
日本陸連は6月26~30日、東京・北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで、東京2025世界陸上競技選手権大会男女競歩日本代表選手を対象とした測定研修合宿を行いました。合宿には、海外で合宿中の代表選手を除く6選手が参加。6月28日には、同陸上トレーニング場において実施した測定を含むトレーニングの模様をメディアに向けて公開しました。終了後には、強化を担当するスタッフや代表選手が取材に応じました。

この合宿は、男女競歩が目標に掲げている、9月に開催される東京世界選手権でのメダル獲得および入賞に向けて、実現に不可欠となってくる暑熱環境下における各選手の特性を把握することと、国際競歩審判員(WARWJ)のジャッジにより現状の歩型をチェックすることにより、これから向かうことになる強化期の方向性や課題に寄与することを目的として組まれました。
合宿には、現在、海外で合宿中の代表を除く6選手が参加。個別ミーティングや暑熱測定に関する説明、個別相談等を行ったのちに、6月28日と6月29日のトレーニングで、測定を行って各種データを採取。並行して、その際の歩型を国際競歩審判員によりジャッジしたうえで、それぞれの現状をフィードバックすることが行われました。
メディアに公開して実施した6月28日のトレーニングは、ロングインターバルがメイン。4000mを3分のリカバリーを挟んで、3~6本実施し、1本終えるごとに暑熱対策に必要なデータの測定やサンプルの採取を行うもので、男子20km競歩代表の山西利和選手(愛知製鋼)、吉川絢斗選手(サンベルクス)、補欠競技者の古賀友太選手(大塚製薬)、男子35km競歩代表の勝木隼人選手(自衛隊体育学校)、女子20km競歩代表の岡田久美子選手(富士通)、女子35km競歩代表の梅野倖子選手(LOCOK)が参加しました。
当日は、午前7時30分ごろから、それぞれが陸上トレーニング場に集合。個別にウォーミングアップや測定に必要な準備を行い、午前8時30分過ぎから測定および歩型のジャッジも含めたメイン練習がスタートしました。
スタート時間は、世界選手権本番の気象環境下にできるだけ近い状態での測定を意図して設定されたもの。競歩の各種目は、男女35kmが大会初日の9月13日午前8時から、また9月20日に行われる20kmは、女子が午前7時30分、男子は9時45分にそれぞれスタートするタイムテーブルが組まれています。公開練習当日は、日中の最高気温が34℃まで上がる予報が出ており、朝から快晴で、風があったために湿度こそやや低めではあったものの、メイン練習がスタートするころには、気温はすでに30℃近くまで上がり、強い日差しが降り注ぐ条件下となりました。
このトレーニングに備えて、午前4時過ぎには各自で用意した朝食を済ませていたという選手たちは、レース当日同様に、補給用のドリンクや、冷却剤、掛け水や氷を入れた帽子などを個々に準備して、4000mのインターバルを開始しました。実施する本数は、女子の2選手は3本、男子20km競歩組は4本、男子35kmの勝木選手は6本。それぞれが前日の個別ミーティングで設定したペースで歩き、その間の歩型を、随時、国際競歩審判員がチェック。もちろん、インターバルを実施している間に補給する水分やその成分も、事前に計測を済ませています。
インターバルは3分のリカバリーでつないでいきますが、1本終わるごとに乳酸値や体重、身体の表面の温度、主観的な体調等をチェック。時間の経過とともに気温は上がり、じっと立っているだけでも汗が止まらないような状況下に。インターバルトレーニング中に排出された汗の成分や深部体温など、暑熱対策の基礎データとなるさまざまな項目の測定が行われました。
トレーニング終了後には、測定を行った代表5選手のほか、スタッフを代表して強化委員会の谷井孝行競歩ディレクターと科学委員会の杉田正明委員長が囲み取材に応じました。各氏のコメント(要旨)は以下の通りです。
【合宿参加選手コメント】
◎山西利和(愛知製鋼):男子20km競歩日本代表

(ヨーロッパで3連戦した最後の)ラコルーニャ(スペイン、6月7日)が終わって帰国してからは、まだじっくりと距離を踏んでいる状態。今日は、久しぶりに、ちょっと速めのペースに、それなりのボリュームという内容だったので、かなり様子を見ながらの練習となった。暑熱…といっても今日はそんなに暑くはなかったが…(笑)、環境下で徐々に暑さに馴らしながら、そのなかで自分の身体の反応を、いろいろな数値を見ながら把握できたらいいなと思っている。
