7月15日(金)から7月24日(日)の10日間(日本時間では16日~25日)、アメリカ・オレゴン州ユージーンのヘイワード・フィールドを舞台に「オレゴン2022世界陸上競技選手権大会」が開催される。
日本からは、68人(男子41・女27)の代表選手が出場し世界のライバル達と競い合う。
現地に赴く方は少ないだろうがテレビやネットでのライブ中継で観戦する方の「お供」に日本人選手が出場する30種目に関して、「記録と数字で楽しむオレゴン世界選手権」をお届けする。
なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ・・・」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある拙稿と同じ内容のデータも含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、記事の中では五輪についても「世界大会」ということで、そのデータも紹介した。
記録は原則として7月7日判明分。
現役選手の敬称は略させていただいた。
日本人選手の記録や数字に関する内容が中心で、優勝やメダルを争いそうな外国人選手についての展望的な内容には一部を除いてあまりふれていない。日本人の出場しない各種目の展望などは、陸上専門二誌の8月号別冊付録の「世界選手権観戦ガイド」やネットにアップされるであろう各種メディアの「展望記事」などをご覧頂きたい。
大会期間中は、日本陸連のSNSで、記録や各種のデータを可能な範囲で随時発信する予定なので、そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。
現地と日本の時差は、16時間。マラソンと35km競歩以外の種目は、日本時間の深夜2時頃から昼頃まで競技が行われる。睡眠不足にどうぞご注意を!
(実施日時は、日本時間。カッコ内は現地時間)
大会3日目(7月17日)、現地時間の早朝6時15分(日本時間22時15分)のスタート。
2013年以来4大会ぶりの入賞、あるいは05年以来8大会ぶりのメダル獲得に挑む。
コースは1周14kmを3周する。小刻みなアップダウンはあるが最大高低差は7~8mとほぼ平坦。72年ミュンヘン五輪、76年モントリオール五輪のアメリカ代表選考会で使用されたコースだ。
「世界選手権」での入賞者は下記の通り。
参考までに「五輪」での入賞者は以下の通り。
なお、8位までが入賞となったのは1984年からでそれまでは6位までが入賞だった。
世界選手権では、1999年から2013年までは8大会連続入賞。しかし15年からの至近3大会は入賞に届いていない。
17大会のうち10大会で入賞を果たし、金1個と銅2個を獲得し、のべ17人が入賞している。
21年・東京五輪では、大迫傑(Nike)が6位入賞。その勢いを引き継いで、13年以来4大会ぶりの世界選手権入賞を果たしてもらいたいところだ。
1983年に始まった世界選手権では、
【世界選手権での国別得点(2019年大会まで)】
日本は、ケニア、エチオピアに次いで3位だが、2009年・ベルリン大会終了時点ではトップだった。
以下に2019年大会終了時点の得点の上位5国について、累計得点と順位の推移をまとめてみた。
2019年までの上位5カ国の5大会ごとと2017・19年の得点は、
以上の通りで、2007年の第11回大阪大会の時点では日本、スペイン、イタリアが「トップ3」だった。が、この10年あまりでケニアとエチオピアが一気に点数を伸ばしてきた。
参考までに五輪の国別トップ10は以下の通り。
【五輪での国別得点トップ10(2021年大会まで)】
このところの男子マラソンは、ケニア、エチオピアが上位記録を席巻している。
が、五輪は1896年の第1回大会から直近の東京までに125年の歴史を刻んできただけに、1956年が初参加のケニアとエチオピアの得点は、初期の頃から参加しているアメリカ、日本、イギリスには届いていない。
五輪とは違って、世界選手権ではケニア、エチオピア、モロッコ、タンザニア、ウガンダとトップ10のうち半数がアフリカ勢になる。五輪では「130点」で断然トップのアメリカは「14点」で13位にとどまっている。
いずれにしても五輪2位、世界選手権も3位に位置している日本は「マラソン日本」の面目躍如といったところだ。とはいえ、ケニア、エチオピアが今後も得点をどんどん積み重ねていくであろうから、それに大きく離されることなく、3位の位置で食らいついていってもらいたい。
2000年以降の5年毎と2016年からの1年毎の各年の世界100傑に占める国別人数は以下の通り。
・2022年は、7月1日判明分の記録
ケニアとエチオピア以外にもモロッコやウガンダなど東アフリカ勢が進出してきている。
また、国籍変更でケニアやエチオピアなどから中東やヨーロッパの国に移った選手も目立ってきた。
そんな中、10人以上を世界100傑内に送り込んでいる日本は大健闘といえる。
タイムでは世界をリードするケニア勢だが、2013、15年の世界選手権では誰も入賞できなかった。
「フラットなコース」「涼しい気温」のいい条件の中でペースメーカーが30㎞付近までハイペースで先導する「高速レース」では好タイムを量産しているが、真夏でペースメーカーのいない「勝負優先」の五輪や世界選手権では、なかなか持ちタイム通りにはいかないことも多いようだ。
至近4回の世界大会での東アフリカやそれらの国にルーツを持たない選手の入賞は、16年リオ五輪が2人(3・6位)、17年ロンドン世界選手権が2人(4・6位)、19年ドーハ世界選手権が2人(4・5位)、21年東京五輪が2人(6・7位)だった。持ちタイムではかなわなくとも、夏場のペースメーカーのつかない五輪や世界選手権では、東アフリカ系以外の選手も8位以内に毎回2人は入っているのだ。
・気象状況は、原則として、手許にリザルト用紙が残っているものはそのデータ。
・リザルト用紙がないものは、世界陸連発行の資料(Statistics Handbook)に記載のデータ。
・それにもないものは、両陸上専門月刊誌に掲載された記事のデータ。
日本国内のレースでは、リザルト用紙に「スタート時」「5㎞地点」「10㎞地点」などの「天候」「気温」「湿度」「風向」「風速」が細かく記載されることが多いが、海外では「天候」の記載もあまりなく、「スタート時と終了時」あるいは「スタート時」の「気温と湿度」のみだったりがほとんどだ。また「終了時」もトップ選手のフィニッシュ時点の場合であったり最終走者のフィニッシュ時点の場合であったりする。
「1位・3位・8位」の記録については、数年後に「ドーピング失格」などで繰り上がった場合の修正をきちんとできていない場合があるかもしれないことをお断りしておく。
「完走率(完走者/出場者)」は、のちに「ドーピング違反」などで「失格」となった者のうち、フィニッシュラインを越えたことが確かな者については「完走」として扱った。
