東京2025世界陸上競技選手権大会女子20km競歩が、大会第8日の9月20日に行われ、藤井菜々子選手(エディオン、ダイヤモンドアスリート修了生)が、1時間26分18秒の日本新記録で銅メダルを獲得しました。日本の女子競歩におけるメダル獲得は、オリンピック・世界選手権を通じて今回が初の快挙。1日目の男子35kmに続いて、競歩勢が2つめのメダルをチームジャパンにもたらしました。藤井選手の喜びの声を、ご紹介しましょう。
◎藤井菜々子(エディオン) ※ダイヤモンドアスリート修了生
女子20km競歩 決勝3位 1時間26分18秒 =日本新記録
――銅メダルおめでとうございます。今の心境を聞かせてください。
藤井:メダルを目指して、本気で取り組んできたことが、今日、結果につながって、本当に、純粋に嬉しいです。(2月に)日本選手権を優勝してから、この大会に向けては、実は4月末くらいから左膝に痛みが出て、5月に試合に出たあとは3週間ほど練習できない期間があったんです。でも、気持ちが落ち気味だったそのときに、「トップ選手とは?」ということを改めて考えたり、先月、川越さん(学、エディオン元監督、8月22日に急逝)のことがあったりして、そこで「絶対にメダルを取りたい」という気持ちに変わっていきました。そういう意味で、今回は本当に気持ちの大きさが(今までとは)違っていました。それが結果につながったのではないかと思います。
――どんなレースをしようと思っていたのでしょう?
藤井:ケガが回復してからは、練習がすごく順調で、今回は自己ベストが狙えるという練習ができていました。なので、必ず先頭集団でレースを進めていくと、スタート前から決めていました。それがうまくハマった感じです。
――(ライバルになる)トップ選手たちのことは、どう考えていた?
藤井:(大会1日目に行われた)35kmを歩いた選手もいるので、それらの選手たちは疲労もあるはず。そのなかで、(20kmのみに出場する)私には絶対にチャンスがあると思っていました。(U20年代のころからの)ライバルで、勝ちたい相手でもあるアレグナ・ゴンザレスさん(メキシコ、銀メダル)が35kmを棄権して(20kmのみに出場して)いたので、彼女をマークしながら、うまくレースを進めていくことができました。
――ハイペースになりましたが、そのなかでどう戦おうとしましたか?
藤井:ラップを毎回とって確認するつもりだったのですが、ほぼラップを見ずに進めていく形になりました。なので、自分がそんなに速いペースで行っているとは思っていなかったんです。ゴールしたあとに、日本記録というのを聞いて、「こんなに速かったんだ」と(笑)。最初の入り(1kmの通過は4分42秒)はゆっくりだったのですが、中盤で(ペースが)上がっていく感じがあったなかでも余裕がかなりあり、「これはまだまだ行けるな」ということで、先頭集団につきました。そして、どんどん先頭集団が絞られていったなかでも余裕があったので、「今までとは違うぞ」と思いながらレースを進めていました。
――先頭集団から離れかける場面もありましたが…?
藤井:あそこは、動きがちょっと固まってきたな、歩型が硬くなってきたなと感じていたので、「のびのびと歩きたい」という思いで、いったん(上位集団との)距離を置かせてもらいました。カーブをうまく使いながら、「切り替えよう」と心掛けました。
――最後、競技場に入ったときに、後続が迫っていたことは、どう感じていましたか?
藤井:実は、(パウラミレナ・)トレス選手(エクアドル)が来ているのは気づいていなかったんです。競技場に入る前に、(キンベルリ・)ガルシア(レオン)選手(ペルー)が来ていることは足音で気づいて、そこでちょっとギアを上げたのですが、競技場に入ってからは「もう(3位で)行ける」と思っていて…(笑)。で、フィニッシュしてパッと見たら(すぐ横に)トレス選手が来ていたので、「ああ、よかった」と思いました(笑)。
――レッドカードが2枚ついていたのは怖くなかった?
