2022.03.29(火)その他

【ライフスキルトレーニング 総括イベントレポート】~身につけたライフスキルを社会で生かす~



日本陸連は、2020年12月から、株式会社東京海上日動キャリアサービスのサポートを得て、大学生アスリートを対象に実施する「ライフスキルトレーニングプログラム」を行っています。2年目となる今年も、12月に第2期がスタート。選抜された2期生の10名( https://www.jaaf.or.jp/news/article/15632/ )は、4回にわたる全体講義のほか、スモールグループでのセッションや個別面談などを経験しながら、「自分の“最高”を引き出す技術」を身につけてきました。3月18日には、「総括イベント」として、受講生たちが、ここまでに学んだことを踏まえて臨むプログラムが行われました。

第2期受講生に向けた「総括イベント」と銘打ち、オンラインで実施されたこの日のプログラムは、実際に社会で活躍している元アスリートをゲストに招いてのトークセッションと、事前に受講生から寄せられた質問に応えていくセッションの2部構成で行われました。
第1部でゲストスピーカーとして登場したのは、現在、東京海上日動火災保険株式会社に勤務する相川誠也氏。陸上競技をよく知る一定の年代以上の人なら、名前を見ただけで「ああ、あの…」と、すぐにおわかりになったことでしょう。千葉・君津中、市立船橋高、早稲田大と、スプリンターとして活躍した人物です。37歳となった相川氏は、2007年に入社して15年目。現在は、営業開発部中小企業支援室に所属し、主要プロジェクトのリーダーを務めたり全国の営業支援やツール開発を行ったりするほか、若手社員の人材を育成するプログラムを展開する業務に従事しています。第1部の司会進行役を務めたライフスキルトレーニングプログラム運営メンバーの紫垣樹郎氏(株式会社インサイトコミュニケーションズ代表取締役、クリエイティブディレクター)から紹介を受けて、オンライン上に姿を現すと、学生アスリートという対象者を意識した、やわらかく、かつ親しみやすい物腰と口調で挨拶。サッカー部キャプテンとして活躍していたなか「借り出されて」取り組んだ陸上競技で100mの全日中チャンピオンとなった中学時代、1年時から同年代に負けなしの快進撃を続けた高校時代、ケガによる低迷を経て復活したものの高校で出した自己記録を上回ることができなかった大学時代と、陸上競技中心で過ごした学生時代を振り返るとともに、大学卒業を機に引退を決めたいきさつ、ライバルの存在と励み、「ああなりたい」と憧れた人との出会い、社会人になってからの経験や学び、今後の目標などを紹介したのちに、受講者からの質問に応えました。



特に、大学で競技生活に区切りをつけて、社会人として歩んできた過程に触れたところでは、
・「陸上だけしか、やってきていないから自分は遅れている」という不安はあった。ただ、陸上に取り組むなかで厳しいことは経験してきているので、「修羅場をくぐった経験は、ほかの人よりも多い」という気持ちもあった、

・入社したときは、何も知らないのが当たり前。そのなかでも一番知らないのは、陸上だけしかやってこなかった自分だと考え、知らないことはどんどん聞いていった。謙虚さを忘れず、プライドを捨て、いろいろな人に教えてもらうことを心掛けた、
・陸上競技では0.01秒、1cmを競うために、調整能力やセルフマネジメント能力が不可欠で、自分は現役時代、目指す目標や結果から逆算して物事に取り組んでいたが、それは社会人になっても生かすことができた。社会人1年目こそ、ただがむしゃらに取り組んでいたが、そのうち「効率が悪いな」と感じたときに、陸上では「逆算していた」ことを思い出し、その方法を取り入れるようなっていった、
・人と接するときは、自己開示すること、傾聴することをすごく大切にしている、
・仕事でもきついことはたくさんあるけれど、冬期練習よりきついことは、そんなにない。これは自信を持って言えること。仕事で大変なときも、「あの練習のほうがキツかったな」と思えば、たいていのことは頑張れた、
・大学時代に、「体育会」という、会社に似た組織に身を置いた経験は、社会に出て大いに役に立った。学生のころ、チームが組織としてまとまっていくために、「自分は、組織のために何ができるか」を考えるようになったが、それは会社でも同じ。その視点が持てるようになると、会社でも役立っていけるようになると思う、
・今後の目標は、高い目標を定めて挑戦し続けること。社会人としての「自己ベスト」を更新し続けていきたい。また、自分がそう感じて影響を受けたように、「一緒に働いてよかった。仕事ができてよかった」と思われる人間、他者にいい影響を与えられる人間になっていきたい、

