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2026.01.05(月)その他

東京2025世界陸上競技選手権大会 総括報告(メディアブリーフィングレポート 2025.10.30)



日本陸連は、10月30日、東京都内において、記者会見方式でのメディアブリーフィングを実施しました。今回のブリーフィングのメインとなったのは「東京2025世界陸上競技選手権大会」についての日本陸連としての総括です。このほか、8月のメディアブリーフィングにおいて説明を行った「育成年代の競技会開催ガイドラインの検討」の進捗等が報告されたほか、11月29日に開催した100周年記念イベントの概要が紹介されました。
ここでは世界選手権総括を中心に、その概要をご報告します。

>>育成年代における競技会開催ガイドライン検討の進捗、および創立100周年記念事業について(メディアブリーフィングレポート 2025.10.30)


東京2025世界陸上競技選手権大会総括

最初に行われたのは、9月13~21日に、東京・国立競技場で開催された東京2025世界陸上に関しての総括です。ここでは、有森裕子会長、山崎一彦強化委員長、田﨑博道専務理事が順に登壇し、それぞれの立場で大会を振り返りました。


大会全体を振り返って/有森裕子(日本陸連会長)



私からは、大会全体を振り返って感じたことをお話ししたい。この大会は、6月に日本陸連会長を拝命した私にとって最初の大きなイベントとなり、個人的には選手時代の感覚と、日本陸連会長でありWA(世界陸連)理事でもあるという自身の現在の立場が混在したような状態で対応することとなった。


◎「夢のような大会」
大会についての一番の感想は、本当に夢のような大会だったということ。競技場が毎日、観客でいっぱいとなるなかで行われた陸上競技大会。あの風景は、今まで陸上競技に携わってこられたメディアの皆さんも、日本では見たことのない光景だったのではないかと思う。一人ひとりが人間として感動する場面を、9日間つくってくることができたと思っている。

1日平均7万人くらいとなった観客の方々を動員できたのは、アスリートの頑張りももちろんだが、それを報道してくださったメディアの方々、支えてくださった組織委員会の方々や運営に当たってくださった方々など、多くの方々の事前の努力や現場での尽力が毎日途切れることなく続いた賜物であると感じている。それは、私自身も選手のころには見えなかった、気づくことができなかった現場における本当に細部に至る各場所での、たくさんの人たちの働きがあってのことで、それがあるからこそ、このような大会を開催できるのだと改めて実感することができた。

そのような感想を持ったのは私だけではなく、大会後に話す機会があったアスリートたちからも、さまざまな場面で聞くことができた。アスリートたちは、ある意味、同じ会場でありながら、(コロナ禍の影響で)無観客で開催される形となった2021年の東京オリンピックと比較もしながら、今回の東京世界陸上がどれほど素晴らしいものであったかを、心底感じることができていたのではないかと思う。実際に、「あの場に立っただけで感動しました」というアスリートが多く、その感動を大きな力に変えることで、どれだけの選手が頑張れたのかという点でも、観客の皆さまはもとより、かかわったすべての方々に感謝したい。


◎選手への課題、陸連としての課題
ただ、この世界陸上が、なぜここまで多くの方々に関心を持っていただけたのかを考えるときには、単に「頑張ったよね」というだけでないことを、私たちは真摯に受け止めなければならない。大会があれだけ盛り上がったのは、「想像のつかないアスリートの姿」や「世界のレベルの高さ」というものがあったから。そこに日本の選手が、どれだけかかわれていたのか。厳しい言い方になるが、そうした視点で現実的に考える必要がある。そういう意味では、これを機に、いかに選手たちが、常に世界と戦うイメージを持って日々を過ごしていけるか、そして世界にどんどんチャレンジし、体験・体感するかが大事になってくる。また、そうした意識をどれだけ育てられるか、機会をどれだけつくれるかが、組織として大事になってくると改めて思った。現実問題、世界はすでに、日本の選手が世界を見据えて強くなっていかなければ、世界大会も招致できないくらいのレベルになっている。それだけに、今回の世界陸上を大きなきっかけとして、次なる現場をどう盛り上げ、どうつくっていくかは、私たちはもちろん、大会を経験したアスリート、そしてそれにかかわった人々、さらにはアスリートOB・OGやメディアの方々と一緒に、しっかり考えていく必要がある。

