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NEWS 2016.06.16

日本選手権の好勝負 ―オリンピック選考会の激闘(その4)

 

4年に1回巡ってくるオリンピックイヤー。代表最終選考会を兼ねて行われた日本選手権では、数多くの激闘が繰り広げられてきた。日本選手権を彩った好勝負をご紹介しよう。

 

その4 第96回大会男子棒高跳(2012年)
豪雨のなかのジャンプオフ

 

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2012年のロンドンオリンピック最終選考会として開催された第96回大会男子棒高跳の優勝記録は5m42。A標準5m72、B標準5m60と設定されていたロンドン五輪参加標準記録から考えても、物足りなさを覚えてしまうかもしれない。しかし、実は、その背景には、「激闘」を通り越して「死闘」といえるような戦いが行われていた―。

 

実際、この年の男子棒高跳は春から活況を呈していた。大会直前の日本リストは1位から順に5m72の澤野大地(富士通)、5m65の荻田大樹(ミズノ)、5m60の山本聖途(中京大)と、3選手がオリンピック本番でも決勝を狙える記録をマークしていたからだ。最もオリンピックに近い位置にいたのは日本記録保持者(5m83、2005年)の澤野。2005年ヘルシンキ大会で世界選手権における跳躍種目として日本人初の入賞(8位)を果たしたのを筆頭に、世界選手権では4大会(2003年、2005年、2009年、2011年)で決勝に進出し、アテネ大会、北京大会と出場したオリンピックでも決勝に駒を進めたことのある(アテネ大会、13位)実力者は、32歳を迎えるこの年、ロンドン五輪を集大成と位置づけシーズンイン。アメリカでの屋外初戦でA標準をクリアし、日本選手権で優勝すれば即時内定が出る状況にあった。そして荻田は、関西学院大3年時の2008年に5m56(日本学生記録)をマークして以降、伸び悩んだ時期を乗り越え、2012年2月に室内で5m60の自己新をマーク、その後、屋外でも5m60を跳び、4月の織田記念では5m65の自己ベストを跳んで澤野をジャンプオフ(優勝決定戦)で下していた。一方、2012年に入って著しい成長を遂げていたのが20歳の山本。4月初旬に自己記録を16cm更新する5m51をクリアすると、織田記念では5m60を1回で跳び、荻田が持っていた学生記録を塗り替えるとともにB標準も突破。日本選手権では3者による“史上最高の空中合戦”が期待されていたのだ。

 

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しかし、そんな彼らを待ち受けていたのは、“非情の雨”だった。大会初日の6月8日、梅雨入りしたばかりの関西地方にある大阪・長居陸上競技場は、風雨に見舞われる最悪のコンディションとなった。12人の出場者は、5m32を終了した時点で、この高さを1回でクリアした荻田、5m22を跳んで5m32をパスした山本、そして、ここまですべてパスしていた澤野の3人に絞られた。荻田がパスした5m42を、澤野と山本が1回でクリアしてバーは5m52に。だが、揃って挑んだこの高さを3人とも失敗してしまう。ここで荻田の3位が確定し、勝負は、同記録・同順位で並んだ澤野と山本による優勝決定戦へと持ち込まれた。
ジャンプオフは5m52からスタートしたが、2人はなかなか越えることができない。失敗試技に終わるたびにバーは5㎝刻みで下げられ、勝負が続く。5m47、5m42、5m37…。雨脚が強まり、冷たい雨は容赦なく2人を濡らし、体温を奪っていく。5m32、5m27、5m22。高校生でも跳べるような高さまでバーを下げても決着はつかず、「なぜ跳べないんだという気持ち」(山本)、「技術云々ではなく、本当にもう気力だけだった」(澤野)という壮絶なものに。そして、5m17。澤野が失敗したのちに、山本がこれをクリア。8回に及んだジャンプオフに終止符が打たれ、山本の初優勝が決まったのだった。

 

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さて、ここから先は後日談。
競技終了時点で内定できなかったため、選考は大会終了後の理事会まで持ち越され、その結果、棒高跳のロンドン五輪代表は山本のみが選出、澤野の五輪3大会連続出場は絶たれた。3位に終わった荻田は、日本選手権で代表争いの土俵に最後まで残れなかった無念を募らせた。そして、オリンピック出場を果たした山本も、初めての世界の舞台で力を発揮することができず、予選で記録なしという結果に終わってしまった。
しかし、3人はこの経験を、苦い思い出のまま終わらせることはしなかった。山本はオリンピックの悔しさを糧に大きく成長、2013年世界選手権で6位入賞を果した。2015年春に大学を卒業してトヨタ自動車の所属に。2016年1月には自己記録を5m77(室内日本新)まで伸ばし、エースとしての存在感を高めている。荻田は2013年・2015年と世界選手権に連続出場、ベスト記録でも5m70(2013年、2016年)と安定感を高め、山本・澤野に勝つ試合も増えてきた。そして、この敗戦のバネに、2大会ぶりの五輪出場に向けて現役続行を決めた澤野は、故障による2015年の休養も乗り越え、2016年シーズンに入って5m62を筆頭に5m60を2回クリア。山本・荻田には全勝し、11年ぶりの自己記録(5m83)更新も見据えつつ、第100回日本選手権を迎えようとしている。
4年の時を経て3者が相まみえる第100回大会。男子棒高跳決勝は、大会初日の6月24日、17時に競技が開始される。(※敬称略、所属は当時のもの)

 

(文:児玉育美/JAAFメディアチーム)

 

 

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第100回日本陸上競技選手権大会は6月24日~26日の3日間、名古屋市パロマ瑞穂スタジアムで開催。

リオデジャネイロ五輪代表選手選考競技会を兼ねた本大会をぜひスタジアムでご覧ください!

 

<第100回日本陸上競技選手権大会チケット情報>  #100日本陸上

http://www.jaaf.or.jp/jch/100/ticket.html

 

 

 

写真提供:フォート・キシモト