といった内容を、自身の経験を盛り込みながら紹介していきました。ときおり紫垣氏が、ライフスキルトレーニングで学んだ事柄に付随する質問を投げかけ、情報を引き出していったことによって、受講者たちは、自分たちと同じ“陸上出身”の相川氏が、アスリートとして競技に取り組むなかで培い、高めていた「ライフスキル」を、社会人としてどう生かせているのかを、より身近に、より現実的なものとして実感することになりました。

第2部は、このプログラムを立ち上げた日本陸連強化委員会の山崎一彦強化委員長と、プログラムを全面的にサポートしている株式会社東京海上日動キャリアサービスの田﨑博道代表取締役社長が、事前に受講者たちから提出されていた質問に応えていくセッションとなりました。
山崎強化委員長は、「競技に関することが中心となった」という自身に寄せられた質問を、
①どうにもならない困難、挫折、その立ち直り方、②学生時代のキャリア意識、③大学卒業後から現在までのキャリア意識、④国内の陸上競技の展望、⑤アスリートの資質や強み、自己啓発と、大きく5つの項目に分けて、順に回答していきました。
①の「困難や挫折に見舞われたときの向き合い方、立ち直り方」については、「勝つというよりも、いろいろなことに負けないことが大切」「なぜ自分だけに困難がきたのか、挫折したのか考えたうえで後悔する」といった言葉のほかに、「競技者としてダメになった自分でも生きていけるのか」「挫折中に何をしたか」「ワンパターン行動や行動範囲が狭くなっていないか」「今までの自分を捨てられるか、一方で残せるか(どこまで開き直れるか)」「ほんの少しでも成功の方法をイメージできるか」といった視点が紹介。また、②の「学生時代のキャリア意識」については、「当時は考えていると思っていたが、改めて振り返ると、あまり深くは考えていなかったと思う」という本音も。ライフスキルトレーニングプログラムは「私たちができなかったことをやっている」と、当時の反省や思いを生かしての取り組みであることを示しました。
数多くの質問が寄せられたのが、③の「大学卒業後から現在までのキャリア意識について」の項目です。「実業団で競技を続けるうえで、留意すべきこと」という問いには、「実業団、ではなくプロ(走ってナンボの世界)という意識が必要」という答えが、また、「引退後のキャリア」に関する質問には、「競技成績が向上すると共に、引退に向かっていると認識すべき」「次のキャリア形成は、競技者時代から始まっている」といった助言や、競技生活の終盤では、「競技(陸上)の美学(競技をやっていることの素晴らしさや美しさ、自身の立ち居振る舞い、自分がどう生きているか)を考えるようになった」ことが明かされました。また、競技者でなくなってからの生活については、「競技者として経験するほど大きなプレッシャーは、引退後に感じることはないし、休まなくても疲れない」と話し、「みんなが体験している、あのドキドキは、誰もが経験できるわけではない特別なもの。逃げ出したくなるようなそのドキドキを、競技者のうちに十分に味わっておいてほしい」と呼びかけました。
このほか、④の「国内の陸上競技の展望」については、「“する”が圧倒的に多い陸上界に、“観るファン”“支えるファン”をいかに増やしていくかが重要である」とコメント。⑤の「アスリートの資質や強み、自己啓発」に関する質問に対しては、まず、「陸上競技の良さというのは何かを、ぜひ、皆さんに考えてもらいたい」と提案したうで、そして、「競技でも人生でも、後ろ向きになる経験は大きなバネにすることができる。それをネガティブと捉えて思考を止めることはしないでほしい」と、「思考を止めないこと」の大切さを訴えました。




最後に行われた田﨑社長のセッションは、当初、日本選手権男子100m優勝実績を持つアスリートとしての自身の経験、また、長年社会で活躍してきたビジネスパーソンとしての自らの履歴を辿っていくなかで、受講者たちから寄せられた質問に応えていく予定でしたが、事前質問には、今後、計画しているフォローイベントで直接回答することにして、「ここでは“最後にお伝えしておきたい”と思っていたことをお話する」と、構成を変更しての展開となりました。
実は、第1部で相川氏は、就職活動でOB訪問を行った際に、当時、 東京海上日動火災保険会社に勤めていた田﨑社長から話を聞いたこと、田﨑社長のほかにも同社で陸上競技の経験を持つ複数の人々と面談したこと、そこで「どの人もピカピカして、本当に格好よかった。陸上をやっていた人が、社会人として輝いている会社で働いてみたいと思った」ことが同社を選ぶ決め手になったというエピソードを披露していました。その後、関連する質疑応答がなされたなかで、紫垣氏が、同社の人事部門で採用業務を経験したことのある田﨑社長に、「東京海上日動は、どうしてアスリートを採用するのですか?」と質問。田﨑社長は「企業は、今は力を発揮できていなくても、“間違いなく我々の事業の担い手になってくれる”と思わせてくれる人を探している。競技だけではないが、“1つのことをやり抜く力”にはすごいものがあり、それは企業で必ず役に立つことを、企業側も事実として知っているから」と答え、長期的な視野で人材を見ていることを明かしていました。



