2025.02.28(金)その他

【JAAFウェルビーイングセミナー】プロフェッショナルとともに考える「女性アスリート×ウェルビーイング」#4



活動のミッションに「国際競技力の向上」と「ウェルネス陸上の実現」を掲げる日本陸連では、これらを遂行していくうえで、陸上競技に関わるすべての人が、スポーツを通じて心も身体も満たされたウェルビーイング(Well-being)な状態であることを重要と捉えています。そして、この実現に向けて、リーフレットを作成・配布するなど( https://www.jaaf.or.jp/news/article/20088/ )、アスリートはもちろん、アスリートを支えるすべての人が、正しく競技と向き合い、アスリートの健康を守るための知識や学びを深めていけるきっかけつくりに取り組んできました。今年は、その活動の幅を、さまざまな形でさらに広げていくことを計画しています。
1月11日には、翌日に開催される全国都道府県対抗女子駅伝に併せて、一般財団法人東京マラソン財団スポーツレガシー事業協力のもと、『プロフェッショナルとともに考える「女性アスリート×ウェルビーイング」』と題したセミナーを、京都市内で開催しました。
本セミナーの内容について、全五回に分けてお届けします。
今回は、その第四回目となります。

◎テーマ3:鉄不足と貧血
「鉄不足がパフォーマンスと健康に与える影響」


須永:貧血といえば、有森さんが重度の貧血で苦労されたと聞いている。その経験と、どうやって乗り越えたかを聞かせていただきたい。
有森:高校生のころは、筋金入り(笑)の鉄欠乏性貧血だった。先ほども言ったように、真夏でも着込んで走って体重が減ったと喜んだりしていたが、ある日、とにかく眠いという症状が出た。朝から眠くて、授業中も起きていられないほどで、部活動のときは起きて走るけれど、走っていても脚が鉛のごとく重い。秋に、都道府県女子駅伝の選考レースがあるのだが、そこで(代表に)選ばれたあとに、ものすごい勢いで身体が重く感じて、フラフラするようになっていった。あまりに走れなくて、監督に言われて病院に行ってみたら、ヘモグロビン値が6(g/dL)という恐ろしい数字が出て、鉄欠乏性貧血という診断を受けた。
最初は経口鉄剤を処方され、親も「鉄が含まれている素材しか入っていない」というくらいの鉄弁当を毎日持たせてくれたが、それでも間に合わなかった。講義で「鉄は吸収しづらい」という話が出ていたが、私の場合は「鉄を吸収しない身体」だったようで鉄剤を飲んでも、吸収されずにそのまま便として出てしまう状態だったため、治療するためにはこの方法しかないということで鉄剤注射を行い、ヘモグロビン値をなんとか12(g/dL)まで上げることができた。注射を用いても、数値はなかなか上がらず、最初は9~10(g/dL)になるくらい。安定して12(g/dL)になるまでには3年以上を費やした。このため、全国都道府県女子駅伝は3年間補欠。走ることはできていない。
貧血の症状がようやく出なくなったのは大学に入ってから、故障もあって、体重や体脂肪が増えたほか、故障時にウエイトトレーニングを行って筋肉量が増えたこともなどで少しずつ収まっていき、それ以降、症状が出ることはなかった。それでも、数値は12(g/dL)がマックス。それ以上は増えなかった。
須永:治療に3年間かかったということが衝撃的。高校生だと3年間が終わってしまう。もちろん有森さんのように体質の問題などもあると思うが、まずは治療が必要な状態に陥る前に、どうにかして予防することが必要。トレーニングと食事を調整して、コンディショニングを進めていくことの重要性がよくわかったと思う。弘山さん、もし、貧血に関するエピソードがあったら…。
弘山:私は、貧血も栄養不足から来ていると考えている。講義でもヘム鉄はタンパク質を含む食品に多く含まれているということだったが、(病的な例外を除いて)栄養がしっかりとれていれば、ヘモグロビン値もついてくるという考え方なので、血液検査で常に見ているのは、赤血球の量とヘマトクリット(血液中における赤血球の濃度)。このほか、血液検査では総タンパクが7(g/dL)を切ってくると栄養不足だと考えるので、総タンパクもチェックしている。
つまりは、しっかりと栄養を摂ることなのだと思う。体脂肪量が少なくなって、ガリガリになると筋肉も減り、結局、成長ホルモンが出にくい身体になってしまう。なので、筋力トレーニングもやったほうがいいし、(成長ホルモンの分泌に影響を与える女性ホルモンである)エストロゲン…これは月経にも関係するが…ちゃんと分泌させることが必要。それが正常に働いているからこそ、血液もちゃんとできていくのだと考えている。
表現するのが難しいが、「トレーニングと身体のやりとり」といえることが、ちゃんとできればいいなと思う。トレーニングばかりやって、それによって身体が軽くなり持久性のパフォーマンスが上がったと喜んでも、身体が悲鳴を上げていることに気づかずに続けていくと貧血になったり故障したりしてしまう。私が考えるのは、「もっとゆとりのある身体で、狙った試合に向けてどうピークをつくっていくか」。ほかの指導者の方がどう考えているかわからないのだが、目の前の試合のすべてで100%の結果を出そうとしてはいないか、春先からきちっと身体が絞れていなければいけないというような、そういう認識があるのではないか。もちろん、インターハイ路線のように、「この試合で結果を残さないと行けない」という場面もあるとは思うが、ジュニア期に、もう少し長い目で見てあげることができるようであれば、将来、日本を背負っていく選手になる例もあるのではないかと感じている。
妻の晴美は、高校時代の都道府県駅伝はずっと区間45位とか46位とかの成績だった。それが、社会人になってオリンピックに3回行ったり、世界選手権に4回行って3回入賞したりということにつながっている。なので、目の前のことではなく、その選手の成長や成長曲線、過程のなかで今、どうあるべきかということを、周りの指導者がよく見て、評価してあげるといいのかなと思う。
須永:その選手のピークをどこに持っていくか。それが高校3年間というような短いスパンではなく、アスリート人生のなかでどうかと捉えて考えていくことが、選手の健康を守るうえで重要になるという話をしていただいた。小林さんは、ご自身は貧血には縁がなかったということだが…。
小林:最近、(解説等で)話すほうは貧血気味だが、身体は本当に元気(笑)。この都道府県女子駅伝でチームとして動くときには鍋を囲むチームが多いと思う。そのときに、鉄鍋を使ってもらって、みんなでわいわいと食事をしていかないといけないなと、ヒントをもらったように思う。この大会は、実業団でしっかり食べて、競技に取り組んでいる選手の食事を、中高生が見られるチャンス。こういう場で、何か良い形に繋がっていくアクションが起きればいいなと思う。
須永:本当にそう思う。なかには身体がボロボロになって高校で競技をやめてしまう子もいる。都道府県女子駅伝は、実業団に進んでも、どんどん記録を伸ばしてキラキラと輝き続けている選手とコミュニケーションをとることができる貴重な機会。食事のこと、コンディショニングのこと、疲労回復の方法など、どんどん聞いていけるといいなと思う。