今日の練習では、測定のために、特に何かを変えてやるということはしなかった。体温や乳酸値など、測定したいろいろなデータは、今日得られた数値を元に、ここからの練習の設定などを考える際の材料になると考えている。今日は、暑くなるという予報が出ていて、確かに直射日光が当たるところは暑かったが、湿度は低かったし、日陰の多いここ(ナショナルトレーニングセンター)で歩いているぶんには、強い発汗があるような感じにはならなかった。
大会本番の9月20日は、女子が終わってからのレース(男子は午前9時45分スタート)となるので、練習を行った今日の時間帯よりは、もう少し暑くなると見ている。難しいと思うのは直射日光。日差しを受けるなかで、うまく身体を冷やすこと、また大会に向けて身体のほうの耐性をつけていくことの2つが大切になると思っている。
自分の場合は、暑い環境のなかで歩くと、少し乳酸値が高くなるので、そこに冬のレースとは違う対処が必要になる。といっても、レース当日にできる対応はほとんどなくて、身体を冷やす程度。練習のなかで、ペースや乳酸の値の幅について、どれくらいをターゲットにしていくのかとか、練習の組み立てのバランスとかいったところが鍵になってくる。
また、厚底シューズに対応した動きは、だいぶできるようになってきたとは思うが、まだ完成形というところには至っておらず、修正しなければいけないところもあると考えている。そうしたいろいろな1つ1つを、しっかりと確認していうことが大事。
そういう意味では、マッシモ・スタノと(一緒にトレーニングを)やれることは、自分にはとても大きい。横にいる人間(の動き)をちゃんと見て、(自分の動きと)比較することが、何よりまず気づきを得られて、学びがある瞬間となる。そういう「比較しにいける相手」がいるのは、すごくありがたいこと。それは、以前、(前世界記録保持者の)鈴木雄介さんを追いかけていたころのような比較感と似ていて、直近の数年間は、そこが少し足りなかったのだろうなとということを、今、改めて感じている。
世界選手権では、一番良いところ…金メダルを目指すことが目標の一つとなるが、そこに向かう過程の部分の今、楽しく取り組むことができている。限られているその瞬間がとても大事。その積み重ねの先に、大会がくればいいなと思う。
◎吉川絢斗(サンベルクス):男子20km日本代表

5月末からアジア選手権とスペインのラコルーニャで競歩グランプリに出て、2連戦を終えたばかり。まだちょっと身体に疲労が残っている状態だが、徐々に回復して調子は上がってきている。
今回の合宿は、ポイントとなる日が今日(6月28日)と明日になる。今日の練習では、インターバル1~4本のそれぞれで暑熱の対策方法を変えてみることをやってみた。それぞれに善し悪しを感じたが、実際のところはサーモカメラや1本ごとに測定したデータを見つつ、総合的に判断して取り入れていくつもり。それらを今後も練習のなかでいろいろ試し、それが本番にどう生かせるかを考えていきたい。
今日は暑かったけれど、大会当日はもっと暑いと思う。そこはもう覚悟の上。競歩の場合は、日本選手権が冬に行われるが、世界選手権は夏の開催ということで異なるレースになる。冬のレースとは違う対策が必要になってくると思うので、別のアプローチをかけていけたい。
日本代表の実感は、だんだん湧いてきたというところ。世界大会の出場は初めてになるので、ワクワクしている気持ちでいっぱい。その若手の勢いを、世界選手権につなげて頑張りたい。また、出るからには勝ちたいし、その一方で自分のレースをして、楽しみたいという思いもある。具体的な目標は、入賞は最低限。そのうえでメダルを目指していきたい。
オリンピックもそうだが、世界選手権は、毎回、後半でスピードが上がって勝負が決まるというレースが多い。課題となるのは、その後半の部分。スパートをかけたときに、いかに歩型違反をとられないかというところと、勝ちきれるかという勝負強さのところを、この夏で磨いていきたい。海外での2連戦を経て、世界との差を改めて感じはしたものの、壁はつくってはいけないと思っているし、決して破れない壁ではない。この夏、しっかりと取り組み、目標に向けて頑張っていきたい。
◎勝木隼人(自衛隊体育学校):男子35km競歩日本代表

今日行った測定については、フィードバックがまだなので、まだなんとも言えないところ。ただ、測定自体は、普段の練習通りにできているので、フィードバックされてくる結果が楽しみだなと思っている。
日本代表になったことでの心境の変化は特にない。というのも、去年から「代表になる」という頭で動いていたので、代表になったからといって浮かれたり、心構えが変わったりということもなく、今までと全く変わらない状態で過ごすことができている。
