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2025.12.19(金)選手

【ダイヤモンドアスリート】第1回リーダーシッププログラムレポート②:サニブラウンアブデルハキームが語る「アスリートとしての社会貢献」



日本陸連が、国際レベルでの活躍を期待できる資質を持つ競技者を、中長期的・多面的なスタンスで強化・育成する「ダイヤモンドアスリート」制度。陸上競技を通じて豊かな人間性を持つ国際人となり、将来的に日本および国際社会の発展に寄与する人材の育成を期して、さまざまなプログラムを展開しています。第12期は、12月1日に東京都内で認定式が行われたのちに、最初のプログラムとなるリーダーシップ研修を、例年同様、メディア公開のもと実施。講師に、ダイヤモンドアスリートのOB(第1期生)として国際舞台で活躍しているサニブラウンアブデルハキーム選手(東レ、男子短距離)を迎えて行われました。

>>第12期認定式レポート&コメント
>>リーダーシッププログラムレポート①はこちら


研修には、同会場で行われた認定式・修了式に出席した第12期ダイヤモンドアスリートの中谷魁聖(東海大)・濱椋太郎(法政大)・古賀ジェレミー(東京高)・ドルーリー朱瑛里(津山高)の4選手と、同ダイヤモンドアスリート Nextageの松下碩斗(静岡高)・後藤大樹(洛南高)の2選手、そして、修了生の北田琉偉選手(日本体育大)の7名が出席。ゲスト講師として招かれたサニブラウンアブデルハキーム選手に加えて、2004年アテネオリンピック女子ハンマー投代表の室伏由佳ダイヤモンドアスリートプログラムマネジャー、そして、日本陸連アスリート委員会委員長で、認定式・修了式において認定アスリートを発表した男子走高跳日本記録保持者の戸邉直人選手(JAL)も臨席。いずれも豊富な国際経験を有する豪華な顔ぶれが揃ったなかで進んでいくことになりました。


社会貢献への意識が、アスリートにもたらすもの



続いて、話題は変わって、「アスリートと社会貢献」というテーマに話が進むことになりました。サニブラウン選手は、小・中・高校生を対象にした競技会「DAWN GAMES(ドーンゲームス)」の発案・運営や、陸上教室やトレーニングキャンプの開催などを通じて、育成年代に陸上の魅力や楽しさを伝える機会を設けているほか、グローバルパートナーシップを結ぶ東レとともに社会課題の解決につながるプロジェクトに参画するなど、さまざまな形で社会貢献活動に取り組んでいることでも知られています。

田原コーディネーターから、「具体的にどんな活動をしているのか、どんな思いで取り組んでいるのか」という問いにマイクを持ったサニブラウン選手は、「その話をする前に、みんなに一つ書いてもらおうと思います」と述べ、ダイヤモンドアスリートたちに、「皆さんの“スポーツにおいて、一番大事なもの”は何かを書いてみてください」とリクエスト。そして、自分の種目というよりは、スポーツ全体に対しての思い。「“スポーツとは何か”ということになると思う」と、ヒントを出しました。





これに対して、各選手が書き込んだフリップには、「人と人のつながり」(古賀)、「楽しむ事」(ドルーリー)、「楽しいから、好きだから」(濱)、「自己表現」(松下)、「楽しむ気持ちと楽しませる気持ち」(中谷)、「つながり」(後藤)、「支えてくれる人」(北田)という言葉が並びました。
それぞれの言葉を見ながら、「ああ」「なるほど」と相槌を打っていたサニブラウン選手は、質問の意図を問われると、「特に正解はあるわけでなく、単に、みんながどう思っているかを知りたかったので聞いてみた」と答えました。
そして、自身が社会貢献を考えるようになったきっかけや、社会貢献活動に取り組む意義を、次のように話しました。



東京オリンピックを経験したことが大きい。この大会は、(新型コロナウイルス感染症拡大の影響で1年延期されたうえに、無観客開催となり)観客の皆さんが会場に来ることができず、会場で直接お会いすることができなかったし、そこに至るまでは、「スポーツとは何か」をものすごく考えされられる時期でもあった。その経験は、自分が社会貢献を始めるきっかけとなっている。