【1983年以降の世界選手権と五輪の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率】
・「前半」は、その時点でトップの選手の通過タイムで優勝者のものとは限らない。
27大会中完走率80.0%以上は8大会(29.6%)。スタート時か終了時で25℃以上は16大会で完走率80.0%以上は5大会(31.3%)。
なお、前後半のタイムが判明している25大会のうち前半の方が後半よりも速かったのは9大会(36.0%)で、残る16大会(64.0%)は、後半の方が速い「ネガティブ・スプリット」だった。95年以降は20大会中15回(75.0%)が後半にペースアップしていて、13年以降の6大会はすべて後半の方が速い。
前後半の差が最も大きかったのは、2011年大邱世界選手権で前半よりも後半が2分36秒速かった。この時の20㎞以降の5㎞ごとのスプリットは、14分43秒-14分18秒-14分40秒-15分15秒-7分00秒(5㎞換算15分57秒)だった。
日本人トリオを上回るタイムの選手が世界リストで何十人いようとも、世界選手権や五輪にはケニア・エチオピアからも3人ずつしか出場してこない(前回優勝のワイルドカードで4人出場の場合もあるが……)。他のアフリカ勢などに競り勝てれば、2013年のモスクワ大会以来4大会ぶりの入賞も見えてこよう。
レースがスタートするのは、7月17日の午前6時15分。
近い時刻の過去3年間の1時間ごとの気象状況を調べてみたのが下記だ。
「6時00分」「7時00分」などの定時ではなく、「△時54分」というのが「???」ではあるけれども。
【過去3年間の7月17日のユージンの気象状況】
上記のように、これまでの世界選手権や五輪と比べ、マラソンにとっては「かなりいいコンディション」であるようだ。
18℃~21℃で行われた09年ベルリン大会での大会記録2時間06分54秒が更新される可能性が高そうだ。
話は少々横道にそれるが、夏場の高温下でのスポーツ活動の危険度を示す指標に「WBGT=湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature」と言うものがある。「暑さ指数」と言われるもので単位は気温と同じ摂氏度(℃)で表示されるが、その値は気温とは異なり、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目したもので、人体の熱収支に与える影響の大きい「湿度」「日射・輻射など周辺の熱環境」「気温」の3つを取り入れた指標である。
日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019)によると、高温化での運動に関する指針は、
とされている。
が、今回のユージンのレース中の気温や湿度は先に示した通りで、「WBGT」が「注意」にあたる21℃を超えることはないだろう。
といっても持ち記録がいい選手ほど、暑い中でどんなペースになろうとも「余裕」があることは確かだろう。
1960年代から70年代にかけての少々古いデータだが、故・高橋進氏の研究によって、「気温がマラソンの記録に及ぼす影響」のデータが示されている(「マラソン(講談社。1981年)」)。
下表がそれだ。
東京五輪の選手選考の際に日本陸連が示した「代表内定条件」は、「19年9月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で、1・2位が内定」。「3人目」は20年3月までの指定レースで「2時間05分49秒以内」で走った中で最も記録が良かった選手というものだった。そんなことで、下記の「推定される記録」は、筆者(野口)が、「2時間05分49秒」を基準に、高橋氏の示した阻害率から計算した記録の範囲である。
【気温によって記録が阻害される率】
以上の通りで、レース前の数日間や1週間くらい前からの気温や湿度の変化にもよるが、暑さに弱い選手は、15℃を超えるあたりから絶好のコンディション(10℃くらい)と比べ記録への影響が出始め、20℃を超えると暑さに強い選手でも影響が出てくるようだ。
が、先に示した通り、今夏のユージンでは15℃前後の中でのレースになる可能性が高そうだ。
ということは、「暑さに弱い選手」であっても、その阻害率はかなり低いものとなり、「暑さにやられて後半に失速」ということは少ないだろう。
25℃を超えるレースでは前半がスローペースになることが多いが、今回は最初から「それなりのペース」で進むことになるかもしれない。
男子の翌日18日6時15分(日本時間22時15分)スタートの女子マラソンには、鈴木と21年12月1日に結婚した一山麻緒(資生堂)が出場する。
各種のメディアで報道されたが、22年3月の東京マラソンでは、鈴木2時間05分28秒(4位=日本人1位)、一山2時間21分02秒(6位=日本人1位)で同一レースでの夫婦合計タイム4時間26分30秒で「ギネス世界新記録」となった。翌日の妻に元気を与える走りをみせたいところだ。
野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:アフロスポーツ
>>オレゴン2022世界陸上競技選手権大会 特設サイト
日本からは、68人(男子41・女27)の代表選手が出場し世界のライバル達と競い合う。
現地に赴く方は少ないだろうがテレビやネットでのライブ中継で観戦する方の「お供」に日本人選手が出場する30種目に関して、「記録と数字で楽しむオレゴン世界選手権」をお届けする。
なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ・・・」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある拙稿と同じ内容のデータも含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、記事の中では五輪についても「世界大会」ということで、そのデータも紹介した。
記録は原則として7月7日判明分。
現役選手の敬称は略させていただいた。
日本人選手の記録や数字に関する内容が中心で、優勝やメダルを争いそうな外国人選手についての展望的な内容には一部を除いてあまりふれていない。日本人の出場しない各種目の展望などは、陸上専門二誌の8月号別冊付録の「世界選手権観戦ガイド」やネットにアップされるであろう各種メディアの「展望記事」などをご覧頂きたい。
大会期間中は、日本陸連のSNSで、記録や各種のデータを可能な範囲で随時発信する予定なので、そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。
現地と日本の時差は、16時間。マラソンと35km競歩以外の種目は、日本時間の深夜2時頃から昼頃まで競技が行われる。睡眠不足にどうぞご注意を!
