2024.06.19(水)大会

【第108回日本選手権展望】男子投てき種目編:やり投・ディーン、﨑山、新井らによる80mオーバーのスローに期待/ハンマー投・福田はパリへの道を紡げるか



第108回日本選手権は6月27~30日、8月にフランスで行われるパリオリンピックの日本代表選手選考競技会として、新潟市のデンカビッグスワンスタジアムで開催される。近年同様に、第40回U20日本選手権との併催で、こちらは8月末にペルーで行われるリマU20世界選手権の選考競技会としての開催だ。

日本選手権で実施されるのは、すでに別開催で行われた男女10000m、男女混成競技(十種競技、七種競技)を除くトラック&フィールド全34種目(男女各17種目)。2024年度の日本チャンピオンが競われるともに、パリ行きチケットを懸けた激しい戦いが繰り広げられる。

パリオリンピック日本代表は、最終的に日本オリンピック委員会(JOC)の承認を経て決定することになるため、それまでは「内定」という扱いになるが、陸上競技での出場資格はワールドアスレティックス(WA)が設定した参加標準記録の突破者と、1カ国3名上限で順位づけているWAワールドランキング「Road to Paris」において各種目のターゲットナンバー(出場枠)内に入った競技者に与えられる。

日本代表の選考は、日本陸連が定めた代表選考要項(https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202309/21_112524.pdf)に則って行われ、日本選手権で即時内定を得るためには、この大会に優勝し、かつ決勝を終えた段階で参加標準記録をクリアしていることが条件(ただし、ブダペスト世界選手権入賞者については、参加標準記録を突破すれば順位を問わず内定)。さらに、終了後に行われる選考においても、日本選手権の順位が優先されるため、オリンピック出場に向けては、この大会の結果で大きく明暗が分かれることになる。

今大会実施種目のうち、現段階でのオリンピック内定者は5名。大会期間中に、新たな内定者のアナウンスはどのくらい出るのか? また、日本新記録の誕生はあるのか?
ここでは、各種目の注目選手や見どころをご紹介する。

※エントリー状況、記録・競技結果、ワールドランキング等の情報は6月17日時点の情報に基づき構成。同日以降に変動が生じている場合もある。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト

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◎男子砲丸投

[日本記録:18m85(2018)/五輪参加標準記録:21m50]



五輪参加標準記録は21m50。32のターゲットナンバー内に入るためには、20m台のパフォーマンスが並ぶ水準が求められ、日本選手にとっては、開きがある種目。まずは日本記録を19m台に乗せていくことを目指して取り組みが必要な状況だ。しかし、そのなかで、昨年は2選手が18m50を上回る自己新記録をマーク。また、新たに2選手が18m台プッターとなった。申込資格記録のうち5名が18m台、自己記録では7名が18m台のパーソナルベストを有している。前回は表彰台に上がった3選手が18mラインを越えてのメダル獲得だった。前半から豪快に投げ合うなかで、今回は、18m台半ばの記録や日本記録(18m85)、さらに、日本のシニアでは初めてとなる19m台の投てきが見られることを期待したい。

優勝争いは、昨年、日本歴代5位の18m56を投げているアツオビンジェイソン(福岡大、ダイヤモンドアスリート修了生)と、同7位の18m53をマークした奥村仁志(センコー)を中心に繰り広げられることになりそうだ。前回は、奥村が18m42の自己新(当時)を投げて初優勝。7月のアジア選手権にも出場(9位)し、帰国してすぐの田島記念で18m53まで記録を伸ばした。一方、持ち記録では日本選手権優勝候補にも上がっていたアツオビンは、故障からの回復途上ということもあり、17m65で4位。しかし、秋に入って国体で18m51、中5日のスパンで臨んだアジア投てき選手権(韓国)で18m56と、自己記録を塗り替えた。

