2023.06.07(水)選手

【記録と数字で楽しむ第107回日本選手権・混成】女子七種競技:至近8年間は、ヘンプヒルと山﨑が4回ずつ制覇



ここでは、6月10日~11日に秋田で行われる「第107回日本陸上競技選手権大会・混成競技」の「見どころ」や「楽しみ方」を「記録と数字」という視点から紹介する。なお、「日本選手権・混成競技」とともに20歳未満の日本一を決める「第39回U20日本陸上競技選手権大会・混成競技」も同時開催される。また、「ブダペスト2023世界陸上競技選手権大会」と「バンコク2023アジア陸上競技選手権大会」「杭州2022アジア競技大会」の代表選手選考競技会でもある。

走跳投のオールラウンドのトータルポイントで競う十種競技のチャンピオンは「キング・オブ・アスリート」、七種競技は「クイーン・オブ・アスリート」として称えられる。
今回の日本選手権では果たして誰がその称号を手に入れるのか?

残念ながらテレビの生中継はないが、2日間とも競技開始から終了までライブ配信がされる。


▼ライブ配信の詳細はこちらから▼
https://www.jaaf.or.jp/jch/107/news/article/18059/


なお、原稿締め切りの都合でこの記事は、エントリー締切(5月29日)前の5月24日に書いているため、記事に登場している選手がエントリーしていなかったり記録に変動があるかもしれないことをお断りしておく。また、以前に紹介したデータや同じ文章の箇所もあるが、可能な限り最新の情報に修正した。

・文中敬称略
・記事中の記録および情報は23年5月24日判明分のもの
・「WAランキング」は5月23日発表のもの



<ヘンプヒル恵(アトレ)は今大会欠場となった。以下は、エントリーリスト発表前に執筆したものではあるが、今回の「第107回日本選手権・混成競技」を楽しむお供にしていただければ幸いである>



【女子七種競技】

日本記録5975点山﨑有紀
(スズキ)
2021.5.22~5.23
九州共立大(福岡)
大会記録6594点L・ナスターゼ
(ルーマニア)
1992.6.12~6.13
国立
日本人大会最高記録5962点中田有紀
(さかえクリニックTC)
2004.6.05~6.06
布勢(鳥取)
世界選手権参加標準記録6480点  




至近8年間は、ヘンプヒルと山﨑が4回ずつ制覇

今回の日本選手権参加資格記録は「4950点」。有効期限(2022年1月1日~23年5月28日)における上位選手の記録は以下の通り。ただし、この原稿の締切日の都合で、23年の記録は5月21日現在のもの。
・所属は、23年のもの。< >内は、自己ベストを示す。
1)5872ヘンプヒル恵(アトレ)2022.06.05<5907 2017.06.10=日本歴代3位>
2)5807山﨑有紀(スズキ)2022.08.07<5975 2021.05.23=日本歴代1位>
3)5589大玉華鈴(日体大SMG横浜)2022.08.09<5633 2021.05.23=日本歴代6位>
4)5545田中友梨(至学館大)2023.04.22<同左=日本歴代10位>
5)5517熱田心(岡山陸協)2022.06.05<同左=日本歴代11位>
6)5462梶木菜々香(ノジマ)2022.09.11<同左=日本歴代15位>
7)5277松下美咲(中大)2022.09.11<同左=日本歴代41位>
8)5252大熊楓(東女体大)2023.04.22<同左=日本歴代46位>

2015年以降の優勝者は、
15年5622ヘンプヒル恵
16年5882ヘンプヒル恵
17年5907ヘンプヒル恵
18年5836山﨑有紀
19年5696w山﨑有紀
20年5799山﨑有紀
21年5909山﨑有紀
22年5872ヘンプヒル恵

22年は、ヘンプヒルが5年ぶり4回目の優勝で18年から4連勝していた山﨑にストップをかけた。そのヘンプヒルは、22年シーズン後半から脛の痛みが続き23年2月のアジア室内選手権の出場を辞退。22年6月の日本選手権混成以降は、単独種目を含め1度も競技会に出場していない。1年ぶりの試合に向けてどう立て直してくるか? 秋田での日本選手権混成の1週間前の大阪での日本選手権には100mHにエントリーしている。