(実施日時は、日本時間。カッコ内は現地時間)
男子マラソン
・決勝 7月17日(日)22:15(17日06:15)2013年以来4大会ぶりの入賞なるか?
日本記録保持者でJMCシリーズ ポイントランキング1位の鈴木健吾(富士通。自己ベスト2時間04分56秒=21年・びわ湖)、大阪・びわ湖で初マラソン日本最高で制した星岳(コニカミノルタ。2時間07分31秒)、同じく初マラソンで別府大分を大会新記録で制した西山雄介(トヨタ自動車。2時間07分47秒)のトリオが出場する。大会3日目(7月17日)、現地時間の早朝6時15分(日本時間22時15分)のスタート。
2013年以来4大会ぶりの入賞、あるいは05年以来8大会ぶりのメダル獲得に挑む。
コースは1周14kmを3周する。小刻みなアップダウンはあるが最大高低差は7~8mとほぼ平坦。72年ミュンヘン五輪、76年モントリオール五輪のアメリカ代表選考会で使用されたコースだ。
◆世界選手権&五輪での日本人最高成績と最高記録
<世界選手権> | ||
---|---|---|
最高成績 | 1位 | 2.14.57. 谷口浩美(旭化成)1991年 |
最高記録 | 2.09.26. | 油谷繁(中国電力)2003年5位 |
<五輪> | ||
---|---|---|
最高成績 | 1位 | 2.29.19.2 孫基禎(養成高普)1936年 |
最高記録 | 2.10.41. | 大迫傑(Nike)2021年 6位 |
「世界選手権」での入賞者は下記の通り。
1991年 | 1位 | 2.14.57. | 谷口浩美(旭化成) |
---|---|---|---|
〃 | 5位 | 2.15.52. | 篠原太(神戸製鋼) |
1993年 | 5位 | 2.17.54. | 打越忠夫(雪印) |
1999年 | 3位 | 2.14.07. | 佐藤信之(旭化成) |
〃 | 6位 | 2.15.45. | 藤田敦史(富士通) |
〃 | 7位 | 2.15.50. | 清水康次(NTT西日本) |
2001年 | 5位 | 2.14.07. | 油谷繁(中国電力) |
〃 | 8位 | 2.17.05. | 森下由輝(旭化成) |
2003年 | 5位 | 2.09.26. | 油谷繁(中国電力) |
2005年 | 3位 | 2.11.16. | 尾方剛(中国電力) |
〃 | 4位 | 2.11.53. | 高岡寿成(カネボウ) |
2007年 | 5位 | 2.17.42. | 尾方剛(中国電力) |
〃 | 6位 | 2.18.06. | 大崎悟史(NTT西日本) |
〃 | 7位 | 2.18.35. | 諏訪利成(日清食品) |
2009年 | 6位 | 2.12.05. | 佐藤敦之(中国電力) |
2011年 | 6位 | 2.11.52. | 堀端宏行(旭化成) =4位の選手がのちに失格で1つ繰り上がり |
2013年 | 5位 | 2.10.50. | 中本健太郎(安川電機) |
参考までに「五輪」での入賞者は以下の通り。
1928年 | 4位 | 2.35.29. | 山田兼松(坂出青年) |
---|---|---|---|
〃 | 6位 | 2.36.20. | 津田晴一郎(慶大) |
1932年 | 5位 | 2.35.42. | 津田晴一郎(慶大OB) |
〃 | 6位 | 2.37.28. | 金恩培(養正高普) |
1936年 | 1位 | 2.29.19.2 | 孫基禎(養正高普) |
〃 | 3位 | 2.31.42.0 | 南昇龍(明大) |
1956年 | 5位 | 2.29.19. | 川島義明(日大) |
1964年 | 3位 | 2.16.22.8 | 円谷幸吉(自衛隊) |
1968年 | 2位 | 2.23.31.0 | 君原健二(八幡製鉄) |
1972年 | 5位 | 2.16.27. | 君原健二(新日鉄) |
1984年 | 4位 | 2.10.55. | 宗猛(旭化成) |
1988年 | 4位 | 2.11.05. | 中山竹通(ダイエー) |
1992年 | 2位 | 2.13.45. | 森下広一(旭化成) |
〃 | 4位 | 2.14.02. | 中山竹通(ダイエー) |
〃 | 8位 | 2.14.42. | 谷口浩美(旭化成) |
2004年 | 5位 | 2.13.11. | 油谷繁(中国電力) |
〃 | 6位 | 2.13.24. | 諏訪利成(日清食品) |
2012年 | 6位 | 2.11.16. | 中本健太郎(安川電機) |
2021年 | 6位 | 2.10.41. | 大迫傑(Nike) |
なお、8位までが入賞となったのは1984年からでそれまでは6位までが入賞だった。
世界選手権では、1999年から2013年までは8大会連続入賞。しかし15年からの至近3大会は入賞に届いていない。
17大会のうち10大会で入賞を果たし、金1個と銅2個を獲得し、のべ17人が入賞している。
21年・東京五輪では、大迫傑(Nike)が6位入賞。その勢いを引き継いで、13年以来4大会ぶりの世界選手権入賞を果たしてもらいたいところだ。
◆世界選手権&五輪での国別歴代得点
各大会の1位に8点、2位7点~8位1点の点数を与えて直近の大会までの国別得点を集計すると次のようになる。1983年に始まった世界選手権では、
【世界選手権での国別得点(2019年大会まで)】
順)点 | 国名 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | = | 入賞数 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1)91 | KEN | 5 | 3 | 1 | 1 | 3 | ・ | 2 | 3 | = | 18 | ケニア |
2)89 | ETH | 2 | 5 | 3 | 3 | ・ | ・ | 2 | 1 | = | 16 | エチオピア |
3)66 | JPN | 1 | ・ | 2 | 1 | 6 | 4 | 2 | 1 | = | 17 | 日本 |