また、今回の選手団のなかには、これが初めての世界大会出場となる選手も多数いた。競技後のコメントや報道されている内容などを見るなかで、そうした選手たちが、国内大会では通用した「自分らしく」「自分のペース」という戦い方が世界では通じないことや、それができたとしても、勝負につながらなければ意味がないのだということを体感できたのではないかと考えている。そうした点を、組織としてどう評価するのか。しっかり方向性を打ち出し、ときには「いや、それではダメなんだ」と、厳しくやっていくことも必要だと感じている。


◎新たに気づいた「陸上」の魅力
また、一方で、この大会によって、陸上界に入りすぎていた立ち位置では見えてこなかった陸上の面白さや興味の持たれ方に気づくこともできた。
一つは、普段は特別陸上に関心があるわけではない方々が、大会が始まってから「行きたい、(チケットを)買いたい」と購入する例が増えていく現象があり、いざ、観戦してみたら「すごく楽しんだ」「面白かった」という反響があったこと。

私は、そういった方々は、自身の運動会を思い出したのではないか。大人になって忘れかけていた、全力で身体を動かして競い合うとか、競争のなかで盛り上がり、頑張り、楽しむという運動会で経験した感覚や高揚した気分を、あの会場で無条件に感じることができたのではないかと想像していて、それゆえに日本代表選手だけでなく、会場で見るものすべてに対して応援する気持ちが生まれ、「楽しい」「面白い」という感情を生む現場になったのではないかと考えている。

そして、私たちは、そうした「陸上の面白さ」を、まだまだ見せることができておらず、今後、もっと多くの人々に見て、感じてもらえるのではないかと感じた。今までの競技会で見せてきたもの以上に、もっとさまざまな角度から、いろいろなスタイルで大会をつくり、見せていくことができるはず。そういった可能性の気づきにもなった。
もう一つは、私は今まで、「トラックアンドフィールドの競技会では、複数の種目が同時進行するために、何か一つに集中させて見せるのは難しい、会場を盛り上げるのは難しい」という考え方をしていたのだが、前述したように観戦に来た新しいタイプの方々の声から、違う視点が持てるようになったことである。それは、「陸上って、お得だね。会場に行けば、いろいろな競技が見られるんだね」というもの。私たち関係者としては、一つに集中させられないことが、陸上が受けない要素なのかと考えていたのだが、その言葉を聞いて、「そうか、いろいろなものがたくさん見られる楽しさというのも、陸上の魅力を知らしめる伝手になっていくのかもしれない」と気づくことができた。

世界陸上で得た、そうしたいろいろな気づきを、これから生かして現場をつくっていけたらと思っている。来年には、名古屋でアジア大会が開催される。また、その前には、日本国内最高峰の位置づけとなる日本選手権があり、選手たちにとっては、この大会が、今回の世界陸上から何を学び、どう自分に落とし込んだかを見ることができる最初の大きな舞台となる。私たちは、選手たちがそうした緊張感をもって臨んで力を発揮し、そしてアジア大会へとつなげていけるような流れをつくるべく、しっかりと役割を果たしていきたい。


強化委員会として/山崎一彦(日本陸連強化委員長)



強化としての総括は、大会会期中(中間総括:https://www.jaaf.or.jp/wch/tokyo2025/news/article/22775/)と大会最終日( https://www.jaaf.or.jp/wch/tokyo2025/news/article/22827/)に実施しているので、ここでは、大会後に行った分析において更新した内容を中心に話を進めていく。
今回の世界選手権にあたっては、「複数年にわたり、世界で活躍できる確固たる実力をつける」ということをテーマに、ここ数年ずっと取り組んできた。その意識を汲んでくれた選手たちが入賞、またはメダルに届いていると思っている。今回は、メダルは銅が2で、入賞はメダルを含めて11ということで、プレイシングテーブル(入賞1~8位までを8~1点で集計する国・地域別順位)が16位(32ポイント)となった。私たちは、2028年のロサンゼルスオリンピックで世界トップ8を目指しており、それを実現するためには50~60ポイントが必要であるため、そこからみると、まだまだという状況ではあるが、日本は近年の世界大会で11~16位あたりを推移しており、比較的安定した成績を残しているということができる。今回も、“地元”ということだったが、選手たちは概ね活躍してくれたと考えている。