今季も安定して好調を維持できているのは奥村か。兵庫リレーカーニバル(18m28)、静岡国際(17m69)、東日本実業団(17m06)と3連勝。兵庫リレーカーニバルでの18m28が今季日本リストの1位を占める。アツオビンは、兵庫リレーカーニバル、静岡は17m台だったが、九州インカレでシーズンベストの18m19をマーク。6月中旬の日本学生個人選手権も18m01で優勝した。ここからどこまで調子を上げていくことができるか。

この2人を追うことになるのは、18m36まで記録を伸ばして前回2位となった岩佐隆時(Team SSP)、2022年覇者の村上輝(日本体育施設、自己記録18m29)あたりか。同じく18m29の自己記録を持ち、前回3位となった森下大地(KAGOTANI)のほか、“お膝元”のビッグスワンでの日本選手権となる佐藤征平(サトウ食品新潟アルビレックスRC)も、自己記録18m20に迫る投てきを見せたいところだろう。2020年大会を制し、昨年18m00をマークした幸長慎一(四国大AC)は、今回も円盤投と2種目にエントリー。3日目に円盤投で初優勝を果たして、最終日のこの種目に臨んでいる可能性もある。


◎男子円盤投

[日本記録:62m59(2020)/五輪参加標準記録:67m20]



2019年以降の日本選手権は、日本記録保持者(62m59)の堤雄司(ALSOK群馬)、前日本記録保持者(62m16)の湯上剛輝(トヨタ自動車)、昨年日本歴代2位の62m16をマークした幸長慎一(四国大AC)の3選手が、表彰台を席巻してきた。

そのなかで今季勢いがあるのは湯上だ。2月初旬にニュージーランドで初戦を迎え59m14で滑りだすと、その後は南半球で転戦。4月に帰国して兵庫リレーカーニバルを制したのちに、今後はヨーロッパへ飛び、4月30日から5月25日まで実に9試合(!)に出場。5月13日にスウェーデンで今季日本最高となる61m18を記録すると、翌週にも60m27をマーク。4試合を59m台、3試合を58m台でまとめている。日本新記録(当時)で初優勝を果たした2018年大会以来、6年ぶりに王座を奪還するかもしれない。

前回、10回目のタイトルを獲得した堤は、今季は、ここまで兵庫リレーカーニバル2位、木南記念と東日本実業団に優勝という戦績。60mスローはまだないが、東日本実業団では59m07まで記録を伸ばしてきている。記録面で湯上に続き、わずかに堤を先行しているのが幸長で、5月中旬に60m26をマーク。最終日に行われる砲丸投とのダブルタイトルを狙う。

今季は、この3強を脅かす存在が登場してきている点も大きな見どころとなるだろう。開催地となる新潟出身の大学生、北原博企(新潟医療福祉大)がその選手。今季は54m94の自己新でスタートすると、試合のたびに自己記録を更新、6月初旬の北信越インカレで57m24まで記録を伸ばすと、6月16日の日本学生個人選手権では日本歴代5位、学生歴代では2位となる59m95をマーク。大会2連覇を達成しているのだ。60mまであと5cm。日本選手権では、地元新潟の選手による日本人6人目の60m台突入の瞬間を、見ることができるかもしれない。

ほかにも、今季55m68に自己記録を塗り替えている山下航生、昨年の自己記録を2m以上更新する55m32を投げている藤原孝史朗の九州共立大先輩後輩コンビにも勢いがある。上位陣をぴりぴりさせるような投てきを期待したい。

◎男子ハンマー投

[日本記録:84m86(2003)/五輪参加標準記録:78m20]



