
日本陸連競技運営委員会は2月11日、東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで「2025年度全国競技運営責任者会議」を、昨年と同様に対面とオンラインのハイブリット形式で開催しました。
競技運営委員会では、世界陸連(WA)規則に準じて日本の競技会運営に合わせた規則を制定しています。この会議は、近年は年に数回変更されるWA規則と、それに応じた国内規則の変更点を説明し、全国の競技会が規則に沿って正しく運営されるための理解を深めることを目的に、毎年実施されています。同時に、それが陸上競技の普及・発展、競技レベルの向上にもつながるものであることから、全国の競技会運営の担当者とともに研究を重ねる場でもあります。
会議の冒頭では、日本陸連の田﨑博道専務理事から挨拶がありました。
田﨑専務ご挨拶
「かつて、大阪世界選手権(2007年)の後、私たちは多大な労力をかけて総括を行いました。しかし、その知見を主催する競技会、特に地方や学校現場の競技運営に反映させ、継続的な進化というところにつなげていくことができなかったのではないかという反省があります。ですから今回は、『あの大会は特別だった』で終わらせてはいけません。昨年の東京世界選手権の経験を糧に、かつてそうであったように、それ以上に日本の陸上が世界をリードしていく時だと私は思います。今、その真価が問われているのです。日本陸連内では、各委員会の委員長、常務以上の理事・幹事によって、これまでにない集中検討を進めています。私たちの視座は、単なるルールの微修正ではありません。競技会システムを変えることで、日本の陸上を加速度的に進化させることを目的としています。すぐに取り組むこと、中期、長期のスパンで取り組むべきことを明確に切り分けていきますが、具体的には次の3点に注力したいと思っています。
1つは少子高齢化への対応です。AIなどの先端技術の導入による競技会の合理化、省力化。人員削減の具体的な策の検討をしていきます。
2つ目は審判員制度の統合です。WAと国内の制度をいかに統合していくのか。WRk競技会とそれ以外の競技会の運用を、どのように標準化していくのかを検討していく必要があります。
3つ目が競技カレンダーの再構築です。暑熱環境下から選手を守るということはこれを喫緊の課題とし、育成年代を中心としたあるべき競技日程の見直しを進めていかなければなりません。
ここで、皆様に強くお伝えしたいことがございます。それは本当の「知」は現場にこそあるのだ、ということです。日々、グラウンドで選手と向き合い、実際に競技の重責を担っておられる皆様にしかわからない気づき、違和感。これこそが日本の陸上を、より良くするための唯一にして最大のヒントだと思います。
私が危惧しているのは、我々が悩みながらもたどり着いた新たな指針。これが現場の『これまで通り』という慣習に飲み込まれてしまうことです。しかし、それを打破できるのもまた、現場にいらっしゃる皆様1人ひとりだと思います。皆様こそが変革を実現する唯一の担い手。これまでのやり方を前提にするのではなく、自らの手で運営の形を最定義していく、その誇りと自信を持っていただきたいのです。皆様の知恵と勇気がなければ、世界をリードする日本の陸上は実現しないと思います。
具体的な一歩として、2027年4月から新しい公認審判員制度の導入を予定し、それに向けての検討をしています。これに伴い、審判員の審判手帳、審判員章/証なども含め、あらゆるものが新しく生まれ変わるという可能性もあるわけです。主語を組織や管理ではなく、生徒の命、未来、そして日本の陸上の進化というところに置いた時に、私たちが今日から何をすべきか、答えはおのずと見えてくるはずです。
繰り返しますが、皆様が現場で培ってきた知が陸連の財産であり、新たなエネルギーを生たす源泉です。今日のこのミーティングが、歴史的な変革の一つのスタートになってほしいと思います。実りある議論をよろしくお願いします」
2026年度における競技規則改正について

会議は、2026年度競技規則修改正提案からスタート。競技運営委員会の片岡裕介委員から、WAの規則変更に伴う国内競技規則の変更点について説明がありました。
大きな変更点としては、その変更の方式です。これまで、国内における競技規則の変更は基本的に1年に1度とされてきました。しかし、WAは近年、1年に複数回の変更を実施しており、昨年は6回の変更がありました。国内競技規則は基本的にWAが定めるルールを採用しているにもかかわらず、変更のタイミングにおいてズレが生じている状況があります。そのため、今後は日本でもWAの変更に対応した手続きを取り、変更点は随時、日本陸連HPにて示していく方向で調整していくという方針が示されました。