◎日本としての「底上げ」を実感
世界選手権会期中の総括でも話をしたことだが、この大会の選考にあたっては、まず、参加標準記録を切っていくということを目指した。WAワールドランキングでターゲットナンバー内に入ることでなんとか参加者を増やそうとした従来よりは、“まず戦う”というところの尺度として、ワールドランキングでは15~20位あたりに相当する参加標準記録を目指すこととした。

また、賛否はあったものの、一部設けられていた開催国枠については、それらをすべて使うのではなく、「開催国枠エントリー派遣設定記録」として独自の派遣設定記録を設け、そこに到達した者をエントリーするという方法を採った。この記録を“高い”とするのは、逆にみると私たちが世界から見て低いレベルにあったということでもあるので、それをクリアする選手が多く出たことは、日本にとっての一つの成長であったと思っている。

前回の日本開催であった2007年大阪世界選手権のときの日本チームの印象は、なかなか戦えなかったというのが正直なところで、私もコーチとして参加したが、焦燥感を覚える日々を送った。それもあって、この東京大会では、その二の舞にはなりたくないということを私自身も監督として一番考えていた。しかし、そのなかで選手たちは、今までの日本選手にはなかったような活躍を見せてくれた。例えば、井戸アビゲイル風果(東邦銀行)は開催国枠での出場だったわけだが、準決勝に進出する素晴らしい結果を残している。この様な、(全体のレベルの)底上げという点でも、この東京大会を機に、“強い日本”を期待できる選手たちが出てきたと評価している。


◎大会結果の分析から
今大会の結果を分析すると、2024年パリオリンピック、2023年ブダペスト世界選手権と同じような形で推移していることがわかった。まず、入賞レベルを挙げると、トラック種目の男女では、自己記録に約97%、シーズンベストには約99%の記録をマークした選手が到達している。つまり、世界レベルの選手たちも、今季最高レベルの状態で臨めていないと入賞はできないという状況であったことがわかり、高精度化しているここ数年同様に、高いパフォーマンスが求められているレベルとなっていた。フィールド種目に関しては、入賞者は、男女ともに自己記録達成率は97%近く、シーズンベスト達成率は98%近くとなっていたが、こちらは、ワールドランキングの順位が高い選手、ひとケタ台の選手が入賞しているということで、女子は7位前後、男子は9位ということであった。これは以前にも説明したことがあるが、世界の競技会…ダイヤモンドリーグ等でランキングポイントを加点しているような人々が結局はファイナルに残っていることを意味する。つまり、フィールド種目の場合は、参加標準記録を切るレベルであっても入賞できるわけではなく、年間を通じて結果を残している実力のある選手が入賞しているということを示している。女子やり投の北口榛花(JAL、ダイヤモンドアスリート修了生)に関しては、ランキング順位は高いところにいたものの、今回はケガがあったということで、残念な結果に終わったという状況であった。


◎掲げてきたコンセプトの妥当性を確認
その北口やサニブラウンアブデルハキーム(東レ、ダイヤモンドアスリート修了生)など、今大会での活躍が期待されていた選手が残念な形に終わる例もあったが、一方で、彼らは、ダイヤモンドアスリートになってからこの12年間、陸上界の顔として、陸上界を引っ張ってきてくれた。今大会の観客動員数や注目度の高さは、まさにそのおかげといえる。つまり、「複数年にわたって確固たる実力を出す」という意味では、彼らの貢献は非常に大きい思っている。