今日は、思っていたよりも涼しくて、練習になったのかどうかよくわからないというのが正直なところ。でも、もう少し暑くなってきたら、わかってくることもあるのかもしれないが、このくらいの暑さであれば、普通に歩くことができると感じた。
暑さ対策については、昨年の夏の段階から準備はしている。昨年もほとんど関東にいて、練習でも掛け水とか氷を使ったりすることなく夏を過ごしていて、「これくらいであれば、これくらいのタイムが出る」という目安をある程度持つことができている。なので、そういった意味では、暑さをあまり不安には感じていない。また、結局は、大会本番での暑さというよりは、(鍵になるのは)それまでの流れ。僕にも暑いなかのレースで失敗したことはあるが、それは当日の暑さが原因ではなく、暑さがなくても結果が出せない準備しかできていなかったからだと受け止めている。
そういう意味で、これからの準備としては、暑いなかである程度試合を想定した練習は、けっこう高い頻度でやっていきたいなと考えている。日常生活については、特別なことを何かしたり気をつけたりするよりは、「普段通り」が一番。ここ1年くらいは試合前も何も変えることなく、普段の練習と同じ流れでやってきていて、それで結果が出せている。特に今年は、東京での開催。普段通りに過ごすことができれば、良い結果を出すことができるのかなと思っている。
僕は、東京世界選手権では優勝を目指していて、ここまでずっと時間をかけて身体をつくってきた。実現するためにはすべての能力が必要で、一つでも欠けていると、そこには到達できない。本番までに、スピードも、長い距離も、暑さ対策も、すべてにおいて普段通りに、ちょっとずつ高めていけたらと思う。
◎岡田久美子(富士通):女子20km競歩日本代表

6月のはじめにスペイン(ラコルーニャ)の大会に出場し、手応えを感じるようなレースができた。そこから1週間ほど、ゆっくり回復させてから、この合宿に臨んでいる。ケガなどもなく、すごく順調にここまで来ている状況。今日も、暑熱対策をしっかりしながら、データを取りながら、本番に向けての良い練習をすることができた。
私が暑熱対策で大事だと思っているのは、飲むものは常温にするなどして(身体の)内側のお腹を冷やさないようにしながら、外側は氷を使ったり掛け水をしたりして、体温をしっかり下げていくこと。何か特別なことをするのではなく、自分の体温を下げることに集中して取り組んでいる。また、年齢も高くなってきているので、今後は、暑熱の馴化よりは、疲労の回復にしっかり取り組もうと考えている。本番に向けては、疲労の回復をメインにしていけたらと考えている。
ラコルーニャは、世界選手権やオリンピックのメダリストがこぞって出場する大会。ハイペースでがんがんと行くようなレースになることが多いのだが、意外とスローペースになった。そのなかで、いつもは10km以降にいきなりペースが上がるところで、あっという間に離されてしまうことが多いのだが、今回は、その急なペースアップに13~14kmくらいまで対応することができ、ついていくことができた。息切れしてしまった残りの5kmが課題にはなるが、入賞圏内に入るか入れないかの13~14kmでの振り分けに、今回は参戦することができたことは、私にとっては大きな進歩。わずか数㎞のことではあるが、その数㎞を大事にして、また、改善していきたい。
課題となるのは、まだ上半身に硬さがあり、海外選手のような大きな腕振りや前傾姿勢ができていない点。今後の練習では、そこをしっかり改善していくことと、持久力のベースをアップさせていければと思う。本番は、おそらく暑さの影響で、スローな入り急にペースアップする展開になると思う。今回、スペインで、そういうレースが体験できたことは大きなプラス材料。そのイメージを持って、練習内容も改めてコーチとも相談したい。後半で、いきなりギアが上がっていくところの練習を、もう一度確認して組み立てていきたい。
◎梅野倖子(LOCOK):女子35km競歩日本代表

アジア選手権前に右膝を痛めて、やっと最近、ほとんど痛みがなくなってきたなかでの合宿。とりあえずは、「今、どのくらい歩けるのか頑張ろう」という感じで練習に取り組んだ。この合宿の前も、高地(長野県小諸市)で合宿を組んでトレーニングをしていたのだが、高地で実施したときのタイムよりも、今日のほうのタイムが良く、動き的にも今回の合宿のほうがいい感覚で歩けている。少しずつ良い方向にもってこられているのかなと感じている。
私は、データを測定してもらうのは、これが初めて。まだ結果はわからないのだが、暑さに弱いので、汗の成分などを把握することで、「どういう成分が出ているので、何を摂取すればいい」といったことがわかるのは、今後に生きると思う。今日は乳酸の値だけを聞いたのだが、自分だけすごく…、笑えるくらいに高かった(笑)。そもそも乳酸値の測定自体も初めてで、自分の数値がどのくらいかを知ることができたので、これから、どうしていけばよいかをコーチや杉田先生に相談しながら、今後につなげていきたい。そういう意味でも、今回すごくいい合宿になったと思う。