中大時代の15年から3連勝したあとヘンプヒルは大きなケガに見舞われた。
5907点の自己新で3連覇を果たした17年日本選手権の約2カ月後、左ひざ前十字靱帯を断裂。18年春には復帰したが、4連覇を目指した日本選手権では、山﨑に70点差で敗れた。19年前半は肘の故障で投げることができず日本選手権は欠場。20年の冬には足首の捻挫。故障から復帰した20年9月の日本選手権では当時の日本記録(5962点/中田有紀/04年)を更新するかもしれないペースだったが、6種目めのやり投で右ひざの前十字靱帯断裂。21年の日本選手権も欠場し、10月に5578点を出した試合が21年唯一の七種競技となった。
その後、11月から3月にかけて東京五輪に出場した2人(6位と9位)を指導するコーチに師事するため2度の渡米。22年シーズン第1戦となった5月の木南記念では、山崎と直接対決。5732点と5599点で19年10月20日以来の白星となった。そして、22年日本選手権混成では、5年ぶりにタイトルを獲得したのだった。

一方、山﨑の23年は、2月のアジア室内・五種競技で4078点の室内日本新をマークして3位。屋外の初戦は5月6・7日の木南記念で5683点で優勝。2位・田中に259点、3位・熱田に278点の差をつけての圧勝だった。
山﨑のシーズン初戦とその年の最高記録、初戦からの得点の伸びは、以下の通り。

学年初戦の月日・記録シーズン最高伸び
高22012.09.16・4196初戦が最高±0
高32013.06.03・43304551(08.01)+221
大12014.05.18・4627初戦が最高±0
大22015.05.17・50625173(09.13)+111
大32016.05.22・5751初戦が最高±0
大42017.04.23・54055585(05.14)+180
社12018.02.13・56465873(08.29)+227
社62019.04.23・57535804(10.20)+ 51
社32020.07.19・55345799(09.27)+265
社42021.05.03・56925975(05.23)+283
社52022.03.21・54685807(08.07)+339
社62023.05.07・5683?? 

高校2年生の秋に初めて七種競技に取り組んでから12年目になる。大学3年生までの5年間は、初戦の記録がシーズンベストという年が3回あったが、17年以降は、6年中4年は初戦の記録を200点以上伸ばしている。17年以降の6年間の平均は「224.2点」のプラスだ。これを23年初戦の5683点に加えると5907点。22年と同じプラス339点ならば、6022点となり「大台突破」が実現する計算になる。

山﨑とヘンプヒルに追いつけ追い越せを目指すのが社会人2年めの大玉華鈴(日体大SMG横浜)だ。
日体大では2年生の時(19年)から日本インカレ3連覇。日本選手権も20・21年と2年連続2位。22年はヘンプヒルと山﨑についでの3位。大学2年の19年に初めて5500点台に乗せ、5528点→5541点→5633点。22年は5589点とわずかに後退したが毎年着実に底上げしてきている。23年初戦の木南記念では絶好調。初日の4種目で「3505点」の日本最高をマークした。が、2日目最初の走幅跳で、よもやの3回ファウルの「記録なし」。その後のやり投と800mにも出場し「六種競技」で「4972点」の7位だった。「たら、れば」の話になるが、走幅跳で5m54(712点)以上を跳んでいれば、山﨑(5683点)を抑えて優勝していたことになる。



