日本陸連強化委員会は11月24日、オンラインで記者会見を開き、東京オリンピック終了後、進めてきた新体制の概要および今後の方針を発表しました。
強化委員会の新体制については、11月10日に行われた理事会において、山崎一彦氏(順天堂大学)が強化委員長に選任。11月12日には、組織の全体像およびシニアディレクター、ディレクター等の幹部の顔ぶれまでが発表されていました。
今回の記者会見では、強化委員長とトラック&フィールド種目(T&F種目)担当のシニアディレクターを兼務する山崎氏に加えて、シニアディレクターとして中長距離・マラソンを担当する高岡寿成氏(カネボウ)、競歩を担当する今村文男氏(富士通)の3名が出席。組織構造の説明やオリンピック強化コーチをはじめとする各部門の責任者が公表されたほか、新体制の方針説明などが行われました。
◎強化の方針および体制
最初に説明に立った山崎強化委員長は、新体制となった強化委員会の方針として、まず、以下の3点を挙げました。
・2024年パリオリンピックに向けては、東京オリンピックに勝るとも劣らない、それ以上の成績を出していくことが最大目標。それを実現するために、陸連にしかできないことをやる。
・日本陸連で設けた「競技者育成指針」に基づき、育成から強化まで一貫した考えで取り組んでいく。その仕組みを強化委員会の取り組みのなかでしっかり構築し、フラッグシップモデルとして全国に発信していく。
・陸上競技の価値を高める。「世界大会でメダルを取る、入賞する」ことは最終目標ではなく、それを継続できるようにするためにも、陸上競技自体の価値を上げてくことが大切。原点に立ち返っていけるような取り組みを進めていく。
これらの方針を実現するために、強化委員長と高岡・今村両シニアディレクターの3名で戦略を立て、男子短距離、ハードル、跳躍、投てき、強化育成の各部門を率いることになる土江寛裕氏(東洋大学)、苅部俊二氏(法政大学)、森長正樹氏(日本大学)、田内健二氏(中京大学)、杉井將彦氏(浜松市立高校)の5名のディレクターと共有し、そこで具体的な取り組みを企画していく組織構造としたことを説明しました。
◎2024年パリオリンピックに向けてはブロックで強化
東京オリンピックに向けた強化では、「競技レベルに応じた種目ごとのカテゴリー分け」が採用されていましたが、パリオリンピックに向けた新体制では、「種目ごとではなく、ブロックごとに分けて包括的に強化していく」と山崎強化委員長。山崎強化委員長が統括するT&F種目は、男子短距離、女子短距離、ハードル、跳躍、投てき、混成の6ブロックに、高岡シニアディレクターが統括する中長距離・マラソンでは、中距離、男子長距離、女子長距離、男子マラソン、女子マラソンの5ブロックに、そして今村シニアディレクターが統括する競歩ブロックと、12のブロックに分けられる形となります。さらに、これらシニアのトップ競技者へと育成していく部門として杉井ディレクターが統括する強化育成部が配置され、各ブロックではオリンピック強化コーチの指揮のもと、今後確定していくスタッフとともに強化を進めていく形となります。▼強化委員会組織図はこちら(PDF)
中長距離・マラソン、および競歩については、T&F種目とは別にカテゴライズしての体制となりました。中長距離・マラソンを取りまとめる高岡シニアディレクターは、東京オリンピックを振り返って、20歳すぎの若い選手の活躍、男子長距離の苦戦、1名ずつの入賞となった男女マラソンの結果などについて触れたうえで、今後の目標として「東京大会の結果を上回ることを目指す」とし、「入賞できる種目とそうでない種目の差は非常に大きく、それによって目標は変わってくる。メダルを狙わなければいけない種目もあれば、参加標準記録を狙わなければいけない種目もあるが、種目の特性を含めて、それに合った形で強化を進め、結果を残せるようにしていきたい」と抱負を述べました。
東京オリンピックでメダル2(銀・銅メダル)、入賞1(6位)という好成績を残した競歩を引き続き率いることになる今村シニアディレクターは、銅メダルおよび7位入賞を果たした2016年リオデジャネイロオリンピックの結果を上回るために、2017年以降の世界選手権、アジア大会等を戦っていくなかで取り組んできた暑熱対策、IRWJ(国際競歩審判員)対策、競歩技術対策の3つが、一定の成果を上げたと振り返りました。その一方で、リオ大会からの5年間に生じた課題として、女子の強化が立ち後れている点とターゲットエイジとなるU23世代に十分な強化の機会がなかった点を挙げ、パリオリンピックに向けては、トップ選手のサポートを行っていくのと並行して、女子およびU23世代の強化を支えていく方針を示しました。
◎強化の具体策
