2022.06.07(火)大会

十種競技は、奥田が初優勝、七種競技は、ヘンプヒルが5年ぶりにV【第106回日本選手権・混成競技】レポート&コメント



第106回日本選手権混成競技は6月4~5日、U20日本選手権混成競技との併催で、秋田県営陸上競技場において行われました。これまで10年間行われてきた長野(長野市営陸上競技場)から、会場を秋田(秋田県営陸上競技場)に移して初めての開催でしたが、2日間ともに、最高気温は18℃にとどまり、長丁場となる混成競技でベストパフォーマンスを狙うには、肌寒さが気になるコンディションとなりました。特に1日目は、いきなり強い雨が降ったり、日が差したり、冷たい風が吹いたりと、選手たちは変わりやすい天候に苦労しました。日本選手権の部はオレゴン世界選手権代表選考会を兼ねて行われ、男子十種競技では奥田啓祐選手(第一学院高教)が7626点で初優勝。女子七種競技は、5872点を獲得したヘンプヒル恵選手(アトレ)が、3連覇を達成した2017年以来となる5年ぶり4回目の優勝を果たしています。


■十種競技は、奥田が初優勝。右代&中村の牙城を崩す

9名で行われた男子十種競技は、前回2位の奥田啓祐選手(第一学院高教)が、100mを10秒82の種目別トップでスタートすると、走幅跳は7m04にとどまったものの、砲丸投12m79、走高跳1m88と順当につなぎ、初日最終種目の400mではただ一人49秒を切る48秒28でフィニッシュ。3970点をマークして首位を堅持して1日目を終えました。奥田選手に続いたのは、田上駿選手(陸上物語)で、100m(11秒12)ではやや出遅れた感があったものの、走幅跳で種目別1位の7m23の跳躍を見せると、砲丸投では自己新の13m06をプットして2位に浮上、その位置を維持して3878点を獲得。3番手には前回覇者の中村明彦選手(スズキ)が3795点、4・5番手に片山和也選手(烏城塗装工業、3781点)と森口諒也選手(東海大、3767点)が僅差で折り返す展開となりました。
2日目は、強い向かい風(-2.3m)のなか行われた110mHで種目別トップ(14秒48)を取った田上選手が奥田選手(14秒71)との差を縮めました。しかし、奥田選手は、その後も円盤投41m50、棒高跳4m60、やり投55m54と安定したパフォーマンスで首位をキープ。棒高跳を終えた段階で、田上選手を逆転した片山選手が2位に浮上してきましたが、第9種目のやり投(55m54)を終えた段階で、ほぼセイフティリードの点差に持ち込み、1500mは4分50秒69でフィニッシュ。トータル7626点で待望の初優勝を遂げました。2位には、やり投で62m93をマークするなど、終盤の猛チャージが光った片山選手が7518点で続き、田上選手が7442点で3位。棒高跳以降で、その田上選手を追い上げた中村選手(7389点)が4位、砲丸投(14m60)、走高跳(1m91)、円盤投(45m39)、棒高跳(4m70)と実に4つの種目別1位を奪って見せ場をつくった日本記録保持者(8308点)の右代啓祐選手(国士舘クラブ)が7368点で5位となる結果になりました。
日本選手権混成では、右代選手が初めて優勝した2010年以降、右代選手と中村選手が常に優勝を争ってきたため、この2人以外の選手が頂点に立ったのは、2009年以来となります。中村選手と右代選手はトップ3の座からも外れる結果となったわけですが、「ありがたいことにチーム(スズキ)からも、“やりきったと思えるまでやってみろ”と言ってもらえている。世代交代しても、すぐに足下をすくっていくくらいのつもりで、出るからに勝ちに行く。ブラッシュアップしてまた来年出場し、表彰台や金メダルを目指したい」(中村選手)、「去年は、“この1年が最後”と思ってやってきたが、ここに来て、自分のやってきたことに手応えを感じている部分も出てきて、“やめられない”という気持ちが芽生えた。日本選手権も“出場できるうちは戦いたい”という気持ちになっている。8000点という記録は、まだ狙えるという感触がある。十種は本当に面白い。まずは8000点を目指して取り組んでいきたい」(右代選手)と、両者ともに頼もしい言葉で、現役続行の意向を示しました。
併催されていたU20日本選手権男子十種競技は、初めての十種競技挑戦だった横内秀太選手(四国学院大)が初日で3599点を獲得してトップに立つと、1日目に2位だった橋本秀汰朗選手(国士舘大、総合2位6598点)の猛追から逃げ切り、6690点で優勝を果たしました(奥田選手、横内選手の優勝コメントは、別記ご参照ください)。