4)58 | ITA | ・ | 1 | 3 | 2 | 1 | 3 | 4 | 2 | = | 16 | イタリア |
5)51 | ESP | 3 | 2 | ・ | ・ | 1 | 2 | ・ | 3 | = | 11 | スペイン |
6)27 | MAR | 2 | ・ | ・ | ・ | ・ | 1 | 1 | 1 | = | 5 | モロッコ |
7)24 | TAN | ・ | 1 | 1 | ・ | 2 | 1 | ・ | ・ | = | 5 | タンザニア |
8)21 | UGA | 1 | ・ | 1 | ・ | ・ | 2 | ・ | 1 | = | 5 | ウガンダ |
9)22 | GBR | ・ | ・ | ・ | 3 | 1 | ・ | 1 | 1 | = | 6 | イギリス |
10)20 | AUS | 1 | ・ | 1 | 1 | ・ | ・ | ・ | 1 | = | 4 | オーストラリア |
11)18 | ERI | 1 | ・ | ・ | 1 | ・ | 1 | 1 | ・ | = | 4 | エリトリア |
12)15 | BRA | ・ | ・ | 1 | ・ | 1 | 1 | 1 | ・ | = | 4 | ブラジル |
13)14 | USA | 1 | ・ | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | = | 2 | アメリカ |
14)14 | DJI | ・ | 2 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | = | 2 | ジブチ |
15)10 | POR | ・ | ・ | ・ | 2 | ・ | ・ | ・ | ・ | = | 2 | ポルトガル |
16)9 | MEX | ・ | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | 1 | ・ | = | 2 | メキシコ |
17)9 | GER | ・ | ・ | 1 | ・ | ・ | 1 | ・ | ・ | = | 2 | ドイツ |
18)7 | NAM | ・ | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | = | 1 | ナミビア |
18)7 | QAT | ・ | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | = | 1 | カタール |
20)6 | NED | ・ | ・ | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | = | 1 | オランダ |
20)6 | SUI | ・ | ・ | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | = | 1 | スイス |
22)6 | BRN | ・ | ・ | ・ | ・ | 1 | ・ | 1 | ・ | = | 2 | バーレーン |
22)6 | RSA | ・ | ・ | ・ | ・ | 1 | ・ | 1 | ・ | = | 2 | 南アフリカ |
24)5 | KOR | ・ | ・ | ・ | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | = | 1 | 韓国 |
24)5 | POL | ・ | ・ | ・ | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | = | 1 | ポーランド |
24)5 | SWE | ・ | ・ | ・ | 1 | ・ | ・ | ・ | ・ | = | 1 | スウェーデン |
27)3 | BEL | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | 1 | ・ | ・ | = | 1 | ベルギー |
28)1 | ALG | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | 1 | = | 1 | アルジェリア |
28)1 | RUS | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | 1 | = | 1 | ロシア |
28)1 | URS | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | ・ | 1 | = | 1 | ソ連 |
日本は、ケニア、エチオピアに次いで3位だが、2009年・ベルリン大会終了時点ではトップだった。
以下に2019年大会終了時点の得点の上位5国について、累計得点と順位の推移をまとめてみた。
年 | JPN | KEN | ETH | ITA | ESP | 他の上位国 |
---|---|---|---|---|---|---|
1983年 | 未入賞 | 未入賞 | 2)7 | 7)2 | 未入賞 | 1)8 AUS |
1987年 | 未入賞 | 3)8 | 4)7 | 2)10 | 未入賞 | 1)13 AUS |
1991年 | 4)12 | 5)8 | 6)7 | 2)14 | 未入賞 | 1)14 DJI |
1993年 | 1)16 | 6)10 | 7)7 | 4)14 | 未入賞 | 2)14 USA |
1995年 | 1)16 | 8)10 | 11)7 | 6)14 | 2)15 | 3)14 USA |
1997年 | 4)16 | 9)10 | 12)7 | 2)21 | 1)33 | 3)20 AUS |
1999年 | 3)27 | 9)10 | 12)7 | 2)32 | 1)42 | 4)20 AUS |