今大会の2つのメダルは、どちらも競歩種目で獲得した。男子は、ベテランの勝木隼人(自衛隊体育学校)が大会1日目の最初の決勝種目として実施された男子35km競歩で銅メダルを獲得。この結果は、チームジャパンのムードを高めただけでなく、「世界陸上」への興味・関心を高めることに大きく貢献したといえよう。また、女子20km競歩では、北口、サニブラウン同様、ダイヤモンドアスリート修了生である藤井菜々子(エディオン)が、日本女子で史上初となるメダル獲得を日本新記録で達成した。競歩の場合は歩型判定という特性があるため、国内外を問わず国際競歩審判の適正なジャッジを受けることが常となっており、いわば「国際基準」をスタンダードとする取り組みができている。また、世界競歩チーム選手権やWA競歩ツアーといった国際競技会が実施されており、現在日本のトップで位置する選手たちは、これらの大会で活躍している。その国際経験が生かされているといえる。

また、入賞者というところでいくと、ダイヤモンドリーグをはじめとして、海外の大きな大会を転戦して活躍しているような選手たちが、「あと少しでメダルが獲れる」というところまで来た。男子3000m障害物の三浦龍司(SUBARU)や男子110mハードルの村竹ラシッド(JAL)の結果は、今までの日本選手にはなかったような、「本当に惜しかった」という水準だったといえる。

大躍進ということでは、男子400mの中島佑気ジョセフ(富士通)。予選から自己ベストを出して、その後も、大会前の自己記録を上回る記録を連発して決勝まで進み、6位入賞を果たした。彼は、ケガの影響もあり今年は海外転戦をしていないが、海外を拠点に長期間トレーニングに取り組んできたなかで、レース前半で後れていても、後半でスピードを維持して順位を上げていくことができるという、今までの日本人にはなかったレースができている。それはやはり、海外で強豪といわれる選手たちと一緒にトレーニングした経験が、今回の「自分のペースで、きちんと力を発揮できる」という結果につながったと思っている。
こうした点から、私たちが掲げてきたコンセプトは間違っていなかったということで、今後さらに推進・推奨していきたいと考えている。


◎今後の方向性
今後については、改めて正式に詳しく発表していきたいと思っているが、来年の名古屋アジア大会はもちろんのこと、2027年北京世界選手権に向けて、そして最終的には2028年ロサンゼルスオリンピックに向けてということで、すでに動き出している。
そのなかで進めていこうとしているのは、U23の強化。今までにも海外へ出ていくことの推進や、安藤財団グローバルチャレンジプロジェクトの推奨はしてきたわけだが、さらに強化していきたい。そこでは、選手だけが海外に行くということではなく、指導者のほうも、コーチとしてさらに勉強していかなければならないという段階に来ていると考えているので、可能な限り指導者も、ともに研鑽できるような仕組みをつくりたい。国際水準でのコーチのネットワークのようなものを構築していければと思っていて、もうすぐ準備ができる状況にある。また、選手に関しても、海外派遣や海外トレーニングにおけるマッチングも含めて、具体的に取り組んでいきたいと考えている。

ここまで選考のプロセスについても、選手を裏切らないことが大切という思いでやってきているので、次世代に関しても、きちんとしたプロセスを踏んで、ロサンゼルス(オリンピック)に向かっていけるよう強化していきたい。


大会で得た経験や気づき、今後への展望/田﨑博道(日本陸連専務理事)



私からは大会全体を通じての経験や気づきを活かした陸連としての今後の取組の方向感を説明したい。

日本陸連としては、今年が創設100周年という節目に当たり、そのなかで開催された東京での世界陸上の成功が、日本陸上界全体の成長と発展につながる、つなげなければいけないと考え、これまで準備してきた。東京2025世界陸上財団としての正式な総括は2026年1月に予定されていると聞いている。財団の総括も踏まえて、世界陸上の気づきを活かし、今後の陸連の事業計画に反映させていくことが、本来の私の総括となる。少し時間が空くことになるが、本日のブリーフィングにおけるメディアの皆さんからのご意見も含めて、反映させていければと考えている。これから説明する内容は、その前提でお聞きいただきたい。

実際の大会の企画運営自体は、ご承知の通り、WAと世界陸上財団のコントロールのもとに行われている構図であった。我々は、開催国のNF(ナショナルフェデレーション)としての立ち位置で、WAや世界陸上財団、東京都やTBSをはじめとする多くの関係団体の皆さまとの密接な連携に務めながら、競技運営や広報・PR、ファンエンゲージメント(ファンとの間に構築される強い関係性)、機運醸成、チケットセールスなどで役割を果たしていこうと準備をしてきた。


