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2019.07.26(金)

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~東京五輪ゴールド・プラン~】第9回「ダイヤモンドアスリート」の飛翔(1)

日本陸連が2015年に立ち上げた「ダイヤモンドアスリート」制度。U20世代を対象に、2020年東京五輪だけでなく、その先の世界大会で活躍が期待される選手を少数精鋭で選抜して強化育成するプロジェクトで、設立に大きく関わったのが当時強化育成部長だった山崎一彦ディレクター。「競技はもちろん、豊かな人間性を持つ国際人となり、今後の日本及び国際社会の発展に寄与する人材として期待される競技者」という理念の元に、第1期生として選ばれたのが男子短距離のサニブラウン アブデルハキーム(フロリダ大/当時、城西高・東京)や女子やり投の北口榛花(日大/当時、旭川東高・北海道)だった。2人ともその年(2015年)の世界ユース選手権(コロンビア・カリ、現・U18世界選手権)で金メダルを獲得し、サニブラウンは100m、200mを大会新記録で制した。男子走幅跳の橋岡優輝(日大/当時、八王子高・東京)は翌年ダイヤモンドアスリートに加わった2期生で、サニブラウンとは同学年。その年(2016年)のU20世界選手権は入賞を逃したものの、昨年の同大会(フィンランド・タンペレ)では金メダリストの称号を得て帰国した。

そして、「ダイヤモンドアスリート」の修了生となった3人の、今季の活躍が目覚ましい。20歳になったサニブラウンは100mで9秒97(+0.8)の日本新、200mでは20秒08(+0.8)の日本歴代2位。21歳の北口も5月に64m36を投げて日本記録保持者になった。4月のアジア選手権で優勝した20歳の橋岡は、日本記録にあと3cmと迫る日本歴代2位(8m22)。故障などもあり、それぞれ平坦な道のりではなかったが、今そろってまばゆいばかりの光を放ち始めている。

6月末に福岡市で開催された日本選手権では、2年ぶりに100m、200mの2種目優勝を飾ったサニブラウンと、63m68の大会新で初優勝の北口が最優秀選手に選出され、橋岡は3連覇。仲良くドーハ世界選手権の代表入りを決めた。「ダイヤモンドアスリート」の代表格とも言える3人が、ここまでどんな取り組みをして成長し、シニアの世界の舞台で羽ばたこうとしているのか。山崎ディレクターと2008年北京五輪男子4×100mリレーの銀メダリスト・朝原宣治氏(ダイヤモンドアスリート・プログラムマネージャー)を交えて話し合ってもらった。

●構成/月刊陸上競技編集部

●撮影/船越陽一郎

※「月刊陸上競技」にて毎月掲載されています。




(左上段から)
朝原宣治:ダイヤモンドアスリートプログラムマネジャー
山崎一彦:強化委員会 トラック&フィールド ディレクター
北口榛花(日本大学)
橋岡優輝(日本大学)
サニブラウンアブデルハキーム(フロリダ大学) 


 

日本選手権Ⅴでそろって世界選手権代表入り

──日本選手権、大変お疲れさまでした。選手の皆さんは、お互いに結果をどう見ましたか。

サニブラウン 毎日レースがあったので、忙しくて観てないです(笑)。

北口 私はハキームの試合、人が多くて観に行くのをあきらめました(笑)。橋岡の試合は観に行きましたけどね。

──6回目にトップにいる橋岡選手が1cm差に迫られた時、ドキドキしませんでしたか。北口 いや、全然(笑)。

山崎 選手はそんなもんですよね。各自、挑戦していますから。

橋岡 僕は大学で北口さんの1年後輩なんですけど、去年の日本選手権で北口さんがトップエイトに残れなくて落ち込んでいても、特に心配しなかったです。他のダイヤモンドアスリートに対しては、「結果的に(記録を)出すでしょ」という気持ちがあって……。今回、同じ2期生の江島(雅紀、日大/男子棒高跳)もちゃんと優勝しましたしね。そこは信頼しています。

北口 私の調子が悪い間に、橋岡が国際大会でメダルを取って帰って来た時も、「まあ、そうだよな」と思っていました。「それが普通だよな」って。ハキームが日本新を出した時も、「やっぱりね」という感じだったよね。

橋岡 「(9秒)97、出たね」って、グラウンドで話しました。「あんな過密なタイムスケジュールじゃなければ、もっと出るよね」と。

──今回のサニブラウン選手の活躍も、当たり前のように受け止めてましたか。

橋岡 そうですね。「自分もがんばらないとな」と思っていました。

──では、日本選手権の結果について、自己評価してもらいましょうか。

サニブラウン いいこともあり、悪いこともありの4日間でしたね。ただ、ケガしないで無事に走り切ったので、それが一番です。100m、200mの両方で代表を決められて、ひと安心というところです。