WA規則からの変更点については、世界記録対象種目として男女混合4×100mリレーが、日本記録・公認記録対象種目として300mハードルの国際規格・国内規格の区分が新たに設けられました。
300mハードルは、国内では育成を目的にU20、U18のカテゴリーで、2018年度から実施されています。その規格はハードルが8台、スタートから1台目は45m、ハードル間35m、最終ハードルからフィニッシュまでが10mで、ハードルの間隔は通常の400mハードルのものと同じです。一方で、シニアでも実施しているWAの規格は、ハードルが7台。ハードル間はスタートから1台目を50mとし、ハードル間35m、最終ハードルからフィニッシュは40mと、通常の400mハードルと同様の位置にハードルが設置されます。そのため、WA規格を「国際」とし、シニア・U20・U18を公認。従来のものは「国内」としてU20・U18のみを公認とします。なお、今年の国民スポーツ大会、およびU18・U16大会は「国際」規格で開催予定とのことです。
混成競技において「1回目が不正スタートだった場合、2回目以降での記録をどう扱うのか」について、2回目以降のスタートで出された記録は、世界記録(日本記録)としては認められないと明確化されました。ただし、1回目で不正スタートをしていない競技者が、2回目以降のスタートで世界記録(日本記録)を出した場合は認められることになります。なお、いずれの場合でも個別種目としての記録は「公認記録」としては認められます。
競技用靴規程におけるシューズの扱いについて、基本的にはWAから承認を受けたシューズを着用しなければならないとされています。承認されるためには細かなルールがありますが、各競技会の主催者はそれについて細かくチェックする必要はなく、承認されたシューズかどうかだけを確認すれば良いということが改めて示されました。ただし、駅伝についてはWA規則に明文化されていないため、新たに駅伝のソールの厚さも「道路競走種目と同じ40mmとする」という国内規則が追加されました。ただし、「競技レベルに応じて主催者が適用・非適用を判断することを妨げない」と付記。大会の規模(全国につながるものかどうかなど)、ソールが厚すぎるシューズ着用による転倒の危険性などを踏まえ、主催者が考慮できる余地を残す内容となりました。
また、招集所での事前チェックは必要ないとされ、疑義があった場合に競技終了後にチェックを行うと明確化されました。主催者判断で事前チェックをすることは「妨げない」とされましたが、承認シューズリストに記載があるかないかのチェックにとどめるべきとの方針が示されました。
>>参考:2026年度競技規則修改正案
内側のラインは「全体の動きを捉える」こと
昨年の日本選手権400mにおいて、内側ラインを踏み越えたとして一度は失格となったものの、その後の確認により踏み越えていないと判定が覆った事例を受け、「ラインを踏むとはどのような状態を指すのか、また判定時にどこに着目して観察すべきか」が明確化された。まず、以下の場合は失格にはなりません。
・レーンで行う種目
曲走路で自身のレーンの左側の白線、走路の境界を示す内側の縁石や白線に1回(1歩)だけ触れた場合
・レーンで行わない種目(途中でオープンになる種目も含む)
曲走路で走路の境界を示す縁石または白線を1回(1歩)だけ踏んだり、1歩だけ完全に越えたり(内側に入ったり)した場合
失格になるのは以下の場合です。
・レーンで行う種目
ラインや縁石を1回(1歩)でも完全に踏み越えた場合、ラインや縁石に2回(2歩)以上触れた場合
・レーンで行わない種目(途中でオープンになる種目も含む)
ラインや縁石を2回(2歩)以上踏んだり、完全に踏み越えたりした場合
なお、同一種目でラウンドがある場合、次ラウンドに繰り越します。例えば予選で1回(1歩)だけ触れていた場合、決勝が1回(1歩)だけだったとしても累計2回(2歩)となり、失格となります。
前述の選手の場合、写真の一場面を切り取ると左側のラインを踏み越えている場面もありますが、接地の一連の流れを見るとラインを踏んでいる場面があるため、「踏み越えている」とはなりません。注釈として、次の一文が追加されました。
TR17.3 注釈
曲走路の内側を踏んだかどうかの判定は、一歩の中で接地から離地までの間に一瞬でも内側のラインに触れていれば違反とは見なさない。一歩の動き(接地から離地まで)をよく監察する必要がある。