・また、大学のときの授業で、現役の学生アスリートを集めて「競技を余儀なく引退しなければならない状況になったアスリートを呼んで話を聞く」という機会があった。授業としてのテーマは、セカンドキャリアを考えているのかというもので、そういう人から、自身の境遇やどういう苦労があったかなどの話を聞いたのだが、そのなかで、「こういう社会貢献の活動をしてきたから、アスリートとしてのキャリアを余儀なく終えることになっても、そこからつなげていくものがあった」と話した選手たちがいて、それがとても勉強になった。「じゃあ、スポーツって、何が一番大事なのだろう?」と考えたら、「やっぱり観客の人たちがいて、サポートしてくれる人たちがいて、応援してくれる方々がいてこそのスポーツなのだな」ということをすごく感じた。

・もちろん、(競技)結果で返すことは、ものすごく大事。だけど、こうした考えから、「結果以外で何かできることはないのか」ということで、子どもたちと陸上教室をやったり、何人かを直接合宿という形で呼んで1対1で話をしたり一緒に練習したりする機会をつくっている。(ダイヤモンドアスリートの)みんなのような世代の子たちが一番可能性を持っているし、もっともっとチャンスをあげたいなという思いがある。

・自分たちアスリートが結果を見せて、陸上競技やスポーツのすごさを見せることも大切だが、未来を担っているのは、今、ここに座っている(ダイヤモンドアスリートの)みんなであり、自分たちの背中を見て育っている子どもたち。競技で見せる以外でも、本当に小さい、一瞬の出来事やつながりかもしれないけれど、そこから実になって、陸上競技に限らず、スポーツで、社会に出て輝いていく人間が出てくるかもしれない。そういうチャンスを少しでもあげられたらと思っている。自分が、現役で競技をやっている今だからこそ与えられる影響もあると思うので、そういう活動に今、取り組んでいる。



こうした経緯や思いを聞いた田原コーディネーターは、「いつか競技を引退したあと、異なるキャリアに進んだとき、やってみたいことはあるか?」と質問。これに対して、サニブラウン選手は「陸上に限らないことだが、まだまだ日本は、海外と触れ合う機会がすごく少ない。一方で、スポーツの力は、世界のどこでもすごい範囲で広がっている。“自分が何をやっていけるか”を考えたときには、スポーツの力を使って何かをしていきたい」と答えました。そして、「例えば、日本で練習している子たちを海外へ連れていって、海外を経験させるとか、逆に海外で生活している日本の子どもや海外の子どもたちを、スポーツの力によって、日本にいる人たちとつなげてみるとか。最近は地域活性化にスポーツが使われるようになっているが、自分なりに、スポーツの力を使って、いろいろなものをつなげていくような働きかけができたらと思う」とコメント。すでに、そうした競技を終えたあとのことを意識しながら、現在の活動に取り組んでいることも明かされました。


ダイヤモンドアスリートたちが考える「自分がやってみたい社会貢献や国際貢献」

サニブラウン選手の社会貢献に対する思いを共有したところで、田原コーディネーターはダイヤモンドアスリートたちに、「セカンドキャリアというと、なかなか考えづらいかもしれないが、“ほかの人のために何ができるか”や“社会のために何ができるか”は、皆さんの持っている価値を共有するという意味でも、とても大事な活動だと思う」と呼びかけ、最後の質問として「社会貢献や国際貢献をするために、自分がやってみたいと思うこと」の提示を求めました。
ダイヤモンドアスリートたちが記入している間に、「トップアスリートの社会貢献」について質問された戸邉選手は、所属先の日本航空でアスリート社員が全国で開催する「JALアスリートアカデミー」への参加や、日本陸連アスリート委員会として実施した能登半島地震復興支援の募金活動やチャリティに取り組んでいることを挙げたほか、東京2025世界陸上財団の理事として大会運営にかかわったこと、来年開催される名古屋アジア大会にも理事としてのかかわっていることを説明しました。ちなみに、戸邉選手は、日本陸連のアスリート委員長だけでなく、JOC(日本オリンピック委員会)やOCA(アジアオリンピック評議会)でもアスリート委員会の委員を務めています。
戸邉選手は、こうした活動に取り組むことが、「スポーツの価値というものを考える機会」になっていると述べ、「スポーツの価値はいろいろあるが、そのなかでも、“スポーツが社会に与えられるポジティブな影響”というのは、その価値のなかでもすごく重要な部分だと思う」と経験した者ならでの“肌感覚”で、その重要性をコメント。そして、「こういった社会貢献は、現役の僕たちもそうだし、ダイヤモンドアスリートの皆さんも、アスリートとしてできることがたくさんある。若い今の段階から、いろいろと考えて、こっち(社会貢献)でも目標とか、夢とか、野望(笑)を持って、活動していっていただけたら嬉しいなと思う」と話しました。
そして、ダイヤモンドアスリートたちは、「自分がやってみたい社会貢献や国際貢献」を次のように発表しました。