◎競技運営面について
世界陸上の前のゴールデングランプリや日本選手権では、チケットの認証端末の導入や試用、MCの実践運用、国内開催の国際競技会で審判が務まるレベルと位置づけているナショナルアスレティックレフェリー(NAR)の配置、ボランティア体制の検証など、世界陸上本番を想定しながら、事前の主催大会においてトライをしてきた。実際の大会では、準備の遅れなども多少あり、また、エンターテインメント性を追求するWAのイベント運営方針により、急な変更も生じることになったが、東京オリンピックの経験を有する競技運営委員会の鈴木一弘委員長が、事前の段階から「日々、毎日、どのような要求が来ても、柔軟に対応できるようにする」を方針とし、その徹底もあって、想定を大きく超えるWAからのいろいろなオーダーにも、柔軟に対応することができた。WAのコンペティションディレクターから、「素晴らしい運営だった」という評価を受けたと聞いているので、そうした対応が功を奏したのだと考えているが、この経験を通じて、「国際基準のルールの理解が大事である」「国際競技会における実務に基づいた柔軟な対応力が常に試された」ということを強く感じる形となった。


◎広報・PR面について
広報やPRの観点では、大会10日前に東京スカイツリーをライトアップするイベントを実施。また、その翌日には、リアルでの壮行会や国立競技場での公開練習を実施した。実は、このような事前イベントをキックとして、ファンの皆さんや選手の皆さん、そして関係者の皆さんに、SNSを使って発信してもらおうという魂胆を持っていたのだが、その点については、事前のアナウンス等が十分ではなかった面もあり、大会前に期待していたほどのレベルには至らなかった。しかし、そうした形で事前の期待感を高めようということにおいて、いろいろな工夫に取り組んだ。


◎ファンエンゲージメント
本連盟のオフィシャルトップパートナーであるアシックスジャパン株式会社と連携し、国立競技場をサンライズレッドに染めるという視覚的な効果を狙って応援タオル4万枚を作成して、ゴールデングランプリ、日本選手権、世界陸上で配布した。また、大会をファンと一体となってつくっていこうということで、「国立満員プロジェクト」というものも立ち上げた。ここには、全国から3500件程度の応援メッセージをいただいている。実際には、会場は5万人を超える競技場であり、長い距離となるマラソンコースなどでは、さすがに「サンライズレッドに染める」という状況には至らなかったものの、競歩会場ではコース全体に応援タオルや日本の国旗を見ることができた。一体感を持った応援やあと押し、そういった空間をつくれたのではないかと考えている。


◎機運醸成、チケットセールスについて
機運醸成については、2024年3月から動き始めた。大会ロゴの募集、世界陸上のファン登録、ボランティアの募集、登録会員17万人へのメール配信、イベントブースの出展、大学陸上部のOB会の広報チラシや実業団チームの紹介のなかに入れさせていただくなど、思いつくものはすべて実施した。同年10月からは、世界陸上財団、チケットぴあ、東京都、TBS、そして日本陸連で「五者会議」と呼ぶ会議もスタートさせ、各者が持っているアセットをどれだけ使いきるのかという観点から、日々進捗を確認しながら販売スケジュールを組んでいくということも行った。

また、2025年1月には、関係者向けのチケット先行販売に合わせて4回ほど、延べ26万人にメール配信を行い、一般販売が始まったあとには128万人にメールで案内を配信することも実施した。陸連としては、直接連絡が可能な方々に、チケット販売情報やイベントのPR等をできる限り行い、機運醸成に貢献していこうと努力した。ここでは、「一体的に、波状的に」という言葉を用いてプランニングしている。

正直なところ、当初は観客の方々にどれだけ来場していただけるのかという不安もあったが、連日、テレビ放映の効果によりに満員になっていく状態となり、陸上に直接かかわっていない方たちも「あの空間にいたい」と当日販売でチケットを購入してくださった。そういう積み重ねが、62万人もの動員につながったと考えている。最終的な数字は世界陸上財団の発表を待つことになるが、売上げの目標は8月の修正対比でも60億円を超えていると聞いているので大成功であったと思っている。