参加資格記録トップ6の種目別記録

トップ6が参加資格記録をマークした時の種目別記録と得点は以下の通り。
カッコ内は累計得点と「=*」は6人の中での累計得点の順位を示す。

【参加資格記録トップ6の種目別内訳】
種目ヘンプヒル恵山﨑有紀大玉華鈴田中友梨熱田心梶木菜々香
100mH13.45
1058(1058=1)
13.81
1005(1005=4)
13.71w
1020(1020=3)
14.23
946(946=6)
13.83
1003(1003=5)
13.49 1052(1052=2)
走高跳1.69
842(1900=2)
1.61
747(1752=4)
1.73
891(1911=1)
1.60
736(1682=5)
1.66
806(1809=3)
1.50 621(1673=6)
砲丸投12.04
664(2564=2)
12.39
687(2439=3)
12.06
665(2576=1)
11.85
651(2333=5)
10.47
560(2369=4)
9.75 513(2186=6)
200m25.21
868(3432=1)
25.01w
886(3325=3)
25.52w
840(3416=2)
25.75
819(3152=5)
25.56
836(3205=4)
24.91 895(3081=6)
走幅跳5.81
792(4224=1)
5.83
798(4123=2)
5.50
700(4116=3)
5.48
694(3846=6)
5.96
837(4042=4)
5.73 768(3849=5)
やり投44.33
751(4975=1)
46.30
789(4912=2)
44.08
746(4862=3)
51.99
899(4745=5)
46.06
784(4826=4)
49.28 846(4695=6)
800m2.14.68
897(5872=1)
2.14.85
895(5807=2)
2.27.27
727(5589=3)
2.21.77
800(5545=4)
2.30.16
691(5517=5)
2.24.19
767(5462=6)

この「仮想対決」では、100mHでトップに立ったヘンプヒルを走高跳で大玉が逆転し、砲丸投でも首位をキープ。初日最後の200mでヘンプヒルが逆転し16点差で大玉。2日目もヘンプヒルが首位を守り逃げ切り。走幅跳で山﨑が大玉を抜きそのまま2位をキープ。やりと800mで大玉を田中が追い込むが及ばず。熱田は800mで田中に逆転されて5位。



種目別自己ベストの合計得点では山﨑とヘンプヒルが1点差!!大玉も6000点超え

以下には6人の七種競技中だけではなく単独種目での試合を含めた各種目の公認ベストとその合計得点、さらには七種のベストとの達成率も示した。それぞれの「潜在能力」を知るための指標となるだろう。

【参加資格記録トップ6の種目別公認ベストと七種ベストとの達成率】
種目山﨑有紀ヘンプヒル恵大玉華鈴熱田心田中友梨梶木菜々香
100mH13.58
1039(1039=3)
13.37
1069(1069=1)
13.66
1027(1027=4)
13.83
1003(1003=5)
14.23
946(946=6)
13.49 1052(1052=2)
走高跳1.71
867(1906=3)
1.73
891(1960=2)
1.78
953(1980=1)
1.66
806(1809=4)
1.61
747(1693=6)
1.58 712(1764=5)
砲丸投13.12
735(2641=2)
12.21
675(2635=3)
12.84
717(2697=1)
10.80
582(2391=4)
11.86
652(2345=5)
10.07 534(2298=6)
200m24.51
932(3573=1)
24.87
899(3534=3)
25.30
859(3556=2)
24.89
897(3288=4)
25.46
845(3190=6)
24.91 895(3193=5)
走幅跳6.13
890(4463=2)
6.28
937(4471=1)
5.85
804(4360=3)
6.29
940(4228=4)
5.71
762(3952=6)
5.73 768(3961=5)
やり投48.62
833(5296=1)
47.88
819(5290=2)
51.51
889(5249=3)
47.87
819(5047=4)
51.99
899(4851=5)
49.28 846(4807=6)
800m2.13.95
908(6204=1)
2.13.54
913(6203=2)
2.20.64
815(6064=3)
2.29.07
705(5752=4)
2.18.13
849(5700=5)
2.24.19
767(5574=6)
七種PB(%)5975
(96.3%)
5907
(95.2%)
5633
(92.9%)
5517
(95.9%)
5545
(97.3%)
5462
(98.0%)

7種目の自己ベストの合計得点が、山﨑とヘンプヒルがわずかに1点差。
ここでの「仮想対決」では、5種目めの走幅跳までは大玉を含めて1種目毎に3人の順位が入れ替わる抜きつ抜かれつの大接戦だ。

