2021.04.12(月)大会

【日本選手権50km競歩】丸尾知司選手(愛知製鋼)が大会新で優勝!東京五輪男子50km競歩最後の一枠に内定/レポート&コメント



第105回日本陸上選手権大会50km競歩が4月11日、延期により本年夏に開催される東京オリンピックの代表選考会を兼ねて行われました。この大会自体も、前回中止となったため、開催は2年ぶり。例年同様に前日(4月10日)から実施されている第60回全日本競歩輪島大会と併催する形で、石川県輪島市の「道の駅輪島ふらっと訪夢」前を発着点とする往復2kmの折り返しコースで実施され、18名の選手が出場しました。

当日の輪島市は、前日と同様、雲一つない快晴となったうえに、例年選手たちを悩ませる風もほぼなく、最高といえる気象条件となりました。男子50kmは、午前7時30分にスタート。序盤は、1km4分25~30秒前後のペースで7人が先頭集団をつくってレースを進めていきましたが、12~13kmで藤澤勇選手(ALSOK)がペースを上げたことで、集団が絞られることになりました。この段階で、優勝候補の一角と目されていた荒井広宙選手(富士通)、小林快選手(新潟アルビレックス R C)らも後れ、トップ集団は藤澤選手、丸尾知司選手(愛知製鋼)、野田明宏選手(自衛隊体育学校)の3人に。中間点となる25kmは1時間48分16秒と、日本記録(3時間36分45秒)をイーブンペースで歩いた場合の通過タイムを上回るペースで通過していきました。



25~26kmで藤澤選手が後れてからは、丸尾選手と野田選手がマッチレースを繰り広げる形でレースは進んでいきます。30kmは、今春から旭化成の所属となった50km競歩日本記録保持者の川野将虎選手が持つ日本最高記録(2時間09分17秒)を上回る2時間09分15秒で通過。32~33kmの1kmが4分10秒を切るペースに引き上げられたことにより、38km以降では世界記録(3時間32分33秒)をイーブンにしたペースよりも速いペースでの展開となりました。36kmからの周回で、いったん野田選手が丸尾選手を突き放しましたが、その後、徐々に野田選手のペースに翳りが見えたことで丸尾選手が追いつき、40kmは2時間51分30秒、41kmは2時間56秒06秒と同タイムで通過します。ここで丸尾選手がスパートし、42kmまでに野田選手との差を27秒に。さらに、野田選手が大きく失速したことで、失格さえなければ丸尾選手の優勝が濃厚となってきました。



丸尾選手は徐々にペースを落としつつも45kmを3時間14分03秒で通過し、この段階ではアジア記録(3時間36分06秒)、日本記録更新の可能性も残していましたが、残り5kmで大きくペースダウン。自己記録も含めた記録の更新はならなかったもののセカンドベストの3時間38分42秒の大会新記録でフィニッシュし、この種目の東京オリンピック代表の座を内定させました。2位には、序盤で先頭集団から離れて、自分のペースでレースを進めた勝木隼人選手(自衛隊体育学校)が3時間42分34秒でフィニッシュ。小林選手が3時間43分31秒で3位となったほか、終盤は苦しい展開となった野田選手が3時間45分26秒で4位に食い込みました。優勝した丸尾選手のコメントおよび、今村文男競歩オリンピックコーチによる日本選手権総括コメントは、別記の通りです。

このほか、特別レースとして実施された女子20km競歩は、2月の日本選手権でオリンピック内定済み競技者を除く最上位者となっていた渕瀬真寿美選手(建装工業、前20km日本記録保持者、50km日本記録保持者)が欠場。レースは河添香織選手(自衛隊体育学校)が制しましたが、記録は1時間33分51秒にとどまり、派遣設定記録(1時間30分00秒)、参加標準記録(1時間31分00秒)のクリアはなりませんでした。また、高校男子5kmは、近藤岬選手(十日町高校)が20分55秒で、高校女子5kmは石田さつき選手(大津商業高校)が22分57秒で、それぞれ優勝を果たしました。

 