小林:そういう時間を持つことで、選手たちに、心の修復を含めて、何か学ぶ機会になってほしいなと思うし、弘山さんも仰っていたが、指導者の在り方も大切。将来を考えるのなら休んでもいい。インターハイ優勝とかよりも、将来を大切に考えようと言ってくれる指導者。将来のビジョンをしっかり描ける指導者がいれば、ジュニア年代の身体つくりや心つくりは変わってくると思う。
弘山:言い忘れたことを一つだけ。鉄剤について、私は、鉄剤注射なんてもってのほかだが、選手たちには、鉄の錠剤も摂るなと言っている。それは、鉄剤を服用すると、胃や消化器系を含めて腸内環境が悪くなってしまうから。鉄の錠剤を飲んで腸内環境を悪くしてしまっては、栄養そのものの吸収を妨げ、本末転倒になってしまう。なので、選手には私は「飲むな」と言っている。私は、サプリメントは、本当に気休め程度に捉えていて、摂るとしても植物性由来のビタミンやミネラルを摂るサプリメントを、1日おきに1粒程度だと思っている。妻が飲用していたのは、胃腸を整えるためのもの。整腸剤だけを飲んでいた。
小林:実は現役で活躍しているアスリートも、トップアスリートではサプリメントを摂っている選手は少なくて、本当にしっかりと食事で必要な栄養を摂取している。松田瑞生選手(ダイハツ)が我が家に来ると、冷蔵庫が空っぽになる(笑)ほど。「マラソンランナーって、こんなに食べるの?」と驚かされる。だから走れるのだと思う。
須永:消化器系が強いことも、強い選手の秘訣だと思う。練習が終わって食べられないという選手だと、結局、エネルギー不足になってしまう。また消化器系が弱いと、胃液や腸液、膵液の分泌なども悪くなってしまうので、やっぱり「しっかり食べて、しっかり走る」というところに行き着くと思う。

文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)


今後の掲載予定
#5 パネルディスカッション
   精神的健康とモチベーションの維持「長距離選手におけるメンタルヘルスと社会的サポートの重要性」
準備でき次第、順次掲載をしていきます!

ウェルビーイングリーフレット
https://www.jaaf.or.jp/news/article/20088/

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