強化の対象者については、「パリオリンピックまで3年となっているので、すでに個人として強化の対象となる選手については、具体的なサポートを明確にしていく」(山崎強化委員長)として、メダルを狙える競技者を指定してサポートする“ゴールド・シルバー”の仕組みは継続するほか、数年後に大きな成長を見せ、チームジャパンの中核となる“ターゲットエイジ”を意識した強化を行っていく方針が示されました。山崎強化委員長は、「3年後のパリオリンピックで中心となるであろう年齢層は、現在23歳前後の選手たち。そのあたりの年代の競技者に対して、明確な基準を設けたうえで金銭面も含めたサポートをしっかりやっていく」とコメント。さらに、世界大会の出場資格に大きくかかわってくるWAワールドランキングにおいてターゲットナンバーに入っていく水準の競技者へのサポートも継続して行っていくと述べました。冒頭の方針説明で挙がった「陸連しかできないことをやる」の筆頭となるのが、「WAワールドランキング制度の攻略」です。東京オリンピック以降、世界大会の出場資格はワールドランキングに基づくものとなり、今後も多少のレギュレーションの変更はあっても踏襲される見込みであることから、山崎強化委員長は「ランキングポイントを、より獲得できるように国内競技会の充実を図っていく」と、東京オリンピックに向けて尽力してきた国内競技会のカテゴリー水準を高める取り組みにより力を入れ、国内でも高いランキングポイントを獲得できるようにしていくことを明言。同時に、コロナ禍で実現が難しくなっていた海外の競技会出場にも挑戦していけるよう取り組んでいく意向を示しました。
なお、この強化委員会の任期は2年で、2023年6月開催予定の定時評議員会終結の時までとなっていますが、山崎強化委員長は、「できれば2024年パリオリンピックまで、この体制で走っていきたい」と述べました。
◎指導者育成指針に沿った“フラッグシップモデル”の確立に向けて
日本陸連では、特に若い陸上競技者をとりまく現状を踏まえ、これからの競技者育成の方向性を示す“競技者育成指針”(https://www.jaaf.or.jp/development/model/)を2018年に公表し、全国への普及啓発を進めています。山崎強化委員長は、新体制での強化方針として、競技者育成指針に沿った取り組みを進めていくことも強調しました。その核となってくるのが、杉井ディレクターがトップとなる強化育成部との連携です。山崎強化委員長は、「競技者育成指針に沿って一貫した考えで、選手たちを育成することを、今まで以上につくっていきたい」と述べ、育成から強化への一貫した仕組みを強化委員会で確立させ、それを全国へと波及させていくことを目指そうとしています。強化育成部が活動していくうえでは、現在、大きな変革の時期を迎えている学校部活動の在り方や地域のスポーツ環境などの問題も関与してくることになります。これらの問題に対しても山崎強化委員長は、「直接的な強化ではないが、先々を見据えて、この問題を大事にしていく」と話しました。
さらに、山崎強化委員長が、強化育成部門を担当していたころに制度化した「ダイヤモンドアスリートプログラム」については、2020-2021年で第7期を迎えました。ここ2年は、コロナ禍の影響を受けて、積極的に海外へ出ていく経験を積むことができていないものの、国内で展開してきたリーダーシッププログラム等は、オンラインなどを用いて実施を継続しています。新体制では、このプログラムマネジャーとして、競技引退後、アンチ・ドーピングをはじめとするスポーツ医学、女性アスリート、トレーニング、スポーツ心理学等の研究活動をはじめとして、さまざまな分野で幅広い活躍を見せている室伏由佳氏(順天堂大学)を起用。山崎強化委員長は、「国内にいても、競技者としての国際感覚を養うことは可能。刷新も加えながら、しっかりサポートしていきたい」と述べ、高い国際感覚を持つ室伏氏の手腕に期待を寄せました。
◎陸上競技の価値を高める「企画戦略部」
実質的な“強化”に加えて、新体制の方針として山崎強化委員長が強く打ち出したのが「陸上競技の価値を高める」ことです。コロナ禍を経て、陸上競技を含むスポーツを取り巻く環境が大きく変わっているなか、今後はメダル獲得といった競技結果だけに頼るのではなく、陸上競技そのものの価値、選手そのものの価値を高めていく取り組みが不可欠とする山崎強化委員長は、これを実現させていくために、新たに企画戦略部を立ち上げ、そのディレクターとして、クラブチームの運営、従来にない競技会の仕掛けなど、陸上競技の新たな魅力や価値観を創発する活動に取り組んでいる横田真人氏(TWOLAPS TC)を迎えました。山崎強化委員長は、「陸上競技の価値を高め、陸上選手がそれぞれの価値を高めて、応援されるような形をつくっていかなければならない時代になっている。そのために、選手個々の自立を促していきたいし、強化委員会も評価を受けてパリオリンピックに向かっていくような状態をつくりたい。横田さんという柔軟な考えを持つ人を迎えることで、戦略的、挑戦的にやっていきたい」と説明。具体的な内容については、今後、決めていくことになるとしながらも、「陸上界を良くしていくために、選手やコーチが積極的に、さまざまなことに取り組んでいけるよう挑戦していきたい」と意欲を語りました。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
■日本陸上競技連盟 強化委員会一覧について
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15636/
■日本陸上競技連盟強化委員長の交代について
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15623/
■JRRC (日本陸連ロードランニングコミッション)の発足・メンバーの発表について
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15645/