◎後藤大樹「クラブチームの活発化」

自分は小学生からクラブチームで陸上をやっていたのだが、陸上を「習うもの」として認識することが、サッカーや野球に比べて低いと感じている。かけっこ教室などは単発であるものの、習い事として陸上を習う、ハードルを習う、長距離を習うといった感覚がないと思うので、クラブチームとかで、習い事として、陸上を活発化できたらいいのかなと思う。



◎松下碩斗「陸上教室」

後藤くんと似ているが、陸上の教室をしっかりやってみたいと思う。理由としては、僕は年長(5歳)から陸上をやっていて、すごく昔から走る楽しさを知っていたから。(将来的に)陸上をやらないとしても、小さいころに走ることで自分を表現すると人とのつながりもできると思う。小さい子たちに陸上の楽しさとか、スポーツの楽しさを通じて、人とのつながりを持ってほしいと思い、陸上教室と書いた。



◎ドルーリー朱瑛里「世界と日本の架け橋となる」

私は、大学を(海外の)ワシントン大学に行くという決断をした。海外に行って、まず、自分の競技がどれだけ世界で通用できるのかを試して、そこでの自分の経験や考えを通して、日本と世界の架け橋になりたい。
心や身体、環境の部分で困ったり悩んだりすることは、勝つためにはとても大事になってくることだが、なかなかアプローチできていない部分も陸上界にはあると思う。自分が世界に挑戦し、そこで競技だけでなく、社会のことや世界のことを自分自身でいろいろと吸収して、そういった経験を伝えていけるようになりたい。海外に行くことで、日本の良さや悪さがわかると思う。そういったことを日本に生かして、日本の陸上界の底上げに役立ちたいなということを漠然と持っている。



◎古賀ジェレミー「陸上教室」

皆さんとかぶるけれど、自分も「陸上教室」。今月、ボランティアで、初めて自分が教えられる側でなくて教える側でやることになった。子どもがとても好きだし、これから一緒に戦っていく(ことになる)ライバルは、強いほうが自分の力になっていくと思う。そういう意味でも、陸上だけでなくスポーツ界全体で、こういう教室とかを開いたりすることで盛り上げられたらいいなと思っている。また、スポーツと関係ないことだが、コンビニでできる寄付など、自分に余裕があるときは協力するようにしている。些細なことでも集めたら大きなものになると思っているので、例えば、「ごみを拾う」とか、そういう小さいことをいっぱいするようにしている。



◎濱 椋太郎「途上国の子ども達に陸上という競技を教えたい」

今年の夏、ドイツに遠征へ行かせていただいたときに、レバノンの代表の選手と100mで隣のレーンになった。ドイツ国外から来ていたのが日本とレバノンだけだったので、通じていたかはわからないけれど(笑)、軽く話す機会ができた。レバノンのことは詳しく知らないけれど開発途上にある印象で、以前から、そうした国々では陸上をやっている人がどのくらいいるのか疑問に思っていたことあり、尋ねてみたら「やっている人は少ない」という答えだった。自分は、陸上という競技を始めて、とても楽しいという感情を持つことができたので、そういった国の人たちに、陸上が楽しいことを伝えられたらいいなと思う。



