2023.08.15(火)選手

【記録と数字で楽しむブダペスト世界選手権】男子110mハードル:泉谷に「メダル」のチャンスあり!!複数入賞の可能性も(予選8月20日、準決勝21日、決勝21日)



8月19日(土)から27日(日)の9日間、ハンガリーの首都ブダペストを舞台に「第19回世界陸上競技選手権大会」が開催される。日本からは、76名(男子48名・女子28名)の代表選手が世界のライバル達と競い合う。

現地に赴く方は少ないだろうがテレビやネットでのライブ中継で観戦する方の「お供」に日本人選手が出場する33種目に関して、「記録と数字で楽しむブダペスト世界選手権」をお届けする。

なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ……」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある拙稿と同じ内容のデータや文章もかなり含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、記事の中では五輪についても「世界大会」ということで、そのデータも紹介している。

大会期間中は、日本陸連のSNS(Facebook or X)で、記録や各種のデータを随時発信予定。そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。
日本陸連Facebook:https://www.facebook.com/JapanAthletics
日本陸連X(Twitter):https://twitter.com/jaaf_official

現地と日本の時差は、7時間で日本が進んでいる。競技場内で行われる決勝種目は、日本時間の深夜から早朝にかけて競技が行われる。

睡眠不足にどうぞご注意を!


男子110mハードル

(実施日時は、日本時間。カッコ内は現地時間)
・予 選 8月20日 20:05(20日 13:05) 5組4着+4
・準決勝 8月22日 03:05(21日 20:05) 3組2着+2
・決 勝 8月22日 04:40(21日 21:40)

※記録は原則として7月31日判明分。現役選手の敬称は略させていただいた。トラック競技の予選・準決勝の通過条件(○組○着+○)は、ルールやこれまでの世界大会でのものを参考に記載したため、ブダペストではこれと異なる条件になる可能性もある。


泉谷に「メダル」のチャンスあり!! 複数入賞の可能性も

参加標準記録の13秒28を突破した泉谷駿介(住友電工/エントリー記録&自己ベスト13秒04=23年)と高山峻野(ゼンリン/エントリー記録&自己ベスト13秒10=22年)、日本選手権3位でワールドランキング36位相当によって、横地大雅(Team SSP/エントリー記録&自己ベスト13秒33=23年)が出場する。

春先の故障によって日本選手権を欠場した村竹ラシッド(順大4年)と日本選手権の決勝で途中棄権だった野本周成(愛媛陸協)も参加標準記録を2回ずつ突破したが、日本陸連の選考基準では日本選手権3位の横地の優先順位が高いため、ともに涙を呑むことになった。

さらに、日本選手権4位の石川周平(富士通)もワールドランキングでは横地よりも上の29位相当に位置していたが、日本選手権での順位によって横地が優先され出場がかなわなかった。

つまり、日本は、参加標準記録クリアが4名、その他ターゲットナンバー40位以内相当が2名と出場資格がある選手が6名もいたのだ。
代表入りがかなわなかった3選手はなんとも残念無念であったことだろう。1国3名以内の制限と日本陸連の選考基準の「日本選手権3位以内」かどうかが明と暗を分けた。


世界選手権&五輪での日本人最高成績と最高記録

<世界選手権>    
最高成績準決勝2組5着13.42(+0.3)泉谷駿介(住友電工)2022年
最高記録13.32(+0.4)予選4組2着高山峻野(ゼンリン)2019年

<五輪>    
最高成績準決勝3組3着13.35(-0.1)泉谷駿介(順大)2021年
最高記録13.28(-0.2)予選4組2着泉谷駿介(順大)2021年

上記の通り、五輪も世界選手権も「準決勝の壁」に阻まれてきた。しかし、今回は持ちタイムからしても「ファイナリスト」のみならず「メダル」の可能性もある。

泉谷の、日本選手権での13秒04は、23年世界5位。しかも、向風0.9mの条件での記録だけにその価値は高い。
13秒04以内のタイムは、7月31日までに世界歴代で35名が181回マークしているが、0.9m以上の向風の条件下では5回しかない。
泉谷以外の4回をマークしている選手の公認ベストは、12秒87、12秒80=現世界記録、12秒91=93年当時の世界記録、12秒98でいずれも12秒台のハードラーだ。室内の60mHを含め4名とも世界の金メダリストだ。13秒04の泉谷にも、12秒台ハードラーと金メダリストの仲間入りを果たしてもらいたいところだ。

23年の泉谷は絶好調で13秒0台が3回(13秒07=5月21日、13秒04=6月4日、13秒06=7月23日)。
6月30日のローザンヌでのダイヤモンドリーグでは初挑戦での優勝(13秒22)。ダイヤモンドリーグで勝った日本人男子の第一号だった(女子では、やり投の北口榛花が第一号)。7月23日のロンドンでのダイヤモンドリーグは、22年オレゴンで金メダルを獲得しブダペストで連覇に挑むグラント・ホロウェイ(アメリカ)と終盤まで競り合って0秒05差の2位(13秒06)。21年東京五輪を制した4着のハンスル・パーチメント(ジャマイカ)には0秒20の差をつけた。