22年の日本選手権混成前までの自己ベストの合計ではヘンプヒル6203点、山﨑6161点、大玉5989点だったが、山﨑と大玉がいくつかの種目でベストを更新して山﨑6204点、ヘンプヒル6203点、大玉6064点となった。
七種競技の実際の自己ベストとの達成率では山崎96.3%、ヘンプヒル95.2%、大玉92.9%。大玉が山﨑と同じ96.3%の達成率を実現できれば5840点となる。

6人の各種目の公認ベストで、最も点数が高い各種目をトータルすると「6441点」。それでもブダペスト世界選手権参加標準記録の6480点には届かない。



七種競技中の種目別日本最高記録

トータル得点4500点以上の七種競技中の各種目の日本最高は以下の通り。

【七種競技中の種目別と前半・後半の日本最高】
・トータル4500点以上の記録に限る
・追風参考は4.0m以内の記録
100mH13.43(+1.7)/1060ヘンプヒル恵2016.06.11/5882
100mH/追参13.35(+2.3)/1072ヘンプヒル恵2017.06.10/5907
走高跳1.81/991屋ケ田直美1984.10.05/5383w
砲丸投14.76/845平戸安紀子2002.04.20/5559
200m24.35(+0.9)/947笠原瑞世2003.06.06/5404
200m/追参24.20(+2.4)/962山﨑有紀2021.06.12/5909
走幅跳6.30(+0.5)/943磯貝美奈子1988.04.24/5537
6.30(+1.7)/943中田有紀2010.06.13/5670
走幅跳/追参6.41(+2.9)/985中田有紀2004.06.05/5962
やり投57.45/1005森友佳2018.11.04/4754
800m2.09.80/968宇都宮絵莉2018.04.22/5821
前半3505大玉華鈴2023.05.06/4972
後半2534中田有紀2004.06.05/5962

100mHで猪岡真帆(中京大)が13秒40(+1.4)を21年6月12日の日本選手権でマークしているが、記録なしや途中棄権もあってトータル3490点で、4500点以上の条件を満たさないため、上の表には収録していない。
上記の種目別日本最高の公認(追風2.0m以内)の得点の合計は「6759点」。ジャッキー・ジョイナー・カーシー(アメリカ)の世界記録7291点とは500点以上の差で世界歴代24位相当。世界のトップレベルの選手はやはり「スゴイ」のだ。

カーシーの世界記録の時および彼女の7種目の公認自己ベスト(七種競技中でない単独種目の記録も含む)と単独種目の日本記録の「仮想対決」は以下の通りだ。

種目カーシー=七種世界記録カーシー=自己ベスト単独種目日本記録
100mH12.69(+0.5)
1172(1172)
12.61(+0.2)
1184(1184)
12.73(+1.1)
1165(1165)
福部真子
走高跳1.86
1054(2226)
1.93
1145(2329)
1.96
1184(2349)
今井美希
砲丸投15.80
915(3141)
16.84
985(3314)
18.22
1078(3427)
森千夏
200m22.56(+1.6)
1123(4264)
22.30(0.0)
1150(4464)
22.88(+1.8)
1091(4518)
福島千里
走幅跳7.27(+0.7)
1264(5528)
7.49(+1.3)
1341(5805)
6.86(+1.6)
1125(5643)
池田久美子
やり投45.66
776(6304)
50.12
862(6667)
66.00
1172(6815)
北口榛花
800m2.08.51
987(7291)
2.08.51
987(7654)
2.00.45
1109(7942)
杉森美保

以上の通り、7種目トータルでは日本記録が上回るが、カーシーの自己ベストとの比較では5種目めの走幅跳までは抜きつ抜かれつを繰り返す。この時点でカーシーが5805点で162点のリード。6種目めのやり投で北口の66m00が効いて逆転し最後の800mでも杉森が突き放し最終的には7人の日本記録保持者に軍配が上がる。
ただし、日本歴代2位の記録の合計では7765点でその差が111点。同3位では7670点でカーシーの自己ベストの合計を16点上回るに過ぎなくなる。