◎中谷魁聖「全国や世界の各地で競技を知ってもらう。そんな場を作る」

自分が競技をやっていて思うのは、陸上競技を知っている人が少ないなということ。特にフィールド種目…跳躍や投てきは、まずルールなのか、どういう競技なのかを全く知らない人が自分の周りにもいて、「もっと陸上競技を知ってもらいたい」と思うことがある。濱くんが話した、ほかの国の話にもつながるが、国内でも陸上を知らない人は意外と多いと思うので、もっと知ってもらえるように「そんな場を作る」ということも書いた。知らない人に教えるのももちろんだが、加えて、競技をしている人たち同士が、試合ではない場所でコミュニケーションをとる機会をつくるのもすごく大事だなと思っている。跳躍は、技術や個人の感覚が大切になってくるので、そういう意識や意見を共有・対話できる場があると競技的にも発展すると思うし、また、世界陸上やオリンピックの見方も変わると思う。



◎北田琉偉「ストリート ふれあいやすく」

韓国で、ストリートで、棒高跳の試合をした経験があった。たくさんの人が来てくれて、そのときの自分のモチベーションが、競技場でするのとは別の感動があった。陸上をやっている人は、動画やスタジアムの遠く離れた観客席から見るよりも、すぐそばで見るほうがすごい迫力があることを知っているからこそ、陸上を好きになると思うのだが、一般の人だとそういう機会がそもそもない。街の中で試合をやれば間近で見ることができるので、競技場にはない迫力を感じてもらえて、もっと好きになるのではないかと感じている。

こうした各選手の声を聞いたサニブラウン選手は、「本当にみんなちゃんと言語化できていて安心した」と、まずコメント。「いやあ、陸上界の未来は明るいですね」という言葉に、周りが笑い声をあげると、「冗談っぽく言ったけれど、本当にそう思う。似たようなところもあるかもしれないが、それぞれがしっかりと競技以外のところも考えていることが本当に素晴らしいと思うし、逆に、陸上競技は人生ずーっとやっていくわけではないので、そういう考えは、競技を終えてからのことにもつながっていくと思う。まだまだこれから先は長いと思うけれど、いろいろなものに挑戦して、いろいろなものに増えて、いろいろな人と話して、理想や夢、野望をつくり上げていってくれたらと思う」と期待を寄せました。


若いアスリートたちに伝えたいこと



こうして研修の時間は、あっという間に経過。締めの挨拶として、「ダイヤモンドアスリート、ダイヤモンドアスリートNextageに期待したいこと」を求められたサニブラウン選手は、ダイヤモンドアスリートたちに2つのことを呼びかけました。

・失敗を恐れずにチャレンジする
これから、競技人生もそうだし、競技以外でも本当に山あり谷ありの生活になると思う。でも、そのなかでも忘れてほしくないのは、チャレンジすること。失敗を恐れずにチャレンジすることを大事にしてほしい。ずっと成功し続けて、最終的にトップに残っている選手はいない。失敗を経験して、そこから学んで、また大きくなって、強くなって帰ってくる選手がほとんど。失敗を恐れずに、失敗をしたとしてもそこから学んで、成長して、また大きくなる。ひと皮ふた皮むけて成長した姿を見せる心を大事にしてやってほしい。

・横のつながりを大切にする
もう一つは、横のつながりを大切にすること。ここで横に座っている人たちが、将来、一緒に日本の国旗を背負って戦う仲間になるかもしれないし、競技以外で、さらには競技生活を終えて一緒に仕事をする仲間になるかもしれない。こういう小さいところでの縁やつながりが、将来、急に生きてきたりする。
そして、最後に、「1日1日、なんてことのない出来事であったとしても、振り返ってみたら、それがものすごく大きな出来事であったりするかもしれない。自分も頑張らなきゃいけない立場でもあるが、横のつながりや1日1日を大切にして、みんなと一緒に日本代表として戦える日が来ることを期待している」というエールを贈って、研修を締めくくりました。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト

【ダイヤモンドアスリート】特設サイト


>>https://www.jaaf.or.jp/diamond/
▼ドルーリー朱瑛里がワシントン大学への進学意思を発表!北口・澤田の背中を追いかけ、世界との懸け橋となる国際人へ
https://www.jaaf.or.jp/news/article/22996/

▼第11期Nextageの濱椋太郎、古賀ジェレミー、ドルーリー朱瑛里が第12期ダイヤモンドアスリートに認定!松下碩斗・後藤大樹はダイヤモンドアスリートNextageに新たに選出!
https://www.jaaf.or.jp/news/article/22969/

▼【ダイヤモンドアスリート】澤田結弥がルイジアナ州立大学への進学意思を発表!
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19220/

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