「13秒04」を他種目の記録に当てはめると……

泉谷の13秒04は、全種目を網羅した世界陸連の採点表(22年版)では「1247点」。

これを他の個人種目の記録にあてはめると以下の通りだ。

【世界陸連採点表(22年版)で「1247点」に相当する記録】
・カッコ内は日本記録
・五輪&世界選手権実施種目に限る
・「★」は、日本記録が「110mH13秒04=1247点」の点数を上回るもの
100m9.89(9.95)
200m19.83(20.03)
400m44.05(44.78)
800m1.42.64(1.45.75)
1500m3.29.87(3.35.42)
5000m12.50.01(13.08.40)
10000m26.47.34(27.18.75)
マラソン2.04.53.(2.04.56.)
400mH47.71(47.89)
3000mSC8.02.48(8.09.91)
20kmW1.17.27.(1.16.36.★)
35kmW2.22.28.(2.23.13.)
走高跳2.37(2.35i)
棒高跳5.93(5.83)
走幅跳8.50(8.40)
三段跳17.77(17.15)
砲丸投22.11(18.85)
円盤投70.11(62.59)
ハンマー投82.83(84.86★)
やり投90.20(87.60)
十種競技8774(8308)

日本記録が「1247点」を上回っているのは、競技場内の種目では室伏広治さんのハンマー投(84m86=1278点)のみ。
ロード競技でも、世界記録である20km競歩(1時間16分36秒=1266点)のみだ。

参考までに「リレー」の「1247点」は、
400mR=37.73 (37.43)
1600mR=2.56.85 (2.59.51)
で、400mRは1271点で110mHの13秒04を上回っている。

ついでに、世界陸連のポイントの個人種目の日本歴代トップ10をあげると、
・五輪&世界選手権実施種目に限る
1)1278室伏広治ハンマー84.36
2)1266鈴木雄介20kmW1.16.36.
3)1251山西利和20kmW1.17.15.
4)1248川野将虎20kmW1.17.24.
5)1247泉谷駿介110mH13.04
5)1247池田向希20kmW1.17.25.
5)1247高橋英輝20kmW1.17.26.
8)1246鈴木健吾マラソン2.04.56.
9)1240松永大介20kmW1.17.46.
10)1239野田明宏35kmW2.23.13.

このところ、出場すればメダル獲得という競歩の選手がたくさん入っているのはうなずける。


110mHの世界記録と日本記録の差

400m以下の距離の種目で電動計時の記録のみが世界記録や日本記録として公認されるようになってからの世界記録と日本記録の差を調べたのが「表1」である。「○」は、その差がその時点で歴代最小値になったことを示す。

【表1/世界記録と日本記録の差の変遷】
年月日世界記録日本記録 
1972.09.0713.2414.301.06 
1977.08.2113.211.09 
1977.10.1614.251.04
1978.05.1414.060.85
1979.04.1413.160.90 
1979.05.1613.001.06 
1981.08.1912.931.13 
1989.05.0713.951.02 
1989.08.1612.921.03 
1990.09.1513.820.90 
1991.06.1613.800.88 
1991.08.2713.580.66
1993.02.2012.910.67 
2001.10.1713.500.59
2003.07.2013.470.56
2004.08.2413.390.48
2006.07.1112.880.51 
2008.06.1212.870.52 
2012.09.0712.800.59 
2018.06.2413.360.56 
2019.07.2713.300.50 
2019.08.1713.250.45
2021.04.2913.160.36
2021.06.2713.060.26
2023.06.0413.040.24

80年代までは、1秒0前後の差があったが91年東京世界選手権で岩崎利彦さん(富士通)が13秒58で走ってその差を一気に0秒66にした。その後、谷川聡(ミズノ)さんと内藤真人(法大→ミズノ)さんが0秒5前後とし、金井大旺さん(福井県スポ協→ミズノ)・高山・泉谷が切磋琢磨する中で「0秒24差」まで縮めてきて、世界と勝負ができるレベルに到達した。世界記録が2012年から10年以上12秒80のまま据え置かれている間に、日本は0秒35その差を縮めた。


世界選手権&五輪での予選・準決通過ライン

世界選手権が予選・準決・決勝の3ラウンド制になった2001年以降の「準決勝で落選した最高記録」と「予選で落選した最高記録」は、「表2」の通りだ(2004・08年の五輪は4ラウンド制だったので第二次予選のデータを記載)。

【表2/準決勝と予選で落選した最高記録】
準決落最高予選落最高
200113.4213.82
200313.5313.74
2004五輪13.3013.53=二次予選
200513.4414.12
200713.3613.67
2008五輪13.4213.53=二次予選
200913.4213.67
201113.5713.56
2012五輪13.3413.59
201313.3513.52
201513.2913.63
2016五輪13.4313.66
201713.2713.58
201913.4713.60
2021五輪13.3313.55
202213.2513.58
最高記録13.2513.52
世選最高13.25(2022)13.52(2013)
五輪最高13.30(2004)13.53(2004・2008)