藤井:気がついたときは、「あ、2枚ついた!」と、ちょっとパリオリンピック(3枚のレッドカードが出て、ペナルティーゾーン入りとなり、順位を落とした)のことが頭をよぎったのですが、谷井(孝行)コーチや森岡(紘一朗)コーチから、「しっかり足を低く持っていこう」とアドバイスをいただきました。もう(身体が)きついなかでしたが、そこからはずっと「足を低く、低く」と唱えながら歩きました。なんとかぎりぎりもったような感じです(笑)。
――1時間26分18秒の感想は? まだ記録は伸ばせると思っていますか?
藤井:ゴールしたときは日本記録だと知らなくて、カメラマンさんから教えてもらって、記録を見て気づきました。でも、このくらいは出るかなと思っていました。今日は、ちょっと湿度は感じましたが、気温が低くて、そこがよかったのもしれません。(1時間)25分台は行けると思います。
――今日は、「20kmをコントロールしきった」という感じはある?
藤井:そうですね。ハイペースに自分が参加できたことがすごく嬉しいです。第1集団というのは、今まで自分のなかでは夢だったのですが、今日は、そのなかのメンバーになれました。そういうところに、「成長したな」と心から思いました。
――フォームについては、どこに留意していた?
藤井:「大腿四頭筋と右脚に乗って押す」「左の膝をまっすぐにもっていこう」という点にポイントを置き、確認しながら歩きました。中盤に少し崩れかけたのですが、持ち直した感じはあります。その修正ができたのも、余裕があってこそのことだと思います。
――練習の過程では、タイム設定などを上げることはできていたのですか?
藤井:はい。(1km)4分20(秒)のペースでも、余裕を持って、心拍数も下がった状態で練習できていたので、(2月に前日本記録を出した)神戸に向かうときよりも、数十秒速いペースで消化できていました。神戸のときよりも断然調子はよかったです。
――川越さんの急逝で喪章をつけてのレース。感じることもいろいろあったのでは?
藤井:本当に、急なことで、私もたくさん後悔をして、1カ間、苦しい思いがあって、このスタートラインに立ちました。でも、きっと川越さんは、「私が落ち込むよりも元気に歩いている姿を見たいはず」と思ったし、周りの方々も「元気に歩いている姿のほうが絶対に喜ぶ」と言ってくださったので、合宿先の北海道から帰ってきてからは、しっかり(気持ちを)切り替えて、強度も落とさずに練習してきました。また、レース中も、「絶対に見守ってくれている」と、喪章をときどき確認しながら、その思いを持って歩くことできました。
――レース後、ゴンザレス選手が自分のことのように喜んでいました。藤井選手にとって、どんな存在?
藤井:アレグナ選手は、東京オリンピックから連続で入賞されている選手。同い年とは思えないほどの力を持っています。でも、話せばとてもキュートで本当に憧れの選手でもあります。今日は、ずっとその背中を見ながら歩いていました。追いつきたいけれど、なかなか追いつけないもどかしい距離だったのですが、アレグナ選手がいたからこそ、今日の私があると思っています。
――レース後には、この大会を集大成としている岡田久美子選手にメダルをかけていました。どんな思いがありましたか?
藤井:岡田選手は本当に第一人者。私は2019年のドーハ世界陸上から、ずっと代表をともにして、練習や生活のすべてを見させていただき、そのおかげでここまで成長させてもらいました。今日が最後の世界選手権ということは聞いていたので、スタート前には私の気持ちをお伝えして、岡田さんからも「頑張ろう」と言っていただきました。また、ゴールしたあとには、私のメダル獲得を心から喜んでくださいました。メダルを取ったことで、今までの恩返しが、最後に少しできたかなと思っています。
――女子競歩の新たな歴史をつくったことをどう思いますか?
藤井:ずっと男子がメダルを取っていて、「じゃあ、女子は?」となったときに、ほかの国の選手からも「なんで日本の女子は弱いの?」と言われると聞いていて、ずっと責任を感じていました。岡田さんもそう思っていらして、「2人で必ず女子でメダルを取ろう!」と話をしてきました。なので、今日、岡田さんと一緒に臨める最後のレースでメダルを取れたことは、すごく大きな意味があると思います。そして、次の「金メダルへの一歩」も踏みだせたと思います。
※本稿は、競技後、ミックスゾーンで行われた共同インタビューでの発言をまとめました。より明確に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施しています。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
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