■七種競技は、両膝手術から復活したヘンプヒルが5年ぶりにV

女子七種競技は、この大会の2015~2017年チャンピオンで、今季は木南記念で5732点をマークしていたヘンプヒル恵選手(アトレ)が、得意とする最初の100mHで13秒45をマークして首位スタートを切ると、風の強い難しい条件下で1m69を成功させた走高跳、気温が下がったなかでのレースとなった200m(25秒21)でも種目別1位を獲得。第3種目の砲丸投も12m04(種目別3位)の記録を残して3432点を獲得し、トップで前半を折り返しました。
2日目は、得意種目で「ポイント」と掲げていた走幅跳が、風の回るコンディションも災いして5m81にとどまりましたが、日本選手権では2年前に膝を痛めたとき以来の試技となったやり投で、きっちりと44m33をマーク。昔は苦手意識を持っていた最終種目の800mでも種目別1位を獲得する2分14秒68で走りきり、自己4番目の記録となる5872点を獲得。木南記念での記録を上回る今季日本最高で、5年ぶり4回目となる「クイーン・オブ・アスリート」の座に収まりました。ヘンプヒル選手は、2017年に左膝を痛めて手術を受けたのちに、回復した直後の2020年日本選手権のやり投で、今度は右膝を痛めるアクシデントに見舞われ、再びの手術・リハビリを余儀なくされる日々を送ってきました。引退も考えたなかで、覚悟を決めて競技に向き合うことを選択。アメリカに渡って、七種競技でトップアスリートを数多く育てているクリス・マックコーチのもとでトレーニングするなどの取り組みを経て、この大会に向かってきました。今回の日本選手権は、右膝を痛めた2020年大会以来の出場でしたが、身体面の強化だけでなく、さまざまな場面で、精神的にも大きな成長を遂げている様子が窺えました。
前回4連覇を果たしていた山﨑有紀選手(スズキ)は5696点で2位。13秒86とまずまずのスタートが切れた100mH、12m77を投げて種目別1位を獲得した砲丸投、46m77をマークしたやり投など着実に記録を残せた種目がある一方で、1m60に終わった走高跳、得意としながらも25秒42にとどまった200m、1回目のファウルが響いた走幅跳など、課題を残した種目との差が目立つ結果となりました。
ヘンプヒル選手、山﨑選手とともに上位争いの一角に挙がっていた大玉華鈴選手(日体大SMG)は、「点差を開きたい」と意欲を見せていた得意の走高跳が1m63にとどまる大誤算。これが大きく響きました。2日目には4位に後退する場面もあったなか、最終種目の800mで逆転して、5571点で3位を確保しました。
5366点を獲得して3位となった木南記念同様に、躍進が目を引いたのは熱田心選手(岡山陸協)です。走幅跳(5m96)で種目別1位を占めたほか、全般に大きな取りこぼしのないパフォーマンスを展開して、山﨑選手・大玉選手との2~3位争いに加わりました。最終種目で大玉選手に逆転されて4位で競技を終えましたが、木南記念で出した自己記録を再び塗り替え、5517点をマークしています。
同時開催されたU20日本選手権七種競技は、高校2年生の林美希選手(中京大中京高)が100mHから13秒76でトップに立つと、初日を3092点で折り返し、2日目もその位置をキープ。木南記念でマークしていた自己記録(5005点)を更新する5018点で優勝しました。この記録は高2歴代2位に浮上する好パフォーマンスです。また、2位にも同学年の下元香凜選手(白梅学園高)が4941点で続き、高校2年生コンビが上級生や学生選手を圧倒する形となりました。すぐに開催される地区大会、そして徳島県で開催される全国大会へと続いていくインターハイ路線での活躍が楽しみです(ヘンプヒル選手、林選手の優勝コメントは、下記ご参照ください)。