2001年 | 3)32 | 10)17 | 4)22 | 2)38 | 1)42 | 5)20 AUS |
2003年 | 3)36 | 6)18 | 4)22 | 2)47 | 1)49 | 5)20 AUS |
2005年 | 2)47 | 5)20 | 4)22 | 3)47 | 1)50 | 6)20 AUS |
2007年 | 1)56 | 4)29 | 5)22 | 3)47 | 2)50 | 6)20 AUS |
2009年 | 1)59 | 3)48 | 5)33 | 4)47 | 2)51 | 6)21 MAR |
2011年 | 2)62 | 1)72 | 5)39 | 4)49 | 3)51 | 6)21 MAR |
2013年 | 2)66 | 1)72 | 3)58 | 5)49 | 4)51 | 6)21 MAR |
2015年 | 3)66 | 1)72 | 2)67 | 4)55 | 5)51 | 6)21 MAR |
2017年 | 3)66 | 1)85 | 2)74 | 4)58 | 5)51 | 6)24 TAN |
2019年 | 3)66 | 1)91 | 2)89 | 4)58 | 5)51 | 6)27 MAR |
2019年までの上位5カ国の5大会ごとと2017・19年の得点は、
大会回数(西暦年) | JPN | KEN | ETH | ITA | ESP |
---|---|---|---|---|---|
1~5回(1983~1995) | 16 | 10 | 7 | 14 | 15 |
6~10回(1997~2005) | 31 | 10 | 15 | 33 | 35 |
11~15回(2007~2015) | 19 | 52 | 45 | 8 | 1 |
16・17回(2017・2019) | 0 | 19 | 22 | 3 | 0 |
合計得点 | 66 | 91 | 89 | 58 | 51 |
以上の通りで、2007年の第11回大阪大会の時点では日本、スペイン、イタリアが「トップ3」だった。が、この10年あまりでケニアとエチオピアが一気に点数を伸ばしてきた。
参考までに五輪の国別トップ10は以下の通り。
【五輪での国別得点トップ10(2021年大会まで)】
順)点 | 国名 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | = | 8位以内数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1)130 | USA | 3 | 2 | 6 | 5 | 2 | 4 | 4 | 3 | = | 29 アメリカ |
2)87 | JPN | 1 | 2 | 2 | 4 | 4 | 5 | ・ | 2 | = | 20 日本 |
3)78 | GBR | ・ | 4 | 1 | 4 | 3 | 2 | 2 | 2 | = | 18 イギリス |
4)71 | ETH | 4 | 1 | 3 | 1 | ・ | 1 | 3 | ・ | = | 13 エチオピア |
5)70 | KEN | 3 | 3 | 2 | 1 | 1 | ・ | 2 | ・ | = | 12 ケニア |
6)63 | FIN | 2 | ・ | 3 | 2 | 4 | ・ | 1 | 1 | = | 13 フィンランド |
7)47 | FRA | 3 | 2 | ・ | 1 | ・ | ・ | 1 | 2 | = | 9 フランス |
8)42 | RSA | 2 | 2 | ・ | 1 | ・ | 2 | ・ | 1 | = | 8 南アフリカ |
9)40 | GRE | 1 | 1 | ・ | 1 | 3 | 1 | 2 | 1 | = | 10 ギリシャ |
10)39 | ITA | 2 | 1 | 1 | ・ | 2 | ・ | ・ | 2 | = | 8 イタリア |
このところの男子マラソンは、ケニア、エチオピアが上位記録を席巻している。
が、五輪は1896年の第1回大会から直近の東京までに125年の歴史を刻んできただけに、1956年が初参加のケニアとエチオピアの得点は、初期の頃から参加しているアメリカ、日本、イギリスには届いていない。
五輪とは違って、世界選手権ではケニア、エチオピア、モロッコ、タンザニア、ウガンダとトップ10のうち半数がアフリカ勢になる。五輪では「130点」で断然トップのアメリカは「14点」で13位にとどまっている。
いずれにしても五輪2位、世界選手権も3位に位置している日本は「マラソン日本」の面目躍如といったところだ。とはいえ、ケニア、エチオピアが今後も得点をどんどん積み重ねていくであろうから、それに大きく離されることなく、3位の位置で食らいついていってもらいたい。
◆各年の世界100傑内の国別人数
コロナの影響で主要なレースの中止が多かった2020年と21年を除き、この10年あまりは、ケニアとエチオピアの2国で100傑中の8~9割前後を占めている。2000年の段階では両国のシェアは5割に満たなかったが、2010年には9割近くに達した。その中で日本は唯一頑張っているといえよう。2000年以降の5年毎と2016年からの1年毎の各年の世界100傑に占める国別人数は以下の通り。
年 | 100位 | KEN | ETH | JPN | UGA | MAR | その他 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2000 | 2.11.23. | 40 | 6 | 13 | 0 | 2 | 39(18国) |
2005 | 2.11.24. | 52 | 9 | 10 | 0 | 0 | 28(13国) |
2010 | 2.09.31. | 57 | 29 | 0 | 1 | 5 | 8(6国) |
2015 | 2.09.14. | 60 | 31 | 3 | 1 | 0 | 6(5国) |
2016 | 2.09.28. | 67 | 25 | 3 | 1 | 0 | 4(4国) |