暑熱対策としては、自分はこれまでずっと、帽子の中に氷を入れることと、手に氷を持って歩くことはやっていたのだが、昨日、杉田先生に相談したら、首に巻くほうが冷えるというアドバイスをいただいた。今回は、その用意をしていなかったので、練習で準備することはできなかったが、7~8月の練習で取り入れてみたい。その方法に慣れたなかで、本番で活用することができたら、暑さに負けずに歩けるんじゃないかと思っている。
大会本番は、タイムについては、どのくらいで歩けるかが全くわからないが、とにかく8位入賞というところを目指したい。(20kmで世界選手権出場を果たした)ブダペストのときは、初っぱなから最後のほうを歩いていたので、今回は先頭集団で歩いていけるようにすることが目標となる。
【スタッフコメント】
◎谷井孝行(強化委員会競歩ディレクター)

競歩の強化としては、世界選手権に向けて暑熱対策と歩型対策を2つの柱として考えている。今回は、暑熱環境下における現状を知るための測定と、国際審判員によるジャッジを受けることで現在の自分の歩型を把握してもらい、その課題を今後の強化に生かしてもらうことを目的として、この合宿を実施した。
合宿自体は6月26~30日の日程だが、基本的には、本日と明日の練習がメイン。本日行ったロングインターバルと、明日実施するペース歩の2回の練習で、データの測定と国際競歩審判員によるジャッジを受ける。そして、今回のデータのフィードバックや歩型のフィードバックをしていきながら、それぞれの課題を見つけていくための時間を、今後、とっていくことになる。そのため、この合宿は、強化を目的とするものではなく、測定研修合宿という位置づけで進めている。
暑熱対策については、2021年に東京オリンピックが終わって以降、2022年オレゴン世界選手権、2023年ブダペスト世界選手権、2024年パリオリンピックが行われたが、(札幌でレースが行われた)東京オリンピックほどの暑さとなった大会はなかった。そのため、ここで今一度、しっかりと暑熱対策をして、海外の選手たちに対するアドバンテージをつくっていきたいと考え、このような合宿の実施に至っている。
本日に関して言うのなら、“測定日和”(笑)。湿度はやや低く、日陰の影響はあったものの、おそらく、9月の本番は、このくらいの気温のなかで開催されることが見込まれるため、実際に近い条件下での測定ができたのではないかと思う。また、選手たちも、そのなかでしっかりと、それぞれのペースで練習を消化してくれた。充実した練習を行うことができたと思う。
暑熱対策という点では、やはり深部体温をいかに抑えていくかが大事になる。そのためには暑熱の耐性をつけることに加えて、対策という点では首や頭を冷やしていくことを、レース前やレース中にしていかなければならない。また、レース中に脱水症状にならないためには、ウォーターローディングなど事前の準備が重要となってくる。レースだけではなく、レース前からしっかりと対策をとっていこうという考え方を共有している。
また、歩型対策については、具体的な名前は挙げないが、本日の練習を見たなかや、今までのレースを見てきたなかで、傾向としてジャッジが取られやすい歩きをしている選手もいることを認識している。この合宿でジャッジを受けることで、「どういう場面、どういう要素で、このジャッジを受けているのか」を洗いだし、それを今後の強化場面で、対策をとっていくことを詰めていきたい。
今回、日本選手権以降に、非常に多くの選手が積極的に海外のレースに出場した。選手たちは、そこで自分自身の立ち位置をはかることができたのではないかと思う。国内大会と国際大会とでは難しさに違いがある。その違いを、実際に海外のレースを経験してみることによって、肌で感じて、持ち帰ってきてくれたのではないか。また、そうしたなかで、山西選手は、ワルシャワ大会、マドリード大会、ラコルーニャ大会で3連勝を果たしており、そこで得た経験をしっかり生かしていくことと、あとは本番に向けてのコンディショニング、そういったところを今後、注視していってもらいたい。
◎杉田正明(科学委員会委員長)

東京世界選手権に向けて実施している暑熱対策自体は、「東京オリンピック対策」として2019年のドーハ世界選手権くらいまでしっかりとやってきた内容と、大きくは変わらない。逆に言うと、その後しばらくは、こんなに本格的な測定を行っておらず、今回、6年ぶりくらいにフルパッケージの測定を実施した形である。