【優勝者コメント】



<日本選手権混成競技>

◎男子十種競技

優勝 奥田啓祐(第一学院高教) 7626点

1日目は、安定の1位通過となった。点数はぼちぼちだったが、1位を死守できて折り返せたことは評価できる。1日目で良かったと思うのは400m。練習してきたことをしっかり発揮できたと思う。残り4種目はもう少しという印象だが、そのなかで砲丸投と走高跳は手応えを感じることができた。2日目は、もともと課題のある種目が多く、それを意識しすぎてナーバスになり、自分で崩れていってしまうパターンが多かったので、しっかり自分に矢印を向けて(意識を集中させて)最後までやりきりたいと思っていたが、(全部終わって振り返ってみたとき)「点数を取らなくてはいけない」というプレッシャーがあって、ちょっと気負っていた部分があった1日目に比べると、2日目は、その“自分に矢印を向けて”ということが少しはできたのかなと思う。特に、棒高跳では、最初の高さ(4m40)を2回失敗して3回目にクリアしたが、今までの僕だったら、たぶんノーマーク(記録なし)だったと思うので、そういうところは収穫。しっかりまとめることもできた点もよかった。
全国大会で優勝するのは、これが初めてとなる。初タイトルなので、そこは記録の善し悪しに関係なく、1つの勝ちとして捉えて自信にしたい。そして、点数どうこうでなく、(右代・中村の)ベテラン2人に勝てたことが嬉しい。やっと肩を並べられたかなと率直に思う。ただ、初日の競技後には、“引導を渡したい”とコメントしたが、そう言うにはまだまだで、もう1つ、2つ、…なんなら3つくらい(高いレベルの)点数を取らないと渡しきれないという感じ。来年はしっかりと、「奥田には勝てないな」と思わせるくらいの点数を出したい。
自分が課題に感じているのは、全体的に再現性がなかったり、精神的な負荷がかかったときに自分の思うパフォーマンスを出せなかったりすることが起こうる確率が高いこと。(ベテランの2人は)そういうところを本当に1つ1つ丁寧に取り組んできていて、一緒に試合をしたりトレーニングしたりしてきたなかで、日常の練習の取り組み方や臨み方、取り組む姿勢といったものを学んできた。(今回の優勝を機に)改めて学び直すというか、“兜の緒”を締めて練習に臨みたいという気持ちでいる。