2017 | 2.09.11. | 61 | 26 | 4 | 1 | 1 | 7(9国) |
2018 | 2.08.46. | 50 | 26 | 8 | 1 | 2 | 13(10国) |
2019 | 2.07.58. | 44 | 39 | 1 | 2 | 2 | 13(10国) |
2020 | 2.08.46. | 21 | 43 | 18 | 1 | 2 | 15(9国) |
2021 | 2.07.40. | 39 | 29 | 11 | 2 | 2 | 17(8国。ERI が「9人」で4位) |
2022 | 2.08.12. | 33 | 33 | 13 | 2 | 3 | 16(12国。ERI が「4人」で4位。ISR が「2人」) |
ケニアとエチオピア以外にもモロッコやウガンダなど東アフリカ勢が進出してきている。
また、国籍変更でケニアやエチオピアなどから中東やヨーロッパの国に移った選手も目立ってきた。
そんな中、10人以上を世界100傑内に送り込んでいる日本は大健闘といえる。
タイムでは世界をリードするケニア勢だが、2013、15年の世界選手権では誰も入賞できなかった。
「フラットなコース」「涼しい気温」のいい条件の中でペースメーカーが30㎞付近までハイペースで先導する「高速レース」では好タイムを量産しているが、真夏でペースメーカーのいない「勝負優先」の五輪や世界選手権では、なかなか持ちタイム通りにはいかないことも多いようだ。
至近4回の世界大会での東アフリカやそれらの国にルーツを持たない選手の入賞は、16年リオ五輪が2人(3・6位)、17年ロンドン世界選手権が2人(4・6位)、19年ドーハ世界選手権が2人(4・5位)、21年東京五輪が2人(6・7位)だった。持ちタイムではかなわなくとも、夏場のペースメーカーのつかない五輪や世界選手権では、東アフリカ系以外の選手も8位以内に毎回2人は入っているのだ。
◆世界選手権&五輪の気象状況と記録
以下の「表」に1983年以降の「世界選手権」と「五輪」での「気温・湿度」と「優勝・3位・8位の記録」「完走率」を示した。・気象状況は、原則として、手許にリザルト用紙が残っているものはそのデータ。
・リザルト用紙がないものは、世界陸連発行の資料(Statistics Handbook)に記載のデータ。
・それにもないものは、両陸上専門月刊誌に掲載された記事のデータ。
日本国内のレースでは、リザルト用紙に「スタート時」「5㎞地点」「10㎞地点」などの「天候」「気温」「湿度」「風向」「風速」が細かく記載されることが多いが、海外では「天候」の記載もあまりなく、「スタート時と終了時」あるいは「スタート時」の「気温と湿度」のみだったりがほとんどだ。また「終了時」もトップ選手のフィニッシュ時点の場合であったり最終走者のフィニッシュ時点の場合であったりする。
「1位・3位・8位」の記録については、数年後に「ドーピング失格」などで繰り上がった場合の修正をきちんとできていない場合があるかもしれないことをお断りしておく。
「完走率(完走者/出場者)」は、のちに「ドーピング違反」などで「失格」となった者のうち、フィニッシュラインを越えたことが確かな者については「完走」として扱った。
【1983年以降の世界選手権と五輪の気温と湿度、1・3・8位の記録とトップの前後半タイム、完走率】
・「前半」は、その時点でトップの選手の通過タイムで優勝者のものとは限らない。
年 | スタート時→終了時 | 優勝記録(前半+後半) | 3位記録 | 8位記録 | 完走率(完走者/出場者) |
---|---|---|---|---|---|
1983 | 15℃・35%→?℃・?% | 2.10.03.(??.??.+??.??.) | 2.10.37. | 2.11.15. | 75.3%(63/81) |
1984五輪 | 27℃・?%→?℃・?% | 2.09.21.(??.??.+??.??.) | 2.09.58. | 2.11.39. | 72.2%(78/108) |
1987 | 21℃・83%→22℃・74% | 2.11.48.(65.37.+66.11.) | 2.12.40. | 2.14.41. | 72.3%(47/65) |
1988五輪 | 25℃・74%→?℃・?% | 2.10.32.(64.49.+65.43.) | 2.10.59. | 2.13.07. | 80.3%(98/122) |
1991 | 26℃・73%→28℃・58% | 2.14.57.(66.25.+68.32.) | 2.15.36. | 2.17.03. | 60.0%(36/60) |
1992五輪 | 25℃・72%→?℃・?% | 2.13.23.(67.22.+66.01.) | 2.14.00. | 2.14.42. | 79.1%(87/110) |
1993 | 25℃・63%→25℃・63% | 2.13.57.(66.30.+67.27.) | 2.15.12. | 2.18.52. | 63.2%(43/68) |
1995 | 26℃・43%→?℃・?% | 2.11.41.(66.54.+64.47.) | 2.12.49. | 2.16.13. | 68.8%(53/77) |
1996五輪 | 23℃・92%→?℃・?% | 2.12.36.(67.36.+65.00.) | 2.12.36. | 2.14.55. | 89.5%(111/124) |
1997 | 29℃・48%→?℃・?% | 2.13.16.(67.08.+66.08.) | 2.14.16. | 2.17.44. | 64.8%(70/108) |
1999 | 29℃・43%→28℃・?% | 2.13.36.(67.24.+66.12.) | 2.14.07. | 2.16.17. | 81.3%(65/80) |
2000五輪 | 21℃・18%→?℃・?% | 2.10.11.(65.02.+65.09.) | 2.11.10. | 2.14.04. | 81.0%(81/100) |