ここまでは、単独種目の日本歴代記録との比較だが、22年の日本1位記録と比較すると、日本1位の合計は、7442点。七種競技の世界記録との差は151点。100mHからカーシーがリードし種目ごとにその差を広げ、走幅跳終了時点で320点もの大差。やり投で北口(65m68)が逆転して70点差。800mで田中希実(2分03秒10)が151点差に広げて終了となる。つまり、7種目のうち5種目はカーシーが22年日本一の選手を上回っているのだから恐れ入りましたである。
ちなみに、カーシーの各種目の自己ベスト合計(7654点)に対する七種の記録(7291点)の達成率は95.3%である。

と、カーシーのすごさばかりが強調されるが、日本の七種選手のトップも国内のレベルの中では「クイーン・オブ・アスリート」の名に値するレベルで頑張っている。

どんな種目でもその年の「日本100傑」に名を連ねるのは、多くの選手にとって目標になっていることだろう。
七種競技で行われる各種目の22年日本100位記録は、100mH13秒98(981点)、走高跳1m67(818点)、砲丸投12m26(678点)、200m24秒67(917点)、走幅跳5m78(783点)、やり投45m40(771点)、800m2分11秒08(949点)。その合計は、5897点で山崎の七種の日本記録には78点及ばない。
山崎の日本記録(5975点)の各種の記録の22年日本リストでの相当順位は、100mH14秒00・107位、走高跳1m65・127位、砲丸投12m39・94位、200m24秒63・84位、走幅跳6m01・28位、やり投48m62・57位、800m2分13秒95・216位。100mH、走高跳、800m以外の4種目は100位以内に入っている。



ブダペスト世界選手権への道

世界選手権参加標準記録は、日本記録5975点を500点以上も上回る「6480点」。有効期限は22年1月31日~23年7月30日。残念ながら、日本人選手が6480点を超える可能性はない。
世界選手権のターゲットナンバー(参加人数上限)は24名。参加標準記録をクリアできるのは世界で十人いるかどうかで、残りはワールドランキングで24位以内を目指すことになる。
5月23日時点の1国3人以内でカウントした有効期間内の「WAランキング」でワイルドカードの2名を含め参加標準記録をクリアしているのはわずかに6名。日本人最高順位のヘンプヒルが49位(上位2試合平均で1088pt。1110pt+1067pt)。5月23日時点のボーダーラインは1153ptだが7月30日までにはアップしそうだ。東京五輪の時のボーダーラインが1187pt、オレゴン世界選手権のそれが1176ptだった。ヘンプヒルが、平均で東京五輪の時の1187ptを上回るには、今回の日本選手権で1264ptを獲得しなければならない。日本選手権1位の順位ポイントは60ptなので、記録ポイントで1204ptが必要だ。これに相当する七種の記録は、6653点。参加標準記録の6480点を破るしかない。

ただし、世界陸連の世界選手権出場資格者の条件には、以下の条文がある。
「次の指定競技会の順位により(これは参加標準記録を満たしているものとして扱う)
・エリア選手権全個人種目(マラソンのぞく)の優勝者。ただし10000m、3000m障害物、混成種目、フィールド種目、ロード種目は、当該競技者のレベルに基づいたテクニカルデレゲートの承認による。エリア選手権優勝者が所属する陸連は、その選考要項にもとづき当該競技者をエントリー申し込みするか否かの最終権限を有する。以下の各条件の詳細を確認されたい。」
なお、「エリア選手権優勝者」の条件は、21~23年に開催された競技会である必要がある。
そんなことから、7月12~16日のタイ・バンコクでのアジア選手権で優勝すれば、ブタペスト行き切符をゲットできる可能性は残っている。ただし、その優勝記録のレベルが低いと世界陸連のテクニカルデレゲートに承認されない可能性もある。また、6346点(21年)のベストを持つイェカテリナ・ヴォロニーナ(ウズベキスタン)がアジア選手権に出場してくると、「アジアチャンピオン」としてのブダペスト行きのチケットゲットもかなり厳しくなりそうだ。ヴォロニーナは、2月のアジア室内選手権の五種競技でも4386点で優勝。4078点の室内日本新で3位となった山﨑に300点以上の大差をつけている。アジア室内2位(4119点)のスワパナ・バーマン(インド)も七種競技は6026点(18年)がベスト。簡単に「アジア選手権チャンピオン」にはならせてはくれなさそうだ。