100mと同様に準決勝がポイントだが、2015・17・22年の世界選手権では「13秒2台で落選」ということもあった。
この時、ファイナルに進んだ「+2」の2番目の選手の記録は、15年が13秒25、17年が13秒23、22年が13秒22だった。


世界選手権&五輪での1~8位の記録

見事に「ファイナリスト」となった場合、どれくらいの順位が見込めるのかということで、世界選手権が始まった1983年以降の1~8位の記録を調べたのが「表3」だ。

【表3/1983年以降の世界選手権&五輪での1~8位の記録】
・2019年世界選手権の「13.30*」は、救済措置のため順位繰り上げで3位タイ
・カッコ内は、のちにドーピング違反で失格となった記録で、後ろに当初の相当順位を記載。
風速1位2位3位4位5位6位7位8位
1983+1.313.4213.4613.4813.5613.6613.6813.7313.82
1984五輪-0.413.2013.2313.4013.4513.5513.7113.8014.15
1987+0.513.2113.2913.3813.4113.4813.5513.71DNS
1988五輪+1.512.9813.2813.3813.5113.5213.5413.6113.96
1991+0.713.0613.0613.2513.3013.3313.3913.4113.46
1992五輪+0.813.1213.2413.2613.2613.2913.4113.4614.00
1993+0.512.9113.0013.0613.2013.2713.3813.6014.13
1995-0.113.0013.0413.1913.2713.3013.3413.3813.43
1996五輪+0.612.9513.0913.1713.1913.2013.2313.4013.43
1997±0.012.9313.0513.1813.2013.2613.3013.55DNS
1999+1.013.0413.0713.1213.2213.2613.3013.3913.54
2000五輪+0.613.0013.1613.2213.2313.2813.4213.4913.61
2001-0.313.0413.0713.2513.3013.5113.5213.7613.84
2003+0.313.1213.2013.2313.3413.4813.5513.57(13.36=5)
2004五輪+0.312.9113.1813.2013.2113.2113.4813.4913.76
2005-0.213.0713.0813.1013.1313.2013.4713.4713.48
2007+1.712.9512.9913.0213.1513.1913.2213.3313.39
2008五輪+0.112.9313.1713.1813.2413.3613.4613.6013.69
2009+0.113.1413.1513.1513.3013.3113.3813.5613.57
2011-1.113.1613.2713.4413.4413.6713.67DNF(13.14=1)
2012五輪-0.212.9213.0413.1213.3913.4013.4313.53DQ(42.86)
2013+0.313.0013.1313.2413.2713.3013.3113.4213.51
2015+0.212.9813.0313.0413.1713.1713.1813.3313.34
2016五輪+0.213.0513.1713.2413.2913.3113.4013.41DQ(13.45)
2017±0.013.0413.1413.2813.3013.3113.3213.3713.37
2019+0.613.1013.1513.18=13.30*13.2913.6113.7013.87
2021五輪-0.513.0413.0913.1013.1413.1613.2213.3013.38
2022+1.213.0313.0813.1713.3213.33DQDQDNS
最高記録 12.9112.9913.0213.1313.1713.1813.3013.34
世界選手権最高 12.9312.9913.0213.1313.1713.1813.3313.34
五輪最高 12.9113.0413.1213.1913.2013.2313.3013.38

以上の通りで、決勝で泉谷のベストと同じ13秒04で走れれば、これまでの「史上最高のハイレベルなレース」に当てはめても五輪なら2位タイ相当、世界選手権なら4位相当となる。
種目の特性もあって8名のうち2~3名くらいが大きく引っかけて失速することも多いので、下位のタイムが低くなっている大会も目立つ。

何はともあれ、日本人の「初表彰台(願わくば「金メダル」)」や「複数入賞」を是非とも見せてもらいたいところである。



野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)


■ブダペスト2023世界選手権 特設サイト

>>特設サイトはこちら


■応援メッセージを大募集!世界の頂点を目指して戦う選手たちにエールを送ろう!

▼こちらから▼

JAAF Official Partner

  • アシックス

JAAF Official Sponsors

  • 大塚製薬
  • 日本航空株式会社
  • 株式会社ニシ・スポーツ
  • 積水化学工業株式会社

JAAF Official Supporting companies

  • 株式会社シミズオクト
  • 株式会社セレスポ
  • 近畿日本ツーリスト株式会社
  • JTB
  • 東武トップツアーズ株式会社
  • 日東電工株式会社
  • 伊藤超短波株式会社

PR Partner

  • 株式会社 PR TIMES
  • ハイパフォーマンススポーツセンター
  • JAPAN SPORT COUNCIL 日本スポーツ振興センター
  • スポーツ応援サイトGROWING by スポーツくじ(toto・BIG)
  • 公益財団法人 日本体育協会
  • フェアプレイで日本を元気に|日本体育協会
  • 日本アンチ・ドーピング機構
  • JSCとの個人情報の共同利用について