2001 | 19℃・58%→28℃・?% | 2.12.42.(66.59.+65.43.) | 2.13.18. | 2.17.05. | 76.0%(73/96) |
2003 | 15℃・72%→?℃・?% | 2.08.31.(64.45.+63.46.) | 2.09.14. | 2.10.35. | 77.5%(69/89) |
2004五輪 | 30℃・39%→?℃・?% | 2.10.55.(67.23.+63.32.) | 2.12.11. | 2.14.17. | 80.2%(81/101) |
2005 | 17℃・88%→17℃・88% | 2.10.10.(64.17.+65.53.) | 2.11.16. | 2.12.51. | 64.2%(61/95) |
2007 | 28℃・81%→33℃・67% | 2.15.59.(68.29.+67.30.) | 2.17.25. | 2.19.21. | 67.1%(57/85) |
2008五輪 | 24℃・52%→30℃・39% | 2.06.32.(62.34.+63.58.) | 2.10.00. | 2.11.11. | 80.0%(76/95) |
2009 | 18℃・73%→21℃・49% | 2.06.54.(63.03.+63.51.) | 2.08.35. | 2.14.04. | 76.9%(70/91) |
2011 | 26℃・56%→29℃・47% | 2.07.38.(65.07.+62.31.) | 2.10.32. | 2.11.57. | 76.1%(51/67) |
2012五輪 | 23℃・78%→25℃←途中 | 2.08.01.(63.15.+64.46.) | 2.09.37. | 2.12.17. | 81.0%(85/105) |
2013 | 23℃・38%→23℃・38% | 2.09.51.(65.12.+64.39.) | 2.10.23. | 2.11.43. | 72.9%(51/70) |
2015 | 22℃・73%→?℃・?% | 2.12.28.(66.52.+65.36.) | 2.13.30. | 2.14.54. | 65.6%(42/64) |
2016五輪 | 24℃・?%→?℃・?% | 2.08.44.(65.55.+62.49.) | 2.10.05. | 2.11.49. | 89.7%(139/155) |
2017 | 18℃・60%→?℃・?% | 2.08.27.(65.28.+62.59.) | 2.09.51. | 2.12.16. | 72.4%(71/98) |
2019 | 29℃・51%→29℃・51% | 2.10.40.(65.57.+64.43.) | 2.10.51. | 2.11.49. | 75.3%(55/73) |
2021五輪 | 26℃・80%→27℃・77% | 2.08.38.(65.13.+63.25.) | 2.10.00. | 2.11.41. | 71.7%(76/106) |
27大会中完走率80.0%以上は8大会(29.6%)。スタート時か終了時で25℃以上は16大会で完走率80.0%以上は5大会(31.3%)。
なお、前後半のタイムが判明している25大会のうち前半の方が後半よりも速かったのは9大会(36.0%)で、残る16大会(64.0%)は、後半の方が速い「ネガティブ・スプリット」だった。95年以降は20大会中15回(75.0%)が後半にペースアップしていて、13年以降の6大会はすべて後半の方が速い。
前後半の差が最も大きかったのは、2011年大邱世界選手権で前半よりも後半が2分36秒速かった。この時の20㎞以降の5㎞ごとのスプリットは、14分43秒-14分18秒-14分40秒-15分15秒-7分00秒(5㎞換算15分57秒)だった。
日本人トリオを上回るタイムの選手が世界リストで何十人いようとも、世界選手権や五輪にはケニア・エチオピアからも3人ずつしか出場してこない(前回優勝のワイルドカードで4人出場の場合もあるが……)。他のアフリカ勢などに競り勝てれば、2013年のモスクワ大会以来4大会ぶりの入賞も見えてこよう。
◆7月17日のユージンの過去3年間の気象状況
今回のユージンの気象状況はどうなのか?レースがスタートするのは、7月17日の午前6時15分。
近い時刻の過去3年間の1時間ごとの気象状況を調べてみたのが下記だ。
「6時00分」「7時00分」などの定時ではなく、「△時54分」というのが「???」ではあるけれども。
【過去3年間の7月17日のユージンの気象状況】
時 刻 | 2021年7月17日 | 2020年7月17日 | 2019年7月17日 |
---|---|---|---|
5時54分 | 晴・10.6℃・89% | 曇・15.0℃・83% | 曇・15.6℃・79% |
6時54分 | 晴・12.8℃・89% | 晴・15.6℃・83% | 曇・16.1℃・75% |
7時54分 | 晴・15.0℃・81% | 晴・17.2℃・78% | 晴・17.2℃・70% |
8時54分 | 曇・17.2℃・70% | 晴・18.9℃・72% | 晴・18.3℃・65% |
上記のように、これまでの世界選手権や五輪と比べ、マラソンにとっては「かなりいいコンディション」であるようだ。
18℃~21℃で行われた09年ベルリン大会での大会記録2時間06分54秒が更新される可能性が高そうだ。
話は少々横道にそれるが、夏場の高温下でのスポーツ活動の危険度を示す指標に「WBGT=湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature」と言うものがある。「暑さ指数」と言われるもので単位は気温と同じ摂氏度(℃)で表示されるが、その値は気温とは異なり、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目したもので、人体の熱収支に与える影響の大きい「湿度」「日射・輻射など周辺の熱環境」「気温」の3つを取り入れた指標である。