そのうえで、「企業は、どうしてアスリートを採用するのか?」という問いについて、第1部で述べた答えを、田﨑社長は「私見であるが」とことわったうえで、さらに深く掘り下げる形で、以下のように述べました。
・第1部でもお話ししたように、企業は、運動をやり抜いてきた人が会社のなかで活躍してくれることを経験知として把握している。そのうえで、さらに、これからの経営として、アスリートなどのさまざまな分野で活躍している人材に、ぜひ入ってきてほしいと思っている。
・その本質的な理由は、「従来の経営手法、価値創造の仕組み=メカニズムからの転換の必要性」、最近よく使われる言葉を用いて示すなら「ダイバーシティ&インクルージョン」(Diversity & Inclusion(D&I);個々の人材の多様性を認め、受け入れて活用していくこと)の実現だといえる。
・企業の価値は社会との関わりで決まる。事業を通じて、いかに社会課題解決に貢献できるかだと考えている。
・コロナ禍もそうだが、さまざまなことが複雑に、大きく変化している現在の状況では、従来のように一定の指標や予測できていることだけで物事を動かすことができなくなっている。
・さまざまな形で社会と繋がっている多様性を持った人が、いろいろな視点や気づきを持って、議論を重ねて新たな価値創造の道筋をつくり上げる。それが、今求められている「D&I」の経営だと思っている。
・イノベーションは人が起こすもの。1人1人がダイバーシティを発揮し、異なる考えや価値観を持ったなかで、さまざまな形で「在りたい姿」を議論し、その道筋・方法を考えていけるようになることが必要。意思決定のプロセスに、ダイバーシティが生かされるようになっていきたい。
・アスリートも、その大切なダイバーシティを持った人材。総合人材サービス事業を展開する我が社は、すべてが大転換期にある今の社会にあって、「“働く”ということを、どのような形で実現していくか」を事業の存在意義としている。その実現には、いろいろな経験を持っている人々、いろいろな社会と関わりを持っている人々に参加してもらうことが、とても大切だ。
・特に皆さんにお伝えしておきたいことは、「アスリートで在り続けてほしい」ということ。それは単なる競技力という意味ではなく、現役選手を止めた後も競技との関わりを持ち続けて、アスリートの視点から社会を見ながら、仕事をしていくこと。会社とは違う異なる世界との関係を保っていることが、同質化を回避しダイバーシティの源泉になると思っている。関わり続けていくことの意味は大きく、イノベーションの担い手、事業の担い手になっていってほしい。

最後に、田﨑社長は、「インターネットで“カエル”という文字を入れて検索すると、たくさんのカエル(蛙)の画像と説明が出てきて、カエルがどんな生き物であるかをすぐに知ることができる。しかし、実際にカエルの触ったことのない人には、カエルを触るとぬるっとしているという感覚は全くわからない。つまり“リアル”がなく、“バーチャル”なところで終わってしまっている。これは、さまざまな点でいえることで、“リアルの大切さ”とは、もしかしたら“簡単には見つからない”ということかもしれない」と例を挙げました。そして、第2回の全体講義でゲストスピーカーを務めた山崎強化委員長が残した「全力で遠回りする」という言葉を「とても心に刺さった」と示し、「私自身も事業経営のなかで、簡単に見つかる答えは真実ではないかもしれない、そう思わなければいけないなと、難しい方程式を解くことに挑戦している」とコメント。「ライフスキルトレーニングでは、“考え方”を皆さんにご紹介してきたわけだが、ぜひ、このプログラムで学んだことを、リアルなところで考えて、行動していくことを続けてほしい」と受講生たちに呼びかけ、総括イベントを終えました。

文・構成:児玉育美(JAAFメディアチーム)

>>ライフスキルトレーニングプログラム 特設サイト

■ライフスキルトレーニングプログラム 第1回レポート&受講生コメント
~なりたい自分に近づくためのゴール設定と目標の使い方~
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15699/

■ライフスキルトレーニングプログラム 第2回レポート&受講生コメント
~オリンピックメダリストに共通する特徴と成功するための行動~
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15782/

■ライフスキルトレーニングプログラム 第3回レポート&受講生コメント
~フローを生み出す自己決定能力の5ステップ~
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15833/

■ライフスキルトレーニングプログラム 第4回レポート&受講生コメント
~重要な時に力を発揮する「獲得型思考」~
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15940/

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