前回は、日本大大学院所属だった福田翔大(住友電工)が、71m79のパーソナルベスト(当時)を投げて2回目の優勝を果たした。福田は、その後、アジア選手権とアジア大会の代表に選出。アジア選手権では自己記録を1cm更新する71m80で銅メダルを獲得。秋の日本インカレでは、72m01まで記録を伸ばした。初優勝した2021年と比較すると、“エース候補の覚醒”を感じさせた1年だったが、ひと冬越えて、その勢いはさらに加速している印象だ。今シーズンは、2月にニュージーランドでシーズンイン(67m31)すると、国内競技会を1戦挟んで臨んだ静岡国際で、日本歴代4位の73m00を投げて優勝。台湾オープンで(71m67、3位)を経て、6月14日に木浦(韓国)で開催されたアジア投てき選手権では73m91まで記録を伸ばして完勝しているのだ。ワールドランキングでは、アジア投てき選手権の結果が反映される前の段階で39番手につけていた。木浦の結果で順位が上がることで、ターゲットナンバー(32)圏内に近づいたとまでは言えないものの、「パリ行き」が遠目に見える形で日本選手権を迎えるところまでこぎ着けた。

大会当日の気象状況や今後の他国選手の結果にもよるが、福田がターゲットナンバー内に入るためには、まずは自己記録を更新していく水準の投てきで優勝することが必要だ。日本選手権での優勝記録が73m台に乗れば、“レジェンド”室伏広治(ミズノ)が20連覇を達成した2014年大会(73m93)以来となる。チャンピオンシップで狙うのは決して簡単なことではないだろうが、日本歴代3位の記録は74m08(土井宏昭、2007年)。日本歴代リストで、師である室伏重信氏(75m96)に続く順位に上がることができれば、“世界”は近づいてくる。

福田を追う立場となったが、昨年72m92(2023年)まで記録を伸ばし、日本選手権では4回の優勝実績を持つ柏村亮太(ヤマダホールディングス)も状態は良い。台湾オープンでサードベストの72m57を投げて、福田を抑えた(2位)。これで72m台は4回目。前々から73~74m台を狙える力は十分にあると評価されてきた素材だけに、そろそろブレイクするシーンを見たい。

この2人を追うのは、地元・新潟のサトウ食品新潟アルビレックスRCに所属して2年目を迎えた中川達斗か。3月に72m05をマークし、2年ぶりに自己記録を更新している。昨年70mスロワーの仲間入り(70m49)をして日本選手権で3位を占めた小田航平(フクモト工業)、71m21の自己記録を持ち、今季も70m17を投げている木村友大(ゼンリン)も上位候補。中川を含めた九州共立大のこの3選手のうち、先に抜きん出てくるのは誰か。

今季69m66を投げている古旗崇裕(サポートゼン)は2022年に71m34を投げている選手。このほかでは、今季68m台に乗せてきた執行大地(筑波大)と久門大起(日本大)は、自己記録を連発して、日本学生個人選手権では執行69m02(優勝)、久門68m92(2位)まで記録を伸ばしてきた。日本選手権で、70mラインに迫る試技が見られるかもしれない。


◎男子やり投

[日本記録:87m60(1989)/五輪参加標準記録:85m50]



優勝候補の筆頭は、前回2年連続3回目の優勝を果たしているディーン元気(ミズノ)と言いきってよい。今季は、初戦の織田記念を4位(78m04)でシーズンイン。ダイヤモンドリーグドーハ大会は79m34で7位、セイコーゴールデングランプリでシーズンベストの81m38をマークし、日本人トップの2位という戦績で推移している。記録だけ見ると、物足りなさを感じてしまうが、これはパリ五輪本番に照準を合わせての戦略で、特に、セイコーゴールデングランプリでは、ケガのリスクを避けて試技回数を絞ったなかでの勝負だった。パリ五輪に向けては、85m50の参加標準記録には届いていないものの、5試合の平均パフォーマンススコアは、すでに1243点に達しており、ワールドランキングでは、標準記録未突破者最上位とわずか4ポイント差の12番手。日本選手権での加算がなくても、資格獲得は確実といえる状況だ。天候や風の状況に左右される種目ではあるが、もし、ここで参加標準記録突破が実現すれば、ディーンにとってはロンドン五輪出場を果たした2012年以来12年ぶりの自己新記録で、2012年ロンドン大会以来の五輪出場が内定することになる。