そんなことで、日本人選手の世界選手権出場は非常に厳しそうな状況ではあるが、今回の日本選手権では「6000点突破」が大きな目標となる。
2003年に中田有紀(さかえクリニック)が5910点、翌年に5962点。ヘンプヒルも17年に5907点、そして21年には山﨑が5975点で中田の記録を17年ぶりに更新。山﨑は21年に計3回5900点台マークし、「6000点台」を指呼の間にとらえた。が、この20年あまり日本のヘプタストリートが挑んでははね返されてきたのが「6000点の壁」だ。今回の秋田で、是非とも打ち崩してもらいたい。

山﨑の日本記録は6000点まであと25点。各種目の記録に当てはめると、100mHで0秒2程度、走高跳で2cm程度、砲丸投で35cm強、200mで0秒25ちょっと、走幅跳で10cm弱、やり投で1m20~30cmあまり、最終種目の800mなら2秒弱。山﨑が日本記録をマークした時の記録に上記のいずれか1種目で上乗せできれば「6000点」に届く。
また、ヘンプヒルは、U18記録(5454点)、高校記録(5519点)、U20記録(5678点)、学生記録(5907点)とすべてのカテゴリーの記録を保持している。残るは日本記録のみである。

各種目の自己ベストの合計が6000点をオーバーし、今回の日本選手権でタイトルを争うと思われる山﨑・ヘンプヒル・大玉が七種の自己ベストをマークした時の種目別記録と累計得点は、以下の通り。



【山﨑・ヘンプヒル・大玉が七種の自己ベストをマークした時の種目別内訳】
種目山崎有紀ヘンプヒル大玉華鈴
100mH14.00
978(978=3)
13.35w
1072(1072=1)
13.98
981(981=2)
走高跳1.65
795(1773=3)
1.71
867(1939=1)
1.75
916(1897=2)
砲丸投12.39
687(2460=3)
11.13
604(2543=2)
12.09
667(2564=1)
200m24.63
921(3381=2)
24.87
899(3442=1)
25.77
817(3381=2)
走幅跳6.01
853(4234=2)
6.06w
868(4310=1)
5.82
795(4176=3)
やり投48.62
833(5067=2)
45.02
764(5074=1)
45.67
776(4952=3)
800m2.13.95
908(5975=1)
2.19.32
833(5907=2)
2.30.92
681(5633=3)




日本選手権での順位別最高記録

最後に、これまでの日本選手権での各順位の歴代最高記録を紹介しておく。
1)65941992年L・ナスターゼ(ルーマニア)
日本人1)59622004年中田有紀(さかえクリニック)
2)57662018年ヘンプヒル恵(中大)
3)55712022年大玉華鈴(日体大SMG横浜)
4)55192022年熱田心(岡山陸協)
5)54442016年山崎有紀(九州共立大)
6)54112018年伊藤明子(筑波大)
7)5250w2016年高橋このか(東学大)
8)5217w2018年南野智美(早大)
9)51662018年酒見三咲(九州共立大)
10)51002018年シュレスタまや(筑波大)
11)50962018年山手美久莉(国士舘ク)
12)50832018年大玉華鈴(日体大)
13)49592019年三輪ダリヤ(中大)
14)49532019年山下紗稀子(立命大)
15)4866w2016年大日方紗愛(中京大)
16)48422018年松岡絵里(環太平洋大)
17)48412018年掛井真子(城西大)
18)48192018年山田夏葵(中大)
19)48042018年橋本春菜(筑波大)
20)46232018年津吹アイリ(東学大)
・以上、20位まで

全体的に2018年と16年のレベルが高かったが、22年も5500点以上を4人がマーク。それまでは3人が最多で、16年・18年・19年の3回だった。
5000点以上の人数は、18年の12人が最多。11人の19年と22年、9人の14・16・20年が続く。
日本人初の6000点台のほか、2位以下の順位別最高記録もたくされることを期待したい。



野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:アフロスポーツ

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