◎女子七種競技

優勝 ヘンプヒル恵(アトレ) 5872点

「やりきった」「今できることは全部出した」という感じ。勝ちに行って勝てたので嬉しい。(ケガから復帰するまで)長かったけれど必死だったし、(競技を)やめようというところまで行ったが、「もう1回本気でやろう」と思ってからは、本当の意味で強くなりたいと思って、ここまでやってきた。(手術を伴う両膝の)ケガがよかったとはもちろん言うことはできないが、ケガがあったから、ここまで本気で自分と向き合ってやってこれられたと思う。
1日目は、(気象条件が目まぐるしく変わった)天候とかもけっこう難しかったので、そのなかではうまくまとめられた思う。100mHは、今年の出だしがすごく悪かったので一番心配していたが、(13秒45の結果となり)ここまでシーズン前半でやってきたことは全部出せた気はした。
ポイントになると考えていた(2日目の)走幅跳は、最低でも6mは跳びたかったので、(5m81に)終わったあとは「んー」(不満)という感じだった。しかし、コーチから、「木南(記念)や東日本(実業団)よりも良くなっているのだから、自分がちゃんと段階を踏めていることに誇りをもってやればいい」と言われて、「確かに!」と思った。高みを目指すのも大事だが、自分を受け入れて認めることも大事だな、と。やるべきことはちゃんとやれていたし、1日のなかでもしっかりとプロセスを踏んでいくことができていた。それがやり投とか、最後の800mにもつながったと思う。800mはセカンドベスト。木南記念はオーバーペースで最後は身体が動かなかったので、今回は(山﨑選手に)前に出られても、自分のリズムを崩さないようにすることだけを考えて走り、ラストはとにかく(身体を)動かし続けることを意識した。
気温が低かったので、コンディションがよければ、もう少し記録は出ていたと思う。ただ、今回は「勝ちきる」という思いで、けっこう気合いでやっていた面もある。今後、技術的なことをもっと積んで、それが上がってくれば、キレももっと出てきて、記録も伸ばせると考えている。
万全の状況でないなかで、この記録が出せたことについては、ここまでの過程で、コンディションが悪いときや自分の身体が全然動かないときでも、とにかく練習メニューをやり続けるという取り組み方をしてきたことが生きたと思う。もちろん、ケガをしないことが前提ではあるが、その「どういう状況でも、自分のやるべきことにフォーカスして、やっていく」ということが、今回の試合ですごく生きたと思っていて、そこは自分でも「ああ、強くなったな」と感じた。
優勝したのは嬉しいけれど、私のなかでは、それを狙ってやっていたので、自分の思い描いていたプラン通りにちゃんとステップが踏めているという感じ。「優勝した、イエーイ! 終わり」みたいな(笑)感じはあまりない。(目標に掲げている)6000点には届かなかったが、5800点(台)も久しぶりに出した記録だし、6000点は、プロセスなしで行ける記録ではない。そういう意味では、今回は、難しい気候のなか、いろいろな経験をして、最後までやりきっての結果で、点数だけみると満足はいかないが、今大会にできることは全部やったので、次につながると思う。
今季は9月にデカスター(フランス)があるので、できればそれに出られたらいいなと考えている。そして、来年のブダペスト世界選手権(ハンガリー)に出場して、パリ(オリンピック)に出場できるように、しっかりとプロセスを踏んでいきたい。




<U20日本選手権混成競技>

◎U20男子十種競技

優勝 横内秀太(四国学院大) 6690点

優勝することができて嬉しい。八種競技の経験はあるが、十種をやるのは今回が初めて。最初は、みんなの(自己)記録を見て、「高いな」と思っていたが、友達や同級生から「周りに呑み込まれたら終わり」と言われていたので、「自分が一番」という気持ちでアップしながら頑張った。十種競技を終えての感想は(八種競技とは異なり)1日に5種目あるので疲労度がすごいこと。(初日の)400mが終わったあとに脚が攣ったし、最終種目の1500mを走る前にも脚が攣りそうになって、走りきれるか怖かった。
(目安として)意識していたのは、全カレ(日本インカレ)の参加標準記録Bの6650点。(今回はU20規格で)重さや高さが違うので直接関係ないが、そのくらいの記録が出せたらいいなと思っていた。来年は7000点に乗せられるように頑張っていきたい。




◎U20女子七種競技

優勝 林 美希(中京大中京高) 5018点

総合得点が自己ベストだったことは嬉しいが、100mHからやり投までの6種目が中途半端な結果で、それぞれにもう少し自己記録に近い点が取れていれば、もっといい記録が出ていたのにと思うと、そこが悔しく感じる。
(最終種目の800mは苦手意識が強いこともあり)6種目を終えた段階では、まさか5000点を越えられるとは思っていなかった。しかし、その800mで、500~600mくらいまでを楽に走れたことで、自己ベスト(2分20秒82)を出すことができ、5000点を越えることができた。そのことが嬉しかったし、800mに対する気持ちも変わった。ラストが弱いなと感じたので、インターハイまでにもっと強化できるよう嫌がらずに取り組んでいきたい。
インターハイに向けては、今回、途中で棄権された中尾さん(日香、長田高)もいらっしゃるし、なかなか簡単には勝てないと思っている。全部の種目で自己ベストを出せば、点数も上がっていくので、自己ベストを出すことを目標に取り組んでいきたい。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト


>>第106回日本選手権・混成競技特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/jch/106/combined-events/

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