橋岡 僕も、とりあえず代表を決められたので良かったです。試合の内容としたら「やっちまったな」という感じですけど(笑)。

北口 私もやっと代表になれたので、ホッとしました。「もう1回、日本記録を更新できたかな」という思いはありますけど、まあ上出来だと思います。




「ダイヤモンドアスリート」に求めるもの


山崎 選手たちの話を聞いていて「いいな」と思いました。ここにいる3人はもちろん代表になるべき人材なんですけど、代表になるというのは特別なことではなくて、みんなの気持ちはもう「次、どうやって戦いたいか」という方に向いているんだと思います。

北口 私はこの後、積極的に海外の試合に出たいと思ってます。そう計画を立てています。

橋岡 僕はケガが治りかけなんですけど、世界選手権で結果を出すためにどうスケジュールを組めばいいのか考えてます。

サニブラウン 僕はやることが山積みなんで、早くフロリダに帰って練習したいですね。

山崎 そこらへんですよね。朝原さんもそうだったと思うけど、日本選手権で勝つことはオリンピックや世界選手権へ行くための手段で、勝ったと同時に次の舞台でどう戦うか考えていたと思います。だから、メディアの方々が日本選手権の結果について問うても、喜びにあふれた返事は返ってきません(笑)。



──そもそも「ダイヤモンドアスリート」というプロジェクトを立ち上げた経緯を少しお話していただけますか。

山崎 以前から「ジュニア世代はいいけど、シニアに行くと競技力が伸びない」と、よく言われてましたよね。そこがネックだとしたら、どうしたらいいのか。自分の経験も踏まえ、ジュニア期の強化育成担当になってから「それでは育たないだろう」と思ったのが、集団で合宿したり、集団で物事を考えたり、ということでした。その時はそれでいいんですけど、それはあくまでも外見だけで、人間としても競技者としても内面が絶対に大事。自立できて、自分の考えがあって、やることが決まっていて、視野が広くて、いつどんな時でも行動範囲が狭まらない。そういう人たちが、どういう道をたどっても競技者として全うしているし、その後のキャリアにも生かしているんです。

大人になってから選手の行動を変えるのは非常に難しい。適している年齢は高校から大学だと思い、陸連にしかできない育成のフラッグシップモデルを打ち立て、きめ細やかな教育プログラムが組めたらいいな、という発想から生まれたのが「ダイヤモンドアスリート」制度です。国際競技力を高めるだけでなく、「国際人になる」というのが大きなコンセプトです。理想と風呂敷は広げましたが、いざ実施するとなると資金面ですごく大変だったのですが、趣旨に賛同してくださった東京マラソン財団(スポーツレガシー事業)からリーダーシッププログラムの運営やダイヤモンドアスリートの海外挑戦にあたっての資金的なサポートをいただいています。また、ハキーム君は海外を拠点としながら活動するにあたって、JSC(日本スポーツ振興センター)の「有望アスリート海外強化支援」事業のターゲットアスリートとして2017年度からサポートも受けています。さらに、ダイヤモンドアスリートだけではないのですが、大学生を中心とした若い選手に向けては、安藤財団グローバルチャレンジプロジェクトを活用させていただくなど、海外遠征に役立たせてもらってます。

我々が技術的な指導をしたということはないんですけど、とにかく若い人たちが世界に羽ばたくためのマネジメントというか、選択肢の幅を少し広げて、ハードルを少し上げ最初の動機づけとして提示する。あとは本人たちがどう感じて、どう実行していくかです。「あれは要らなかった」というのがあるかもしれないですし。

サニブラウン 僕は高校1年の時に初めてダイヤモンドアスリートに選ばれて、オーストラリアへ合宿に行きました。自分で買い物したり、練習場へ自力で行ったり。食事も自分たちで作りましたね。振り返ると、今に生きてると思います。栄養講習〔栄養サポート・エームサービス(株)〕は繰り返し講義を受けることで頭にインプットされて、本当に良かったと思います。フロリダにも管理栄養士の方に来ていただき、近くのスーパーでの食材選びや、練習から疲れて帰ってきた時にでもできる簡易料理方法なども教えてもらいました。

北口 私はダイヤモンドアスリートプログラムや安藤財団グローバルチャレンジプロジェクトを利用して海外に行く機会を多く作ってもらって、フィンランドに3年連続で行きました。その後、ドイツにも行きましたし、去年からチェコですね。自分でそう簡単に行けるような場所ではないので、ありがたいことだと思ってます。お世話になりました。

山崎 英会話〔語学研修プログラム・(株)GABA〕の勉強は進んでる?

北口 1年目はきちんと受けたんですけど、テストに受からなくなって、少々めげてます(笑)。

橋岡 僕もダイヤモンドアスリートに選ばれて一番良かったのは、海外に何度も行かせてもらえたことですね。その中でいろいろ得るものがありました。

第9回「ダイヤモンドアスリート」の飛翔(2)』に続く…

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