このように、写真だけでなく映像を用いて「動きを捉えること」が重要であり、審判長は主催者の判定映像に加えてチーム(競技者)提供の映像も材料として、監察員からの報告と合わせて判断していくことが求められます。
>>参考:第109回日本選手権大会・男子400m決勝の競技結果の訂正について
落としたバトンを拾うためにレーンを離れた後の動き
リレー種目でバトンを落とした場合、これまでは「バトンを落とした地点で落とした競技者がバトンを拾い、落とした地点に戻って競技を継続する」ことが求められていました。今回の変更では、「走る距離が短くならなければ」という注釈付きで、バトンを落とした地点に戻らなくても良いと変更されました。「走る距離が短くならなければ」という点についての補足として、自身が割り当てられたレーンを走ることが前提となります。バトンが内側や外側に出た場合、バトンを拾い、自分のレーンに戻ってから走る必要があります。内側から斜めにショートカットするような戻り方は走る距離が短くなるのでNGです。
このほか、性別カテゴリーは「男性」「女性」の2つのみとすること、競技区分は「男子競技」「女子競技」「男女混合競技」「男女同時実施競技」の4つとなりますが、「男女同時実施競技」の結果は「男子」「女子」で分けることが必要になります。また、300mのシードレーンは200mと同じとすること、ハードル競技における失格事由の明確化(単にハードルを倒したり、移動させたりしただけではなく、そうしたことによって他の競技者に影響を与えたかどうかで判断)、男女混合リレー(4×100m、4×400m)の走順を「男子-女子-男子-女子」に統一することなどが確認されました。
競技会における広告および展示物に関する規程の再確認
こちらについてはWAの規定に大きな変更はありません。ただ、医療用テープに関する規程が修正され、商品名/ロゴの表示のある医療用テープ、または一般的なテープの使用について、必ず「大会主催者の書面での承認が必要となる」という注釈が追記されました。また、WA競技規則には「広告コミッショナー」という役割が示されています。国内でも「広告規程の管理担当者」を任命することが推奨されました。規程違反があった場合にはイエローカード、悪質な場合は失格の対象となること。ただし、まずは注意を与えながら、改善を促す方法を目指すべきとの方針も示されました。
>>参考:広告および展示物に関する規定について
施設用器具委員会
施設用器具委員会からは、グループスタートのスタート位置の変更、ブレイクラインの考え方の変更、300mハードルのWA規格以降への対応、ショートトラックへの移行に関する対応など、競技規則、WAの競技運営方法とWA施設マニュアルとの整合を図る内容が示されました。特にグループスタートのスタート位置変更に関しては、WAの競技運営方法を取り入れ、ライン上の区切りを従来の代用縁石からコーンに変更することで、審判員の暑熱対策や負担軽減につながります。新たに計測をしてラインとブレイクラインに影響するラインを引き直した上で、検定を受けた競技場のみ実施可能となります。
公認審判員制度の改訂
「公認審判員制度の改訂」に向けた動きとしては、国際基準への対応を含む、よりわかりやすく整理された公認審判員制度を目指し方針を示されました。2027年4月の新制度開始を目標に準備を進めていく予定です。東京世界選手権におけるビデオ判定や、スタートにおける事例なども紹介された全体会議を終えた後は、競技カレンダー・記録に関してと、審判員制度に関しての分科会が実施。秋に愛知・名古屋で開催されるアジア競技大会の準備状況の説明などが行われ、会議は閉会となりました。

文:月刊陸上競技
【競技運営委員会】
>>https://www.jaaf.or.jp/about/resist/technical/
▼2025年度全国競技運営責任者会議 報告書
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202603/09_190219.pdf
▼2025年度全国競技運営責任者会議 議事録
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202602/26_181232.pdf
▼JAAFが定めている記録用紙などの様式
https://www.jaaf.or.jp/about/resist/athleticclub/form/



























