絶な優勝争いが繰り広げられた第80回大会を制した鈴木博美(リクルート)が樹立した31分19秒40(当時、日本新記録)を更新するもの。また、31分49秒90で4位に入った松岡までが再びA標準を上回り、9位までがB標準を突破と、種目全体としても五輪選考会にふさわしいレベルの高さで観客を魅了したのだった。(※敬称略、所属は当時のもの)

 

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(文:児玉育美/JAAFメディアチーム)

 

 

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第100回日本陸上競技選手権大会は6月24日~26日の3日間、名古屋市パロマ瑞穂スタジアムで開催。

リオデジャネイロ五輪代表選手選考競技会を兼ねた本大会をぜひスタジアムでご覧ください!

 

<第100回日本陸上競技選手権大会チケット情報>  #100日本陸上

http://www.jaaf.or.jp/jch/100/ticket.html

 

 

 

写真提供:フォート・キシモト