実は、すでに今回の世界陸上の経験を、来年6月に名古屋で開催する日本選手権のチケット販売に活用すべく行動を起こしている。従来通りであれば、来年の春からの販売となるところを、「スーパー先行チケット」という名称で、10月16日から販売をスタートさせている。まだ競技日程も発表していないという状況にもかかわらず、3日間合計600席SS席が、販売開始3分で完売した。SSサイドバック席を含めると、10月29日時点で7600枚以上の購入をいただいており、世界陸上の効果が、ここにも利いていると受け止めている。


◎直面した新たな課題について
一方で、今回の世界陸上では、新たな課題にも直面した。一つは、WAが大会前の7月23日に承認した新たな資格規則に基づき実施された「女子カテゴリー出場選手に対するSRY遺伝子検査(Y染色体上にある性決定遺伝子「SRY遺伝子」の有無を調べる検査)」である。この新規則に関する陸連としての対応は、すでに8月末に実施したメディアブリーフィングで説明を行い、( https://www.jaaf.or.jp/news/article/22548/ )、事前に、本連盟としてのステートメントでも出した通りとなるが、世界陸上に出場するために必要な検査であるということから、選手の尊厳を守り、不利益が生じないように、該当するすべての選手に対して、規則と検査の重要性を十分に説明したうえで、信頼のおける検査機関を調整し、かつ一貫して専門家によるカウンセリングサポートが行えるような体制を準備したうえで、対象者に臨んでいただいた。

もう一つは、SNSを中心に深刻化している誹謗中傷の問題である。これについては、本連盟アスリート委員会やJOC(日本オリンピック委員会)、世界陸上財団等と連携して、対応に取り組んだ。9月1日に、アスリートを守るための声明を発表したうえで( https://www.jaaf.or.jp/wch/tokyo2025/news/article/22481/ )、大会期間を含めて、9月1日から30日までの1カ月にわたって、日本選手団に対してのモニタリングを実施している。JOCからも発表されているが、230件の当該投稿を抽出し、削除申請を行った。「声援を力にする」「決して誹謗中傷を許さない」といったメッセージを、広く届けることがとても大切で、選手が安心して競技に集中できる環境を組織横断的につくっていくということは、陸上だけでなく日本のスポーツ界にとって非常に意義のあることといえる。そういう意味で、この世界陸上で対応がとれたことは、一つのスタートになったと思うので、我々としては、それをさらに進めていきたいと考えている。


◎実施計画に「ストーリー性を持たせる」ことの必要性
このほかにも、世界陸上にさまざまな形でかかわったことで、多くの学びがあった。アスリートのモチベーションを高めて、観客の熱狂を生み出すという環境は、今回の世界陸上を経験したアスリートやファンが求めているものであるということに間違いはなく、応援する熱量をより高めるためには、メディアの発信だけではなく、ファンの皆さまから発信する動きを広げていかなければならないことを学んだ。
今後は、こうした環境や風土を日本に根付かせていくという挑戦になるが、まずは選手・関係者、ファンが、「自分ごと」として主体的に情報を発信できるように、イベントや選手の活動にストーリー性を持たせて、一貫したプログラムを進めていくことが必要であると考えている。こうした分野で実績のある方々や専門家の皆さんにも参加してもらいながら、2026年の名古屋アジア大会、2027年の北京世界陸上、2028年のロサンゼルスオリンピックまでを一つのストーリーとして捉え、国際競技会のカレンダーも重視した実行計画を策定し、それを推し進めていこうとしている。

まずは、来年のコンチネンタルツアーゴールドに位置づけられているゴールデングランプリ、そしてアジア大会日本代表の座を懸けて競う日本選手権における集客、イベントプレゼンテーションや事前のプロモーション、チケッティング等を、世界陸上で得られた経験を生かし、反映させながら進めていきたい。特にチケットセールスという点では、先ほど述べたような出だしとなっているが、今後もターゲット別に施策を定めながら、チケット販売そのものを観戦体験の入り口という位置づけとし、RIKUJOファンクラブや、チケット購入された皆さまとの関係をつくっていくことを取り組んでいきたい。