(以前のフルパッケージでの測定を経験している)山西選手たちも参加してくれたことで、相当良いデータがとれたと認識している。というのも、以前は、手探りの状態での暑さ対策だったわけだが、今回は精度の高さが向上しているのはもちろんのこと、過去のデータとの比較もできるから。そういう意味で、個々に応じた対策をとることが可能になっている。つまり、これから大会までの2カ月半に、オーダーメイドの方策をどう構築していくかを考えていくための基礎データを取ることができたといえる。
今日は、(このトレーニング場において)トラック上の屋根で日陰になっている箇所と、直射日光が当たる箇所に、WBGT(湿球黒球温度:暑さ指数)を測る機器を置いていた。直射する場所はかなりきつい状況だったが、それに比べて直射が遮られていた場所は、暑熱ストレスはそれほど高くはなかったため、「思ったほど暑くなかった」と話した選手もいたのは、そこが影響していると思われる。ただし、9月の世界選手権本番を想定すると、直射の状況で歩く環境下となるだけに、今日、直射が遮られたところを歩いて得たデータで、暑熱ストレスを感じている生理学的な数字が出た場合は、これからの2カ月半で、暑熱対策を進めていく必要がある。
また、各選手が胸と背中に貼り付けていたガーゼは、汗を採取するためのもの。発汗することで、ナトリウムやカリウムが出ていくが、それ以外にもマグネシウムやカルシウム、鉄など、いろいろなミネラルが出ていく。その成分内容や量には個人差があり、たくさん出るか出ないかによって、日常の栄養摂取や給水におけるドリンクの成分も変えることが必要。そういった点の基礎情報として、汗の成分の分析はマストとなる。採取した汗の成分は、検査会社に委託し、分析してもらうことになる。この分析も、以前は我々が手作業で行っていたのだが、分析できる項目に限りが出てきてしまうことから、よりいろいろな項目を把握できるように委託するようになった。我々が必要とする項目を指定して、分析してもらう方法を採っている。
今日の環境では、直射が当たる箇所の、いわゆる黒球温度(発熱体や直射日光、地面からの輻射熱を含めて計測した温度)をみると最終的に47~48度まで上がっていた。これに対して、直射が遮られていたレーン上の黒球温度は33~34度。10度以上の差があることになる。このことからもわかるように直射があるかないかの影響は、暑熱環境を考えるうえでは、非常に大きいといえる。
東京世界陸上のコースは、ほぼ日陰がなく、直射が常に熱ストレスとしてかかる状況でレースが行われる。このため、暑熱対策については、レースが行われる時間帯に、どういう気象条件になるかということを想定して、実際の暑さ対策を考えていこうとしている。ただし、想定するといっても、レースが進んでいくなかでも気象状況は変わってくるし、また、男女35kmは午前8時スタートで、女子20kmは午前7時30分スタートだが、男子20kmのスタート時刻は午前9時45分からとなる。過去10年分の東京の気象データを今一度洗いだして、さらに気候変動の影響も加味すると、9月中~下旬という会期であっても、非常に厳しい酷暑環境になると考えられる。その点は、すでに選手・コーチには伝えていて、それを想定した準備を進めていくことを計画している。
暑熱対策をとっておくと、身体から熱をうまく外へ出す機能が働くようになるほか、血漿の量が増えることがわかっている。また、暑熱馴化した体質は、実際のレースのときに暑くなっても寒くなっても、どちらにもプラスに働くことがエビデンスとしてわかっているので、暑くなるかならないかという環境のなかで試合があるのなら、必ず暑さ対策…暑熱順化をしておいたほうがよい。
ここから大会までには2カ月半あるので、今回のデータをもとにトレーニングや暑熱対策を行っていき、もし、今後、同じような環境下での測定を行って比較したいというリクエストがあった場合は、対応していく予定。実際に行うかどうかは、今後の選手やコーチとの相談次第となる。
※コメントは、共同取材における各氏の発言をまとめました。より明確に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施しています。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:アフロスポーツ
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◆期日:2025年9月13日(土)~21日(日)
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