【日本選手権獲得者コメント】

■日本選手権男子50km競歩
丸尾知司(愛知製鋼)
優勝 3時間38分42秒 =大会新記録、東京オリンピック男子50km競歩代表内定



(優勝しての率直な感想は)本当に自分の力だけではなかったなということ。皆さんと一緒に歩かせてもらった結果、やっとたどり着いたという感じがしている。
レースは、スローペースで行くよりも、ある程度、速いペースで集団(の人数)を削っていき、最後で勝負に勝つというイメージで臨んだ。周りの選手もうまく使わせてもらいながら作戦通りに進められたかなと思う。
中盤以降は野田選手(明宏、自衛隊体育学校)と競り合う展開が続いたが、そのときは「お互いに同じくらいの余裕度で戦っているんだな」ということを感じていた。「勝てる」と思う瞬間もあれば、「負けてしまうのかな」と思う瞬間、さらには「2人でいいレースをつくっているな」と感じる瞬間もあるなど、本当にいろいろな感情が交ざっていたような感じだった。
(36kmすぎで野田選手から)一度離れたときは、「ここで負けてしまうのかな」と思ったりもした。「(川野将虎選手に突き放された2019年高畠競歩に続き)また、このパターンか」と思ったりもしたが、離れてからもうまく気持ちと身体をコントロールして、コーチの皆さんのアドバイスを聞きながら、なんとか持ちこたえることができた。決して余裕があったわけではなかったが、応援してくれている皆さんが、「追いつける」とか「時間をかけて追いつこう」とかアドバイスをくれたことで、自分も「まだ終われない」という気持ちになり、(野田選手との)距離を詰めていった。仕掛けたところ(41.5km付近)は、「少し自分のほうに余裕があるのかな」と思えた瞬間。思いきってペースを上げた。
(最初の東京オリンピック代表選考レースとなった2019年の)高畠で、(3時間37分39秒の日本記録を樹立しながらも、川野将虎選手に)負けてから530日くらい経っているのだが、今まで、そのレースのことを考えなかった日はなかった(ほど悔しかった)し、その間、「負ける」と思う日もあれば、「勝てないんじゃないか」と思う日もたくさんあった。そんななか、本当にたくさんの方々のおかげで(今回の優勝に)たどり着くことができたので、レース後は自然と泣いてしまった。
この大会に向けては実施した宮崎での合宿では、(すでに20kmで代表に内定している)山西くん(利和、愛知製鋼)と一緒に、午前中に40kmをやって午後から10kmを速いペースでやるとか、40km以降にフォーカスしたトレーニングなどに取り組んだ。レース中には、その練習のことを何度も思い出したし、また、(沿道から)山西くんが「練習通りですよ」と言ってくれたことも、とても力になった。
(オリンピック代表の)最後の1枠(の獲得)に向けて、(2019年の)高畠で負けてからのここまでは厳しい戦いだったが、なんとか勝ち取ることができた。勝ち取ったからには(オリンピックは)メダルをターゲットにして、さらに気を引き締めて練習にトライしていきたい。今回の結果で、(代表)内定という形で、お世話になっている方々に一つ恩返しできたかなと思う。(オリンピックで)さらに「大きな恩返し」ができるように頑張りたい。

【日本陸連総括コメント】

今村文男(競歩オリンピック強化コーチ)



このレースを終えての一番の感想は、「日本の男子50kmは、非常に強くなったなあ」ということ。また、スタート時の気温が5℃、風がなく、湿度も低い条件と、今大会の気象状況が非常によかった点や、オリンピックの選考会という独特な大会の雰囲気、さらには選手個々のコンディションなどが、非常に高いパフォーマンスを発揮させる要因になったと感じている。
展開という面では、ラップの上がり加減が早く、序盤の13kmくらいから(1km)4分13秒を切っていくレースになった。男子50km世界記録(3時間32分33秒)のペースが4分15秒平均であることを考えると、選手自身もかなり(後半の展開に備えなければならない)リスクを負いながらの速いペースといえる。これによって一時は記録への期待も高まったが、逆にそのぶん後半で失速が生じるとともに、技術面に課題が出る形となった。
技術面の課題という点では、警告ボードを見てもわかるように、上位陣にレッドカードが多かったことを挙げることができる。レッドカードというのは、(注意を促す)イエロー(パドル)が出たあとの表示なので、当然イエローパドルに関しても、それ(レッドカード)以上に出ているのかなと推察している。(世界大会で)メダルや上位を懸けて戦ううえで技術面は必ず課題となってくる。これからサマリーシート(審判集計表)等々を振り返り、選手個々へのフィードバックはもちろん、所属先やサポートスタッフも含めて課題の共有や改善の方法などを、少し時間をかけて整理していくようにしたい。
優勝した丸尾くんに関しては、そういった課題に当たる部分を、この2年間くらいで解決できている。また、終盤のペースダウンに関しても、選考会という特殊な事情があってのことで、平均的なペースで日本記録やアジア記録(3時間36分06秒)を目標にしたレースを展開していれば、しっかり歩ききれたのではないかと思う。5kmごとのステージでいえば、20分台のラップを3回(20~25km、25~30km、30~35km)刻むことができている。オリンピックではネガティブスプリット、特にメダル争いでは最後の10km、5kmのペースアップへの対応が必要だが、これからの期間で準備していくことができれば、メダルの可能性も高いと期待している。
日本の競歩は、2019年ドーハ世界選手権では、20km・50km両種目で金メダルを獲得したわけだが、この結果は、選手たちも私たち現場スタッフも、ドーハの暑さがあったからこそというところが半分と、ここまでに積み重ねて医科学的なサポートによって、コンディショニング面でのプラスアルファがあったからと理解している。今回の東京(オリンピック)に向けては、こういう(コロナ禍の)状況下ということもあり、「いつも通り」「思うように」といった準備ができないこともあろうかと思う。そういったなかでも、それぞれの種目(20km、50km)の距離に向けた準備やレースのプランニングをしっかり考えて進めていけば、自ずとメダルという目標が具体的なものになり、優勝というところにもたどり着くのではないかと思っている。

このほか、女子20kmについては、輪島市や石川陸協のご理解を得て、今回、特別レースを設定していただいた。国際競歩審判員が揃ったなかでのレースが実現したことで、参加標準記録(1時間31分00秒)を突破するチャンスだったが、トップの河添さん(香織、自衛隊体育学校)が1時間33分51秒という結果で、実現はならなかった。記録を出すことができていれば、より早いタイミングで代表選手の発表の機会が得られたはずなので残念ではあるが、ワールドランキングの順位を上げるという意味で結果が残せた点はよかったと思う。
この種目の3枠目については、今回のレースには出場しなかったが、日本選手権において選考要項で最も優先度の高い結果(内定選手を除く日本人最上位者)を残している渕瀬真寿美さん(建装工業)の動向、あるいは河添さんのワールドランキングの結果次第ということになる。いずれにしても、確定は7月上旬くらいまで待たなければならず、本番前の期間が非常に短くなるだけに、代表の発表や内定はなくても、気持ちと身体の準備はしっかりと進めておくことを求めたい。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト

 
■第105回日本陸上競技選手権大会50km競歩 大会情報
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1539/

■ライブ配信アーカイブはこちら
https://www.jaaf.or.jp/news/article/14745/

 

 

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