◎競技運営面における今後の取り組み
競技運営面というところでは、国際基準のルールの理解と、国際経験の蓄積に基づく柔軟な対応力が大切であることは、前述した通りである。世界基準と照らし合わせた審判資格制度の再設計、WAおよびアジア陸連主催レベルの国際競技会運営に携わることのできる審判の育成に、今後、数値目標も設定し、段階的にゴールを定めた計画をつくっていきたい。

これは、競技会の運営における日本のクオリティの高さを否定するものではなく、日本のクオリティを世界基準に反映させていくためにも、我々が進めていかなければならないことだと受け止めている。これまでにも、効率の高い競技運営と、「盛り上げていく」という大会運営の両軸で競技会を開始していこうという発想で、いろいろと取り組んできたわけだが、思うように進んではいなかったという実情がある。今回の世界陸上の経験を大いに生かして、来年度の日本選手権やゴールデングランプリといった主要大会に落とし込んでいきたい。

また、別の切り口からの説明となるが、今回の世界陸上で明確になった課題は、8月に実施したメディアブリーフィングで山崎強化委員長から「叩かれ台」として説明をさせていただいた目指すべき競技会システムのあり方、暑熱対策も含めた育成年代の競技会のあり方の論議についても、大変重要な要素になると思っている( https://www.jaaf.or.jp/news/article/22897/ )。

強化・競技運営・施設用器具の各委員長(山崎強化委員長、鈴木競技運営委員長、高木良郎施設用器具委員長)に加えて、内山副会長、青木常務理事、そして私・田﨑をまずは推進メンバーとして、科学、医事、さらには法制、財務などの知見も加えながら、今ある推進課題を明確にして、これも具体的にアクションプランを展開していく。

この件については、前回のブリーフィングで説明をさせていただいた。大変重い課題であるので、簡単には解決・実現できないことは承知のうえで、そのプロセスも開示することをお約束した。今述べた事柄も、その約束の一つである。これからまた、いろいろなタイミングで説明を行い、メディアの皆さんのご意見もいただきながら、目指すところを実現させていきたいと考えている。


◎陸上を「見に行きたくなるスポーツ」に
この世界陸上では、たくさんの声援が日本代表のパフォーマンスを大きくあと押しする素晴らしい大会となった。しかしながら、世界のトップアスリートが集って最高のパフォーマンスを繰り広げた今回の舞台は、まさに唯一無二のものであり、このような大会を日本において、同じレベルでの演出を再現するのは容易なことではない。国内大会の場合は、開催競技場の環境、開催地の地域陸協や行政の体制などがさまざまであるため、それぞれの条件を踏まえたうえで、大会ごと、イベントごとに、「何を目的にするのか」「何をもって大会としての成功とするのか」を、あらかじめ明確にし、その狙いに応じた運営・演出・集客を行っていくべきであると考える。華やかさや規模の大きさを競うのではなく、アスリート、観客、ステークホルダー、そして開催地域が、その大会に求めている価値というものを確かめながら最適な形を追求していくことが大切で、その積み重ねが、結果的に国内大会の魅力を底上げし、陸上を「見に行きたくなるスポーツ」へと押し上げていくことになるのだと私たちは思っている。

この世界陸上の熱気、熱量、気づきを財産として、次のステージにつなげていきたいと考えている。メディアの皆さんにも引き続き共に挑んでいただくことをお願いし、私の総括を終えたい。


>>育成年代における競技会開催ガイドライン検討の進捗、および創立100周年記念事業について(メディアブリーフィングレポート 2025.10.30)

※本稿は、10月30日に、メディアに向けて実施したブリーフィングの内容をまとめたものです。明瞭化を目的として、説明を補足する、構成を変えるなどの編集を行っています。
また、質疑応答での回答を、一部盛り込む形でまとめています。



文・写真:児玉育美(日本陸連メディアチーム)


【東京2025世界陸上 特設サイト】

>>https://www.jaaf.or.jp/wch/tokyo2025/

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