ディーンを追う位置にいるのは、﨑山雄太(愛媛競技力本部)と新井涼平(スズキ)。﨑山は、昨年日本歴代5位となる83m54をマークする躍進を見せた選手で、ブダペスト世界選手権にも出場を果たした。ヨーロッパ選手権が終わった段階でターゲットナンバー外に押し出されてしまったが、ワールドランキングでは、日本勢でディーンに続く2番目の36番手。日本選手権での結果で再浮上できる位置にいる。ブダペスト世界選手権での記録なしをはじめ、結果のムラが課題とされてきたが、日本選手権で会心の投げを見せることができるか。今季はセイコーゴールデングランプリで80m07をマークし、ディーンに続いて日本人2番手を占めている。

現役中では最高記録となる86m83(日本歴代2位)の自己記録を持ち、日本選手権を2020年まで7連覇、2015年北京世界選手権9位、2016年リオ五輪11位)と高い実績も持つ新井は、故障等の影響で長く不振が続いていたが、昨年復調してトップシーンに戻ってきた。世界選手権出場は叶わなかったが、アジア選手権には同学年であるディーンとともに出場(5位)。この揃い踏みはファンを喜ばせた。今季は初戦で83m37のビッグスローを披露。これは、2017年以降では自己最高となる好記録だ。4月に入ってからはセイコーゴールデングランプリの79m21が最高だが、ワールドランキングでは﨑山を2ポイントで追う状況(39番手)。日本選手権で初戦の再現ができれば、2大会ぶりの五輪出場に向けて、可能性の灯が点る。

昨年、一昨年と2大会連続で世界選手権に出場している小椋健司(エイジェックスポーツマネジメント)は、ワールドランキングでは﨑山・新井に僅差で続く日本人4番手で推移しているが、織田記念ではトップ3を抑えて優勝した。アジア投てき選手権と日本選手権の合わせ技でランキング順位を押し上げたいところだったが、アジア投てき選手権は77m25(4位)。日本選手権では、﨑山・新井を大きく上回る一発が必要な状況だ。

3月に81m67をマークしている清川裕哉(東海大)、織田記念で79m41を投げて2位に食い込んでいる長沼元(スズキ)、昨年のワールドユニバーシティゲームズでメダルに1cm差の4位入賞を果たし、今季はセカンドベストの78m50を投げている鈴木凜(九州共立大)といった顔ぶれが、上位候補にどこまで迫るか。この面々が80m台に乗せてくるようだと、勝負は一段と面白くなるだろう。


◆第108回日本選手権展望バックナンバー
男子トラック種目編:群雄割拠の100mは追い風参考ながら9秒台を出した栁田が一歩リードか。400m・110mハードル・400mハードルではパリ五輪即時内定者誕生に期待
男子跳躍種目編:走幅跳・橋岡、6回目の優勝で即時内定を狙う。走高跳では、赤松・真野の世界選手権入賞ジャンパーが激突




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第二弾では注目選手をピックアップ

既にパリ五輪への切符を掴んでいる
北口榛花 (JAL)・田中希実 (New Balance)
三浦龍司 (SUBARU)・サニブラウンアブデルハキーム (東レ)

日本選手権優勝でパリへの切符を掴む
佐藤拳太郎 (富士通)・村竹ラシッド (JAL)
秦澄美鈴 (住友電工)・橋岡優輝 (富士通)・豊田兼 (慶應義塾大)

それぞれの思いが新潟で交錯する
まさに「運命をかけた決戦」
舞台は、新潟・デンカビッグスワンスタジアム
6月27日、開幕


パリオリンピック 代表選考について

◆参加標準記録・選考要項
https://www.jaaf.or.jp/news/article/16334/
◆参加資格有資格者一覧
https://www.jaaf.or.jp/news/article/18659/
◆Road to Paris 解説(パリ五輪への道)
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19250/
◆パリ五輪選考条件まとめ資料
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202406/road_to_paris.pdf

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