日本スポーツ協会の「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」(2019)によると、高温化での運動に関する指針は、
気温(参考) | WBGT | 熱中症予防運動指針 |
---|---|---|
35℃以上 | 31℃以上 | 運動は原則中止 |
31~35℃ | 28~31℃ | 厳重警戒(激しい運動は中止) |
28~31℃ | 25~28℃ | 警戒(積極的に休憩) |
24~28℃ | 21~25℃ | 注意(積極的に水分補給) |
24℃未満 | 21℃未満 | ほぼ安全(適宜水分補給) |
とされている。
が、今回のユージンのレース中の気温や湿度は先に示した通りで、「WBGT」が「注意」にあたる21℃を超えることはないだろう。
◆気温による記録の低下率
世界選手権や五輪は「記録ではなく勝負」のレース。といっても持ち記録がいい選手ほど、暑い中でどんなペースになろうとも「余裕」があることは確かだろう。
1960年代から70年代にかけての少々古いデータだが、故・高橋進氏の研究によって、「気温がマラソンの記録に及ぼす影響」のデータが示されている(「マラソン(講談社。1981年)」)。
下表がそれだ。
東京五輪の選手選考の際に日本陸連が示した「代表内定条件」は、「19年9月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)で、1・2位が内定」。「3人目」は20年3月までの指定レースで「2時間05分49秒以内」で走った中で最も記録が良かった選手というものだった。そんなことで、下記の「推定される記録」は、筆者(野口)が、「2時間05分49秒」を基準に、高橋氏の示した阻害率から計算した記録の範囲である。
【気温によって記録が阻害される率】
気温 | 暑さに強い選手 | 暑さに弱い選手 | 推定される記録2.05.49.基準 |
---|---|---|---|
14℃ | 0.00% | 0.20% | 2.05.49.~2.06.04. |
15℃ | 0.00% | 0.50% | 2.05.49.~2.06.26. |
16℃ | 0.00% | 1.00% | 2.05.49.~2.07.05. |
17℃ | 0.00% | 2.00% | 2.05.49.~2.08.20. |
18℃ | 0.00% | 3.00% | 2.05.49.~2.09.36. |
19℃ | 0.30% | 3.50% | 2.06.12.~2.10.14. |
20℃ | 0.50% | 4.00% | 2.06.27.~2.10.51. |
21℃ | 1.00% | 4.50% | 2.07.05.~2.11.29. |
22℃ | 1.00% | 5.00% | 2.07.05.~2.12.07. |
23℃ | 1.50% | 6.00% | 2.07.43.~2.13.22. |
24℃ | 2.00% | 6.50% | 2.08.20.~2.14.00. |
25℃ | 2.50% | 7.00% | 2.08.58.~2.14.38. |
26℃ | 3.00% | 7.50% | 2.09.36.~2.15.16. |
27℃ | 3.50% | 8.00% | 2.10.14.~2.15.53. |
28℃ | 4.00% | 9.00% | 2.10.51.~2.17.09. |
29℃ | 5.00% | 10.00% | 2.12.07.~2.18.24. |
30℃ | 6.00% | 11.00% | 2.13.22.~2.19.40. |
31℃ | 7.00% | 12.00% | 2.14.38.~2.20.55. |
32℃ | 8.00% | 13.00% | 2.15.53.~2.22.11. |
33℃ | 9.00% | 14.00% | 2.17.09.~2.23.26. |
34℃ | 10.00% | 15.00% | 2.18.24.~2.24.42. |
35℃ | 11.00% | 16.00% | 2.19.40.~2.25.57. |
以上の通りで、レース前の数日間や1週間くらい前からの気温や湿度の変化にもよるが、暑さに弱い選手は、15℃を超えるあたりから絶好のコンディション(10℃くらい)と比べ記録への影響が出始め、20℃を超えると暑さに強い選手でも影響が出てくるようだ。
が、先に示した通り、今夏のユージンでは15℃前後の中でのレースになる可能性が高そうだ。
ということは、「暑さに弱い選手」であっても、その阻害率はかなり低いものとなり、「暑さにやられて後半に失速」ということは少ないだろう。
25℃を超えるレースでは前半がスローペースになることが多いが、今回は最初から「それなりのペース」で進むことになるかもしれない。
男子の翌日18日6時15分(日本時間22時15分)スタートの女子マラソンには、鈴木と21年12月1日に結婚した一山麻緒(資生堂)が出場する。
各種のメディアで報道されたが、22年3月の東京マラソンでは、鈴木2時間05分28秒(4位=日本人1位)、一山2時間21分02秒(6位=日本人1位)で同一レースでの夫婦合計タイム4時間26分30秒で「ギネス世界新記録」となった。翌日の妻に元気を与える走りをみせたいところだ。
野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:アフロスポーツ
>>オレゴン2022世界陸上競技選手権大会 特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/wch/oregon2022/
>>世界選手権ガイド
https://www.jaaf.or.jp/wch/oregon2022/guide/>>記録と数字で楽しむオレゴン世界選手権
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